「落ち着くことが苦手」「宿題をしない」…子どもの困った行動にペアレントトレーニングを試してみませんか|子どもにイライラせず関わるには?こころ相談研修センターの杉下味香さんが語りました
イライラせずに笑顔で子育てしたい――。そう思ってはいても、わが子は注意を聞いてくれなかったり、想定外の行動を取ったり。「理想の子育てはなかなか遠い…」という方もいるのでは。
子どもの困った行動に対応し、良い行動を増やしていく「ペアレントトレーニング」を学ぶ講演会が高知市で開かれ、「こころ相談研修センター」の代表理事・杉下味香さんが講演しました。
子どもの困った行動に上手に対応するには「行動の理由を考えることが大切」とのこと。「落ち着くことが苦手」「宿題をしない」「ママがすぐに来てくれないと怒る」など、日々の困りごとへの対応を紹介します。
目次
杉下さんの講演会は 2023 年 11 月 2 日、高知市塩田町の高知市保健福祉センターで開かれました。高知市子ども家庭支援センターが毎年開いている「高知市子育て応援講演会」です。
杉下さんは兵庫県明石市を拠点に活動する一般社団法人「こころ相談研修センター」の代表理事。臨床心理士、公認心理師、児童発達支援管理責任者などの資格を持ち、発達障害や不登校を含む子どもや保護者、関係者への相談などに対応しています。
家庭では小学 5 年生の女の子のお母さん。自身の子育て経験も交えながらの講演となりました。
【子どもとの関係性】叱る→聞いてくれない→イライラ…悪循環に陥っていませんか?
皆さんは、お子さんのどんな行動が気になっていますか?杉下さんが挙げたのがこちら。
- 動画に夢中
- 宿題をしない
- 落ち着くことが苦手
そもそも、子どもの行動には「子どもの発達や家庭環境」と「周囲の関わり方」が影響を与えているそうです。
「周囲の関わり方」には私たち親も含まれます。子どもの行動に影響を与えてしまっているかもしれない親の行動や気持ちがこちら。
- ゆとりがない
- 怒り過ぎる
- 干渉し過ぎる…子どもが 1 人でできるのに、いちいち口を出す
- 不安が強い…子どもに失敗させないように先回りする
杉下さんの場合、仕事が忙しくなって休みがなくなると、ちょっとしたことでイライラするそう。
「そうなると、テレビの音量が大きいだけでイライラ。子どもに言ってはいけない言葉を言ってしまうこともあります」
こうなると、子どものとの関係性は悪循環に陥ります。
子どもの気になる行動が目に付く
↓
やめさせたいのに手に負えない
↓
「また」「いつも」と叱る
↓
子どもは親に認めてもらえず、「どうせ僕なんて…」
↓
子どもが自信を失い、意欲が低下する
↓
親もイライラしたり、落ち込んだり
↓
気になる行動が目に付く
(振り出しに戻る)
こうした悪循環を断ち切るため、「気になる行動」ではなく、「好ましい行動」に注目して褒め、子どもの自信や意欲を増やしていきます。
「いいところに注目してすかさず褒める」ような関わり方を身につけるプログラムが「ペアレントトレーニング」。略して「ペアトレ」と呼ばれています。
【増やしたい行動】褒めるのが苦手な人におすすめ!「実況中継」+「さしすせそ」
ペアトレはアメリカで 1960 年代に始まったプログラム。知的障害や自閉症の子どもと家族を対象に取り入れられ、発展しました。
目的は子どもの行動変容。周囲の大人が褒め方や指示の出し方などを学びながら困りごとを減らし、子どもと楽しく関われるように支援していきます。
障害のない子どもにも効果があり、高知県内でも子育て支援の場などで取り入れられています。
ペアトレではまず、子どもや自分の「好きなこと」「良いところ」を探していきます。
「得意なことや好きなことは認めて伸ばします。苦手なことや嫌いなことは工夫して、できることから始めます」と杉下さん。子どもの得意なことや好きなことを把握しておくと、プラスの関係を築きやすいそうです。
次に、子どもの「増やしたい行動」を考えます。子どもの好きなことや良いところを活用していくと、イメージしやすいそう。
