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子どもたちに伝えたい「私の体は私のもの」|「サッコ先生」こと高橋幸子さんが性教育について語りました

子どもたちに伝えたい「私の体は私のもの」|「サッコ先生」こと高橋幸子さんが性教育について語りました

若年妊娠の背景は?日本の性教育の現状は?「にんしんSOS高知みそのらんぷ」のセミナーから紹介します

私の体は私のもの――。性教育で子どもたちに伝えたいメッセージの一つです。

思いがけない妊娠で悩む人に向けた相談窓口「にんしんSOS高知 みそのらんぷ」のセミナーがオンラインで開かれ、「サッコ先生」でおなじみの産婦人科医・高橋幸子さんが若年妊娠の背景や日本の性教育の現状を語りました。

講演で高橋さんが何度も触れたのが「私の体は私のもの」というメッセージ。「性を学ぶことは人権を学ぶこと」「性をポジティブに伝え、豊かな人間関係を育んでほしい」と呼び掛けました。

家庭でも取り入れていきたい、サッコ先生流の性教育を紹介します。

 

「にんしんSOS高知 みそのらんぷ」のセミナー「若年妊娠」は 2023 年 2 月 11 日に開かれました。

高橋さんは山形大学医学部を卒業。在学中に性感染症など、10 代の性トラブルの現状を知り、「困っている女の子に寄り添いたい」「性教育に取り組む産婦人科医になろう」と決めました。

現在は埼玉医科大学の医療人育成センター・地域医学推進センターで助教を務めながら、学校での性教育講演や、本の執筆、メディア出演、性教育に関するパンフレットやテレビ番組、YouTubeの監修など、幅広く活動しています。

著書に「サッコ先生と! からだこころ研究所~小学生と考える『性ってなに?』」(リトルモア刊)などがあります。

小学生向けの性教育の本。タレントのSHELLYさんが「子どもたちに『読んでみて!気になることがあったらいつでも聞いて!』と渡したい本」と紹介しています
小学生向けの性教育の本。タレントのSHELLYさんが「子どもたちに『読んでみて!気になることがあったらいつでも聞いて!』と渡したい本」と紹介しています

「生理が3週間遅れたら妊娠検査薬」子どもたちに伝えているライフスキル

高橋さんはまず、15 歳で妊娠した女の子の事例を挙げました。学校の性教育講演の語り口で紹介しました。

女の子が病院に来たのは妊娠 36 週。人工妊娠中絶を選択できる期間は過ぎていました。

お母さんになる準備はできていなくて、赤ちゃんは乳児院に預けることになりました。

女の子は出産後、赤ちゃんに一度も触りませんでした。「つらくなるから」という理由です。

もっと早い段階で妊娠に気付き、周囲に相談できていたら、違った結果になったかもしれません。

妊娠した場合、「産む」という選択肢と「産まない」という選択肢があります。産まない場合は人工妊娠中絶を行います。中絶ができるのは妊娠 21 週までです。

産むことを選択した場合、「自分で育てる」という選択肢と「育てない」という選択肢があります。自分で育てない場合は、特別養子縁組などを考えていきます。

高橋さんは子どもたちにこういった選択肢を教えた上で、「あなたの人生の中で、『産めない時には産まない』という選択肢もあり得る」「選択するためには妊娠しているかどうかの確認が必要」と伝えています。

「性行為から 3 週間たって生理が来なかったら、妊娠検査薬で調べられるよ。思い当たることがあって生理が遅れた場合は試してね。ライフスキルとして覚えておいてね、と話しています」

性教育の授業で子どもたちに伝えているライフスキル。女子の不安を男子に知ってもらうため、男女一緒の場で話しています
性教育の授業で子どもたちに伝えているライフスキル。女子の不安を男子に知ってもらうため、男女一緒の場で話しています

生理が止まる代表的な理由として、次の五つも伝えています。

【生理が止まる代表的な理由】

  • 妊娠
  • 急激なダイエット
  • ホルモン異常
  • ストレス…「生理が来ない。どうしよう」というストレス。実は一番多い
  • 運動によるエネルギー不足

子どもからの「妊娠したかも」という相談の中には、性行為をしていないケースがあるそうです。

新型コロナウイルスで一斉休校になった際、「妊娠したかも」という相談が全国で増えました。ある団体の集計では、そのうち 5 %の相談には、性行為がありませんでした。「コロナ禍で性教育を受ける機会を得られなかった子どもたちがいる」と高橋さんは心配しています。

一斉休校になった当時は「10代の妊娠、中絶が増えるのでは」と心配されていましたが、増えなかったそうです。

性教育が行き渡ってないのに、若者の性行動が変わった?!

