「プライベートパーツは全身」「触られて疑問に思ったら“ダメなタッチ”」|性被害から子どもを守るために伝えたいことは?立教大学名誉教授の浅井春夫さんが講演しました
自分の体を大切にするために…家庭で話したい性教育について高知城ホール教育相談所の講演会から紹介します

SNSや身近なコミュニティーなどで起きる子どもの性被害が問題となっています。子どもを性被害から守るために、また誰かを傷つけることもないように、家庭でどんな話をしたらいいのでしょうか?
「プライベートパーツは体の全身」「体を触られて自分が疑問に思ったら“ダメなタッチ”」
そう語るのは、性教育や児童福祉に詳しい立教大学名誉教授の浅井春夫さん。高知市の高知城ホール教育相談所が 2026 年 6 月に開いた講演会で、子どもの体や心を守るために家庭で伝えたい考え方を紹介しました。
性被害を防ぐためだけでなく、一人の人間として子どもに知ってほしい「体の権利」や「性的同意」についてもメッセージを送りました。
目次
講演会は、元教員らが子育てに関する相談事業や子どもの居場所づくりなどに取り組む高知城ホール教育相談所(高知市丸ノ内 2 丁目)が主催。「親子で考えよう!性とジェンダーのこと 地域でとりくもう!性被害をなくすこと」と題して行われました。
講師を務めた浅井春夫さんは、東京都内の養護施設で児童指導員として勤めた後、立教大学などで教壇に立ちました。児童福祉論、セクソロジー(人間の性に関する科学)が専門で「性のおはなしQ&A-幼児・学童に伝えたい 30 のこと」などの著書があります。
一般社団法人「“人間と性”教育研究協議会」代表幹事や、「子どもの権利条約市民・NGOの会」共同代表などとしても幅広く活動しています。
「変なおじさんに気を付けて」では守れない…「人」より「環境」に注目を
子どもを性被害から守るために、家庭ではどんなことに気をつけ、どんなメッセージを伝えればいいのでしょうか?
浅井さんは、「偏見による加害者像を子どもに話していませんか?」と問いかけます。例えば「変なおじさんに付いて行っちゃダメだよ」といった言い方です。
実際は「加害者の外見を見ても、そんなことをしそうだとは分かりません」。つまり、外見のイメージを植え付けても被害防止にはなりません。
浅井さんによると、気を付けて注目したいのは「被害が起きやすい環境」。
人通りの少ない道路、トイレの中、人目のない物陰、2 人きりになる密室など、性被害の場になりやすい状況を知ることが大切です。
さらに「『同意を確認しないで意味なく近寄ってくる』などの行為も、人権の観点からは問題です」と語ります。
体のプライベートパーツ(ゾーン)と呼ばれるのは一般的に、「口、胸、性器、お尻」の 4 カ所。ですが、「体全体がプライベートパーツ」と意識を変えてあげることが大切だと浅井さんは言います。
「性犯罪は、いきなりプライベートパーツに触るということばかりではない。最初は抱っこしたり他の部分を触ったりして、徐々に手なずけていく『グルーミング』という手法もあります」
ひざに乗せたり、「いい子だね」と言って触ったり…。子どもは嫌だと思っても、相手が親しい人や先生、指導者などであれば「言ってはいけない」とのみ込んでしまうといいます。
「大人だって、初対面の人に肩を触られたら嫌ですよね。「体全体がプライベートパーツの集合体なんだ」と、きちんと子どもに伝えてあげてください」
もう一つ伝えたいのは、「はてなタッチ」という考え方。
「誰かに触られて、あなたの体が『あれ?おかしいな?』と疑問に思ったら、それはダメなタッチ。体の危険反応だよ」と教えてほしいと強調しました。
「スキンシップなら何でもいい」ではない…子どもに伝えたい「体の権利」
よく「スキンシップ」という言葉が、ポジティブな意味合いで使われます。
浅井さんは、「スキンシップは愛着形成という点で、発達の大切な要素だという研究もある」としながら、スキンシップと言えば何でもいいという捉え方には疑問を投げかけます。
「子どもは年齢に応じた関わり方があり、人には言葉も笑顔もある。『スキンシップで肌をすり合わせれば思いが伝わる』とは考えるべきではないのでは」と指摘します。
人には誰にでも「体の権利」があります。浅井さんによると、例えば、虐待から守られる権利や、体を清潔に保ったり治療を受けられたりする権利、そして自分の体のどこをどのように触れられていいか自分で決める権利などです。
浅井さんは、自分の体の権利が守られているかどうかの大きな指標として「痛み」を挙げます。
昔から子どもがけがをして痛がっている時、よく「痛いの痛いの飛んでいけ」と言いますよね。そう言われると、実際に気分が紛れて痛みを軽減させる効果があるという研究もあるそうです。
一方で、「日本人が言う『痛いの痛いの飛んでいけ』には、痛みは我慢するものだというメッセージが少なからず含まれている」と浅井さん。
「子どもの育ちの中で痛みを抑制したり、泣いてはいけないと思わせたりしていないか、私たちは考えなくてはいけないと思います」と語ります。
子どもが自分自身や、誰かの体の権利を傷つけないために伝えたいことの一つが「性的同意」です。
相手の言葉や反応を見て、「『返事がない・沈黙=同意した』では決してありません」と浅井さん。

