子どもが不登校に…親はどう対応すればいい?心が回復するまでの道筋は?|「人には不登校が必要な時もある」。不登校ジャーナリスト・石井しこうさんが講演しました
不登校の子どもが増えています。文部科学省の 2022 年度の調査によると、小中学校で 30 日以上欠席した子どもは全国で 29 万人以上。高知県では 1000 人あたり 30.7 人となりました。
わが子が「学校に行きたくない」と訴えた時、親はどう対応したらいいのでしょうか。不登校ジャーナリストの石井しこうさんが高知市内で講演しました。
自身も不登校を経験した石井さんは「人には、不登校が必要な時もある」と呼びかけています。不登校の子どもが心を回復させるまでの道筋や、親にできることを紹介します。
目次
石井しこうさんは 1982 年、東京都生まれ。中学受験を機に学校生活が徐々に合わなくなり、中学 2 年から不登校となりました。
フリースクールに入会し、19 歳からは創刊号から関わってきた「不登校新聞」のスタッフに。その後、代表も務めました。
これまでに、不登校の子どもや若者、親ら 400 人以上を取材。樹木希林さん、佐藤二朗さん、羽生善治さん、ロバート・キャンベルさんら著名人にもインタビューしてきました。
「あさイチ」「news23」「報道特集」など、テレビ番組への出演も多数。現在は不登校ジャーナリストとして活動しています。
石井さんの講演は 2024 年 6 月 29 日、高知城ホール教育相談所主催の「子育て・教育講演会」で行われました。
「不登校の子が新しい一歩を踏み出す時」と題し、不登校の子どもたちへの関わりなどを語りました。
「不登校」をどう理解すればいい?
これまでにたくさんの不登校の子どもたちから話を聞いてきた石井さん。大人たちからは「不登校をどう理解すればいい?」と聞かれるそうです。
石井さんが達した結論がこちら。
「なぜ学校に行かなくなった?」「どうしたら行けるようになる?」という質問もたくさん受けるそうですが、「無理に行かせると、過剰適応になります」。
「その人のタイミングで学校を休む機会がある」と呼びかけました。
不登校からの高校進学率、20歳時点の就業・就学率は「8割」
不登校の子どもたちに対して、文科省が方針を転換したのは 2016 年。全国の学校にこう伝えました。
- 不登校というだけで「問題行動」と判断してはならない
- 学校復帰だけを求めるのではなく、最終的な社会的自立を目指す
※中学校学習指導要領の総則編から要約
「『学校に行かないとダメだ』とすぐに戻すのではなく、『不登校でも大丈夫』と国は認めています。『学校に行かないことを責めて、無理に行かせるのは危険』と呼びかけているのに全然伝わらないと、文科省の担当者は頭を抱えています」
わが子が不登校になると、親は「一生、学校に行けなくなるのでは」「将来、引きこもりになるのでは」と心配します。
文科省の別の調査によると、不登校からの高校進学率は 85.1 %。さらに、20 歳時点での就業・就学率は 81.9 %。
石井さんが取材した不登校経験者の職業はサラリーマン、主婦、国会議員、八百屋さん、サッカー選手、キックボクサー、科学者とさまざまでした。
不登校の問題は「ここに通わなければ学びとは言えない」
不登校の子どもたちの置かれる環境は、義務教育の小中学校と、高校とでは大きく変わります。
「小中学校は決められた学校、教室、机で学ばないといけません。不登校は『年間 30 日の欠席』で認定されるので、週 1 回でも定期的に休むと『不登校』になります」
高校では通信制などの取り組みが進んでいます。日本で最も大きい高校は、明石家さんまさんのCMでも話題のN高校。KADOKAWAとドワンゴがつくった、インターネットと通信制高校の制度を活用した高校です。
「N高は年 6 日通ったらOKですし、登校コースも週 5 日、週 3 日、週 1 日など自由に選べます。子どもたちが自由に選べると、不登校はがくっと減ります」
