「山北ミカン」を守りたい!ブランド価値の向上、後継者の育成…「山北みらい」が挑戦しています
高知の秋の味覚といえば、「山北ミカン」もその一つ。香南市香我美町の山北地区で作られています。
高知県民にとってはおなじみですが、農家の収入の確保や担い手不足、耕作放棄地の拡大など、問題は山積みなのだそう。
そんな現状を変え、ミカン産業を守ろうと、農業運営会社「山北みらい」がブランド価値の向上や後継者の育成に取り組んでいます。
安くておいしくて、子どもにもぱっと食べさせられて…。子育て家庭にもありがたいミカン。そのの未来をちょっと考えてみませんか?
山北ミカンを全国ブランドに 農業運営会社「山北みらい」(香南市) 県外PR強化、後継者も育成 ―EINEE高知
(高知新聞PLUS 2025 年 11 月 17 日)
秋。香南市香我美町の山北地区では、特産の山北ミカンが収穫のピークを迎えています。豊かな自然と温暖な気候で育まれ、味の評価も高いミカンですが、農家の収入確保や担い手不足、耕作放棄地の拡大など問題が山積み。そんな中、農業運営会社「山北みらい」が「山北の現状を変え、ミカン産業を守りたい」とブランド価値向上や後継者の育成に取り組んでおり、クラウドファンディングで活動への支援を呼びかけています。
「安くておいしい」だけでは…
同社によると、山北地区のミカン生産者は2003年ごろに約240人いましたが、現在は約180人。それに伴い、耕作放棄地も40ヘクタールほど広がりました。
「当たり前に農家をしていた人が1人、また1人といなくなっていく」。同じミカン農家であり、同社副社長を務める近森秀好さん(57)は、そう肌で感じてきました。「ここ10年で、急速に農家の減少が進みました。今も、半数が60歳以上。これからもどんどん減っていくでしょう」
主に県内で流通し、「安くておいしい」と地元で愛される山北ミカン。出荷量が減れば値崩れの恐れが高まり、農家の経営がさらに不安定になるのだそう。同社営業部長の畠中真由子さん(45)は「地元の消費だけに頼っては農家は持続できない」と危機感を募らせます。
そんな背景もあって、2019年に設立されたのが山北みらい。当初は売り物にならない規格外のミカンを活用したジュースやバターなどの加工品販売にも取り組みましたが、畠中さんは「安定して稼げる環境を整えるには、ブランディングで山北ミカンの価値を上げ、県外に販路を広げる必要がある」。現在は、青果の価格向上に向けた取り組みに力を注いでいます。
おいしさに魅せられて
後継者の育成では、香南市の地域おこし協力隊員を「みかん農家研修生」として同社が受け入れ、自社管理の園地で栽培技術や経営ノウハウを習得させることで新規就農をサポートしています。
剪定(せんてい)、除草、摘果といった一連の作業のほか、任期の3年間で苗木も育ててもらい、任期後すぐ独立できるモデルを構築。これまでに受け入れた協力隊員4人のうち、3人が農家として独立し、山北地区に定住しています。
今年6月には新たに2人の研修生が入り、近森さんらの指導を受けています。千葉県出身の田中圭さん(33)は就農を目指して脱サラし、昨年7月に来高。北川村で農家に従事してユズ栽培に取り組んでいましたが、同年末に山北でミカンの収穫を手伝った際に頬張ったミカンの味に魅せられました。
「甘くて、味に奥行きがあって…。こんなにミカンがうまいと思ったのは初めてでした」。以来、ミカン農家を志して愛媛や大分なども訪ねましたが「やっぱり山北が一番でした」と笑います。
地元の北海道や愛媛県での農業経験がある矢尾孝斗さん(31)も、偶然口にした山北ミカンにほれ込んだ一人。「以前自分がいたところは山地で農作業が大変だったが、山北は平地が多く、作業しやすい環境も気に入りました」。
若い芽は着実に育っていますが、近森さんは「減少ペースにはまだまだ追いつけない。山北にはもっと若い力が必要」。ミカン産業を担う次世代の育成にも注力しています。
地域の理解も進めたい
今回のクラウドファンディングで募る支援は、新たなロゴをデザインした包装やパンフレットなど、山北ミカンを全国に広めるための販売資材制作やPR活動に充てます。畠中さんは「顔が見えるPRにもこだわりたい。生産者らを県外に連れて行って直接PRしてもらう」と力を込めます。
一方で、全国へ発信するためには、地域の理解や協力が必要な部分もまだ多いと言います。
例えば、品質の保証。高知市出身の同社社員、舟木富貴さん(34)は「昔は、山北ミカンがおいしいと思ったことがなくて…。こっちに来て、初めて本物のおいしいミカンに出合えたんです」。近森さんによると、産地が同じであったとしても、農家の努力などで味に差があるのが実情なのだそうです。
同社は今後、選果機や糖度センサーの導入で品質向上を図り、ワンランク上の商品を出荷できる体制を整えていく予定。近森さんは「ゆくゆくは地域全体で、品質向上への理解を広めていけたら」と展望します。
「地域全体が小さいからこそ、お互いの顔が見える形でミカンを作れる良さが山北にはある」という畠中さん。「私たちの活動に共感してくれる仲間を増やしていくことで、地域一体で山北の味を守り、次世代へ受け継いでいきたい」。明るい未来を見据え、挑戦を続けます。(板垣篤志)
「山北みらい」は、クラウドファンディング「EINEE(えいねぇ)高知」で2026年1月15日まで支援を募っています。目標金額は300万円です。

「EINEE高知」は高知県内の地域振興の取り組みを支援するクラウドファンディングです。四国銀行、READYFOR、高知新聞社の 3 社が運営しています。

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