例えば「良いところ」が「明日の学校の準備を前日にできるようになった」だとしたら、「増やしたい行動」を「明日の学校の準備を前日に、自分からする」と設定します。
「増やしたい行動」は褒めることで増やしていきます。褒め方のこつがこちら。
- タイミング…「25 %ルール」を意識。100 %できるまで待つのではなく、増やしたい行動が始まった段階から褒める
- 視線・体…視線を合わせる、子どもに近づく、少しかがんで同じ目線になる
- 表情・動作…穏やかな表情、頭や肩に手を添える、抱きしめる、ハイタッチ
- 声の調子…明るく、温かい声
- 感情語…「うれしい」「楽しい」など気持ちを表す言葉を伝える
- 言葉…短く、簡単に、具体的に褒める(皮肉は言わない)
- 行動を褒める…見えているものを褒める
- 相手に合わせる…性格、年齢、興味に応じて褒め方を変える
- スペシャルタイム…子どもと大人が一緒に楽しめる時間をつくる(「準備ができたら、お母さんとゲームをしよう!」)
杉下さんが「子どもを褒めましょう」と伝えると、「褒められて育っていないから、褒め方が分からない」と困る保護者がいるそうです。
苦手意識のある人は、ひとまず子どもの行動を実況中継するといいそう。
明日の準備をするためにランドセルを開けたら、「ランドセル開けたね」といった具合。「連絡帳を確認できたね」「教科書がそろったね」というふうに、子どもの行動を見た通りに言葉にしていきます。
さらに覚えておくと便利なのが「褒め言葉のさしすせそ」。実況中継にプラスするといいそうです。
- さ…「さすがだね!」「最高!」「サプライズ!」
- し…「知ってたの?」「信頼してるよ(頼りにしてるよ)」
- す…「すごいねー!」「素晴らしい!」「ステキ!」
- せ…「正解!」「世界一!」「センスある!」
- そ…「その通り!」「そうなんだ!」「その調子!」「尊敬!」
気をつけたいのが「皮肉を言わない」。学校の準備ができた子どもに「早くできたね!」とだけ伝えればいいのに、「もっと早くできたらいいんじゃない?」なんて言っていませんか?ココハレ編集部員は言いがち…。
「せっかく褒めてるのに、『もっともっと』で台なしになります」と杉下さん。「親御さんは無意識にやってしまっているので、思っていても言わないでくださいね」
【減らしたい行動】「動き回る」のはなぜ?行動のきっかけを知ると、関わり方が変わります
人は行動の結果、良いことが起こると、その行動を増やしていきます。「減らしたい行動」はどんなきっかけで起こるのか、子どもの行動をよく観察することから始めます。
例えば「動き回る」という行動を減らしたい時。どのような状況で動き回っているでしょうか。
- やることがなくて暇。体を動かしたくなって、動き回る
- 宿題に苦手な問題があり、分からないから嫌な場面から離れるため、動き回る
「動き回る」は目に見える行動としては同じでも、そこに至るまでのきっかけは全く異なります。「行動の動機を知ることで、関わり方も変わる」そうです。
さらに理解しておきたいのが、親が「減らしたい行動」と思っている行動は、子どもからのSOSのサインかもしれないという点。
「『動き回る』という行動には、言葉や状況を理解できていなかったり、感覚刺激の問題があるかもしれません。『友達に意地悪なことを言う』という行動には、家庭環境の問題や本人の自信のなさ、対人関係の難しさがあるかもしれません」
「もしかしたら子どもが困っているのかも」と考えてみることで、親としても気持ちがいったん落ち着き、原因を探りながら穏やかに対応できそうです。
「宿題に苦手な問題があり、分からないから嫌な場面から離れるため、動き回る」という場合、行動のきっかけは「宿題」のため、宿題が無理なくできるようにします。杉下さんはこんな工夫を紹介しました。
- 行動を起こしやすい場所や時間を避ける…リビングで動き回る場合は、寝室に変更する
- 適切な行動を伝える…「動き回らないで」ではなく、「座って宿題をしてほしいな」
