吃音、チック、読み書き障害、不器用さ…「顕在化しにくい発達障害」について、弘前大学教授・斉藤まなぶさんが解説しました
はっきりと分かりにくい発達障害、早期発見・支援のポイントは?高知県立療育福祉センターのセミナーから紹介します
発達障害は子どもの特性を理解し、その子に合わせた対応をしていくため、幼児期からの早期発見と早期支援が大事だと言われています。
自閉スペクトラム症、ADHD(注意欠如多動性障害)、知的障害に比べると、幼児期には分かりにくい発達障害あります。吃音症、チック症、読み書き障害(限局性学習症)、不器用さ(発達性協調運動障害など)が当てはまります。
この「顕在化しにくい発達障害」について、高知県立療育福祉センター主催のセミナーが開かれ、子どものこころ専門医で弘前大学大学院教授の斉藤まなぶさんが講演しました。お父さん、お母さんが知っておきたいポイントを紹介します。
※発達障害の呼び方には「障害」を使ったもの、「症」を使ったものがあります。この記事は「症」を使った診断名で紹介します。
目次
高知県立療育福祉センター主催の「発達障害に関するセミナー」は 2023 年 12 月 2 日(土)、オンラインで開かれました。
講師の斉藤まなぶさんは「子どものこころ専門医」。子どもの精神疾患や発達障害、心身症、不登校などの問題に対応する医師です。
斉藤さんは青森県の弘前大学の大学院保健学研究科、医学部心理支援科学科の教授を務めています。「顕在化しにくい発達障害」について、4~6 歳児向けのチェックリストを作る厚生労働省の事業に参加するなど、早期発見・支援の取り組みを進めています。
発達障害は「自閉スペクトラム症」「ADHD」「学習障害」だけではありません
発達障害は、一般的には次の三つが知られています。
- 自閉スペクトラム症(ASD)
- 注意欠如多動性障害(ADHD)
- 学習障害(LD)…限局性学習症
発達障害は、医学的には「神経発達症群(神経発達障害群)」と定義されています。斉藤さんが紹介したのがこちら。「まもなく新しい診断基準が採用されるため、診断名や障害名は今後、変わる可能性がある」そうです。
- 知的能力障害群(知的障害)
- コミュニケーション症群(コミュニケーション障害群)…吃音症など
- 自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)
- 注意欠如多動症(注意欠如多動性障害)
- 限局性学習症(限局性学習障害)…読み書き障害(ディスレクシア)など
- 運動症群(運動障害群)…発達性協調運動障害、チックなど
- 他の神経発達症群(他の神経発達障害群)
このうち、知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)は乳幼児健診などで、比較的早く見つけられるそうです。
一方で、吃音症、チック症、限局性学習症(読み書き障害)、発達性協調運動症は「ASD、ADHDとの併存が多く、周囲に気付かれにくい」ことから、「顕在化しにくい発達障害」とされています。
「顕在化しにくい発達障害の 20~30 %は自然にはよくならず、大人になっても症状が残ります。ASD、ADHDと同様に、早期発見、早期支援が大切です」
この「顕在化しにくい発達障害」について、講演では一つ一つ、基礎知識から紹介されました。
【吃音症】ほとんどが幼児期に発症。話すことに不安を抱く場合もあります
吃音症は 100 人のうち 5~8 人が発症します。ほとんどが幼児期に発症し、吃音が始まる「発吃(はつきつ)年齢」は平均 2 歳 9 カ月です。「早い子は 2 歳前から始まる」そうです。
吃音で特徴的な「発話の非流ちょう性」は次の三つです。
- 連発…最初の音を繰り返す。「ぼ、ぼ、ぼ、ぼくはね」
- 伸発…音を引き伸ばす。「ぼーーーーくはね」
- 難発…言葉が出てこず、出そう出そうとしてようやく出てくる。「………ぼくはね」
難発のある人には、手足をばたつかせる、前屈する、目を見開くなどの随伴症状が見られることもあります。
