子どものゲーム、SNS、頭から否定してない?まずは子どもの話を聞いてみて|高知大学大学院教授・岡田倫代さんが講演しました
「子どもがゲームばかり」「YouTubeを見続ける」「スマホを持たせるのが心配」…高知県心の教育センターの子育て講演会を取材しました
「子どもがゲームにハマっている」「YouTubeをずっと見続ける」「スマホを持たせるのが心配」
ココハレにも寄せられる子育てのお悩み。特にYouTubeやスマホ、SNSは私たち親世代が子どもの頃にはなかったものですので、判断に迷いますよね。
高知県心の教育センターの子育て講演会で、高知大学大学院の教授で臨床心理士の岡田倫代さんが「のぞいてみよう、子どもの世界」というテーマで講演しました。
岡田さんが語ったのが「子どものゲームやSNSを頭から否定していませんか?」。まずは子どもの話を聞いてみるのが大事だそうです。
目次
岡田さんは高知大学大学院で子どものメンタルヘルスを研究しています。研究者になる前は香川県内で高校教員を務め、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」でも紹介されました。
著書に「セルフコントロール力がつく自己理解・他者理解のワークブック(小学校版、中・高校版)」「 2 分でできる子どものメンタルヘルスチェックシート」などがあります。
講演会は高知県心の教育センターの令和 6 年度子育て講演会として、2024 年 9 月 29 日に高知市のオーテピア、10 月 27 日に土佐市複合文化施設「つなーで」で開かれました。
【健康と幸せ】日本の子どもたちの「精神的健康」は何位?
岡田さんの講演は「皆さんは幸せですか?健康ですか?」という質問から始まりました。
ユニセフが 2020 年に公表した報告書によると、日本の子どもたちの幸福度は先進国 38 カ国中 20 位でした。
身体的な健康は 1 位である一方で、精神的な健康はほぼ最下位の 37 位。「スキル」と呼ばれる社会的健康は、学力が 5 位で、コミュニケーション能力などを示す社会的スキルは 37 位でした。
岡田さんは「日本の子どもは『健康』がバラバラ。体は健康かもしれないけれど、『幸せ』と言えるでしょうか」と投げかけました。
ここで岡田さんが実践したのが「コンプリメント・シャワー」。参加者が 2 人 1 組になり、お互いを褒め合いました。
「髪型がステキですね」「子育て講演会に勉強に来られてて、素晴らしいです」
1 分という短い時間でしたが、相手からどんどん褒められ、皆さん、照れながらもうれしそう。
岡田さんは「子どもは自分のいいところが分かっていないので、たくさん褒めてあげてください」と呼びかけました。
【タブレットが手放せない幼児】親がスマホを触る理由から考えてみましょう
「子どもがスマホ、タブレットを手放せない」「YouTubeばかり見ている」という悩み。岡田さんは幼児の事例を紹介しました。
アイちゃんは、家に帰るとずっとタブレットで動画配信アプリを見ています。
ママが「目が悪くなるからやめなさい」と注意しても、「ご飯だから一緒に食べよう」と誘っても、タブレットを離せません。
最近は寝る前になっても眠い目をこすり、眠いのか機嫌も悪くなりながら、ずっと見ていて困ります。
岡田倫代他、2022「セルフコントロール力がつく自己理解・他者理解ワークブック」より。講演資料から抜粋しました
登場するママの気持ちは同じ親としてよく分かりますが、「ママにいつも注意されるアイちゃんの気持ちは分かりますか?」と岡田さん。
岡田さんが関わる中で、アイちゃんは自分の気持ちをこう話しました。
「ママだっていつもスマホ見てるのに、どうして私はYouTubeを見ちゃダメなの?」
「大好きなご飯も食べたいけど、見たいんだもん」
「どんどん新しいコンテンツが出てくるので楽しい」ということもアイちゃんは説明したそうです。
大人がついついスマホを触ってしまう理由を振り返ると、「することがない」「何か情報を得たい」「LINEの返信をしなきゃ」「触ってないと不安」など。
「触ってないと不安」というのは少し依存傾向になっているかもしれないとのこと。「アイちゃんの気持ち、大人にも分かりますよね」と岡田さんは語りました。
【ゲーム、SNSにハマる理由】そもそもハマるように作られている!
