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【イチ押しニュース】中脇初枝さん、あさのあつこさん、森絵都さん 有名作家3人が児童文学、絵本、創作について語りました

中脇初枝さん、あさのあつこさん、森絵都さん。子どもから大人まで幅広い世代に絶大な人気を誇る作家 3 人によるシンポジウムが高知市で開かれ、児童文学や絵本、創作への意欲などを語り合いました。

執筆活動への姿勢は三者三様ながら、幼少期の文学体験が作家という道につながっていたり、子ども向け作品への熱い思いを語ったり、子育てと読書の関係をあらためて考えさせられる内容が盛りだくさんです。

お子さんにぜひ、素敵な本との出合いがありますように。

作家の願い、信念語る 高知市でシンポ「子どもの文学 おとなの文学」

(高知新聞 2022 年 10 月 20 日掲載)

作家の中脇初枝(四万十市出身)、あさのあつこ、森絵都の3氏が集まり、シンポジウム「子どもの文学 おとなの文学」が15日、高知市のオーテピア高知図書館で開かれた。それぞれの作品に懸ける信念や込められた願い、創作という生きざまにまつわる生の話が聴衆を魅了。中高生からの質問にも真摯(しんし)に答えた。作家、ジャーナリスト、編集者などでつくる「日本ペンクラブ」の子どもの本委員会が、金高堂書店、オーテピア高知図書館の協力を得て開いた。3氏の発言の要旨を紹介する。

中高生を含む120人が熱心に聴講したシンポジウム(高知市のオーテピア高知図書館)
中高生を含む120人が熱心に聴講したシンポジウム(高知市のオーテピア高知図書館)

中脇初枝さん 出合った本に救われて

四万十川沿いで育ちました。よう「家に本がたくさんあったんでしょ」と言われますが、家には本がなかった。でも本がすごく好きで、学校では図書室に入り浸り。小学5年生で転校して寂しかった時、前の学校にもあった「小さい魔女」という本を図書室で見つけて、すごくうれしくて。読んだら最初から最後まで一緒。当たり前なんですけど、それに慰められた。その時々に出合った本に救われながら生きてきました。

小学生の時から好きだったのが夏目漱石。中学の夏には「坊っちゃん」で読書感想文を書きました。今だから言いますが、同級生3人分の感想文も「坊っちゃん」で書いてあげて、その時初めて自分の力でお金を稼ぎました。300円。今思うと、もう少し頂いておけばよかったかな。

高校2年生の時、大学受験を前に生き方を悩んでいた時、高知新聞で「坊っちゃん文学賞」募集の記事を見つけました。それまで小説を書いたことはなかったけど「坊っちゃん」だし、短い小説でよかったので、書けるかもしれないと思ったんです。

人口3万人の小さい街の世界しか知らん、井の中の蛙(かわず)だったんですね。自分はクラスで一番国語ができる。ということは、もしかしたら世界で一番できるかも、みたいな。一足飛びすぎるんですが、外の世界と比べようがないからそう思い込んで、思い切って3年生の時応募したら、大賞を頂いてデビューすることになりました。

地方で生きていると話す言葉もですけど、全国の人が持ってないものを持っちょう。全国の人は知らんことを知っちょうわけです。それは私たちの強みです。そして外の世界を知らない井の中の蛙だからこそ、思い切った挑戦もできる。

私は小説を書く時、そんなに子ども向け、大人向けの区別はしません。子どもも大人の本は読むので。私は柳田国男の「遠野物語」を小学6年で読みましたが、よく分からなくても面白かった。ただ、子どもは文章や物語を丸ごとのむように体に入れるので、それに耐えるしっかりした言葉を紡ぎたいと思います。

絵本はすごく難しい。子どもが初めて出合う物語ですから。私は昔話の再話絵本を書いていますが、昔話は、弱くて小さい主人公が最後は幸せになる話が多い。「世の中は良いものだ」という向日性にあふれている。そういう昔話を、これから生きていく子どもたち、不条理なこともありながら日々を生きる私たちも含めて、多くの人に読んでほしいと思います。昔話は人間が文字を手に入れる前からの物語、物語の元始ですから。(構成=森田千尋)

中脇初枝(なかわき・はつえ) 四万十市出身。1991年、「魚のように」で坊っちゃん文学賞。2013年、「きみはいい子」で坪田譲治文学賞。昔話の再話、語りにも取り組んでいる。代表作に、幡多地方に伝わる話を集めた「ちゃあちゃんのむかしばなし」(高知新聞連載)、「女の子の昔話えほん」シリーズなど。

中脇さんが再話した「女の子の昔話えほんシリーズ」をココハレで紹介しています。

あさのあつこさん 若い人へ希望書く責任

 

今日来てくれた中学生、高校生たち、目がキラキラしてますね。私にもこんな時期があったんですよ。

「物書きになりたい」とはっきり自覚したのは13歳。海外ミステリーが好きで、「物語ってこんなに面白いんだ」「読む人だけでなく、書く人になりたい」と思いました。

でも、生まれ育ったのは岡山県北東部の片田舎。物書きになる手だては分からず、二十数年間、もんもんとしていました。

デビューは37歳。一番下の子を保育園に預けて帰ってきたら、同人誌を読んでくださった出版社の方から電話がありました。

天にも昇る気持ちだったんですけど、用心深いので「詐欺だ」とも思って(笑)。(デビュー作の『ほたる館物語』が)本になって届いた時は「死んでもいい」。大げさですが、幸せでした。

