子どもは思春期、親は中年期…家庭内に訪れる“危機”とは?思春期を迎えるまでにできることは?|兵庫教育大学の今西一仁さんが親子の関わりのヒントを語りました
思春期の親は中年期…親子ともに揺れ動く時期です
心も体も大きく変化する思春期。「親子の会話が減った」「扱いが難しい」という話を、中高生を育てる先輩パパママからよく聞きます。
思春期の親は主に 40~50 代の中年期。思春期のように心も体も変化するため、「第 2 の思春期」と呼ばれ、最近では人生に葛藤したり、不安を抱いたりする「ミッドライフクライシス」という言葉も知られてきました。
親子ともに揺れ動くこの時期に、どのようにわが子に関わっていけばいいのでしょうか。思春期を迎えるまでにできることは?兵庫県立大学非常勤講師・今西一仁さんの講演から紹介します。
目次
ココハレ編集部が取材したのは 2024 年 9 月 21 日に高知県立塩見記念青少年プラザ(高知市小津町)で開かれた研修会。「はまゆう教育相談所」の主催で、2024 年度は「子どもの心を育てるために、私たち大人に求められていること」をテーマに講演などが行われています。
はまゆう教育相談所は塩見記念青少年プラザにある民間のボランティア団体で、不登校や子育ての相談に応じています。
今西さんは元教員で、高知県内の高校で国語を教えてきました。公認心理師や学校心理士スーパーバーザーなどの資格を持ち、現在は兵庫教育大学の非常勤講師や、学芸中高の教育相談アドバイザーなどを務めています。
今回の講演テーマは「思春期を生きていくということ」。思春期の課題や子どもへの関わり方のヒントを語りました。
ゆとり、草食系、ロスジェネ、団塊ジュニア…あなたは何世代?
思春期を考える際、今西さんが提示したのが「不易流行」という言葉です。「不易」はいつまでも変化しない本質的なもの、「流行」は新しい変化。思春期はどの人にも訪れますが、「生まれた時代や住んでいる地域によって見えるものが違うので、思春期の在り方も変化していく」と説明しました。
今西さんが取り上げた一つが世代論。皆さんはどれに当てはまりますか?
- 真性バブル世代… 1965~1970 年生まれ
- 団塊ジュニア世代… 1971~1976 年生まれ
- ロスジェネ世代… 1977~1981 年生まれ
- 草食系世代… 1982~1987 年生まれ
- ゆとり世代… 1988~1994 年生まれ
- Z世代… 1995~2010 年頃生まれ
- α世代… 2010 年頃~
個人個人ではもちろん異なりますが、価値観を世代で捉えてみると、草食系世代は「失敗したくない」、ゆとり世代は「無駄なことはしたくない」、Z世代は「失敗に備えてリスクヘッジ」。消費特性も草食系世代が「節約志向」だったのに対し、ゆとり世代は「コスパ志向」、Z世代は「タイパ・イミ志向」と変化しています。
メディアとの関わりも、ゆとり世代は「デジタルネイティブ」、Z世代は「SNSネイティブ」。α世代となると、どちらも生まれた時から当たり前に存在しています。
今、思春期の真っただ中にいるのが主にZ世代。その親は主にロスジェネ世代。「就職氷河期を経験した親と今の子どもでは、見えている世界が違うのが分かると思います」と今西さん。
「自分が過ごした子ども時代とは見ている世界が違う」という前提でわが子と関わることが、理解の第一歩なんですね。
関わりがうまくいかない→自分の捉え方を見つめ直すチャンス
「親子の関わりが難しい、うまくいかない」と言われる思春期。今西さんは「関わりがうまくいかない時は、自分の捉え方を見つめ直すチャンス」と呼びかけました。
例に出したのがイソップ寓話の「北風と太陽」です。通りがかった旅人の外套(がいとう)を脱がせようと、北風と太陽が力比べをします。北風は強風で無理に外套を脱がせようとして失敗。太陽は暖かな日差しを注ぎ、旅人は自ら外套を脱いだ――というお話。
「心理学でよく言われるんですが、過去と他者は変えられない。他者を無理に変えようとすると、抵抗は一層強まります。他者を変えたければ、自分の関わり方を変える必要があります」
親子関係で悩んだ時は、「わが子の言動についての自分の捉え方」を見つめ直すチャンスなのだそうです。
思春期は「いかに生きるか」、中年期は「いかに死ぬか」。ともに“危機”を迎えます
思春期は体の変化よりも心の変化が先に起こります。「前思春期」と呼ばれるのが小学校中学年から高学年にかけて。「自分が死ぬ」と気づく頃だと、今西さんは語りました。
「『自分が死ぬ』と気づき、それまで当たり前と思って疑いもしなかったことに対する違和感が起こり、『私は誰?』と考えます。自意識の始まりですね」
講演では「思春期が始まるころ、子ども時代に見えていた姿とは別の親の姿が見えてくる」という心理学者の言葉が紹介されました。
ジブリアニメでもこの頃の子どもの気持ちが象徴的に描かれているそうです。今西さんが挙げたのは「千と千尋の神隠し」。主人公の千尋の両親が冒頭、神々に出す料理を勝手に食べ、豚にされてしまいます。両親の誘いを断った千尋の設定は 10 歳です。
「となりのトトロ」「魔女の宅急便」なども「思春期」という視点で見返してみると面白そうです。
前思春期を経て、子どもは思春期に入ります。第 2 次性徴によって体が大人に近づき、性にも目覚めます。「心と体がちぐはぐな状態」が続きます。
一方で、思春期の子どもの親のほとんどは「中年期」に入っています。
思春期が「いかに生きるか」を悩むのに対し、中年期は「いかに死ぬか」を考える時期で、同じように危機を迎えるそう。これが「ミッドライフクライシス」。体力の衰えや更年期なども加わり、「自分の人生はこれでよかったのか」と葛藤したり、老後に不安を抱いたり。