「不登校は『ここに通わないと学びとは言えない』というのが問題なのだと感じます」
不登校の理由は、言葉にはなりません
不登校では「なぜ学校に行けなくなったのか」という理由を大人は求めます。
石井さんはこんなふうに説明しました。
事例として紹介されたのが、小学 2 年で不登校になった高校生の男の子A君。当時、母親から不登校の理由を尋ねられ、こう答えたそうです。
「学校より動画が面白いというのは分かるけど、だから『行かない』とはならないですよね」と石井さん。両親が毎日学校に連れて行った結果、A君は持病のぜんそくをこじらせて入院。両親はここで初めて、「本当に学校が嫌だったんだ…」と気づきました。
石井さんは高校生になったA君にインタビューしました。「学校に行かなくなった本当の理由は何だった?」と尋ねると、「分からない」と答えたそうです。
不登校の理由を「分からない」と答える子どもは多いそうです。これは「自分の感情が分からない」というより、「理由を言葉にできない」のだそう。
石井さんのインタビューで、A君はこう打ち明けました。
教室ががやがやしてうるさいし、先生が怒鳴っている声が怖かった。
不登校では、HSCのある子どもが少なくないそうです。HSCは「Highly Sensitive Child」の略で「とても敏感、繊細で、感受性の強い気質の子ども」と説明されます。
「彼にもHSCの気質があったのでしょう。いじめもあり、学校が安全な場所ではなくなっていたのではないかと思われますが、子どもが言葉で説明するのは難しいです」
石井さんの不登校は「中学受験」が始まりでした
石井さんは自身が不登校になった理由も語りました。不登校になったのは中学 2 年の時ですが、始まりは中学受験でした。
小学 5 年で「そろそろ塾に行ったら?」と勧められて入ったのが、ある進学塾。入塾直後に成績が上がり、先生から「お母さん、東大に入る準備はできていますか?」と持ちかけられます。
「これまで塾に行っていなかった子が塾に入って勉強したら、成績が上がるのは当然ですよね。後で聞いた話だと、みんなに『東大』と言ってたそうです。親は乗り気で、私も『絶対合格』の鉢巻を巻いて勉強しました」
その後、成績は思うようには上がりませんでした。塾では成績順に机を並べられ、先生から「ここから下はダメだ」と伝えられます。
中学受験は全て不合格に終わりました。
「その塾で教わったことは『勉強ができなきゃダメだ』『学力がないとダメだ』という学歴差別です。11 歳、12 歳の子どもに何てことを言うんだと今は怒りを感じますが、当時は信じていました。受験に落ち、『人生が終わった』と思いました」
進学した公立中には「普通の感情では行けませんでした」。先生との人間関係や校則、いじめなどがあり、不登校になりました。
「爆発したのは 14 歳ですが、きっかけは中学受験。不登校は数年かけて起こることもあります」
不登校の予兆、SOSも言葉にはなりません
不登校の「予兆」を、親はキャッチできるのでしょうか。石井さんはこう語りました。
不登校の予兆になるのは体調不良、睡眠、情緒不安、食欲不振など。しかし、これらは後から振り返ると「あの時…」と分かることなのだそうです。
一番分かりづらいのが「不眠」です。「ゲームをし過ぎて不登校になった」とされるケースは、実は「理由と現象が逆」なのだそう。
「『明日の学校が不安で眠れない』『頭がパニックになるくらいつらい』から、楽しいゲームやSNSを遅くまでやる。その結果、昼夜逆転の生活になります」
雑談は不登校の予防になります
不登校の予防になるのが、親子の雑談です。体調不良や不眠についていきなり聞けないので、「そのゲーム、どういうところが面白いの?」と尋ねてみます。
「自分の好きなことを聞かれると、笑顔になります。笑顔が増えると、ポジティブになります」
でも、ゲームに興味のない親が、ゲーム好きな子どもの話を聞き続けるのはしんどいかも…。