- その場面に合った行動や見通しを伝える…「あと 5 分遊んだら、宿題の時間だよ」と予告する
- 本人に選択してもらう…「宿題をしなさい」ではなく、「何時から宿題する?」「どの宿題からする?」
- スモールステップ…達成できないとやる気がなくなるので、本人が解ける易しい問題から始める
- 短い時間に区切り、ご褒美を設定する…「宿題を 5 分したら、おやつ 5 分ね」「宿題を 5 分したら、動画を 5 分見ていいよ」
- してほしくない行動が起こっていない時にこそ、肯定的な言葉がけを
宿題は多くの子どもにとっては「嫌なもの」です。大人は「嫌なことは一気に終わらせたい」と考えますが、子どもは「嫌なことを長時間やりたくない」のだそう。「道理で…」と、わが子を思い浮かべて納得したココハレ編集部員です。
短く区切り、間にご褒美を入れながら達成感を味わっていくことが、自信や意欲につながるそうです。
【注目欲求】親の対応が「減らしたい行動」を増やしている場合があります
「減らしたい行動」を減らしていく際に心がけたいのが「注目を外す」です。
「人から注目されたい」「自分に構ってもらいたい」という「注目欲求」の高い子どもは、親が対応することで「自分がこの行動を取れば、親が自分の所に来てくれる」と学習する場合があるそう。
料理をしている時に動画を見て待っていてほしいのに、「ママ!早くこっちに来て!」と叫ぶ…という子どもの場合、こちらの対応を取ります。
- 「してほしくない行動」を伝えてから、注目をそらす…「ママお料理してるから、隣に来て話してくれない?」と伝えて、応答しないように体の向きを変える
- 感情的にならない…ため息や怒りの表情を出さないように。他のことをしながら無関心を装う
杉下さんによると、親がわが子から注目を外して無関心を装うのは「とても難しい」そう。
「注目をされなくなったと気づいた子どもは、一時的に激しく行動する場合があります。『なんで無視するんだ!』と怒って叫んでいても、疲れて静かになります。その時にすかさず、『静かになったね。ママの隣に来て話してくれたら助かるな』と声をかけてみてください」
子どもの行動が激しくなった時に焦って止めようとすると、逆効果なんですね。
反対に「ママが話を聞いてくれない」と落ち込む子どももいますが、注目を外すのはあくまで行動のみ。無関心を装いながら子どもの行動にはアンテナを立てておき、最後は「ママの隣に来てくれてありがとう」などと褒めて終わるようにします。
「『放置したらテレビや動画を見続ける』など、注目を外す行動が効きにくい場合もありますし、注目を外していることを理解しにくい子どももいます。うまくいかない時は子どもの行動を振り返り、子どもの良いところから考えるようにしてみてください」
杉下さんは最後に「大人のリフレッシュ」について語りました。
「誰かに話を聞いてもらう」「好きな音楽を聴く」「背伸びやストレッチをする」「漫画や小説を読む」などのリフレッシュが気分を和らげ、心身の疲労回復にもつながるとのこと。
「お母さんは子どもとの距離が近いので、どうしてもイライラしてしまいます。私もそうですが、自分自身がゆとりを持つと、子どもへの対応にゆとりが生まれます。お気に入りのリフレッシュ方法をぜひ見つけて、お子さんと楽しく関わっていってください」
この記事の著者
門田朋三
関連記事[子育て]
-
褒めるこつを学ぶ「ペアレント・プログラム」を受けてみた①|「現状把握」から始めましょう
-
子どもを叱ることは大事…でも、頭ごなしに伝えていませんか?「ペアレント・プログラム」で困りごとを一緒に考えています|高知市子育て支援センターいるかひろば・土居寿美子さんコラム「こころのとびら・54」
-
「子どもの心に寄り添う」ってどういうこと?「褒める子育て」とは?|乳幼児期~児童期の子育てのこつについて、瀬戸内ナーシング学院学校長の岡田倫代さんが語りました
-
「友達に手を上げる」「勉強しない」「うそをつく」…子どもの“困った行動”への関わり方|全ての「学びの土台」となるものは?鳴門教育大学教授の久我直人さんが講演しました