子どもの「お口ぽかん」に注意!「口腔機能発達不全症」を予防しましょう
「お口ぽかん」「くちゃくちゃ食べ」は口呼吸が原因。歯医者さんに対応を聞きました
6 月 4 ~ 10 日は「歯と口の健康週間」です。子どもの歯や口のことで、気になっていることはありませんか?
歯医者さんの間では近年、子どもの口の機能の発達に注目が集まっています。2018 年には歯科の病名に「口腔(こうくう)機能発達不全症」が新しく加わり、「口がいつもぽかんと開いている」「くちゃくちゃと音をたてて食べる」「よくかまずに丸のみする」などの悩みを歯科で相談し、必要な場合は治療ができるようになりました。
子どもの口腔機能をしっかりと発達させるために、どんなことに気をつけたらいいのでしょうか。高知県歯科医師会の専務理事、野村圭介さんに聞きました。
まず、子どもの口をよく見てみましょう
まず、お子さんの口の状態や食べ方を観察してみてください。こんな症状はありませんか?
「いつも口がぽかんと開いています。しっかり閉じられないみたい」
「注意しても、くちゃくちゃと音をたてて食べています」
「食べる時によくかんでいないようです」「丸のみしています」
「飲み込む時に舌を出しています」
野村さんによると、「お口ぽかん」に代表されるこういった症状は「いつの間にか口呼吸になり、起こる」そうです。口呼吸になる原因はさまざまですが、代表的なのが指しゃぶり。「指しゃぶりは赤ちゃんが食べる機能を獲得するために大切な準備行動ですが、幼児期以降も長く続けると、歯並びやかみ合わせに影響し、悪循環が始まります」と野村さんは説明します。
「指しゃぶりを放置すると、上のあごと前歯が前に押し出され、前歯がうまく閉じなくなります。前歯が閉じなくなると、今度は飲み込む時に前歯の隙間を舌でふさぐようになります。そうなると、前歯が舌で押されて、ますます閉じなくなります。すると今度は、唇を閉じる力が弱くなり、常に口が開いている「口唇閉鎖不全」という状態になります」
常に口が開いていると、次第に口呼吸になり、食べのもを上手に飲み込めなくなったり、タ行やサ行が上手に言えないといった「構音障害」が出たりすることも。指しゃぶりのほか、唇をかむ、唇を吸う、歯ぎしりなどの癖や、タオルやかばんのひもなど何かをかむ癖、猫背や頬づえなどの習慣も口呼吸につながる場合があるそうです。
「『くちゃくちゃ食べ』は口で呼吸しながら食べているため、起こります」と野村さん。「飲み込むタイミングが分からないから、だらだらとかみ続けますし、息を止めないと飲み込めない。口呼吸が原因なので、『行儀が悪い』『早く飲み込みなさい』と叱っても、子どもはどうしたらいいか分からないんですよ」
「口腔機能発達不全症」とは
歯科の診療はこれまで虫歯の治療が中心でしたが、近年は虫歯を予防する「口腔ケア」に積極的に取り組むようになりました。子どもの診療では、日本歯科医学会が2014年に行った「子どもの食の問題に関する調査」をきっかけに、「子どもの口腔機能の発達にきちんと対応していこう」という機運が高まりました。
「調査から『偏食がある』『食べるのに時間がかかる』など、保護者が子どもの食事や口の中のことを心配し、悩んでいることが分かり、歯と口の専門家である歯科医がきちんと対応し、必要ならば治療を行いましょうという流れになりました」と野村さん。2018 年 3 月に「口腔機能発達不全症」という新しい病名ができ、4 月から公的医療保険の対象として診療が受けられるようになりました。
口腔機能発達不全症の診療対象は、初診時に 15 歳未満の子どもです。障害など明らかな原因がないのに、食べる機能や話す機能などが十分に発達せず、専門的な治療が必要な状態を指します。具体的には、ものをかむ「咀嚼(そしゃく)」や、飲み込む「嚥下(えんげ)」がうまくできない、構音(発声)に異常がある、口呼吸があるなどの状態で、子ども自身や保護者が症状を自覚していない場合が多いそうです。
口腔機能は年を取ると低下します
口腔機能発達不全症の診療では、歯並びやかみ合わせ、虫歯の有無、口を閉じたり、物をかんだりする力の状態を評価します。「鼻詰まりやアデノイド(鼻の奥にあるリンパ組織)肥大など耳鼻科的な原因で口呼吸になっている場合は、耳鼻科につなげます」と野村さん。歯科での治療が必要だと判断された場合は、器具を使って唇を閉じる練習をする、ガムを使って正しい舌の位置を覚えるといった訓練を行いながら、経過を観察します。
そもそも、なぜ口腔機能の正しい発達が大切なのでしょうか。野村さんは「口腔機能は加齢によって低下するから」とその理由を説明します。
「食べる喜びや話す楽しみといった生活の質(QOL)を長い人生で維持するには、口腔機能を維持が欠かせません。口腔機能は年を取ると必ず低下しますので、乳幼児期や学童期に適切に発達して高めておかないと、落ちる分をカバーできなくなるんです」
「食べる練習」は離乳食期から
「口腔機能の基礎となる『物を食べる機能』をしっかりと高めていくために一番大事なのが離乳食の食べさせ方です」と野村さん。スプーンで口に運ばれた食べ物を上唇で捕らえて、口の中に移動させ、飲み込む。この一連の動きを獲得するためには、スプーンを赤ちゃんの下唇に置き、赤ちゃんが自分で口を閉じるのを待つことが必要です。
「急いでいる時はつい、スプーンを上唇にこすりつけて口の中に食べ物を入れてしまいがちですが、こうすると赤ちゃんは食べることを学習できなくなります」
口を閉じて食べることを学んだ赤ちゃんは、食べ物を舌や歯茎でつぶす、前歯でかじり取るなどの機能を順番に獲得していきます。歯の生え方は個人差が大きいので、月齢にとらわれず、その子に合った食事を作ることが大事です。
「手づかみ食べ、口に詰め込みすぎる、食べこぼしをするなども全て、食べることを学ぶ過程です。お父さん、お母さんは毎日忙しいでしょうし、自由に食べさせると、テーブルがぐちゃぐちゃになるでしょう。乳幼児の食事は本当に大変だと思いますが、『この子は今、食べ方を頑張って学習しているんだ』と考え、食事を一緒に楽しみながら見守ってあげてください」
高知県歯科医師会では 2020 年 3 月、子どもの歯と口の機能についての悩みに対応するために「口腔機能発達不全症予防マニュアル」を作成しました。野村さんは「例えばフッ素塗布でかかりつけの歯科に行った時でかまいません。『離乳食を食べてくれない』『好き嫌いがある』といった悩みや、『この口の状態だと、どんな食べ物が適していますか?』などの質問があれば、歯科医に気軽に相談してください」と話しています。
※記事中の口腔写真は日本学校歯科医会の冊子「生きる力をはぐくむ口腔機能―『食べる』『話す』『呼吸する』―」から引用しました。