あなたは自分を大切にできていますか?思春期の子どもに伝えたいこと|野市中学校で「思春期講座」が行われています
子どもから大人へ、体も心も変化する思春期…1人で悩まないために伝えておきたいことを紹介します
思春期は子どもから大人へ、体も心も大きく変化します。親からだんだん自立し、自分の将来や生き方を考えていく時期でもあります。
思春期真っただ中の子どもたちに向けた授業「思春期講座」が、香南市の野市中学校で続けられています。1 年生、2 年生、3 年生と発達段階を踏まえながら、命の誕生、性のこと、自分と相手を大切にすることを伝えています。
大人たちはどんな言葉を語り掛けているのでしょうか。1 年生と 3 年生の授業から、わが子が 1 人で悩まないために伝えておきたいことを紹介します。
命の誕生、性の多様性、人間関係…「自尊感情」を育んでいます
野市中学校は香南市野市町にあります。香南市では以前から、それぞれの中学校で性教育や赤ちゃんとのふれあい体験などを行ってきました。
野市中学校で今の「思春期講座」が始まったのは 2020 年度からです。
思春期講座で目指すのは、自分を大切にする「自尊感情」を育むことです。次の項目を伝えています。
【野市中学校の思春期講座】
- 1 年生…生命の誕生、胎児・乳児の成長過程、出産など
- 2 年生…「性」とは何か、性の多様性、パーソナルスペースなど
- 3 年生…自分と相手を大切にする、よいところ探し、人間関係など
2023 年 7 月 4 日に行われた 1 年生と 3 年生の授業を、ココハレ編集部が取材しました。
【中学1年】受精卵の誕生から、赤ちゃん抱っこ体験まで
1 年生の授業は 5 クラス合同で、体育館で行われました。講師は助産師の谷泰子さんと細川真利さんです。
授業では「命の始まり」として、卵子、精子、受精卵と説明されました。
卵子の写真を見た生徒たちは「惑星!」「水滴?」「コロナみたい」とさまざまな反応を見せます。
一つの卵子と一つの精子から受精卵ができる確率は「 960 億分の 1 」という奇跡。「みんなは奇跡の連続で生まれたんですよ」という説明とともに、受精卵の大きさも実感しました。
おなかの中の赤ちゃんの様子を学び、誕生から 1 年で赤ちゃんがどれだけ大きくなるかも見比べました。
誕生した赤ちゃんの大きさ、重さを実感するため、各クラスで新生児人形を使った抱っこ体験も行われました。
同級生の前で赤ちゃんを抱っこするという行為が照れくさいのか、テンションが上がる子どもたち。それでも順番が回ってくると、人形をそっと扱い、顔をのぞき込む姿が印象的でした。
授業では、こんな言葉が何度となく繰り返されました。
「赤ちゃんはたくさんの人にお世話してもらいながら、大きくなります。人は大事にされるから、成長できます」
「みんな、この世に生まれてきてくれて、本当にありがとう」
【中学3年】自分のいいところは?友達に聞いてみよう
3 年生の「思春期講座Ⅲ」は「自分を大切にしよう」というタイトルで、保健師さんから話を聞きます。
この授業は香南市健康対策課が各中学校と連携して取り組んでいて、市内の中学 3 年生全員が受けているそうです。
3 年 4 組の授業を担当したのは松田真弓子さん。思春期は、子どもから大人へ、心も体も大きく変化すること、悩みやストレスが多くなることを伝えました。
この授業では、市内の中学 3 年生に行ったアンケート結果を紹介しています。「悩みや心配事がある」という子どもの割合は 57 %でした。多かった悩みがこちら。
- 1 位…勉強、進路
- 2 位…友人関係
- 3 位…身体に関すること
松田さんは、子どもたちにこんなふうに問い掛けました。
「今の自分が好きですか?どんな自分が好きですか?」
「自分のことがよく分からないなぁと思っていませんか?」
「『自分のことは自分でやる』。でも、『時々は大人に甘えたい』と思っていませんか?」
心が揺れ動くのは「正常な反応」と松田さん。「思春期には終わりがあります。時間が経過する中で、自然と自分の心が落ち着き、何をしたいのかも見えてきます」「大丈夫」と伝えました。
中学 3 年生は 1 年生に比べると、感情を表に出さないな…という印象。そんな雰囲気が変わったのが「いいところ探し」でした。
一人一人にワークシートが配られます。自分の名前を書いた後、隣の友達に回します。友達がその人の「いいところ」を順番に書いていきます。
「えーっ、いいところ?あるっけ?」「おいっ!あるってば!」
そんな会話をしながら、しっかり書いていきました。
自分のワークシートを受け取った子どもたちはからは、やっぱり感情は伺えません。でも、教室の空気がふんわり和らいだのが伝わってきました。
「困ったら信頼できる大人に相談して」と伝えましょう
香南市内の中学 3 年生を対象にしたアンケートでは、「不安や悩みを相談しますか?」という質問もありました。
「相談する」と答えた人は 54 %。相談相手は「友達」が多い一方で、「相談したいけど、できない」という回答も目立ちました。
不安や悩みを一人で抱え込まないために、「まずは身近な、信頼できる大人に相談してみましょう」と松田さん。
「少なくとも 3 人の大人に話してみてください。その中で、あなたの気持ちを真剣に受け止めてくれる人が『信頼できる大人』です」
松田さんは「身近な大人への相談」を提案した上で、相談機関も紹介しました。「おまもり」と書かれた小さな紙が配られました。
次のような悩み別に相談機関の電話番号が書かれていて、持ち歩けます。
- 学校に行くのがつらい、しんどい
- 進路や働くことについて相談したい
- トラブルや犯罪に巻き込まれたかもしれない
- なんとなく心や身体が重く、つらい
- 性の話を聞いてほしい。妊娠したかもしれない
- 生きるのがつらい、消えてしまいたい
- どこに相談したらいいかわからない
授業ではいい人間関係を築くためのアドバイスもありました。松田さんは最後に、こう語り掛けました。
「この世に生まれて、今ここにいるのは奇跡です。自分は奇跡の存在、友達も奇跡の存在。一人一人が大事な命です」
「私たちは皆さんに幸せになってもらいたいと思い、授業をしています。恋人がいる・いない、結婚する・しない、どちらでもかまいません。皆さんがここにいるだけで幸せだけど、これからさらに、皆さんの幸せを一つ一つつかんでいってほしいと思います」
わが子と密に関わる時間が長く、気持ちも把握しやすい幼少期と比べ、親と過ごす時間が減り、心も体も自立していく思春期は関わりが難しくなるのだなと実感しました。親が子どもに直接してあげられることは少なくなっていくのかもしれません。
わが子が将来、信頼できる誰かとつながり、幸せに暮らしていけるように、「あなたは大切な存在なんだよ」「困ったらSOSを出していいんだよ」と伝え続けていくことが親の大事な役割だと感じた思春期講座でした。