人工妊娠中絶、性感染症…高知の若者の性の現状は?|性教育はまず大人が学び直しを。産婦人科医・毛山薫さんが語りました

性の現状で親が知っておきたいことは?「にんしんSOS高知みそのらんぷ」のセミナーから紹介します
子どもが自立へと歩む思春期。中高生になると、行動範囲が広がり、友達同士で行動するようになり、親との会話も減ってきて…。親としては心配事も増えますね。。
高知の若者の性に関する現状を考えようと、「にんしんSOS高知みそのらんぷセミナー」が開かれ、学校での性教育に力を入れている産婦人科医・毛山薫さんが講演しました。
10 代の人工妊娠中絶や性感染症は高知県内でも報告されています。診療の最前線にいる毛山さんは「まずは大人が学び直し、性に関する正しい知識を身につけてほしい」と訴えました。
目次
「にんしんSOS高知みそのらんぷセミナー」は 2025 年 2 月 2 日、高知市桟橋通 4 丁目の高知市立自由民権記念館で開かれました。
主催したのは「にんしんSOS高知みそのらんぷ」。思いがけない妊娠に悩む人に向けた相談窓口で、児童家庭支援センター「高知みその」(高知市新本町 1 丁目)が運営しています。

セミナーは 12 月にも開かれ、高知県教育委員会保健体育課チーフの廣田志保さんが県内で行われている「性に関する指導」について語りました。
性教育、学校では何をどこまで教えてる?高知県の「性に関する指導」とは?|性教育は小学1年生から発達段階に応じて。高知県教育委員会の廣田志保さんが解説しました
今回の講師の毛山薫さんは土佐高校、川崎医科大学を卒業。京都第二赤十字病院、徳島大学病院、高知赤十字病院を経て、けやまクリニック(高知市知寄町 1 丁目)で診療しています。高知県思春期相談センター「PRINK(プリンク)」の専門医面接相談を担当し、学校での性教育にも力を入れています。
【人工妊娠中絶】10代は高知県内で毎年50~60件前後報告されています
「10 代の人工妊娠中絶実施率が高い」という現状にある高知県。2023 年の中絶件数は 52 件でした。毎年 50~60 件前後報告されています。
診療にあたる毛山さんが気がかりなのは、妊娠 12 週を超えた「中期中絶」だそうです。
「月経や避妊についての知識が不十分で、性交渉や性的接触と妊娠がつながっていない人もいます」
ある時、「生理がない」と受診した 10 代の女性がいました。検査で妊娠が分かりましたが、性交の経験を尋ねると、「ない」と答えました。
「おなかが出て、胎動もあるのですが、自覚症状がない。セックスがどういうものかも知らないまま経験していて、これは大人が教えていないことが問題だと感じました」

妊娠しているのに、妊娠を全く疑っていないケースがあれば、「妊娠してしまった。どうしよう」「産婦人科を受診したら親に知られる」と困り、誰にも相談できないまま抱え込んでいたケースもあります。
性に関する知識がないのは、子どもだけではありません。思いがけない妊娠に驚き、「40 代になったら妊娠しないと思っていた」という人もいるそうです。
「まずは大人が正しい知識を身につけ、信頼されること。子どもから『困ったらこの人に相談しよう』と思ってもらえることが大事です」
【性感染症】「インスタのDMで知り合った」…不特定のパートナーと性的接触
性感染症とは、性的な接触で感染する病気の総称です。
国内で最も感染者が多いのが「性器クラミジア感染症」。性行為によって、クラミジアという細菌の一種が感染します。男性は尿道炎を引き起こしますが、女性は目立った自覚症状がない場合が多いそう。悪化すると不妊症の原因となることもあります。妊婦が感染すると、出産時に胎児に感染することもあります。
感染が多いのは男女とも 20 代ですが、10 代後半から報告されています。毛山さんのクリニックでは 10 代の受診者の陽性率は 37.5 %。
「SNSで知り合って性的接触をしたというケースが多いので数字は高めだと思いますが、それでも陽性率としては高い。性感染症が若年層に広がっていると感じます」
若年層に広がる理由として、毛山さんは次の四つを挙げました。
- 不特定のパートナーとの性的接触…「インスタのDMで知り合った」が多い
- コンドームを毎回きちんと使っていない…「使う時と使わない時がある」と答える
- 検査を受けても、最後まで治療しない…来院しない、再検査を受けない
- パートナーが未治療…「もう連絡を取らないから知らない」という関係性で、治療に至らない
2010 年代からは梅毒が全国で増え、問題となっています。10 代の妊婦の 200 人に 1 人が感染しているというデータもあり、先天梅毒で生まれる赤ちゃんも増えています。
「今は性風俗に関係なく、パートナーが何年も変わっていない人も感染しています。昔の病気ではなく、身近な病気になっています。自己判断せず、少しでもおかしいと思ったら受診してください」
【中高生への性教育】「性交する=妊娠する」と伝えています
高知県では県教育委員会と県産婦人科医会が連携し、性教育を行っています。産婦人科医や助産師が「外部派遣講師」として学校に出向いていて、毛山さんら産婦人科医は主に中学校、高校で授業しています。
講演では、毛山さんが授業の一部を再現しました。
「性」という漢字には、ともすれば「エロい」「嫌らしい」というイメージが抱かれがちですが、授業は「『性』という字は生まれながらの心の在り方、人間の生き方の基本となる」という話から始まります。
性交は生殖のためだけでなく、パートナーとの連帯を深めたり、快楽を求めたりという側面もあると説明した上で、「性交する=妊娠する」とはっきり伝えています。