日本の性教育の現状を考える上で、高橋さんは世界の性教育について触れました。

【世界で「性教育」とは?】

  • 先進国…「性的同意」「性の多様性」などを伝える人権教育
  • 発展途上国…「避妊」「性感染症」などの貧困対策

 

性教育を進める上で指針となるのが「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」です。ユネスコがまとめ、世界中で活用されています。

ユネスコがまとめた「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」。日本語版も出版されています
ユネスコがまとめた「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」。日本語版も出版されています

ガイダンスが目指すのが「包括的性教育」です。「さまざまなジェンダー、セクシュアリティーを生きる全ての子どもたちが、安心で安全な環境の中で、他者と対等で平等な関係を築き、自分の人生において性を豊かに楽しむことができるようになる教育」とされています。

包括的性教育には次の八つのキーコンセプトがあり、子どもの発達段階に合わせて繰り返し教えていきます。

【国際セクシュアリティ教育ガイダンス・八つのキーコンセプト】

  • 人間関係
  • 価値観、人権、文化、セクシュアリティ
  • ジェンダーの理解
  • 暴力、安全の確保
  • 健康とウェルビーイング(幸福や喜び)のためのスキル
  • 人間のからだと発達
  • セクシュアリティと性的行動
  • 性と生殖に関する健康

「私は『性教育をする産婦人科医になろう』と決めた時、『性と生殖に関する健康』だけを考えていたんです」と高橋さん。「性と生殖に関する健康」の指針は次のような内容です。

【性と生殖に関する健康】

  • 5~8 歳…「妊娠は計画できるものである」と理解する
  • 9~12 歳…「コンドームの着け方」を実習で学ぶ
  • 12~15 歳…避妊法の利点と欠点を言えるようになる
  • 15~18 歳…「どんなにきちんと避妊しても、妊娠に至ることはある。意図せぬ妊娠をした時、何をどう考え、どう行動し、誰につながり、どんな資源を活用できるのか」を学ぶ

これまでの日本の性教育は「避妊」「性感染症」に重きが置かれてきました。性教育を変えていこうとしていた矢先の 2000 年代に「性教育バッシング」が起こり、性教育は停滞しました。

性教育不在の 10 年間に子どもだった人たちが、今は親の世代になっています。自分たちが教わってないから、わが子にどう教えていけばいいか分からないですよね」

「伝統的な家族の形」という日本人の価値観を変えていくのも大人の役割。「大人が知識を得て古い価値観を学び落としていかないと、子どもたちが生きづらくなります」
「伝統的な家族の形」という日本人の価値観を変えていくのも大人の役割。「大人が知識を得て古い価値観を学び落としていかないと、子どもたちが生きづらくなります」

この間、若者の性行動は大きく変化しました。

性交経験率は 2005 年をピークに減少傾向に。性教育に取り組む医療者たちが指標としていた 10 代の中絶率も減っています。

「これは性教育が子どもたちに行き渡ったからではありません。『性行為はいけないよ』『性感染症はおっかないよ』という教育を繰り返してきた結果、『めんどくさいからしなくていいや』となっていったのではないでしょうか」

「性と生殖に関する健康と権利」を子どもたちに保証していきましょう

性教育の歴史や現状を踏まえ、高橋さんはこれからの時代に望まれる性教育は「ポジティブな性教育」だと語りました。

10 代の人工妊娠中絶率を下げるためだけの性教育や外来診療はもう終わりです。これからの子どもたちには豊かな人間関係を育む性教育が必要です」

ポジティブな性教育を考える上で、鍵となるのが「セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ」。日本語では「性と生殖に関する健康と権利」と呼ばれます。

「大切なのは、子どもたちが選択肢を知り、選び取ること」と高橋さん。その権利を保証するのが私たち大人の役割です。

子どもたちの権利を保証していきましょう
子どもたちの権利を保証していきましょう

「選択肢を知り、選び取る権利」とは?高橋さんは具体的にこう語りました。

安全な性行為だけでなく、『危険だ』と分かっていて性行為をすることすら、子どもたちの権利です。私たち大人はその権利を理解した上で、どうサポートするかを考えていく必要があります」

