中高生の「親と話したくない」「急にイライラする」「人の目が気になる」は正常です!|思春期を乗り越えるために大人がかけてあげたい言葉とは?東京医療保健大学の渡會睦子さんの授業から考えました

子どもが自分らしく生きていくために必要なことは?須崎市の浦ノ内中学校、須崎総合高校の授業を取材しました
「思春期」と言えば、急にむすっとしたり、親としゃべらなくなったり、時には暴言を吐いたり…。わが子をどう扱っていいか分からなくなる時期でもあります。
心の在り方が変わっていく子どもに、大人はどんな言葉をかけてあげたらいいのでしょうか。
須崎市が取り組んでいる「自尊心を育む性教育」に協力している東京医療保健大学の渡會(わたらい)睦子さんが浦ノ内中学校と須崎総合高校で授業を行いました。
「親と話したくない」「急にイライラする」「人の目が気になる」「壁を殴ってしまった」という中高生に「正常!思春期だもの!」と渡會さん。中高生にいい思春期を乗り越えるためのアドバイスを送りました。
目次
赤ちゃんの遺棄事件をきっかけに「自尊心を育む性教育」が行われています
須崎市では 2020 年、生後間もない赤ちゃんの遺体が遺棄される事件が起きました。罪に問われた母親は困難な家庭環境で育ち、妊娠を誰にも相談できなかったことが分かりました。
事件を検証した高知県児童福祉審議会の部会では、「自尊心を育む性教育」の必要性が指摘されました。
須崎市は、市内の子どもたちの状況を把握し、就学前から中学生まで、発達段階に応じた性教育を行っています。

渡會さんは山形県の保健師を経て、現在は東京医療保健大学医療保健学部の教授を務めています。性教育を「子どもたちに『あなたは大切な存在だ』と教える教育」と考え、系統立てて教える大切さを広めています。
須崎市には学校の授業や、教職員や保健師らへの研修などを通して関わっています。今回の授業は 2025 年 6 月 3 日に浦ノ内中学校、4 日に須崎総合高校で行われました。
望まない妊娠、性感染症…「自分の身は自分で守る」「困ったら必ず大人に相談する」を繰り返し伝えました
浦ノ内中学校の授業には 2、3 年生の 12 人が参加しました。
「性教育」と聞くと、子どもも大人もやはり身構えます。渡會さんは「性」という漢字を黒板に書き、「いやらしいイメージのある人?」と明るく質問。教室内の緊張をほぐしながら、「性」という漢字には「心の在り方」という意味があることを伝えました。
「みんなは小学生の時に生理や精通を習ったと思います。小学生の性教育では体について学びました。中学生では心の在り方、心がどう変わっていくかを学ぶのがとても大事なんです」

高知県では 10 代の人工妊娠中絶率が以前よりは減りましたが、全国平均を上回っています。
渡會さんは妊娠が分かったら届け出が必要なこと、そして届け出がないと周囲がとても心配すると語りました。
「『赤ちゃんができちゃった』 『産んでいいのかな。どうしよう…』 という時は保健師さんに相談してね。保健室の先生や信頼できる学校の先生にももちろん相談できるけど、学校に行けなくなったり、卒業した後は市役所に保健室の先生みたいな保健師さんがいるって覚えておいてね」
高校の授業ではさらに踏み込み、須崎市の遺棄事件にも触れました。
「妊娠して『誰の子か分からない』『彼氏がいなくなっちゃった。どうしよう』と困って赤ちゃんを殺してしまうと、犯罪者になります。犯罪を起こす前に大人に相談してほしい。自分を大事にしてほしい」

望まない妊娠を防ぐことは、性感染症を防ぐことにもつながります。学習指導要領では中学校の保健体育で性感染症について教えるよう定められています。
渡會さんが中学校の授業で性感染症について尋ねると、エイズについて知っている子どもはゼロ。近年増えている梅毒を知っている子どもは少しいました。
「性感染症は性行為でうつる感染症。パパからママ、ママからおなかの赤ちゃんにうつることもあるんだよ」
自分にとってはたった 1 回の性行為であっても、その相手が感染していると、感染のリスクが生じます。渡會さんは図を見せて解説しました。

「パパ活や援助交際は性をお金で売ってしまう行為。多くの人と性行為をすると、多くの病気が入ってくる可能性があります。SNSで出会った人と簡単に性行為をするのも、リスクが高い。性行為をするとはどういうことか、真剣に考えてほしい」
性被害についても「人に簡単に裸を見せたり、写真を送ったりしないで。相手に『見せて』『写真を送って』というのもダメ」と訴えました。
「親や先生が守ってくれるのはあなたが小学生まで。携帯を使ったり、インターネットを使ったりし始めると、自分でしか自分を守れなくなる。今の自分を大切にすることは、将来の自分を大切にすることだと知っておいてください」
今の中高生が知りたいのは「心の変化」「コミュニケーション」
渡會さんの性教育の授業では「大人の仲間入りをしつつある思春期の皆さんに、私から大人としての知識を伝えるよ」「大人としての知識を使うかどうかは自分次第」と呼びかけます。
その上で、中高生が抱える悩みについて、聞いてみたいことを尋ねます。だいたいどの学校でも、トップ 3 はこちらだそう。
- 心の変化
- コミュニケーション
- 人生の計画
20 年前は「恋愛」が上位だったそうで、時代とともに変化しているんですね。