同じ「非流ちょう性」でも、こちらは吃音ではないそうです。
- 言葉全部を繰り返す…「りんご、りんごを…」
- 「えーと」「あのね」などの挿入
- 言い直し
- 1 回の音の繰り返し…「ぼ、ぼくね」
吃音症について、斉藤さんは「言葉を流ちょうに話すためのタイミングの障害です」と説明しました。
吃音の 75~85 %は自然治癒します。「自然治癒する場合は、半年から 1 年くらいで急激に症状が減少します」と斉藤さん。完全になくなるには 2~3 年かかるそうです。
「自然治癒率が高いので『様子を見ましょう』という対応になりがちですが、最初から重度の子もいます。小学校に上がると、会話を通じたコミュニケーションが必要になるので、成長とともにさまざまな不安も出てきます」
話すことへの不安から、自分を過小評価したり、消極的になったりもします。「周囲の理解が必要ですね。基本的な対応を伝えて、回復しない場合の介入時期を逃さないことが大切です」
【チック症】「運動チック」と「音声チック」があります。わざと行っているわけではありません
チックというと、目をぱちぱちさせたり、肩をすくめたりといった行動が思い浮かびます。医学的には次のように定義されています。
動きのチックは「運動チック」、音声のチックは「音声チック」と呼ばれます。また、チックが続く時間が短くて無意味なものは「単純チック」、時間がやや長くて意味があるように見えるものは「複雑チック」と呼ばれています。組み合わせると、次のようになります。
- 単純運動チック…まばたき、口を曲げる、鼻を動かす、首振り、肩すくめなど
- 複雑運動チック…顔の表情を変える、跳ねる、触る、じだんだを踏む、においをかぐなど。出てくるタイミングが状況に全く合わないのが特徴です
- 単純音声チック…咳払い、コンコン咳をする、鼻鳴らし、鼻歌のような声、「ア」などの声を発するなど
- 複雑音声チック…状況に合わない言葉、汚言症(暴言や性的な言葉を短く言い放つ)、反響言語(他者が話した言葉を繰り返す)など
これらの症状が 1 年以上続くと、「チック症」と診断されます。運動チックと音声チックの両方が 1 年以上続くと「トゥレット症候群」と診断されます。
発症は 4~6 歳が最も多く、症状が激しくなるのが 10~12 歳。59~85 %が大人になるまでによくなります。
「チックはよく見られるもので、子どもの 5~10 人に 1 人が体験します。運動制御の問題であって、意図的に、わざと行っているわけではないと知ってください」
【限局性学習症(読み書き障害)】「読む」「書く」など特定の能力の取得が難しく、困る場面が増えていきます
読み書き障害(ディスレクシア)は限局性学習症の中核をなす障害です。限局性学習症は 25~30 人に 1 人いると言われています。クラスに 1 人くらいの割合です。
限局性学習症も脳機能の障害です。知的な問題はないのに、学習に関わる「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算」「推論」のうち、特定の能力の習得が難しくなります。
診断は「読み」「書き」「計算」で行われるため、小学校入学後が多いですが、「素地は幼児期に認められる」と斉藤さん。就学後は「平仮名がなかなか覚えられない」「漢字を使わず、作文はほとんど平仮名で書く」「英語のつづりが読めない、書けない」など、成長に伴って困る場面が増えてくるため、「早期発見に意味があります」。
読み書きについて、中核の問題が次の二つです。
- 文字や単語を音に変換(デコーディング)するのが難しい
- 単語を正確に、流ちょうに認識できない
「文字を全く読めないわけではなくて、正確に読めなかったり、読むのに時間がかかったり、単語のまとまりとして読めなかったりします。『知っているけれど、使えない』という状態で、読解力や理解力の問題ではありません」。この中核の問題が学業に影響していきます。
例えば「スイカ」は「す」「い」「か」の三つの音で成り立っています。この「音の粒」「音韻」を認識できているかどうかが文字の習得に関わってくるそうで、しりとりや逆さま言葉などの遊びはいい練習になります。
