医療的ケア児が保育園に通うために必要な準備は?手続きは?高知県内の現状は?|就園・通園を考えるセミナーが開かれました
人工呼吸器やたんの吸引などの「医療的ケア」を必要としている子どもを「医療的ケア児」と言います。
2021 年に「医療的ケア児支援法」が施行され、保育園に通う医療的ケア児が高知県内でも少しずつ増えています。
医療的ケア児が保育園に就園、通園する際に必要な準備や手続きには、どんなものがあるでしょうか。受け入れる園ではどんなことに気をつけているのでしょうか。高知市内で開かれたセミナーから紹介します。
目次
「医療的ケア児の保育園への就園・通園に関するセミナー」は 2024 年 1 月 27 日、高知市朝倉戊の高知県立ふくし交流プラザで開かれ、医療的ケア児や重症心身障害児の家族や支援者らが参加しました。
セミナーでは、高知県内の保育園での受け入れ状況や、受け入れ事例のほか、佐賀県で行われている先進的な取り組みが紹介されました。
【医療的ケア児の就園・通園】高知県内では22人が保育園に通っています
医療的ケア児の就園・通園について、高知県障害福祉課の担当者が県内の状況を説明しました。
医療的ケアは「日常生活に必要な医療的な生活援助行為」と位置付けられています。自宅や学校など病院以外の場所で、医師の指示の下で、医師以外の人がケアを行います。
具体的には人工呼吸器、たんの吸引、経管栄養(胃ろうなど)などがあります。
医療が大きく進歩し、小さく生まれた赤ちゃんや、病気や障害のある赤ちゃんなど、以前なら助からなかった命が日常的なケアで救えるようになりました。医療的ケア児は現在、全国に 2 万人いると推計されています。
2021 年、「医療的ケア児支援法」が施行されました。正式には「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」です。
この法律では、医療的ケア児が在籍する保育所や学校などに対して国や地方公共団体が支援すること、保育所や学校の設置者は医療的ケア児に対し、適切な支援を行うことが「責務」とされています。
保育所には、医療的ケア児を受け入れる際に、看護師やたんの吸引などができる保育士らを配置することが求められています。
この法律によって、医療的ケア児を受け入れる保育所が県内でも徐々に増えています。
県障害福祉課によると、県内の 18 歳未満の医療的ケア児は 2023 年 5 月の調査で 95 人。半数以上の 50 人が高知市で暮らしています。
0~5 歳の未就学児は 48 人、6~17 歳の就学児が 47 人です。
48 人の未就学児のうち、22 人が保育所に通っています。「通園していない」という人の中にも、通園を希望している人がいます。感染症のリスクなどから集団生活が難しく、通園に至っていないケースもあるそうです。
県内の医療的ケア児が必要としている医療的ケアも紹介されました。
最も多いのは「経管栄養」で、胃ろうや鼻のチューブなどから栄養を取っています。
続いて「酸素吸入」や「たんの吸引」。気管内挿管や気管切開をしている子どもや、「導尿」といって排せつのケアが必要な子ども、人工呼吸器を着けている子どももいます。
同じ「医療的ケア児」でも、必要とするケアやその程度はさまざまで、困りごともさまざま。「一人一人に合わせたオーダーメイドの支援が必要」とのことです。
【保育所での受け入れは?】大杉保育所の事例を紹介。在園児とも交流しています
続いて登壇したのは、大杉保育所(大豊町)の所長・鎌倉真紀さん。2 歳児クラスで受け入れている女の子のAちゃんを紹介しました。
Aちゃんには先天性の難病があり、発達の遅れなどがありました。1 歳で入園後、発熱から急性脳症を発症し、医療的ケアが必要となりました。
Aちゃんは以下の医療的ケアを必要としています。
- たんの吸引
- 水分注入
- 経管栄養
- 薬注入
さらに、自分で座ることが難しいので、座位保持装置が必要です。
鎌倉さんによると、大杉保育所で医療的ケア児を受け入れるのは初めて。大豊町にとっても初めてでした。鎌倉さんは保護者の要望を聞き、既に受け入れている土佐市の園を見学し、大豊町とガイドラインを作成するなど、一から仕組みを作っていきました。
医療的ケアを担う常勤の看護師も見つかり、Aちゃんは再び通えるようになりました。
大杉保育所ではAちゃんと在園児との交流を大切にしていきたいと考え、1 歳児クラスでは同じ部屋で過ごしました。お友達がチューブなどを誤って触らないように、「お部屋にサークルを置き、Aちゃんの生活スペースを確保しました」。サークル越しに声を掛けたり、サークルを出て絵本を楽しんだりして過ごしたそうです。
しかし、同じ部屋での活動にはデメリットもあります。感染症などへの感染を防ぐため、Aちゃんは現在、個室で過ごしているそうです。
「受け入れ当初は『Aちゃんを傷つけたらいけない』という思いでした。1 歳児はお友達に手が出たり、かみつきもある年齢です。子どもたちの関係をどういうふうにしていけばいいかを話し合いました」
大人は心配していましたが、実際に受け入れてみると、「子どもたちが優しく接してくれました」と鎌倉さん。
「Aちゃんを自分たちの友達として認識しています。Aちゃんに寄って行ってそっと触れたりする様子を見ると、何とも言えない、温かい気持ちになりますね」
お友達との交流はAちゃんにも刺激になっています。「言葉は出ないけれど、意思表示をしたり、寝返りができるようになった」と話していました。
Aちゃんの園生活は順調ですが、今の看護師の勤務は 3 月末まで。4 月以降の看護師探しに苦労しています。
「看護師さんが見つからない場合は、近くの病院の看護師さんに経管栄養の時間のみ来てもらい、その他の時間は保育士がそばで見守ることになると思います。体調変化に気づくのが遅れるのではと不安です」。医療的ケア児の受け入れの難しい課題も打ち明けました。