「『家庭で安心して過ごせない』などさまざまな理由で、自ら傷つこうとする子どももいます。私たちは子どもが傷つこうとする行為を止めるのではなく、その子がなぜ傷つこうとするのか、その原因を手当てしていかなくてはいけません」

「性的同意」とは?子ども向け、大人向けに動画があります

「性を学ぶことは人権を学ぶこと」と高橋さんは語ってきました。

子どもたちに伝えたいメッセージの一つに「同意」があります。高橋さんは、子ども向けの動画「Consent for kids」と、大人向けの動画「Tea Consent」を紹介しました。イギリスで制作され、YouTubeで日本語版が公開されています。

大人の「Tea Consent」は「紅茶と同意」という意味です。「性的同意」について、性行為を「相手に紅茶を淹(い)れること」に例えて、分かりやすく伝えています。

【「紅茶と同意」より】

  • 「紅茶を飲む?」と聞いて、相手が「うん、飲みたい。ありがとう」と言ったら、相手が紅茶が欲しいことが分かります
  • 「紅茶を飲む?」と聞いて、相手が「うーん、どうかなぁ」と言ったら、無理やり飲ませちゃ駄目
  • あなたが紅茶を淹れたとしても、紅茶を飲むかどうかを決めるのはその人自身です
  • 意識がない人に紅茶を淹れては駄目。意識がない人は紅茶を飲みたくないし、「飲む?」と聞いても答えられません

子ども向けの動画では「君の体をどうするかを決めるのは、他の誰でもない。君だけが決めるんだ」というメッセージとともに、同意の大切さ、相手の意思を確認する大切さを説明しています。

私の体は私のもの――。子どもたちに伝える前に、私たち大人がきちんと理解しておきたいですね。

「ポジティブな性教育」とは?SHELLYさんに学ぼう!

子どもが性に関するトラブルを起こした時、大人は戸惑います。高橋さんは「例えば、子どもがお友達にカンチョーをしたら、『その子が性について学びたいと考えている』と捉えたらいいですよ」と呼び掛けました。

高橋さんのウェブサイト「サッコ先生の性教育研究所」では、性教育に役立つコンテンツへのリンクがたくさん貼られています。動画もたくさんあり、大人が価値観を変えていく「学び落とし」に役立ちます。

高橋さんによると、「ポジティブな性教育」を知る上でおすすめなのがタレント・SHLLYさんのYouTube「SHELLYのお風呂場」です。高橋さんが医療監修を担当しています。

高橋さんはSHELLYさんのYouTube「SHELLYのお風呂場」の医療監修を担当しています(講演資料より)
高橋さんはSHELLYさんのYouTube「SHELLYのお風呂場」の医療監修を担当しています(講演資料より)

「SHELLYのお風呂場」には、13 歳以上の子どもたちに向けて、日本の性交同意年齢が現在、13 歳に定められているという問題点を語り掛けている動画があります。

学習指導要領では高校の性教育まで性行為を扱わないとしているのに、性交同意年齢は 13 歳です。日本では 13 歳になると、『性犯罪に死ぬ気で抵抗した』と証明できなければ、法律で守ってもらえないんです」

13 歳は性教育で何も教えられないまま、海に投げ出されているのと同じ。性交同意年齢を 16 歳以上に引き上げる議論が始まっていますが、課題も多いです。ぜひ注目してください」

子どもからのSOS、受け止める準備はできていますか?
子どもからのSOS、受け止める準備はできていますか?

高橋さんは講演で、2023 年度から全国の学校で始まる「生命(いのち)の安全教育」も紹介しました。プライベート・ゾーンやSNSの注意点などを発達段階に合わせて教えていきます。

「私の体は私のもの」を理解した子どもたちは、性被害に遭った際、大人にSOSを求めます

「生命の安全教育では『性被害を受けたあなたは悪くない。だから、信頼できる大人に相談してね』と教えます。私たち大人は、SOSを受け止める準備をしておかなければなりません」という言葉が印象的でした。

これからを生きる子どもたちに、大人は何を伝えていくのか。きちんとした性教育を受けてこなかった私たちの学びがまず大切だと感じた講演会でした。

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 2 と年中児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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