「中年期は『第 2 の思春期』とも言われていて、実は思春期よりも危機なんです。子どもの抱える問題と親の抱える問題が影響し合うので大変ですが、危機は『転機』でもあるんですよ」
ちなみに、「中年期」とは厚生労働省の定義によると、35~64 歳。思っているよりも早く始まり、長いんですね。
「分からなさを抱える力」を育んでいきましょう
思春期は「さなぎの時代」とも言われています。なぜ「さなぎ」なのでしょうか。今西さんはこんな話をしました。
「子どもの頃、さなぎを開いてみたことがあるんです。中身はぐちゃぐちゃでした。思春期も激しい不安や混乱が子どもの中で生じ、さなぎの中身のようにぐちゃぐちゃ。でも、外は硬い殻で守られているので、本人も周囲も何が起きているか分からない状態です」
今西さんは子どもたちに長く関わる中で、「殻がだんだん薄く、軟らかくなってきた」「守りが弱く、傷つきやすい子どもが増えた」と感じています。
この「さなぎの時代」の子どもと関わるこつがこちら。
- 安易に分かった気にならない
- 分からないまま付き合う
子どもたちがこれからを生きていく上で、「分からなさを抱える力」も必要だそうです。
思春期を迎えるまでに親ができること…子ども時代を子どもらしく生きられるように
親は子どもに対し、「こうあってほしい」と願います。親の「こうあってほしい」に対して、「うるさい!」「私は私!」と宣言するのが思春期だと、今西さん。ココハレ編集部員にも身に覚えがあります。
「子どもの変化に親は不安だし、子どもは親に対して罪悪感を抱いて不安になる。家庭内で不安と不安がぶつかり合います」
思春期に起こる「自立と依存」という課題は、「思春期から始まる一生の課題」とのこと。「子どもはどうやって親の期待を裏切っていくか、親はどうやって期待を裏切られていくか、とも言えますね」
思春期に安心して親から離れていく土台となるのが「愛着」です。親が子どもの甘えを受け止め、子どもを認めることで、「基本的信頼感」は生まれます。つまり、「子ども時代を子どもらしく生きる」ことが後に、思春期を乗り越える力につながっていきます。
ここで気をつけておきたいのが「いい子」である子どもたちです。のびのびと「いい子」で過ごす子もいますが、中には「親がそれほど求めていないのに、親の期待に合わせる」という子がいるのだそう。
「親の期待に応え続けるには『自分』を持たないこと。だから、親の期待に応えることで安定を得てきた子どもは、自立の時に危機が訪れやすい。これが『いい子』という生きづらさで、『寂しい』『私には自分がない』と感じるようになります」
こうした子どもの心には「本当の私を見せたら嫌われる」という思いがあるとのこと。以前は女の子に多い傾向がありましたが、最近は男の子にも増えているそうです。
「いい子」への対応については、「『いい子』の中にはこんな側面を持った子どもがいるかもしれないという理解から始めるのはどうでしょうか」と話していました。
「子どもによかれと思って…」の呪縛に陥らないこと
「思春期に親子の関わりがうまくいかなくなった時は、自分の捉え方を見つめ直すチャンス」と何度も語った今西さん。最後に関わり方のヒントを紹介しました。
「よかれの呪縛」に陥らない
親は常々、わが子によかれと思って行動します。夫婦間や祖父母との間でその「よかれ」が食い違い、時に争いに発展することもありますが、「誰のための『よかれ』か考えてみてください」。
自分が見えている部分だけでなく、全体を見ることが「よかれの呪縛」から逃れるこつだそうです。
子どもが好きなことに耳を傾ける
大人がついついやってしまいがちなのが、「強み」ではなく「弱み」を見てしまうこと。子育てでは、子どもができていることをスルーし、できていないことに目が行きがちです。
子どもの強みを見つけるには、子どもが好きなことに耳を傾けるのがいいそう。
「以前、学校に行けなくなり、保健室登校をしていた子どもに関わりました。『教室に行くと吐き気がする』と言うのですが、そこに焦点を当てず、その子が好きなことに関心を持って話を聞きました。そのうち吐き気はおさまり、教室に戻ることができるようになりました」
親子の会話に困ったら、子どもの好きなことを関心を持って聞いてみるのもいいそうです。
「私」を主語にした「I メッセージ」を伝えましょう
子どもに対して感情的になったり、何をどう伝えていけばいいのか分からなくなったりした時におすすめなのが「I(アイ)メッセージ」。「私はこう感じている」と相手に伝えることです。
例えば、子どもが連絡もなく、夜遅く帰ってきた時。親が心配する場面の一つですね。
「どうして遅く帰ってきたの!」と叱るのは、相手を主語にする「Youメッセージ」。心配から生まれた「怒り」の感情を伝えてしまい、子どもも素直に受け取ってくれないかもしれません。
この場合、「私はあなたに何かあったんじゃないかと思って心配した」と「私」を主語にすると、心配する親の気持ちを子どもも受け入れやすいそう。
「最も短いIメッセージは『ありがとう』です。ぜひ今日から、お子さんに伝えてみてください」
今西さんは講演で、「親子関係や友達関係は時代とともに変化していく」と何度も語りました。思春期は私たち親がたどってきた道ではありますが、「思春期はこんなもの」と分かった気にならず、今の子どもたちの視点で見ていくことが大事なのだと感じました。
講演後の質疑応答では「子どもからの『くそばばあ』は『お母さん、大好きだよ』のメッセージ」との意見もありました。その境地に自分が達せるのか分かりませんが、「子どもの甘えを満たす」を心がけていきたいと思います。