災害時、妊婦や子ども連れの人に必要な備えは?|高知市で「ママ・パパ防災教室」
2021 年 3 月 11 日、東日本大震災の発生から 10 年の節目を迎えます。ご家庭で、南海トラフ地震への備えはできているでしょうか。
高知市内でこのほど、子育て中のお父さん、お母さんを対象にした防災教室が開かれました。過去の災害で妊婦や子ども連れの人が困ったこと、「必要だ」と感じたこと、そして「今日からすぐにできる備え」について考えました。
講師は2児のママ・坂東さん
防災教室「ママ・パパ知っていますか?災害発生、その後に起きること」は2月13日、こうち男女共同参画センター「ソーレ」で開かれました。講師は助産師で、高知県立大学大学院看護学研究科で災害看護を研究している坂東早紀子さん。家庭では 2 歳と 7 カ月の男の子を育てるママです。
坂東さんは自身の子育て経験を織り交ぜながら、災害時に必要な備えを語りました。
ミルク・おむつの不足、井戸水を沸かして沐浴…
世界の研究では、自然災害が起こった時、「女性の方がもたらされる被害が大きい」とされています。経済的な問題に加えて、「女性だから」という理由で担う育児や介護、家事の負担が大きく、災害後に失業する、働きたくても働けない状況になることが報告されています。
日本国内で起きた過去の災害でも、「妊産婦、母子を取り巻く環境は厳しかった」と坂東さんは紹介しました。東日本大震災では「陣痛が来ても病院に行く手段がなかった」「ライフラインがストップし、井戸水を薪で沸かして沐浴した」「完全ミルクで育てていた人にミルクが届かず、痛みに耐えながら母乳を吸わせた」といった過酷な状況が報告されています。
ミルクやおむつなど乳幼児向けの支援物資が避難所に届くまでに、1 週間はかかったそうです。「避難所以外の場所で過ごしている人に物資が届かなかった」「幼稚園や保育園に通っていない親子を行政が把握できず、支援が届かなかった」ということも起きました。
自責の念、喪失感、ストレス…
大勢で過ごす避難所では、「女性だから」という理由で食事作りやトイレ掃除を担当するということが起きました。「授乳しているところを見られた」「子どもが泣いたら注意され、びくびくしながら過ごした」「サイズの合った下着が欲しいと訴えたら、『わがまま』と言われた」という経験をし、避難所にいづらくなった人もいました。
災害はそれ自体が大きなストレスになります。命が助かったとしても、「子どもたちに怖い思いをさせてしまった」という自責の念や、家族の大切な思い出を失った喪失感に襲われます。坂東さんは「普段でも子育て中は大変なのに、いろんなことが起こり過ぎて感情のコントロールが難しくなる」と語りました。
おんぶひもの練習を!