【就園=保育園への入園?】「仕事復帰したい」「集団生活を経験させたい」…ニーズに合わせて最善の道を考えます
医療的ケア児の就園、通園をスムーズに進めるために、どんな支援が必要なのでしょうか。セミナーでは佐賀県医療的ケア児支援センターのセンター長・荒牧順子さんが取り組みを紹介しました。
荒牧さんは看護師で、産婦人科や佐賀大学病院のNICU(新生児集中治療室)、小児科病棟などで働いてきました。現在は株式会社「ドアーズ」の代表取締役として、医療的ケア児支援センターの委託事業のほか、医療的ケア児らに対応する児童発達支援、放課後等デイサービスの運営など、幅広く活動しています。
荒牧さんが医療的ケア児の支援を始めたきっかけは、NICUから小児科病棟に移ったことでした。
「NICU時代は赤ちゃんが退院しておうちに帰れることをハッピーだと思っていました。その後、小児科病棟でご家族に再会した時に、10 人中 10 人に『退院後、暗闇の底に突き落とされたよ』と言われて、ショックを受けました。人工呼吸器を着けた子どもは日中の預け先がなく、24 時間のケアでご家族が疲弊していくことを知ったんです」
「私はNICUで退院支援を一生懸命頑張ってきましたが、『医療』しか見えていなかった」と、荒牧さん。「退院後に必要な行政手続き、就園、就学、福祉サービスなどの壁を、家族は手探りで乗り越えなければならない。この状況を変えたいと思いました」
佐賀県の医療的ケア児支援センターで特徴的なのは、専門アドバイザーがいることです。全国的にも珍しい取り組みです。
- 就園支援コーディネーター
- 就学支援アドバイザー
- 福祉用具アドバイザー
- 相談支援アドバイザー
- 防災アドバイザー
医療的ケア児の就園は、就園支援コーディネーターが担当します。スムーズな就園のポイントの一つが「早期からの情報共有・就園準備」です。
「看護師の確保や補助金の手配、受け入れの園の調整などが間に合わないことを理由に、医療的ケア児の親が職場復帰したい時に復帰できない現状があります。自治体の窓口で『医療的ケア児に対応できる園はありません』『まだ体制が整っていません』『自分たちで入園したい園を探してください』と言われ、心が折れて退職を選ぶ人も多かったのではないでしょうか」
荒牧さんは医療的ケア児がNICUを退院した時点で、保護者に職場復帰の希望があるかどうかを把握し、就園を予測して準備をしておくことを提案しました。
「就園させたい」という保護者のニーズがどこにあるのかの確認も必要だと、荒牧さんは説明しました。
「『就園=保育園の入園』と考えられがちですが、『仕事にフル復帰したい』と『インクルーシブな集団生活を経験させたい』では対応が異なります。保育園だけが選択肢ではなく、児童発達支援に預けて復帰する方法もありますし、保育園と児童発達支援との並行通園という方法もあります」
荒牧さんは「保育園は療育の場所ではないので、子どものリハビリや療育環境をどうするかという問題もあります。お子さんにとっての最善の利益を保護者と検討していくことが大事です」と語り掛けました。
「わが子をなぜ就園させたいのか」「就園後、どんな生活をイメージしているのか」などを家庭で話し合い、担当者に伝えて、よりよい方向を探っていく必要があります。
【スムーズな就園のために必要なことは?】早めに問い合わせて準備を
医療的ケア児の就園相談は、市町村で保育・幼稚園関係の事務を担当する課が窓口となります。高知市ではこども未来部の保育幼稚園課です。
セミナーでは、一般的な受け入れの流れが紹介されました。市町村によって多少の違いがあるそうです。
この図では「 4 月入所の場合」としてスケジュールの目安が示されていますが、相談や問い合わせは「早い方がいい」とのことです。
荒牧さんは、早期の就園支援には「いきなり週 5 日通園を目指さない、スモールステップでの入園を進めていける」「医療的ケアが少ない時間やない時間に園の一時保育や子育てサロンなどを利用し、子どもを知ってもらう機会にする」などのメリットがあると説明しました。
高知県内では、医療的ケア児の就園に関する相談を重症心身障害児者・医療的ケア児等支援センター「きぼうのわ」でも受け付けています。高知県から土佐希望の家医療福祉センターに委託されています。
セミナーでは「きぼうのわ」の医療的ケア児等トータルアドバイザー・林恵さんも登壇。林さんは大杉保育所でのAちゃん受け入れにも携わりました。
「きぼうのわ」では就園支援だけでなく、就園後も園と保護者をつなぐ第三者的立場から関わっているそうです。
「医療的ケア児支援法」では、どこに住んでいても、医療的ケア児が希望する保育所や学校に通い、適切な教育を受けられることを目指しています。保護者の離職防止も含まれています。
行政の担当者や保育園とコミュニケーションを取りながら、お子さんに最も合った「就園」の形をつくっていくために、「早めの就園相談」をぜひ知っておいてください。
【どこに相談?】「きぼうのわ」でも対応しています
「きぼうのわ」は土佐希望の家医療福祉センターに設置されています。電話やメールで連絡でき、医療的ケア児等コーディネーターの派遣調整や、支援機関などとの連絡調整を行っています。
【重症心身障害児者・医療的ケア児等支援センターきぼうのわ】
- 住所:高知県南国市小籠 107 土佐希望の家医療福祉センター内
- 電話:088-802-8250
- メール:kibounowa@tosakibou.jp
- ウェブサイト:https://kibounowa.or.jp/
保育所での医療的ケア児の支援に関するガイドラインは高知県幼保支援課のウェブサイトからダウンロードできます。こちらから