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男性の育休はなぜ必要?取得したパパたちの過ごし方は?|「パパ育休」を考えるフォーラムが開かれました

男性の育休はなぜ必要?取得したパパたちの過ごし方は?|「パパ育休」を考えるフォーラムが開かれました

ファザーリング・ジャパンの池田浩久さんが講演。高知のパパたちが育休の経験を紹介しました

男性の育休が推進され、数カ月単位で取得するお父さんも増えてきました。

一方で、「職場で育休を言いだしづらい」「『男性がそんなに休んでどうするの?奥さんがいるでしょ?』と言われた」などの声もまだまだあります。

そもそもなぜ、男性の育休が必要とされているのでしょうか。取得したお父さんたちに求められる役割とは?

高知のお父さんたちも参加して「パパ育休」を考えたフォーラムから紹介します。

少子高齢化、人口減で経済が維持できなくなる…日本のラストチャンスは「2030年」

「パパ育休」を考える「令和 5 年度少子化対策県民運動推進事業フォーラム」は 2023 年 10 月 18 日、高知市知寄町 2 丁目のちより街テラスで開かれました。

主催は高知県少子化対策推進県民会議と高知県。県民会議は 2008 年に発足し、仕事と家庭の両立支援や子育て支援に取り組んでいます。

フォーラムのテーマは「働きながら子育てしやすい職場環境づくり」
フォーラムのテーマは「働きながら子育てしやすい職場環境づくり」

今回のテーマは「働きながら子育てしやすい職場環境づくり」。講演には池田浩久さんが登壇しました。

池田さんは、男性の育児を支援するNPO法人「ファザーリング・ジャパン」の理事を務めています。家庭では中学生、小学生、保育園児を育てる 4 児の父親。自身も育休を 3 回取りました。

講演した池田浩久さん
講演した池田浩久さん

なぜ今、男性の育休を進める必要があるのでしょうか。池田さんは「2030 年が日本のラストチャンス」と語り始めました。

「少子高齢化」と言われて久しい日本。人口減も始まり、「有効な少子化対策が取られないまま 2030 年を超えると、今の経済状況を維持できない」と言われています。

「女性に育児と家事をさせて、さらに働かせて…というのはおかしい」

日本がラストチャンスの 2030 年をうまく乗り越えるにはどうしたらいいのか。池田さんは次の三つを挙げました。

  • 若い世代の所得を増やす
  • 社会全体の構造・意識を変える。育児負担が女性に集中している実態を変える
  • 全ての子ども、子育て世帯を切れ目なく支援する

「実現させるために必要なのがまず、『制度の充実』。そして『働き方改革』です」

「日本のラストチャンス」でやるべきことは?
「日本のラストチャンス」でやるべきことは?

働き方改革について、池田さんは保育園児を育てる日本の共働き家庭の 1 日を説明しました。

「1 日は 24 時間。幼児期の睡眠はお昼寝も含めて 10~12 時間。保育園で過ごす時間は、都市部では 10~11 時間。差し引くと、自宅で過ごす時間は 2~3 時間くらいしか残りません」

この 2~3 時間に、ご飯、お風呂、朝の準備などが詰め込まれます。

「家族と過ごす時間はかけがえのない大切なものです。その時間を確保することが家族の幸せにつながるのですが、労働時間が長いと達成できません。これが、今の若い世代が『仕事と育児の両立は難しい』と考える理由です」

若い世代は、子育て世代を見て「仕事と育児の両立は難しい」と考えています
若い世代は、子育て世代を見て「仕事と育児の両立は難しい」と考えています

この実態に、さらに夫婦の家事・育児の負担割合が影響します。

「高知は先日発表された『男性の家事・育児力』ランキングで 1 位でした。それでも、家事や育児に関わる時間は女性の方がはるかに長い。深刻な労働力不足を背景に『女子活躍』が求められていますが、女性に家事や子育てをさせて、さらに働かせてというのはおかしいですよね」

「制度の充実」と「働き方改革」に加えて、「夫の家事・育児」と「妻の両立・活躍」が必要だと呼び掛けました。

子育てで大事にしたいのは「パートナーへの寄り添いと共感」です

男性の育休取得は、単に「夫が家事・育児に参加する時間を増やす」だけではないと、池田さんは自身の経験を振り返りました。

池田さん一家に第 1 子が誕生したのは 2010 年。この時、池田さんは育休を取りませんでした。実家はどちらも県外で、池田さんは仕事が忙しくてなかなか家にいられないという状況でした。

池田さんはある日、1 人で子育てを担っていた妻から「誰とも話をせずに 1 人でいるのがつらい」と打ち明けられました。

「ママの産後うつは 10 人に 1 人が発症すると言われています。妊産婦の死亡率で最も高いのは自殺。ママは命を懸けて子どもを産む。その先にママの命にかかわることが起きるのは、とても悲しいことですよね」

池田さんが描いたイラスト。左の水差しが母親で、右のコップが子どもで、水が愛情。「ママは子どもに愛情を注ぎます。ママに愛情を注いでくれる人はいるでしょうか」
池田さんが描いたイラスト。左の水差しが母親で、右のコップが子どもで、水が愛情。「ママは子どもに愛情を注ぎます。ママに愛情を注いでくれる人はいるでしょうか」

