子どもたちに「お母さん」と呼べる環境を|家族と離れて暮らす子どもを家庭に迎える「養育里親」とは?高知の養育里親さんが体験を語りました
さまざまな事情から、家族と一緒に暮らせない子どもが全国に約 4 万 5000 人います。
高知県内には約 450 人います。約 70 %が施設で、約 30 %が里親家庭やファミリーホームで暮らしています。
子どもたちと養子縁組をせずに、家庭で預かっているのが「養育里親」の皆さんです。どんなふうに子どもと暮らしているのでしょうか。
里親家庭サポートセンター「結いの実」が養育里親の体験を聞くお話会を開きました。小学生のきょうだいを育てる養育里親さんが「子どもたちが『お母さん』と呼べる環境」の大切さを語りました。
目次
社会的養護を必要とする子どもは、高知県内に約450人います
「養育里親さんのお話会」は 2024 年 6 月 1 日、高知市追手筋 2 丁目のオーテピアで開かれました。
企画したのは里親家庭サポートセンター「結いの実」。高知県から委託を受け、里親制度に関する問い合わせ対応から、里親さんが子どもを家庭に迎え入れた後のサポートまでを手掛けています。
お話会でははじめに、里親リクルーターの戸梶佳香さんが県内の現状を語りました。
高知県では社会的養護を必要とする 約 450 人のうち、児童福祉施設や里親家庭などで暮らす子どもが 375 人( 2024 年 3 月現在)。このうち約 70 %が施設で暮らし、約 30 %が里親家庭やファミリーホーム(小規模住居型養育事業)で暮らしています。
里親制度とは、さまざまな事情で家族と離れて暮らす子どもを、里親が自分の家庭に迎え入れる制度です。
具体的に次の四つがあります。
【里親の種類】
- 養育里親…社会的養護が必要な原則 18 歳未満の子どもを一定期間、家庭で養育します。
- 専門里親…虐待によって心身に有害な影響を受けた子どもや非行のある子ども、障害のある子どもを養育します。
- 養子縁組里親…子どもと実親側との法律上の親子関係を消滅させ、安定した新たな親子関係を家庭裁判所が成立させます。原則 15 歳未満の子どもが対象で、戸籍上の親子になります。
- 親族里親…実親が死亡などによって養育できない場合に、祖父母や成人したきょうだいが養育します。
高知県では現在、150 組ほどが里親に登録しています。このうち、80 組ほどが子どもたちを受け入れています。最近は 30~40 代の養育里親が増えているそうです。
「血縁関係のない子どもを育てられる?」…夫婦で話し合い、里親に登録しました
今回のお話会には、養育里親の山田さん(仮名)が登場しました。40 代の女性で、里親に登録する前は夫と 2 人暮らしでした。
預かっている里子は小学生のきょうだい。4 人暮らしが始まり、間もなく 4 年目に入ります。
里親になったきっかけは「パレード」でした。
「『秋の里親月間』でPRのパレードをしているところにたまたま通りかかり、チラシを頂きました。その頃、夫も里親さんから話を聞く機会があり、2 人で里親について話すようになりました」
山田さんも夫も子育ては未経験。「血縁関係のない子どもを預かって育てられる?」という声もありましたが、夫婦で話し合い、研修を経て里親に登録されました。
初めての「一時保護」…2歳の女の子を預かりました
里親に登録すると、現在の山田さんのように長期で預かる場合のほか、「一時保護」と呼ばれる短期の預かり依頼もあります。
戸梶さんによると、「例えば『家族が病気で、子どもを見てもらえる人がいない』といった場合に、養育里親さんに子どもをお願いする場合がある」とのこと。数日間、数週間など、短期の養育になります。
山田さんが預かったのは 2 歳の女の子。「児童相談所から朝連絡があり、『今日の夕方からお願いできますか』というお話でした」
夫妻にとっては初めての子育て。女の子にとっては「いきなり知らないおじさん、おばさんの家に来た」という状況。「お風呂でぎゃん泣きされて…。おもちゃなどを先に買っておけばよかったと、今では思います」
この時は 2 週間ほど預かったそう。山田さんは「今の里子を受け入れる前に、勉強になりました」と振り返りました。
「離れ離れはかわいそう」と考え、きょうだいを受け入れました
長期の養育では、児童相談所が里親夫婦にあらかじめヒアリングを行い、年齢や性別などの希望を聞いていきます。
夫妻は当初、子どもと養子縁組を行い、戸籍上の親子になる「養子縁組里親」を希望していました。
その後、児童相談所から幼児のきょうだいを紹介されました。養子縁組ではなく、「養育という形でどうでしょうか」と尋ねられました。