文字を読むことや書くことに興味がない、年長児になっても頻繁に言葉の言い間違いがある、歌の歌詞を覚えるのに時間がかかるといった際は、注意が必要です。
「言葉の遅れがあった子どもがしゃべるようになると、『しゃべれるようになったからいい』とされがちですが、語彙(ごい)の少なさは学習障害のリスク因子になります。フォローをやめずに見てあげてください」
【発達性協調運動症】脳の予測と実際の動きが合致せず、勉強や日常生活に支障が出ます
運動や手先の不器用さは「運動の協調」という脳機能の発達に問題があるとされています。学業成績や日常生活の活動に支障が出ている場合に、「発達性協調運動症(DCD)」と診断されます。中等度以上の知的発達症や視力障害、神経疾患の場合は当てはまりません。
発達性協調運動症での運動能力は次の三つです。
- 粗大運動…走る、跳ぶ、体を大きく動かすなど(感覚器官からの情報をもとに行う、姿勢と移動に関する運動)
- 微細運動…鉛筆やはさみの使用、手先を起用に動かす運動など(感覚器官や粗大運動で得られた情報をもとに、小さい筋肉の調整が必要な運動)
- 協応運動…姿勢の保持、折り紙など(「目と手」など、二つの器官や機能が連動する動作)
運動が協調していると、脳の予測と実際の動きがぴったり合います。例えば、目標までジャンプをする場面では、私たちは目標までの距離を見て測り、踏み出す力を決めます。
「動作を始める前に、脳は『体全体をどう動かすとうまくいくか』を、特に意識せずに予測しています」
自分の予測と実際の動きがマッチしないと、目標まで届かなかったり、よろけてしまったり、転んでしまったり。
「階段を降りていて、『これで終わり』と思っていたらもう 1 段あった。膝がかくんとなりますよね。こういったことがずっと起こるとなったら、どれだけ大変でしょうか」
発達性協調運動症の有病率は5~6%で、男の子に多いと言われています。他の発達障害に併存して現れる場合が多く、ASDでは約 70 %、ADHDでは約 30~50 %、学習障害では約 50 %と言われています。
運動のぎこちなさや遅さ、正確性の欠如などの症状は、大人になっても自然に消えてはいきません。大人になり、「素早い書字ができない」「運転ができない」「ひげそりができない」などで困っている人がいます。
さらに、運動が苦手な子、不器用な子は「やる気が足りない」「もっと頑張れ」など、周りの人から不適切な声掛けや対応をされがちです。その結果、心身の健康の問題へと発展します。
- 身体活動の減少
- 集団遊び、スポーツへの参加減少
- 体力の低下
- 肥満
- 学業成績の低下
- いじめ
- 自尊感情の低下
「運動の不器用さは、見て分かりますよね」と斉藤さん。「運動が苦手な芸能人を取り上げるテレビ番組もあります。『笑うのはよくない』と子どもたちに伝えてほしいです」
チェックリスト「CLASP」は公開されています
「顕在化しにくい発達障害」である吃音、チック、読み書き障害、不器用さの早期発見、早期支援に向けて、「CLASP(クラスプ)」というチェックリストが作られました。不器用さの項目は、斉藤さんが所属する弘前大学が担当しました。
幼稚園や保育園の先生、巡回相談の先生たちが活用するものですが、インターネットで公開されています。
【支援】周囲の大人が上手にヒントをつくっていきましょう
「顕在化しにくい発達障害」について、斉藤さんは最後に支援のポイントを紹介しました。
【吃音症】「気にさせたら悪くなる」は思い込み。子どもの「気付き」に寄り添いましょう
吃音症には「年代ごとに思い込みがたくさんあります」と斉藤さん。「吃音は気にさせたらもっと悪くなるらしい」と思い込み、話題にしないようにしてしまうと、「自分は他の人としゃべり方が違う」と気付いている子どもはかえって相談しにくくなります。「『母親が厳し過ぎるから』というのも間違いですね」
吃音が出やすい場面はこちら。
- 時間的にプレッシャーがある時(急いでしゃべらないといけない時)
