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出産できる分娩施設が10施設に減少、出生数は過去最低の3380人に…高知の子育て支援に今、必要なことは?|高知母性衛生学会で医療、行政、パパママが考えました

出産できる分娩施設が10施設に減少、出生数は過去最低の3380人に…高知の子育て支援に今、必要なことは?|高知母性衛生学会で医療、行政、パパママが考えました

コロナ禍を境に、少子化が一段と進んでいます。高知県で 2023 年に生まれた赤ちゃんの数は 3380 人。2022 年から 300 人以上減りました。

県内では出産できる分娩(ぶんべん)施設も減り、現在は 10 施設のみに。これからも減ることが予想されています。

厳しい状況も踏まえ、高知の子育てを考える会を高知母性衛生学会が開きました。第 1 期ココハレサポーターズの吉本明子さん、比島交通公園の園長・山崎勇人さんも参加し、現役のパパ・ママを代表して意見を投げ掛けました。

これからの子育て支援に必要なことは?当日の様子を紹介します。

 

高知母性衛生学会は医師や看護師、助産師、栄養士、行政関係者らが参加する学会です。

今回は「高知家の子育て」をテーマに、講演やパネルディスカッションが行われました。

「どうなる?どうする?高知家の子育て」をテーマに学術集会が開かれました
「どうなる?どうする?高知家の子育て」をテーマに学術集会が開かれました

はじめに登壇したのは、大阪公立大学大学院教授の横山美江さん。横山さんはフィンランドの子育て支援「ネウボラ」の研究の第一人者です。

高知でも「高知県版ネウボラ」として、妊娠期からの切れ目ない子育て支援が進められています。

そもそも「ネウボラ」とは何でしょうか。

【ネウボラって何?】妊婦健診、乳幼児健診を同じ保健師さんが継続して担当します

フィンランドはヨーロッパ北東部に位置する国です。横山さんによると、フィンランドが子育て支援に力を入れ始めたのは、ロシアから独立後の 1920 年代から。当時は貧しい家庭が多く、妊産婦や乳幼児の死亡率も高かったそうです。

「ネウボラ」は「相談の場」という意味です。フィンランドには「妊産婦ネウボラ」と「子どもネウボラ」があります。

日本とは違って、妊婦健診や乳幼児健診を主に受け持つのが保健師です。クリニックに保健師がいて、妊婦や親子が通います。

医師の診察は日本より少なく、保健師の役割が大きくなっています。

大阪公立大学大学院の横山美江教授。ネウボラ研究の第一人者です
大阪公立大学大学院の横山美江教授。ネウボラ研究の第一人者です

日本と大きく違うのが「担当保健師制」です。ネウボラでは決まった保健師さんがずっと診てくれます。

また、妊産婦ネウボラも子どもネウボラも、本人だけでなく「家族」を支援の対象としています。

「妊産婦ネウボラでは初めて妊娠をした夫婦への両親教室、子どもネウボラでも育児支援や夫婦関係についての助言が行われています」

横山さんは「フィンランドの母親の 9 割弱がネウボラの保健師から育児情報を得ています」と話していました。

フィンランドでは日本よりも保健師さんの存在が大きく、妊娠期や子育て期の安心につながっています。

日本では珍しい「担当保健師制」について説明しました
日本では珍しい「担当保健師制」について説明しました

横山さんによると、日本では静岡県島田市が「島田市版ネウボラ」として担当保健師制を取り入れています。

これまでは「母子健康手帳交付」や「新生児訪問」「 4 カ月健診」など、節目ごとに違う保健師さんが担当していました。

担当保健師制の導入後は、保健師さんから「母親の顔色や声の口調、トーンなどからささいな変化に気付けるようになった」「困ったことがあれば、母親から早めに連絡が入るようになった」など、いい変化が報告されています。

横山さんは「担当保健師による継続支援のシステムは、子育て家族の孤立を防ぐためにも有効」と呼び掛けました。

これからの子育て支援を考える上で、「継続支援」が大きなポイントです
これからの子育て支援を考える上で、「継続支援」が大きなポイントです

横山さんの講演後に 4 人が登壇。行政、医療、お母さん、お父さんの立場から「高知家の子育て」についての取り組みや考えを発表しました。

【高知の現状は?】「自宅近くの病院でお産する」が当たり前ではなくなってきています

高知県子育て支援課長の岡本昌幸さんは、県の子育て支援施策を紹介しました。

高知県子育て支援課の岡本昌幸さん
高知県子育て支援課の岡本昌幸さん

高知県の出生数は 2022 年に 3721 人で、全国で最小でした。2023 年はさらに減って 3380 人という状況を示し、「20~39 歳の女性人口が減っていて、深刻な状況にあります」と語りました。