夫婦で子育てをする上で一番大事にしたいのは「パートナーへの寄り添いと共感」だと池田さんは語り掛けました。

「なぜ、男性が育休を取る必要があるのか」という問いの答えは、「パートナーと子育ての価値観の共通認識を持つためです」。

「男性の育休は、ただ取ればいいというものではありません。育休中をどう過ごすのか、中身の議論をしないといけません」

「男性の育休」の実際は?「母乳以外は何でもやる」「お世話の大変さを肌で感じた」

では、実際に育休を取得した男性は、どんな毎日を送り、何を感じたのでしょうか。

フォーラムでは、高知県内の企業による事例発表や、取得者の経験談が紹介されました。

パネルディスカッションに登壇したのは、ミタニ建設工業の伊野上功樹さん。1 カ月の育休を取りました。

伊野上さん(左)が育休の経験を語りました
伊野上さん(左)が育休の経験を語りました

ミタニ建設工業では男性の育休を推進していますが、事例はまだまだ少ないそう。育休を取ることに抵抗のある社員もいるそうです。

伊野上さんも「育児に携わるために育休を取りたい」と思いながら、「他の社員の負担が増えるので嫌がられるのでは」と迷いました。「快く受け入れてもらえてよかった」と振り返りました。

育休中は料理、洗濯などの家事全般に加え、おむつ替え、寝かしつけ、沐浴(もくよく)など何でもやったそう。

「妻と交代で寝かしつけをするんですけど、寝てくれない。泣いてる理由が分からなくて、体力もメンタルもしんどくて。赤ちゃんのお世話は大変だと肌で感じました」

妻は県外出身。「親も友達もいない環境に不安を感じていたけれど、昼夜問わず一緒に子育てしてくれて、不安や孤独を感じることなく、心強かった」と話しているそうです。

ココハレでのコラムでおなじみ、比島交通公園の園長・山崎勇人さんも登壇しました。

比島交通公園の山崎勇人さん。ココハレのコラム「新米パパ」の日々を紹介しています
比島交通公園の山崎勇人さん。ココハレのコラム「新米パパ」の日々を紹介しています

山崎さんは雇用主のため、育休の制度は利用できません。代わりに、産後 1 カ月の間に「ゆるい時短勤務」という形を取り、妻と一緒に育児に携わる時間を増やしてきました。

変則的な勤務を受け入れてもらうため、「職場の皆さんに理解していただき、何かあれば携帯に連絡してもらうなど、土壌整備をしました」と山崎さん。

「家事や育児を女性が過度に担うことに疑問を感じていて、『母乳以外は全部やろう』と決めていました。子どもが 1 人でも 2 人でも、育児は大変。『夫が妻を手伝う』ではなく、『夫婦一緒にやる』が広がればと思います」

 

企業の役割は?「従業員の幸せを考え、制約を乗り越えて」

男性の育休取得を進めるためには、企業の取り組みが欠かせません。フォーラムでは 2 社が事例を発表しました。

ミタニ建設工業の中島由貴さんは人事の担当として、制度の整備や周知に取り組んでいます。

ミタニ建設工業の中島由貴さん
ミタニ建設工業の中島由貴さん

「育休を取りたい」と思っているのに「取りたい」とは言い出しにくい社内の雰囲気を変えるため、トップが全社員を前に「柔軟な働き方をサポートする」とビジョンを語ったり、社員同士がコミュニケーションを取る場を設けたりしています。

「育休を『取りたい』という社員もいるし、『取りたくない』という社員もいます。一律に『取りましょう』と呼び掛けるのではなく、コミュニケーションを取りながら、一人一人のライフスタイルに合わせた対応をしています」

高知県浄化槽綜合センターの岡本光平さんは、社長であり、3 児の父です。男性の育休を実現させるため、「既存の業務で手いっぱいで、余裕がない」という社内の状況を改善することから始めました。

高知県浄化槽綜合センターの岡本光平さん
高知県浄化槽綜合センターの岡本光平さん

業務の効率化を目指し、コミュニケーションツールの「Slack(スラック)」を導入したり、土曜日の電話対応を外注したり。従業員が有給休暇を取得する余裕が生まれた結果、社内が「育休を取る従業員がいたら、全員でフォローしよう」という空気になりました。

「中小企業のリーダーはしんどいです。『時間がない』『余裕がない』というのもすごく分かります。でも、その壁を乗り越え、持続的な成長と従業員の幸せを目指すのがリーダーの役割です。小さな取り組みでも、企業の文化や環境を変えていけます。まずは課題を発見することから、ぜひ始めてください」

パネルディスカッションには大学生も登壇し、「福利厚生や育休が充実している企業は『企業が家族も大切にしている』というメッセージになる」と語りました。

「男性の育休」というと「取得率」に注目が集まりがちですが、大事なのは中身。浸透させていくには「取得したパパたちの過ごし方」に加え、企業が「取得した人をフォローする立場の人を大切にする」ことが求められます。

育休を広げるには、みんながしっかり有休を取れる組織づくりが必要とも言われています。柔軟な働き方を進めることは、現役の子育て世代である私たちだけでなく、私たちの子どもの未来のためにも必要だと実感したフォーラムでした。

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 3 と年長児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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