子どもたちはなぜ、ゲームやSNSを「楽しい」と感じ、ハマるのでしょうか。結論がこちら。
「そもそもハマるように設計されている」
確かに。さらにもう一つがこちら。
「リアルな友達との会話に欠かせない」
ゲームやSNSでは「オンラインで知らない誰かとつながる怖さ」に焦点が当てられますが、実はリアルな友達付き合いに欠かせないのだそう。
「新しい情報を得ていないとリアルな友達と付き合えない」という不安が子どもたちにはあるそうです。
私たちが子どもの頃、人気テレビ番組を見ていなかったら、翌日学校での会話に取り残された…というのと似ているのかも。
だからと言って、子どものSNSを放置するのはやはり危険です。個人情報の流出によるトラブルや、SNSで知り合った子どもを手なずける「グルーミング」からの性被害も問題になっています。
【ゲームをやめられない理由】「ハラハラ、ドキドキ」が好き。感情のコントロールが難しくなっていきます
ゲームをやめられない理由について、岡田さんは中学 1 年生の事例を紹介しました。
コウくんは中学1年生。小学校低学年からゲームが好きで、高学年では友達とオンラインゲームに夢中でした。
中学校入学で、親しかった友達とも離れ離れになり寂しかったのですが、ネットでお互いの情報交換に楽しいひとときを過ごしていました。
中学では宿題も増えました。難しくてよく分からない問題が多くなりました。
「どうせ、分からない。難し過ぎる」。そんなイライラした気持ちをネットで共感してもらいながら、オンラインゲームで発散する毎日が続きました。
岡田倫代他、2022「セルフコントロール力がつく自己理解・他者理解ワークブック」より。講演資料から抜粋しました
コウくんはこの後、隠れてゲームを続け、夜更かしもするようになります。お母さんが厳しく注意しても、状況は変わりませんでした。
コウくんはちょうど思春期。思春期は脳の変化に伴い、次のような傾向が現れるそうです。
- 感情のコントロールが難しくなる
- 女児と男児の違いが大きくなり、自分探しを行い、相手を気にする
- ハラハラ、ドキドキが好きで、誘惑に弱くなる
思春期の気持ちは「依存」と「自立」で揺れ動くので、「お母さんがうるさい」と「放っておいてほしいけど、構ってほしい」が併存します。
「『友達とうまくいかない』『勉強についていけない』『醜い自分が嫌い』など、子どもたちは多様な苦しさを感じています」と岡田さん。「ダメな私も認めてほしい」とも感じているそうです。
【子どもの気持ち】「ゲームを否定する大人とは話したくない!」
ゲームやSNSについて、親と子どもの間に捉え方の溝があることも紹介されました。
ゲームにハマる子どもたちの気持ちがこちら。
なるほど。親がこの大前提を押さえておかないと、わが子とコミュニケーションを取る前から溝が生まれますね。
その上で、岡田さんは捉え方の違いを挙げました
- ゲームをすると、勉強ができなくなる→ゲームと勉強は別物
- 宿題をやらせても雑にしかできなくなる→宿題をせっかくしても認めてくれない
- 約束の時間が守れない→ゲームを中止するのは「時間」ではない
子どもとゲームの付き合い方を考えさせたいと思った時には、「まず、親がそのゲームの内容を知ることです」と岡田さん。こんな問いかけから始めるといいそうです。
【ゲーム、SNSとの付き合い方】「使わない」ではなく、「どのように使うか」が大切です
ゲームもSNSも、親の立場からすれば、「できれば使わせたくない」。でも、既に逃れられない時代に来ています。
「SNSはこれからも『いい』『悪い』を超えて使われていきます。今では多くの保護者がSNSを使い、子どもも育っています。子どもに罪はなく、どのように対応していくかが大事です」
親が心がけておきたいのが次の二つです。
- 基本的な生活習慣を見守る
- 適切なコミュニケーションを取る
意外にも、子育ての基本とされる二つでした。
生活習慣では、特に睡眠が大事だそう。「寝ないと、脳が整理されない」そうで、睡眠時間は成績やスポーツにも影響するとのこと。
「朝起きたら、朝日を浴び、朝ご飯を食べることをやってみてください」
親子のコミュニケーションでは「拒否」や「放任」はよくないですが、「過保護」「依存関係」もまた健全ではありません。子どもに安易にアドバイスをしない大切さを、岡田さんは語りました。
「風が吹いたら『家に入りなさい』とか、『あのお友達と遊んじゃダメ』とか、幼い頃から親がコントロールすると子育ては楽かもしれませんが、親がいなくなったらどうなるでしょうか。安易にアドバイスをしてしまうと、子どもは自分で考えなくなります」
親子の健康でリアルなコミュニケーションを増やしていくと、子どもの脳にもいい影響があるとの研究もあるそうです。
「親が子どもの前で弱音を吐くと、子どもは『弱音を吐いていいんだ』と思えます。子どもに信頼され、安全基地になれるように、『子どもの話を最後まで聞く』『まずは認める』『分かったふりをしない』を気をつけてみてください」
【質問】「ゲームの時間制限は効果がない?」「女の子なので、SNSからの犯罪が心配です」
講演後、岡田さんが質問に答えました。オーテピア会場から紹介します。
時間制限の効果は子どもの年齢で大きく変わります。
「小さい子はタイマーが有効。『終わりだよ』と知らせると、駄々はこねますが、落ち着きます」と岡田さん。
中高生になると、特にオンラインゲームでは「ゲーム内での役割」が生まれるので、時間制限は良くないそう。
「時間よりも、ゲーム内容での区切りが大事です。まずは親がそのゲームを知ることから始めてください」
YouTubeも成長とともに、内容にシフトするといいそうです。
「面白かったら一緒に見たらいいですし、不適切な内容だったら『私は見せるのに反対』と伝えてみてください。そこから親子の会話が生まれます」
子どもにスマホを持たせる場合、フィルター機能を活用していきましょう。子どもがスマホでどんなものをどのくらい見たか、親のスマホに通知される機能があるそうです。
まだスマホを持たせていないなら、最初が肝心です。
持たせる際には「このスマホはあなたのものではない。親からあなたに貸してあげるもの」と伝えます。ゲームやスマホの使い方について親子で約束を交わして、書面に残しておくのもおすすめだそうです。
講演では警察庁が公表している「インターネットじけんぼ」も紹介されました。インターネットに関する○×クイズもありますので、親子で挑戦してみてください。