高知県内の出生数の推移(高知新聞2024年1月20日掲載)
高知県内の出生数の推移(高知新聞2024年1月20日掲載)

これから高知県が目指す方向として、「子どもを望む方々の希望をかなえる」「安心して子育てできる環境を整える」の二つを挙げました。

妊活の支援、男性の育休や産後ケアの推進、「おでかけるんだパス」の活用などを例に、「『男性は仕事、女性は家庭』という意識を変える『共育て』を進め、お子さんとの時間をつくれるようにしていきたい」と呼び掛けました。

小学生を育てる家庭の悩みの一つ、夏休みのお弁当作りについては、「児童クラブでお弁当配達ができるように実証実験を行っていく」とのことです。

 

高知県のお産の現状を報告したのは、高知大学の永井立平さんです。

高知大学の永井立平さん
高知大学の永井立平さん

県内の分娩施設は 1998 年には 35 施設ありました。内訳は総合病院などの公的病院が 14 施設、診療所が 21 施設。当時から県中心部に集中してはいましたが、安芸市より東の東部圏、四万十町などの高幡圏、幡多圏にもそれぞれありました。

現在は公的病院が 7 施設、診療所が 3 施設の計 10 施設です。高幡は 2009 年になくなり、東部が 1 施設、幡多が 2 施設です。

高知県内の分娩施設が減り続けています(高知新聞2024年2月8日掲載)
高知県内の分娩施設が減り続けています(高知新聞2024年2月8日掲載)

永井さんによると、産婦人科医も減っていて、現在は 76 人。このうち、分娩を取り扱う医師は 40 人ほどで、「なり手がおらず、増員のめどはたっていません」。

「安心、安全にお産をするため、地域ごとに妊婦健診をして、お産して、子育てをしてという形をシフトさせていかなきゃいけな時期に来ています」

「周産期医療体制をシフトする時期に来ています」
「周産期医療体制をシフトする時期に来ています」

永井さんが紹介したのが、周産期医療体制の新しい形です。「セミオープンシステム」は既に県内でも取り入れられています。

  • オープンシステム…妊婦健診を地域の診療所で行い、分娩は総合病院で行う。分娩は地域の診療所の医師が担当する
  • セミオープンシステム…妊婦健診は地域の診療所で行い、途中で分娩できる総合病院に転院する。分娩は総合病院の医師が担当する
  • 院内助産…助産師が分娩を担当する。異常が発見された場合は医師が介入できる体制が必要

 

「高知市などの中央圏でも、自宅のすぐ近くでお産できるのが当たり前ではなくなります」と永井さん。

「医師としては、1 人で 100 件のお産を扱うより、10 人で 1000 件のお産を扱う方がはるかに楽です。でも、医師だけを集約しても意味がなく、医療機関の調整も必要です。高知の現状を皆さんにしっかり伝えながら、新しい周産期医療の形をつくっていきたいと思います」

【子育て世代の思い】「子育ての多様性受け入れて」「父親を部外者扱いしないで」

吉本明子さんは第 1 期のココハレサポーターズ。4 歳の長男を育てる母親の立場から語りました。

切迫流産、切迫早産のため、妊娠 4 カ月から出産まで長期入院した吉本さん。ココハレのコラムでも振り返っています。

【サポーターズコラム】切迫早産で長期入院、22時間半の出産、泣いた授乳…息子が3歳の今、思うこと|吉本明子さん

「妊娠生活もつらかったし、産後は『母乳が出ない』『おしゃぶりっていつまで?』『寝ないのはなぜ?』と悩みばかりです」

ココハレサポーターズの吉本明子さんは母親の立場で語りました
ココハレサポーターズの吉本明子さんは母親の立場で語りました

「男性も女性も共に家事、育児を」という方向に社会は進もうとしていますが、「働くお母さんが年々増加し、『分担する』と言いつつ、やっぱりどちらかに偏る。多くはお母さんですよね」。

吉本さんが今、取り組んでいるのが「子育てのダイバーシティー(多様性)」。具体的には次の三つです。

  • 一人っ子でもいいじゃない
  • お母さんの味で育てなくても大きく育つ
  • 頼る勇気。自己犠牲はほどほどに

 