「フォートナイトがどうとか、マイクラがどうとか、興味ないですよね(笑)。そんな時は『料理をしている間だけ聞く』『寝る前の 5 分は子どもの話を否定せずに聞く』など、決めてみてください」
不登校からの心の回復…まず目指すのは「暇だな~」
不登校になった子どもは周囲の適切な関わりを受け、やがて心を回復させていきます。石井さんによると、「この子の不登校は終わっていくぞ」というサインがあるそうです。
「暇」には隠れた深層心理があるそう。それは「安心」です。
深層心理:安心…居場所ができると、子どもは安心する
↓
表層心理:希望、願い…安心すると、「やることがないな」「もうちょっと人生を楽しみたい」と思い始める
↓
感情:退屈、不満…「暇だな~」と連呼し始める
「わが子が不登校になり、ずっと付き添ってきた親御さんからすると、『暇だな~』には結構腹が立ちます。『じゃあ、手伝って!』と伝えると、『あれ?暇って言った?』。そこから次の一歩が始まります」
石井さんは「心が回復するまでの地図」を紹介しました。心療内科医の明橋大二さんが提唱したもので、不登校だけでなく、交通事故や大きな病気、大事な人が亡くなった時など、誰にでも当てはまるものだそうです。
①身体症状…環境を調整する
不登校では「頭が痛い」「おなかが痛い」などの身体症状が出て、学校に行けなくなります。一般的には「問題が始まった」「何とか止めなければ」と思われていますが、実は回復の第一段階なのだそう。
「風邪で言うと、熱が出た状態。体の中でウイルスと闘っているんですね」
この時、学校に無理に行かせると、身体症状はひどくなります。学校に行かなくなり、半年以上たっても症状がある場合は休めていないサインだそうです。
親の対応は「環境調整」。学校に無理に行かせず、家庭を安心できる居場所にしていきます。
②感情の噴出…突き放さずに付き合う
子どもはやがて、イライラしたり、甘えたり、突然泣きだしたりし始めます。親の対応は「付き合う」です。
「感情は止められないので、付き合うしかない。お母さんとしかお風呂に入れないという高校生の女の子もいます。この時期に『甘えたらくせになる』と突き放すのはよくないです」
なぜ、親にここまで感情をぶつけるのでしょうか。
「子どもは親になっていないので、『親に見捨てられるかもしれない』と不安なんです。ここできちんと付き合うと、次に進めます。あるお母さんは『石にだしを染み込ませるくらい時間がかかった』と話していました」
③言語化…最後まで否定せずに聞く
ここまで来ると、家庭に安心感を抱き、「暇だ」と言い始めます。よくおしゃべりするようになると、親の対応は「最後まで否定せずに聞く」です。
「学校のここが不安だ」「なぜあの時、無理に学校に行かせたの?」「なぜ『学校に行け』って強く言ってくれなかったの?」など。「言葉一つ一つにはそこまで重きはなく、話すことで整理しようとしている」そうです。
親にやたら突っかかる子や、中には「ラップでディスってくる」なんていう子も。親にとってはしんどい時期です。
「言語化が始まると毎日のことなので、生返事でも大丈夫ですよ」と石井さん。
もし、「お母さんはどう思う?」と聞かれたら、子どもが「難しい」と感じているサイン。あまり聞いていなかった場合は「えーっ、お母さんも難しい」と返し、その後はしっかり聞いてあげましょう。
④自立・親離れ
①~③を経て、子どもは一歩を踏み出していきます。急にうっとうしがられたりするそうです。
回復においては①~③を行ったり来たりします。「どの時期でも学校には行くし、また不登校になります」と石井さん。言語化するようになったあたりから、安定して登校する子どもが多いそうです。
「お子さんが今どういう状態なのか、『心が回復するまでの地図』をチェックすると、何となく道筋が見えてくると思います。この地図は大人向けなので、子どもに見せて、『あなたは今、言語化の時期』なんて説明するのはやめてくださいね」
不登校を経験した人の30年後は…?