山田さんは「いきなり、きょうだいの子育て?!」と驚きつつ、「きょうだいを離れ離れにさせるのはかわいそう」と考えました。
「『養子縁組』にこだわらなくてもいいかな」とも考え、養育里親として育てることを決めました。
最初は「お客さま」「お預かりもの」という意識でした
きょうだいは生後間もなくから、乳児院で暮らしてきました。「『おうち』への憧れが強くて、楽しみにしてくれていたようです」と山田さん。乳児院での顔合わせ、外出、外泊を経て、4 人での生活が始まりました。
夫妻は共働きだったため、子どもの病気など突発的なことに対応できるように、仕事のスタイルを変えました。
生活を“子ども仕様”に変えながら、夫妻は緊張していたそうです。
「最初は『お客さま』『お預かりもの』という感じで、『大事にしないと』という思いが先走っていました」
一つ屋根の下での生活。しかも幼児の子育てで、そのような日々は長続きしませんでした。
「例えば急いでほしい時、肯定的に伝えるために『新幹線みたいなスピードでやってみようか』と声掛けをしていましたが、いつも余裕があるわけでは…。危ないことをしていたら、やっぱり叱っちゃいますし」
土日はきょうだいが家でにぎやかなので、「日曜の夜はどっと疲れる」そう。
「里子が来て、いきなり家族になれるわけではなかった」と山田さん。毎日の営みを積み重ねる中で、子どもたちを知り、子どもたちから信頼してもらい、少しずつ家族になっていきました。
夜寝るまで一緒にいてくれた大人が、朝もいてくれる
社会的養護が必要な子どもを、里親が家庭で預かる意味について、山田さんはこんな話をしました。
きょうだいの 1 人は乳児院から移ってきてしばらく、母親代わりだった職員を懐かしがっていました。寝る前には「寂しい」「会いたい」とつぶやいていました。
山田さんはもう 1 人の子に、「やっぱり、○○さん(職員の名前)に会いたい?」と尋ねてみました。すると、子どもはこう答えました。
「○○さんは帰るから」
施設でも子ども一人一人に愛情を注ぎ、できるだけ家庭に近い環境で養育をしています。ですが、職員は仕事なので、勤務が終われば帰ります。
「夜寝るまで一緒にいてくれた大人が、朝もいてくれるということに、子どもたちは喜びを感じていました。『家庭』という環境じゃないとできないことなんだなと感じました」
当初は「山田のおじちゃん、おばちゃん」だった呼び方は、今では「お父さん」「お母さん」となりました。「そういえば、いつからだろう」と思い出せないほど、4 人にとっては自然な流れだったそうです。
今では「 1 日 100 回くらい『お母さん』『お母さん』と呼ばれる」そう。「『もういいよ』と思うこともあります」と笑顔を見せながら、ある里親さんから聞いた言葉を紹介しました。
「社会的養護を必要とする子どもは家庭に入らないと『お母さん』とは呼べない。里親制度がなければ、『お母さん』と呼べずに子ども時代を過ごすことになる。日本には『お母さん』と呼べない子どもがいる。その言葉が心に残っています」
子どもは社会みんなで育てていくもの
「この先も、このまま夫婦 2 人で暮らすのかな」と思っていた山田さんにとって、きょうだいの子育ては「大変だけど、すごく楽しい」そうです。
「ありきたりですが、子どもたちの成長が何よりも励みです。ママ友ができたり、家族ぐるみでのお付き合いが生まれたりして、毎日楽しませてもらっています」
きょうだいの子育てを通して、「社会的養護が必要な子どもは、社会の大切な子どもなんだ」と考えるようにもなりました。
「私たち夫婦だけでなく、私たちの親に手伝ってもらったり、園の先生や学校の先生に助けていただいたり。子育ては 1 人ではできなくて、子どもは社会みんなで育てていくものだと感じています」
山田さんのお話の中で、「『お母さん』と呼べない子どもたちがいる」という言葉がとても印象に残りました。「社会的養護を必要としている子どもたちが高知にもたくさんいる」ということに、子育て中の私たちも関心を寄せていきたいと思いました。
「養育里親さんのお話会」は 7 月 20 日(土)に香美市立図書館「かみーる」でも開かれます。詳しくはこちら
里親家庭サポートセンター「結いの実」では、里親に関する相談などに対応しています。
【里親家庭サポートセンター結いの実】
- 住所:高知県高知市新本町 1 丁目 7-30
- 電話:088-872-1012
- メール:info@satooya-yuinomi.jp
- ウェブサイト:https://satooya-yuinomi.jp/