毎日大変なご飯作りは、友達と毎週一緒に 1 週間分の作り置きをしているそう。「子どもは二家族分の味を楽しめます。私たちが作っている間に息子は友達の子と遊んでいて、きょうだいができたようです」

毎日大変なご飯の用意。吉本さんは友達と一緒に作り置きをしています(吉本さんの講演資料より)
毎日大変なご飯の用意。吉本さんは友達と一緒に作り置きをしています(吉本さんの講演資料より)

「頼るのは恥ずかしいことではないし、母親失格でもありません。友達同士で助け合ってもいい。『子育ての常識』にとらわれずに、自分らしく子育てしていきたい」と語り、「私たちのような子育ての多様性を受け入れるマインドを持ってほしい」「行政には、一緒に子育てをするコミュニティーを支える手助けをしてほしい」と訴えました。

 

山崎勇人さんは比島交通公園の園長。新米パパの日々をココハレのコラム「比島交通公園・山ちゃん!新米パパになりました」でつづっています。

比島交通公園の山崎勇人さんは父親の立場から語りました
比島交通公園の山崎勇人さんは父親の立場から語りました

山崎さんは地域の主任児童委員も務めていて、父親になる前は「子育ての支援者」の立場で子育てを見てきました。

父親になって実感するのが「支援者から見たら、父親は“部外者”という感じ」。子育て支援の中心が「子どもと母親」になっている面があると投げ掛けました。

女性に比べると、男性は「親としてのダッシュがなかなかできない」とも感じています。解消する方法は「男性にとことん体験させること」と山崎さん。

「母乳を飲ませる以外は全て、男性が担えます。沐浴(もくよく)、おむつ替え、ミルク、着替え、寝かしつけ、遊び、抱っこ。親として当たり前のことを当たり前していけるように、行政や病院には父親が参加しやすい体験の場をつくってほしいです」

「母乳をあげる」以外は全て、父親も担えます!
「母乳をあげる」以外は全て、父親も担えます!

「母親も父親も子育ての当事者」となるには、「夫婦で共に育てられる社会」へと変わっていく必要があります。

「子育てにはいろいろな壁があります。お母さんだけが頑張るんじゃなくて、夫婦で一緒に乗り越えていくことで、家族の絆は深まっていくと思います」

【ディスカッション】産後ケア以降も、子育てにはケアが必要では?

最後のディスカッションでは、登壇者全員で妊娠期や子育て期の課題を語り合いました。

最後にディスカッションが行われました
最後にディスカッションが行われました

子育て支援について挙がったのが「産後ケア以降もケアは必要では?」という意見です。

0 歳児の育児は大変ですが、1 歳になったら楽になるというものではありません。子どもの成長とともに「おむつを替える」「ご飯を口まで運んで食べさせる」といった手間はかからなくなりますが、預け先や教育など新たな課題が出てきます。制度には一定の区切りは必要ですが、なじまない実態もあります。

ディスカッションでは次のような声が上がりました。

  • 病児保育をもっと使いやすくしてほしい。医師の診断や予約が必要だから、結局は仕事を休まないといけなくなる。
  • 産後ケアを使いづらい人もいる。困りごとを自分から言えない人へのアプローチを。
  • 家事代行に助成してほしい。自分である程度のお金を払って利用できたら、気兼ねなく使える。
  • 今の若い世代は「子育てに自信がない」という意識。中高生、小学生が小さい子と触れ合ったり、自分の人生を描いていったりする機会をつくりたい。
それぞれの発表を振り返りながら、意見を出し合いました
それぞれの発表を振り返りながら、意見を出し合いました

今回の学術集会は、高知医療センター副院長の林和俊さんが中心となって企画されました。林さんは産婦人科医です。

高知医療センターの林和俊さん
高知医療センターの林和俊さん

林さんによると、学術集会にお父さんやお母さんが子育て当事者として参加したのは初めて。「吉本さん、山崎さんの意見を聞いて、私たち医療者は子育て当事者に思いが至っていなかったのかもと感じました。一緒に語り合っていく場をこれからもつくっていきたい」と話していました。

子どもを産む環境として見ると、高知はかなり難しい状況にあります。ですが、子どもたちは毎日元気に生まれ、育っています。お父さん、お母さんも大変さや喜びを感じながら、毎日子育てをしています。

子育て支援について支援者だけが考えるのではなく、私たち当事者も一緒になってよりよいものにしていく。そんな時代が来ていると実感した会でした。

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 3 と年長児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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