「『イエス』という自発的で積極的な答えを聞かなければ、同意は成立しないという認識が世界的に広がっています」と浅井さん。自分が相手に尋ねる時は、「イエス」をはっきり聞くことが大切なんですね。
同じ言葉でも男女で評価が変わる?性暴力の背景にある「不平等」
「そんな遊びをして男の子らしくない」「もっと女の子らしい服を着たら?」―。こんなふうに性別に対する偏見や決めつけで子育てをする人は、昔に比べて今のパパママ世代では少ないのではと思います。
ただ社会ではいまだに、同じ言動であっても男性と女性では「違った評価をされることがある」と浅井さんは語ります。例えば次のような例です。
- 理路整然と話している人…男性だと「説得力がある」↔女性だと「理屈っぽい」
- 「〇〇は許せない!」と言った時…男性だと「毅然(きぜん)としている、指導力がある」↔女性だと「口うるさい、いばっている、感情的」
- みんなの意見をまとめた時…男性だと「意見をきちんと聞いてくれる」↔女性だと「出しゃばっている」
私たちの身近な場面でも、メディアで見聞きした内容でも、似た状況はいろいろと思い浮かぶのではないでしょうか?
このように、性別によって異なる基準で評価されることを「ジェンダー不平等」と言います。
「男か女かで、さまざまな格差が容認されてきた歴史がある。これからどう改善していくのかが私たちに問われています」
浅井さんは、性暴力事件で見られる「ヒンパシー(himpathy)」という現象も紹介しました。
ヒンパシーとは、「彼(him)」と「同情(sympathy)」を組み合わせた造語。性暴力の加害男性に対して、同情的な見方が向けられることを指します。
例えば教育・スポーツ・ビジネスなど各分野で活躍していた男性が、加害者だったと分かった時。
「子どもたちを全国大会に連れて行ってくれた」「大きな功績を残した」「本当は悪い人じゃないのに」など、「社会的評価」が注目されるケースがあります。加害者を助けようと嘆願書が提出されることもあります。
浅井さんはヒンパシーを、「加害男性の社会的地位が下がることと、性犯罪の重さとを天秤にかけた結果、加害男性の立場を優先しているということ」と指摘します。
その背景には、「加害男性の将来は守られ、逆に被害女性の将来は軽く扱われがち」という価値の不平等がある、と浅井さん。
「露出の多い服を着ていたから」など、攻撃や責任の矛先を被害女性に向けるような見方も、性暴力の背景にある大きな問題だと話しました。
子どもが「自分は価値ある存在」と思えるために…性教育は「まっとうに科学的に」
浅井さんは、子どもに育んでほしい力として、困った時に「助けて」と言える力を挙げます。「その土台となるのは、子ども自身が『自分は価値ある存在だ』と思えていること、そして大人や社会を信頼できていることです」
子どもが自分を大切な存在だと感じられるためにも、家庭で取り組みたいのが性教育です。
日頃から性にまつわることを隠したり曖昧にしたりせず、「正しい知識を勉強して、まっとうに科学的に伝えること」。それが大人の責任だと呼びかけました。
ココハレ編集部員が子どものころは、今のような性教育を受けた意識がありません。子どもがプライベートパーツのことでふざけて話す時など、親になってどう子どもに教えていいか戸惑う部分もこれまでありました。
講演を聞き、親としてきちんと知識を入れながら、まずは日々の関わりの中で「自分や相手の体を大切にする」「嫌なことはそう言っていい」と繰り返し伝えたいと思います。
ココハレでは他にも性教育についての記事を紹介しています。
親が子どものお尻を触ったらなぜいけない?「変なおじさんについていっちゃダメ」では性被害は防げない?|「おうち性教育はじめます」の著者・村瀬幸浩さんが「性の学び」を語りました

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