- 言語的要求が高い時(たくさん説明しないといけない時)
- 発話への干渉が大きい時(話をさえぎられたり、話し方のアドバイスをされたり)
- 否定的態度を示された時(緊張してしまいます)
- 情緒的に興奮しやすい時
- 友達にからかわれたり、指摘された時
こういった状況をつくりにくくするのが支援のポイント。リラックスして話せる環境をつくり、吃音や自分自身に否定的感情を持たせないようにしていきます。
幼児期は「違い」に気付く時期です。友達が吃音に気付き、「どうしてそんなしゃべり方をするの?」と質問したり、吃音をまねしたりすることがあります。
「友達に悪気はなくても、本人は傷つきます。『言葉が詰まっちゃうんだよ。まねしないでね』と説明し、やめさせるようにしましょう」
【チック症】チックのみにとらわれずに、特徴の一つとして受容しましょう
チック症では、重症度によって治療方針が分かれます。重症の場合は薬物療法も取り入れます。
重症、軽症にかかわらず、家族や本人だけでなく、園や学校などで関わる人にも正しい理解を持ってもらえるように支援していきます。チックでも「親の育て方や本人の性格に問題があって起こるものではない」という理解が不可欠です。
「チックを本人の特徴の一つとして受容し、チックのみにとらわれずに、長所も含めた本人全体を考えて対応していきます」と斉藤さん。
チックを悪化させる状況をあえてつくり、本人を追い込むことはやめましょう。
【限局性学習症】遊びと結び付けて、文字や数字の面白さを伝えましょう
限局性学習症は、就学後の発見・支援では「学業において厳しい現実がある」と斉藤さん。幼児期は生活の中で、文字への関心があるか、言葉遊びができているかを見ていきます。
「『勉強』ではなく、遊びと結び付けて、文字や数字の面白さを伝えていくといいですよ」。家庭でもできる遊びがこちら。
- かるた
- しりとり
- 逆さま言葉、たぬき言葉(タイコ→イコ)
- 1 対 1 の読み聞かせ…興味のある絵本を使う。文字をなぞりながら読み、音と文字が対応していると気付かせる
- 手遊び、言葉遊び
- グリコのじゃんけん… 1 音ごとの区切りが実感できます
- 言葉探し…同じ音で始まる言葉を探す、同じ音で終わる言葉を探す
【運動への支援】体を動かすのが嫌いな子どもはいません。「下手でもいい」と安心できる場を設けましょう
運動への支援で、大人が理解しておかなければならないのがこちら。
- 幼児はまだ発達の過程にいます
- 運動は競争や承認の手段ではありません
「小脳の発達のピークは 5~6 歳。体を使ってあらゆることを学んでいるので、失敗しても仕方がありません。まず、幼児の運動発達のレベルをよく理解してください」
どんなに運動が下手でも、体を動かすことが嫌いな子どもはいないそう。「他の子と比較されず、『下手でも大丈夫だ』と分かれば、安心してチャレンジします」。かけっこの順位など運動の結果に注目しがちですが、子どもが感覚や認知を育む過程を楽しめているかが大事です。
運動は上手にできるようになると、自動化され、意識せずにできるようになります。例えば、縄跳びは跳べるようになると、子どもに上手に教えるのが難しくなります。
「教えるのが難しい場合は、専門家にアドバイスをもらうようにしてください」
講演では「発達全般に言えること」として、斉藤さんがこう語りました。
「言葉も運動も自然に習得ができないから、『発達の遅れ』が出てきます。周囲の大人は自然習得のプロセスに沿って、上手にヒントをつくっていきましょう」
私たち親は専門家ではありませんが、わが子と毎日関わっています。子育てで困ったり、発達で気になることがあれば、抱え込まずに相談していきたいですし、相談できる高知県であってほしいと思います。
高知県立療育福祉センターには、発達障害者支援センター「きらっと」があります。発達障害について、子どもから大人まで幅広く相談を受けています。療育福祉センターについて、ココハレで紹介しています。こちらから
ココハレでは発達障害について、高知県内の専門家へのインタビューなどを紹介しています。こちらから