振り返ると、みっともないことも、ひきょうなこともしてきましたが、「物書きになりたい」という思いは持ち続けてきた。そこは自分に誇れるかな。

児童文学から始まり、一般小説も書いています。どちらも「書く」という観点では同じだと思っていましたが、この頃、児童文学は大人が若い人、幼い人に向けて書くものだと意識しています。死とか破滅とか、それだけで終わらせてはいけない。生きていくこの先に希望はある、と信じて書かなきゃいけない。書き手というより大人としての責任です。

たとえ99%の絶望があったとしても、1%の希望をどこに書くのか。それは「今日より明日の方がよくなるよ」という、そんな単純な話ではなくて。明日は今日よりさらに悪くなるかもしれないけれど、諦めない。「若い人たちが生きていくこの先に希望はある」と、自分が信じて書かなきゃいけない。

本当にギリギリで、自分の中から絞り出した文章を書いてます。「夕日のように赤い」とか「炎のように熱い」というようなありきたりな表現でなく、何か本当にはっとしてもらえるような言葉を選びたい。

これから作家を目指す人には、ちゃんと自分で暮らせる基礎をつくりながら、書くことにチャレンジしてほしい。例えば失恋であっても、人を傷つける、人に傷つけられることであっても、生きている全てのことが書く土台になると思うんです。

デビューからうん十年たって、何かまだ「物書きです」と言い切れない自分がいます。自分が感じていた本当の物書きにはまだ遠い。死ぬ時には「私は作家になれたんだ」と思いたい。執念深く、残り少ない人生を懸けていきたいです。(構成=門田朋三)

あさの・あつこ 岡山県美作市出身。小学校の臨時教員を経て1991年、「ほたる館物語」でデビュー。97年、野球少年を描いた「バッテリー」で野間児童文芸賞。児童文学として異例の1千万部のベストセラーとなる。代表作に「THE MANZAI」シリーズ、時代小説の「弥勒」シリーズなど。

森絵都さん カレーのような小説を

 

私は小学3年ぐらいまでは本を読んでたんですけど、それからピタッと読まなくなった。高校の頃はレストランや花屋、結婚式の巫女(みこ)とかいろんなアルバイトを体験するのが好きで、本も読まず勉強も全然しなかった。

3年の秋、自分だけ進路が決まらなくて、先生たちから「君はおしゃべりが好きで気も利く。水商売向きだ」と言われました。ちょっと納得はしたんですが、そうもいかず初めて自分の人生を考えてみると、好きなのは書く事と犬。作家か警察犬の訓練士かで悩みました。訓練士は養成所に聞いてみるとつらそうなので、作家を選びました。

児童教育専門学校の児童文学科に進み、紹介されてテレビアニメのシナリオを書く仕事をしながら小説も書いて、卒業後2年ほどで賞を頂いてデビューしました。

大人向け子ども向けで姿勢は変わらないけれど、子どもは同じ本を何回も読み返すので、それに耐えるため何度も書き直し、時間をかけますね。子どもの本は10日くらいでいったん書けたとしても、3カ月以上かけてゆっくりゆっくり仕上げるようにしています。

絵本に関してはもっとすごく慎重で、依頼に合わせて書くことをしません。普通に過ごしている中で自然に生まれた時に形にして、それが世に出す資格があると判断したら出版社に渡すので、3年とか5年とか平気でたつくらい。子どもの頃から本を読む習慣がなかった人が大人になって急に、読み始めることはありません。だから、子どもが最初に出合う本ってとっても大事なんです。

私がデビューする頃、児童文学はすごく優等生かちょっと突っ張りの不良系の話に分かれていて、普通の等身大の主人公の話がなかった。だからそんなに個性的でない子どもの日常、カレーライスのような小説を書ける作家になりたかった。

それと最初から、ずっと中学生を書くことにこだわっています。その頃中学生は売れるジャンルでなくて「小学生を」という依頼が多かったけど中学生は、書いても書いてもまだ何かわからない、つかんでない部分がある気がして、面白かった。ある時、連載の依頼に「まだ大人の小説を書く気になれない」と答えたら、編集者から「主人公が1歳ずつ成長していく小説にしたら」と言われ、小学4年から高校3年まで1年ずつ主人公を追っていったのが「永遠の出口」。児童文学と一般小説の懸け橋のようだと思います。

もし作家を志すなら、何か書き始めたら最後まで書く。それを人に見せることに平気になってほしい。賞に応募するなら、何度も書き直す。それをやっていただければ、と思います。(構成=細川喜弘)

森絵都(もり・えと) 東京都出身。1990年、「リズム」で講談社児童文学新人賞を受けて、デビューした。2006年、お金でない何かのために、懸命に生きる人々を描いた短編集「風に舞いあがるビニールシート」で直木賞。代表作に「カラフル」「DIVE!!」「カザアナ」「生まれかわりのポオ」など。

 

高知のニュースは高知新聞Plusでご覧いただけます。

この記事の著者

武田茉有子

森本 裕文

高1の長男、中2の長女の4人家族。理論派のO型組(私と長女)と、感覚派のB型組(妻と長男)でいつも楽しく抗争中。1979年生まれ。

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