学校に行かなくなる子どもの気持ちや親の対応について語ってきた石井さん。最後にこんな話をしました。
石井さんが不登校になった当時は人生に絶望し、「親がびっくりするくらい泣いた」そうです。「みんなは学校に行っているのに、自分は行っていない」と不安を抱き、不登校新聞の取材では「どうやったら大人になれるのか」といろんな人に質問しました。
「30 年たって不登校経験者が集まると、痛風とか腰痛とか、体調不良の話ばっかり(笑)。みんな普通のおじさん、おばさんになっていました」
人生を長く歩んできた私たち大人は「いろいろあっても大丈夫。何とかなる」と分かっていますが、子どもたちはまだ大人になったことがなく、将来を不安に思うのは当然のこと。
「全部が全部理想通りではなかったけれど、不登校で何もかもダメだったわけじゃない。人生、捨てたもんじゃない」と石井さん。
「不登校の子どもを信じて見守るのは、生半可なことではありませんが、親御さんには『この子もぼちぼちやっていくんだ』と少し長い目で見ていってほしいです」
【質問】「小中学生の居場所は?」「学力が心配です」
講演では、参加者からの質問にも答えました。
高校では通信制高校など、多様な学びの場が増えています。一方で、小中学生にはそういう場がまだまだ少ないのが現状です。
石井さんは「お住まいの自治体に支援を問い合わせて、子どもに情報提供をしてみてください」と呼びかけました。
ちなみに、まだ「学校」としては認められていませんが、通信制高校の中等部版もあるそうです。
「オンラインのフリースクールで、ゲーム画面にアバターとして入り、授業を受けたり、遊んだりできますよ」
不登校では「死にたい」「消えたい」という言葉を口にする子どもは少なくないそうです。でも、知識として知っていても、実際にわが子に言われると、「こんなに追い詰めてしまったのか…」と親はショックを受けます。
「すごく苦しくないと、この言葉は出てきません。親御さんにとってはわが子の人生を決めるようでなかなか言えないと思いますが、適応障害は今の環境に適応していないということ。『休もう』と言ってあげてください」
子どもの学力は不登校で心配なことの一つ。石井さんは、不登校の子どもたちに関わる臨床心理士や塾の先生たちから「やる気があって元気ならば、小中学校の 9 年間の勉強はだいたい 1 年でカバーできる」と聞きました。
「じゃあ、あの机に座らせる 9 年間は何だったのと(笑)。もちろん全てではありませんが、必要な部分はカバーできるそうです」
では、子どものやる気とは?石井さんは 20 代の同僚・Nさんを紹介しました。
Nさんは小学 1 年から不登校。勉強はできず、「高校、大学は名前が書けたらOKの学校を選んだ」そう。ある時、「漢検で 2 級を取ったら奨学金が出る」という制度を見つけ、「奨学金がもらえたら、半分あげる」と親に持ちかけられます。
「Nさんはそこから 3 カ月、爆発的に勉強して 2 級を取りました。すると、『このお金で留学したい』と親に伝えたんです。親御さんからしたら『えーっ!留学したかったの?留学したいんだったら、お金は出すのに』ですよね(笑)。子どものやる気、きっかけってそんなものなんだなと思います」
子どもの様子が気になる時は「学校休んだほうがいいよチェックリスト」を活用してください
石井さんが代表を務めていたNPO法人「全国不登校新聞社」などは2023年、「学校休んだほうがいいよチェックリスト」を公開しました。
LINEに表示される質問に回答すると、学校を休ませるべきかどうかを判断できます。
石井さんは2023年、不登校を経験した子どもたちが思いを表現した動画を投稿する「不登校生動画選手権」をTikTokと始めました。2024年は「不登校生動画甲子園」と名付けて動画を募集しています。
TikTokで「不登校生動画甲子園2024」|テーマは「学校に行きたくない君へ」。「#不登校生動画甲子園」で動画が見られます