避難所運営ゲーム「HUG」で“窮地”を体験。命の大切さを意識しました|「女性防災プロジェクト」講座を受けてみた②
「災害に備えなきゃ」と思うだけでは…。こうち男女共同参画センター「ソーレ」の5回講座をココハレ編集部員がレポートします
南海トラフ地震、台風、豪雨…ご家庭で災害への備えはできていますか?子育て中は毎日忙しく、「しなきゃいけない」と思いつつ十分にできていないという人もいるのではないでしょうか。
こうち男女共同参画センター「ソーレ」では毎年、防災に関心のある女性を対象にした「女性防災プロジェクト」という講座が開かれています。備えたい気持ちに行動が伴っていないココハレ編集部員で 2 児の母・門田が全 5 回を受講し、感じたこと、学んだことをレポートします。
2022 年 7 月 9 日に開かれた第 2 回講座では、避難所運営ゲーム「HUG(ハグ)」に挑戦。次々と避難してくる被災者にどう対応し、安全・安心な避難所を作っていくのか。“窮地”から命の大切さを意識することを学びました。
目次
西日本豪雨で被災した訪問看護師・片岡さんの経験談を聞きました
第 2 回講座には、特別ゲストとして看護師の片岡奈津子さんが登場しました。片岡さんは岡山県倉敷市真備地区で訪問看護に携わり、2018 年の西日本豪雨で被災。立ち上げたばかりの訪問看護ステーションと自宅が浸水しました。
訪問看護ステーションでは患者のカルテを失い、対応に追われました。「劣悪な環境で避難していましたし、避難を促しても逃げなかった人もいました」と片岡さん。「とにかく情報がないことに困りました」
人々の命や健康を守るために必要なことは、刻々と変化していきます。食事一つを取っても、大きく変わります。
【被災地の食事の困りごと】
- 発災直後~ 1 日目…飲み水がない
- 1~10 日目…食べ物がない、同じ食事、野菜が食べたい
- 10 日目以降…同じ食事、調理ができない、栄養状態の把握が難しい(数カ月単位で続く)
真備地区のある避難所では 4 カ月ずっと、おにぎり、パンなど同じ食事だったそうです。「避難所からみなし住宅に移っても、それは仮住まい。私の場合は自宅を再建するまで、非日常が 2 年半続きました」
感情のコントロールも難しかったそうです。片岡さんは「患者さんに寄り添う」という看護師の使命のもとで奔走するうちに、「患者さんのためという気持ちが怒りになり、行政にぶつけた」と振り返りました。
復旧、復興によって街の景色が変わることから、「自分の一部がえぐられるような感覚」も経験しました。
「時間が解決してくれることも多くて、『心の復興』も大事です。地域が被災した時、自分がどの立場でどう活動するのか、自分事として考えてほしいと思います」
命と健康、避難所でどう守る?避難所運営に挑戦しました
講師の神原咲子さん(神戸市看護大学教授)は「命や健康は、生活者が日々努力していることで守られている」と語ります。災害時は「平時から努力して守っていること」が一気に崩れるため、被災直後に命が守られても、その後、災害関連死などのリスクにさらされます。
そこで、体験したのが避難所運営ゲーム「HUG」。避難者の年齢、性別などそれぞれの事情を考慮しながら避難所内に適切に配置していくという、机上での模擬体験ゲームです。
避難者は一人一人カードになっています。私の班では私がカードを読み上げ、4 人みんなで対応を考えました。
教室が避難者でいっぱいに…どうしましょう!
私はHUGに取り組む様子を取材したことはありましたが、自分でやるのは初めて。班の皆さんも初めてでした。
小学校の配置図を見ると、使える設備は体育館、教室、グラウンドなど。避難者の年齢や性別、持病の状況などを考えながら、割り振っていきました。
何となく、最初から「あなたは体育館へ」とは言いづらく、まずは教室へ。
当然ですが、避難者はどんどん増えていきます。1 階の教室が埋まった段階で、「認知症でトイレが不安」という人や、両親を失った幼い子どもがやってきました。
「うーん、この家族は 2 階?」「この人はベッドが要るよね。でも、保健室がいっぱい。家族を離す?」
避難者を動かしたいところですが、一度案内した場所から動かすのは「家を失い、避難してきた人に再び引っ越しを迫る」ことになるので、基本的に禁止。私たちは次第に窮地に立たされました。
トイレがない!洗濯物を干したい!イベントカードに困らされました
避難所には“想定外”がつきもの。避難者カードに混じって、イベントカードがありました。
「毛布が届きます」はありがたいですが、「トイレがない!我慢できない!」とか「洗濯物を干したいんだけど…」という声も。生活をしているから、これも当然といえば当然。
対応に迷っている間にも、次々と避難者は訪れます。カードを読み上げる前にざっと目を通し、「いや、これ、さらにまずい展開ですよ…」とぼやく私。
「バスツアー中に被災して避難してきた外国人」というカードが何枚も続いた時には「あー、もう無理!」。「頭が煮えてきた」とみんなで途方に暮れているうちに、タイムアップとなりました。
悩むことはいいこと。「困った」で終わらせないように
ゲーム終了後、神原さんが各班に感想を聞きました。次のような意見が上がりました。
【HUGの感想】
- 避難所で水が使えるかどうかで状況はだいぶ変わると感じた
- トイレの使用が禁止されたが、何でトイレを使ったらいけないのかという説明がなくて困った
- 身体的に厳しい人を 1 階に配置したが、上の階はどうやって有効活用したらいいのだろう
- 避難所のお手伝いができる人がいるかどうか、呼び掛けて把握しておくことが大事だと分かった
トイレについて、神原さんは「なかなか解決しない問題。避難所の運営者は『使わないで』という上からの指示と、『何で使えないんだ』と訴える避難者との間で板挟みになります」。
トイレは清潔にしていないと感染症の拡大につながりますし、取り合いはストレスになります。高齢者がトイレに行かずにすむように水分補給を我慢してしまうという問題も起こります。
「清潔を保てるトイレを早く作るという視点を無視して、仮設トイレを備蓄しているのが今の状況。例えば、プールの水や近くの川の水を活用するといった『今あるものを把握し、使う』という視点がないと、トイレは永遠に足りません」
多目的トイレじゃないと無理な人、ポータブルトイレでできる人、仮設トイレまで我慢できる人…。避難者を分けた上でSOSを出せるかどうか。「このゲームを『困ったね』で終わらせず、女性の視点で新しい解決法を探ることが大切」と神原さんは呼び掛けました。
生活再建のため、一刻も早く、いい状態で避難所を出られるように
HUGでは、避難者をどこに配置するかを一生懸命考えましたが、実際は「一刻も早く、いい状態で避難所を出られることが生活再建につながる」と神原さんは語ります 。
避難所は被災者が命をつなぐ場所。その先には元通りの生活を目指す、長い道のりがあります。「防災の知識、技術に加えて、常に命の大切さを意識していかないといけません。生活の在り方としてこれでいいのか、大丈夫なのか、足りないものは何なのか。そんな視点で考え、見えにくい困りごとを拾っていってください」
「女性防災プロジェクト」の第 3 回は「防災力を高めるコミュニティー作り」をテーマに 7 月 30 日(土)に開かれます。引き続き、ココハレで詳しくレポートしていきます!
女性防災プロジェクトの記事はこちらから
南海トラフ地震、水害…災害後の自分と家族の生活、イメージできていますか?|「女性防災プロジェクト」講座を受けてみた①
被災者と支援者を演じる?!ロールプレイから、防災力を高めるコミュニティーを考えました|「女性防災プロジェクト」講座を受けてみた③