幸せな妊娠でも、体や心の変化から不安になります。予期しない妊娠の場合はその不安がさらに増すことや、妊娠の先には出産と子育てがあることを紹介。予期しない妊娠の結果、1 人で出産し、赤ちゃんを遺棄した事件にも触れています。
「人工妊娠中絶という選択肢があることも説明します。予期しない妊娠を防いでほしいし、妊娠した時は信頼できる大人にできるだけ早く相談してほしいと伝えています」
生徒たちからはこんな感想が寄せられています。


「話が直接的で、逆にすがすがしかった」という感想もあるそう。大人が正しい知識を、恥ずかしがらずに真剣に話すと、子どもはしっかり受け止めてくれるんですね。
【性の知識、間違ってない?】「避妊はコンドームで」「ピルを飲むと将来妊娠しにくくなる」
講演では、避妊に関する正しい知識も紹介されました。
避妊といえばコンドームですが、「コンドームは性感染症防ぐものであって、コンドームだけでは心もとない」と毛山さん。「確実に避妊をするなら、ピルを併用してほしい」と訴えました。
ピルは正式には「低容量ピル」で、ホルモンバランスを調整して排卵を抑えることで妊娠を防ぐ薬です。月経困難症も改善でき、治療薬として保険適用となっています。
服用する人も増えていますが、誤解も多々あるそう。
- ピルを飲むと将来妊娠しにくくなる
→ピルは妊娠する機能を失わせるものではありません。服用をやめたら、また妊娠の可能性があります。 - ピルを飲むと太る
→「ピルを飲むと太る」というデータはありません。 - ピルを飲むと血栓症になりやすくなる
→血栓症の発症リスクは 1 万人当たり 10 人くらい。ピルを飲んでいない人に比べると高いですが、妊娠・出産時のリスクに比べると低いです。 - ピルと飲むとがんになりやすくなる
→発症率の差はごくわずか。がん検診や予防接種と併用しましょう。 - ピルはめちゃめちゃ高い→自費の場合、毎月 2000~3000 円です。
ピルを服用できない人もいます。
- 前兆のある片頭痛の患者
- 35 歳以上で 1 日 15 本以上喫煙する人
- これまでに血栓症になったことがある人
月経困難症の場合のホルモン剤として、低用量ピルを服用できない場合には別の種類のホルモン剤を服用する、子宮内にホルモン剤を留置する器具(ミレーナ)を使うなどで対応しています。
「婦人科で使うホルモン剤には『危ない』『副作用が重い』という誤解がありますが、妊娠を自分自身でコントロールでき、女性にとっては強い味方です。正しい飲み方や副作用を理解し、有効活用してほしいです」

若者の性の問題への対策としては、「正しい知識を持つこと」が何より重要です。
「ネットやスマホが普及していますが、月経、妊娠、避妊についての知識は意外と伝わっていませんし、親世代にも正しい知識が期待できない。私たちがまず、学び直す必要があります」
その上で、子どもたちに育みたいのが「相談する力」です。
「性については親には相談できないというところもあります。身近な大人が相談相手になれるように、子どもたちに信頼されるように、正しい知識を身につけていきましょう」
講演では、子宮頸がんを予防する「HPVワクチン」も紹介されました。接種機会を逃してしまった女性のための「無料キャッチアップ接種」が延長されました。2025 年 3 月までに接種を始めると、3 回の接種を無料で受けられます。詳しくは高知県のウェブサイトでご確認ください。
子宮頸がんについて、ココハレで紹介しています。
子宮頸がん検診、受けていますか?|20代から増え、30~40代に多い子宮頸がん。HPVワクチンの定期接種は小学6年~高校1年の女の子が対象です
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