思春期の心の変化について、渡會さんは「成長ホルモン」の仕組みを説明しました。成長ホルモンの働きによって、大人の体へと変わっていきます。成長ホルモンは脳にも作用し、心の在り方やものの考え方も変化していきます。
「成長ホルモンは出過ぎると、精神的に不安定になります。これが思春期。にこにこしていたかと思えば、急にむすっとする。1 日のうちでころころ変わります」
渡會さんは「こんな経験、ある?」と子どもたちに尋ねました。
- かっこつける
- 人の目が気になる
- 人にどう思われているか気になる
- 自分が嫌い
- 自分に自信が持てない
- 親と話したくない
- 親に「うるせぇ」と言う
- 人には言えない悩みがある
- 急にイライラする
- 壁を殴ったことがある、壁を殴って穴を開けたことがある
「これ、ぜーんぶ、正常! 正常! だって思春期だもん!」と渡會さん。あっけらかんと言ってもらえると「あっ、そんなものなんだ…」と思えてきそうです。

“思春期あるある”を明るく笑い飛ばしつつ、押さえておきたいことも紹介しました。
思春期の心は「受容」と「拒否」の両極端で揺れ動きます。「好き」と「嫌い」が急激に変わり、「付き合っている彼氏、彼女をいきなり嫌いになった」ということも起こるそう。
「友達に腹が立つ」「いじめたくなる」のもこの時期。「自分が嫌い」と感じ、「自分を傷つけたい」という衝動が起こることもあります。
「友達から『あの子、むかつくよね。一緒に無視しようよ』なんて言われたら気分が悪いし、困るよね。そんな時は『はいはい、思春期ね』と返してみて」
「思春期は傷つきやすい時期でもあります。自分を傷つけたくなったら、『今は思春期だ』と思い出して、身近な大人に相談してみて。高校を卒業する頃には思春期は終わります。自殺なんてもったいないよ」

思春期も終わりに近づいてきた高校生に向けては、自分の心をコントロールする大切さも伝えました。
「大人になっても人に意地悪をする人は、思春期をうまく乗り越えられなかった人だと私たちは研究から分析しています。『イライラする!人に当たりたい!』と思った時に自分をコントロールすることも覚えていってほしい」
「親には反抗していいし、意見をぶつけてもいい。ただし、暴力は振るわないこと。『うるさい』と言いつつ大人の意見を聞くことは、大人の考え方や振る舞いを身につけることにつながります」

ちなみに、親から虐待を受けている子どもや、親からの干渉が多い子どもは、思春期が遅れてやってくるそう。中高生の時期に正常に乗り越えられるように、私たち親の関わりも重要ですね。
思春期を上手に乗り越えるには?「自分は思春期なんだと自覚する」「自分のいいところに気づく」
思春期は親を乗り越えていく時期でもあります。
「小学生までは『親がつくった自分』だった。今、みんなは自分のため、自分の人生のために自分をつくっています。自分を変えていくために、いろいろな症状が出ているんです」
思春期を上手に乗り越えるために知っておきたいのがこちら。
- 「自分は思春期なんだ」と自覚する
- 自分のいいところに気づく
自分のいいところに気づくため、浦ノ内中学校の授業では「いいところ探し」を行いました。渡會さんの授業では恒例で、それぞれの背中に貼った紙に、その子のいいところを書いていきます。「相手を褒める練習」になります。




最後に、子どもたちが一斉に自分の紙を眺めました。これは「褒めてもらう練習」。教室中に笑顔が広がる、いい時間です。


「思春期で何かつらいなあという時に、この紙を見返してほしい」と渡會さんは語りかけました。
「『自分が嫌。嫌い』という気持ちは、思春期の終わりに向けて自分がステップアップする時に、力の源となります。自分に自信が持てないところがある人は、『思春期が終わったらどんな自分になりたいか』を考えてみて」
「今の時期にたくさん考えたり、悩んだりすると、脳が発達します。めんどくさいなと思うこともあるかもしれないけれど、あなたの力になります。いい思春期を乗り越えて、いい人生、楽しい人生にしていってください」

ココハレ編集部員は授業を聞きながら、「そういえば、そんなこともあったかなあ」と思春期の記憶があいまいなことに気づかされました。過ぎ去ってしまえばどうということのないものなのかもしれません。
性行為や性感染症などは、親から子には伝えづらい内容でもあります。しかし、これから大人になっていくわが子のために、親もしっかり伝えていかないといけないと、あらためて感じました。
親としては、わが子の態度や言葉にうろたえず、「この子は今、体も心も変化しているんだ」と認識し、見守ることが重要なのですね。「思春期が始まったのね。おめでとう」という気持ちで接し、終わったら「お疲れさま」とねぎらえるような親子関係でいられたら…と思いました。
わが子が幸せに生きていけるように、親にできることとは?ココハレでは渡會さんのインタビューを紹介しています。
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