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【ココハレインタビュー 】歯科医・野村圭介さん|子どもと一緒に食べることを楽しんで

【ココハレインタビュー 】歯科医・野村圭介さん|子どもと一緒に食べることを楽しんで

歯と口の機能の発達を大切に。子育て支援に取り組む歯科医・野村圭介さん

「歯医者さん」といえば虫歯の治療ですが、最近は子育て支援にも取り組み始めていることを知っていますか?「離乳食がうまく進まない」「口がいつも開いている」「指しゃぶりをする」「滑舌が悪い」などの悩みについて、歯と口の専門家としてアドバイスや治療を行っています。

高知市の歯科医、野村圭介さんはその先駆けとして、子どもの歯と口の健康づくりに長年取り組んできました。幼いころから歯と口の機能をしっかりと発達させていくため、「子どもと一緒に食べることを楽しみましょう」と呼び掛けています。

 

警察学校から歯科医への道

野村さんは高知市内で歯科医院を開業する傍ら、高知県歯科医師会で専務理事を務めています。子どもたちの歯科保健に取り組む日本学校歯科医会の役員も務めていて、子どもの歯と口の健康づくりに取り組み、発信する高知県内の“第一人者”です。しかし、歯科医への道のりには紆余(うよ)曲折がありました。

1955 年、高知市生まれ。母親の体が弱く、「生まれたこと自体が奇跡だ」と言われました。安芸市で過ごした乳幼児期は「神経質で病気がちだった」そう。小学校に入ると体も強くなり、「野山を駆け回る普通の子」になりました。

小学 4 年で高知市に引っ越し、土佐中に進学。身長がぐんぐん伸び始め、高校 1 年で 184 センチになりました。サッカー部で「背が高いき、ゴールキーパーをやれ」と言われ、仲間たちと汗を流す毎日。勉強では、数学について行けなくなりました。

「ついて行けなくなったということは、どこかでつまずいたということなんでしょうけど、どこでつまずいたかが分からない。数学嫌いの文系でした」

卒業後は立教大学経済学部に進学し、マネジメントなどを学びました。卒業後は両親に「長男だから高知に帰ってきなさい」と言われ、就職先に悩みます。選んだのは、父親の知人に勧められた警察官でした。しかし、警察学校に入校後、訓練中にけがをして“中退”。「これからの人生、どうしよう」。悩む野村さんの目に入ってきたのが、警察学校でもらった雑誌でした。

「『法歯学』について書いていました。犯罪や災害で亡くなった方の歯から身元を特定し、ご家族の元に返す。『これだ!』と思いました」

「数学嫌いの文系」が一転、理系の歯学部を目指すことに。「歯医者だけに“敗者”復活戦でした。べたな親父ギャグですが(笑)」

生かされている。恩返しを

25 歳で明海大学歯学部に入学。法歯学志望でしたが、授業で小児歯科の診療を見たことがきっかけで臨床の道を選びました。卒業後は臨床経験を積むために高知市内の歯科医院に勤務。その翌年、息が苦しくなり、体に異変を感じます。病名は肺がん。35 歳でした。

「妻は『余命半年です』と告げられたそうです。当時は患者にがんを告知する時代ではありませんでしたが、歯科医なので告知されました。息子はまだ 2 歳前。『小学生になるくらいまでは生きられたらなあ…』という思いでしたね」

手術、抗がん剤治療、放射線治療を経て、がんを乗り越えた野村さん。「生まれた時も、がんが治ったのも奇跡。自分は生かされている。恩返しをしなければ」と考えるようになりました。37 歳で高知市内に歯科医院を開業。外部から依頼された仕事は積極的に引き受けるようになりました。

その一つが「学校歯科医」です。高知市内の保育園に加え、1995 年から中学校も担当。歯科健診で生徒たちの口の中を見た野村さんは、衝撃を受けます。

「口の中を見たら、その子が置かれている環境、人生が分かります。虫歯がたくさんあるのに、治療されないまま放置されている子がいる。生活実態を理解するためにアンケートをやらせてもらうと、『朝ご飯を食べない』『お昼ご飯はお弁当がないから水だけ』という子がいる。自分の身近な所で子どもたちがこんな状態になっているのかと驚き、何とかせねばと思いました」

歯科健診だけにとどまらず、子どもたちの生活改善や健康づくりにも深く関わるようになったある日、不登校の女子生徒について先生から相談を受けました。

「『学校には行けんけど、歯医者にやったら行ける』と言ったそうです。彼女の口の中を診ると、前歯に大きな虫歯があってね、『これじゃ人前で笑えないよね』と思って治療しました。そうしたら、学校に行けるようになったんです。不登校の原因は厳しい家庭環境でしたが、学校には行きたかった。前歯の治療が彼女の背中を押すスイッチだったんでしょうね。本当にうれしかったですね」

「早く食べなさい!」を避け、食事を楽しんで

近年では、子どもの虫歯の数が減っています。2019 年度の学校保健統計調査では、12 歳児の虫歯の数は平均 0.70 本。野村さんは「虫歯を予防するフッ素入りの歯磨き粉が普及した影響はもちろんありますが、お父さん、お母さんが子どもの歯磨きにきちんと取り組んでいるからこそ、虫歯が減ってきている。頑張っている証拠です」と語ります。

虫歯が減る一方で、歯科医の間では歯と口の機能において「気になる子」の存在が注目されています。

「食べ物をかまずに丸のみする子や、飲み込めない子、食べこぼしの多い子、くちゃくちゃと音をたてて食べる子がいます。これまでは『食べ方が下手な子』『行儀の悪い子』とされてきた子どもたちですね。他にもお口がいつもぽかんと開いていたり、ろうそくの火をなかなか吹き消せなかったりという子もいます。現在は口腔(こうくう)機能がきちんと発達していないことが原因と考えられていて、診療の対象にもなっています」

「うちの子は歯が生えるのが遅い」と気にする保護者は多いですが、「歯の生え方は個人差が本当に大きいので、そこまで気にしなくていい」と野村さん。離乳食などの月齢にとらわれないで、子どもの歯の生え具合やあごの成長具合に合った食材を使うこと、そして「食べ物を正しくかめているか」「上手に飲み込めているか」といった口の機能を見ることを大切にしてほしいと訴えます。

「忙しいとつい、『早く食べなさい!』と子どもをせかしてしまいますが、食べることを一緒に楽しむことが、口の機能の正常な発達を促します。お父さん、お母さんは毎日大変だと思いますが、頑張って時間をつくり、お子さんが食べる様子をよく見てあげてください」

「私たち歯科医も子育てのパートナーとして、子どもたちの歯と口の健康づくりにさらに取り組んでいきたいと考えています。高知県歯科医師会では口腔機能の発達不全に対応するマニュアルを作り、研修会も開いています。『食べる』『話す』『呼吸する』などお口の機能で気になることがあれば、かかりつけの歯医者さんに相談してください」

 

野村さんに相談したい場合は、「のむら歯科」に問い合わせをしてください。

のむら歯科

  • 住所:高知市城山町10-16
  • 電話:088-833-2525

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 3 と年長児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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