子どものうつ、不登校…原因は「甲状腺機能異常」による精神症状かも|思春期にも見られる「甲状腺機能低下症」とは?高知大学医学部の児童青年期精神科、内分泌代謝・腎臓内科で聞きました

「子どもに元気なく、ふさぎ込んでいる」「夜眠れず、意欲も落ちたみたい」「『学校に行きたくない』と言い始めた」…。
子どもにうつのような症状が見られたり、不登校の訴えがあったりすると、「何かメンタルに問題が?」と心配になります。でも、もしかしたら「甲状腺機能異常」による精神症状かもしれません。
思春期にも見られる甲状腺の疾患について、高知大学医学部付属病院で児童青年期精神科の診療を担当する高橋秀俊さん、内分泌代謝・腎臓内科で甲状腺疾患を専門とする田口崇文さんに聞きました。
目次
うつ病による不登校?「甲状腺機能低下症」の場合もあります
思春期に見られる精神症状や不登校について、「甲状腺機能異常が発覚するケースがある」と教えてくれたのは高橋秀俊さん。高知大学医学部の寄付講座「児童青年期精神医学」の特任教授で、精神疾患や発達障害の診療などに携わっています。

診療の際、患者や家族から聞く症状がこちら。
- 意欲が低下している
- だるい、疲れやすい
- 「学校に行きたくない」と訴える
- 学校に行けてはいるが、調子が悪い
- 眠れないようだ

「うつ病の症状に近いので、まずはメンタルの問題が疑われ、改善が見られないようなら児童精神科に紹介されます。でも、中にはメンタルではなく、甲状腺機能異常による精神症状である場合があります」
うつ病の症状に似た精神症状が見られる甲状腺の疾患を「甲状腺機能低下症」と言います。
【甲状腺とは?】代謝を調節する「甲状腺ホルモン」を作っています
そもそも、甲状腺とは?高知大学医学部内分泌代謝・腎臓内科の講師で、甲状腺疾患を専門とする田口崇文さんに聞きました。
甲状腺とは喉仏の下にある 4~5 センチほどの臓器です。チョウが羽根を広げたような形をしていて、「甲状腺ホルモン」を作っています。
甲状腺ホルモンは全身の臓器に作用し、代謝を調節する働きをしています。作られる量が少な過ぎても、逆に多過ぎても病気につながります。
- 甲状腺ホルモンが少な過ぎる…甲状腺機能低下症
- 甲状腺ホルモンが過剰に作られる…甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
【甲状腺機能低下症とは?】疲れやすい、無気力…「軽いうつ」に似た症状も出ます
甲状腺機能低下症とは、甲状腺で作られる甲状腺ホルモンが少なくなり過ぎる疾患です。主な症状はこちら。
- 疲れやすい
- むくみ
- 寒がり
- 皮膚が乾燥する
- 体重が増える
- 声がかすれる
- 体毛の脱毛
- 爪がもろくなる
- 便秘
- 月経異常
- 無気力
- 眠気や記憶力の低下

症状を挙げるとたくさんありますが、実際はなかなか気づきにくいそうです。
「軽いうつが疑われて精神科に紹介されて、精神科で気づいて内分泌に紹介されるということがあります。不定愁訴と捉えられて治療が行われないまま、病気が進行することもあります」
思春期だけでなく、認知機能が低下する世代でも、「軽いうつ」として見逃されることが少なくないそうです。
甲状腺機能低下症であるかどうかは、血液検査をすればすぐに分かります。小児科や内科で受けられます。
バセドウ病、橋本病…甲状腺機能異常は若年女性に多く見られます
甲状腺機能低下症以外の甲状腺機能異常による病気についても、田口さんに聞きました。「バセドウ病」と「橋本病」があり、どちらも自己免疫疾患です。本来ならば体を守るために働く免疫が自分を攻撃してしまうことで起きます。
「バセドウ病」は甲状腺ホルモンが過剰に作られる「甲状腺機能亢進症」の一つです。男性よりも女性に多く、20~30 代の女性に多い病気です。
症状はこちら。甲状腺機能低下症と似た症状もあれば、反対の症状も見られます。
- 疲れやすい
- 動悸(どうき)、手の震え
- 暑がり
- 体重の低下
- 躁状態…過度にイライラし、怒りっぽくなる
- 月経異常
- 軟便
- 眼球が飛び出して見える
「橋本病」は「慢性甲状腺炎」とも呼ばれます。甲状腺が慢性の炎症によって少しずつ破壊されます。甲状腺ホルモンが作られにくくなると、甲状腺機能低下症を発症します。
橋本病は成人女性の 10 人に 1 人、成人男性の 40 人に 1 人に見られます。実際に甲状腺機能低下症を発症するのは、橋本病の人のうち 4~5 人に 1 人ほどだそうです。

橋本病の人が全て甲状腺機能低下症を発症するわけではありませんが、「妊娠を機に機能低下を起こしやすいので、若い女性には特に気をつけてほしい」と田口さんは呼びかけています。
「甲状腺機能異常は不妊症や流産の原因にもなります。妊娠すると、服用できる治療薬が限られます。女子を育てる親御さんは、お子さんが高校生や大学生のうちに血液検査を受けさせ、病気があるかどうかを把握してもらいたいです」
甲状腺機能異常による精神症状には治療薬があります
甲状腺機能異常の病気について知ると心配が募りますが、治療方法は確立されています。
「甲状腺機能低下症の薬を服用すると、数カ月から半年で精神症状は改善していきます」と田口さん。バセドウ病や橋本病にも薬があり、数値を安定させるそうです。
甲状腺機能異常による精神症状は甲状腺が原因なので、精神科の治療では改善しません。
高橋さんは「思春期の女子は体も大きく変わるので、そもそも不調が出やすいんです」。甲状腺による精神症状が見逃されて改善されないまま、親子関係や学校での人間関係が次第に悪くなり、その結果、メンタルに不調を来すケースもあるそうです。
高橋さんたちは甲状腺機能異常について小児科医や学校の先生たちに知ってもらう活動も始めました。
「大人は自分の体調変化に気づけますが、子どもは気づくのが難しい。周囲の大人の皆さんに病気について知ってもらい、子どもの様子を気にかけてもらえたらと思います」
女の子を育てるココハレ編集部員は今回初めて、甲状腺機能異常について学びました。田口さんの「体調の変化を『不定愁訴』で済まさないでほしい」という言葉が心に残りました。
思春期の子どもの親は更年期で、体調の変化が大きくなる時期。娘たちに加えて、自分自身の体調にも気をつけていきたいと思いました。
この記事の著者

門田朋三
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