災害では物資の不足や大きなストレスが予想されるからこそ、家庭での「備え」が必要です。坂東さんによると、乳幼児を連れた避難で大事なのが両手をフリーにすること。おんぶひもを使っておんぶすると、両手が使えます。
【子どもを守る避難術】
- ベビーカーで避難しない
- おんぶひもの練習をしておく
- 両手はフリーにしておく
- 歩ける子どもでも基本的には抱っこ
- はぐれた時を想定した準備を
- 保育園や幼稚園、学校の災害時の対応を確認
地震発生後は、家が崩れたり、物が散乱する中を大勢の人が移動します。ベビーカーは普段は便利ですが、「避難時には使えません」。子どもをおんぶして、両手に荷物を持って逃げましょう。
歩ける子どもでも、混乱した中を避難するのは大変で、はぐれる可能性もあります。おんぶや抱っこができるのなら、して逃げた方が安全です。「抱っこひもは体重 20 キロの子どもまで使えるものもあります。確認して、使えるのなら普段からおんぶの練習をしておきましょう」
もしはぐれた場合は、子どもが周囲の大人に説明しなければなりませんが、「普段は住所や名前を言えても、災害時にはパニックになって言えないことも考えられます」。名札を着けておくなどの対応を考えましょう。
妊婦と乳幼児は「水分補給」「保温対策」「感染対策」をしっかり
避難先で妊婦、乳幼児に欠かせないケアは「水分補給」「保温対策」「感染対策」の三つです。
・水分補給…乳幼児は脱水を起こしやすいので、水分は小まめに取りましょう。ミルクの赤ちゃんはコップやスプーンでの授乳を練習しておきましょう。妊婦は頻尿を気にして我慢しがちですが、しっかり取りましょう
・保温対策…乳幼児は体温調節が未熟です。脱ぎ着しやすい薄い服を重ね着して、調節しましょう。アルミ製毛布は気密性が高いので、乳幼児には適しません。妊婦は体を冷やすと循環機能が悪くなるので、掛け物で調節を
・感染対策…手洗いとマスクが基本です。マスクを正しく着けることが難しい子どもは、マスクにこだわらず、手洗いをしっかりと
大勢の人が過ごす避難所では、どうしても感染症のリスクが高まります。「身を寄せられる場所があるなら、母子は被災地から出るのが一番です」
避難時に何を持っていく?
「1週間は支援物資が届かない」ということを考えると、たくさんの物資を家庭で準備しておく必要がありますが、とても持ちきれる量ではありませんね。まずは 1 週間分を準備し、そこから「避難の際に持っていく物」「落ち着いた後で家に取りに帰る物」を分けるといいそうです。
避難の際に持っていく物は、「水分補給」「保温対策」「感染対策」に必要な物から選びます。赤ちゃんのお尻拭きはノンアルコールなので、顔や手足にも使えて便利です。新生児には清浄綿がいいそうです。
非常食や離乳食は「子どもが食べるかどうか試してからストックしましょう」。市販の離乳食を受け付けない子どももいるので、慣れさせておきましょう。
避難所での夜泣き対策は?子どもが騒いだ時は?
「夜泣きは子どもの正常な反応」と坂東さん。「泣いている赤ちゃんを抱っこした親に、間違っても『泣き声がうるさいから外に出て』と言ってはいけません。対応を地域で考えてほしいし、『外へ』と言われても拒否してほしい」。個別に教室をあてがってもらうなどの対応を求めましょう。
広い体育館では「子どもが騒いでうるさい」とトラブルになることもあります。小さい子どもがいる家庭同士が集まって教室で過ごすと、お互いに助け合えます。子どものメンタルケアについても知っておきましょう。
【子どものメンタルケア】
- 慣れ親しんだおもちゃを持っていく…「日常」を感じられるアイテムになります
- 上の子どもを特に気にかける…子どもなりに空気を読み、特に上の子は頑張ってしまいます
- 生活リズムはできるだけ整える…生活に規則性を感じられると、安心します
- 怖がっている時は「怖い」という気持ちを否定しない。スキンシップを増やす
今日からできることを
備えが必要だと分かっていても、実際に行動に移すのは難しいものです。坂東さんは最後に、「今日からすぐにできること」として七つを挙げました。
- 車のガソリンはまめに給油する
- 大人も子どもも、家族に行き先を具体的に伝えてから出かける…「買い物に行く」ではなく、「○○のスーパーに行く」
- おんぶを練習する…お父さんも練習を
- 市販の離乳食をたまには食べさせてみる…食べられるものをストックするため
- 大切な書類、写真、思い出の品は高い所に保管する
- 鍋でお米を炊いてみる
- 子どもが電気を使わない遊びを楽しめるようにする…電池が切れたら使えないおもちゃやゲーム以外の遊びに慣れておきましょう
災害時には「助けてもらえる力」「助けを呼べる力」が必要になります。「『図太い子育て』と『お節介』が災害時にも役に立つ」と坂東さん。「家族で、子どもを抱えている人同士で、地域で助け合い、支え合い、災害を乗り越えていきましょう」