親が子どものお尻を触ったらなぜいけない?「変なおじさんについていっちゃダメ」では性被害は防げない?|「おうち性教育はじめます」の著者・村瀬幸浩さんが「性の学び」を語りました
「おうち性教育」という言葉を聞いたことがありますか?性教育は今、幼いうちから家庭で始めようと呼び掛けられています。
家庭での性教育について、漫画を取り入れて解説した「おうち性教育はじめます」の著者・村瀬幸浩さんが高知市で「性の学び」について講演しました。
村瀬さんは「かわいいからと言って、親がわが子のお尻を触ってはいけない」「『変なおじさんについていっちゃダメ』では子どもへの性被害は防げない」と語りました。どういうことでしょうか?
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今回の講演会は「令和 5 年度犯罪被害者支援・女性の人権講演会」として、こうち男女共同参画社会づくり財団、認定NPO法人こうち被害者支援センターが主催。2024 年 3 月 3 日に高知市本町 5 丁目の高知会館で開かれました。
講師の村瀬さんは 1941 年、名古屋市生まれ。東京教育大学(今の筑波大学)を卒業後、高校の保健体育教諭を 25 年間務めました。高校では総合学習として「人間と性」の授業を担当しました。
退職後は一橋大学や津田塾大学などでセクソロジー(性科学)を教えながら、性教育の講演や執筆活動を続けています。
2020 年にフクチマミさんとの共著で出版された「おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方」が家庭で性教育を始める際の入門書として、親世代に親しまれています。
2022 年 12 月には続編として「おうち性教育はじめます 思春期と家族編」が出版されました。
現在、83 歳の村瀬さんが高校で性教育を始めたきっかけとは?講演は妻との関係性の話から始まりました
月経はなぜ起こる?なぜつらい?妻を理解するために勉強を始めました
村瀬さんが性教育を始めたきっかけは結婚後、妻との関係性に悩んだことでした。
「結婚して 3 年、性に対する互いの無理解がつらかった。自分の思う通りにできない、相手とすれ違う。妻は月経がつらいタイプでしたが、私は男子校育ちで性の学びが一切なかったんですね」
月経がなぜ起こるのか。女性がなぜつらいのか。「考える能力もなかった」という村瀬さんは「これはまずい…」と勉強を始めました。
「勉強して、ホルモンの変化を知って、そういうことかと。これは妻にとってずいぶん腹立たしいことをしてしまった、これじゃパートナーなんて言えないと感じました」
妻に謝った村瀬さん。妻にも「あなたも男性について無知だから、腹の立つことがたくさんあった」と伝えました。妻は「私は男性のことを知りません」と受け入れ、互いに勉強するようになったそうです。
日本では現在、条件は厳しいものの性別変更が可能になり、同性同士のパートナーシップ制度を導入する自治体も増えました。
「学校教育でトランスジェンダーが教えられ始め、政治上でも大きな争点になっています。そういう時代を皆さんも、皆さんの子どもも生きている。性に関する常識がかなり変わり、さらに変わっていくことを意識しないと、時代から取り残されます」
「かわいいから」とわが子のお尻を触る…プライベートパーツを教えるために意識を変えて
「性犯罪」「性被害」と聞くと、「暗がりや茂みで」「人目のつかない場所で」というイメージがありませんか?被害を防ぐため、私たち親世代が子どもの頃は「変なおじさんについていっちゃダメ」と言われてきました。
実際には、性加害者で多いのは、見知らぬ「変なおじさん」ではありません。「子どもへの性被害の現状では、近親者が多い。実親、兄、親戚のおじさん、母親の交際相手が多いんです」
近親者だけでなく、「教師、保育士ら子どもを預かり、子どもと密着する大人による性加害もある」と村瀬さん。「子どもは被害を受けても、訴えられない」と語りました。その原因が「グルーミング」です。
グルーミングは「手なずけ」「言いくるめ」と言われます。村瀬さんは「毛づくろいという意味です。『かわいいね』から始まる」と説明しました。
「性加害者は暴力を振るわず、子どもをそばへ寄せたり、ハグしたりします。時間をかけて手なずけて、言うことを聞かせます」
グルーミングをされると、子どもは自分が被害を受けていると認識できず、むしろ「かわいがられた」と感じます。
こうした実態を背景に、村瀬さんは「親であっても、子どものプライベートパーツを触るのは要注意」と呼びかけています。
プライベートパーツは口、胸、性器、お尻で、プライベートゾーンとも呼ばれます。過去には「母親が自分の子のお尻を触って、なぜいけないのか」とクレームを受けたそうです。
「母親に『かわいい』とお尻を触られて、子どもは喜ぶかもしれないけれど、嫌かもしれない。嫌だったとしても、『お母さんが楽しそうだから』と子どもは受け入れてしまいます。子どもから警戒心を奪い、『自分も人のお尻を触っていい』と思わせてしまいます」
「プライベートパーツはその人だけが自分で触っていい場所」「誰かが触ってきたら拒絶していいし、相手を非難する言葉を言ってもいいくらい大事な場所」という大事なことを教えるため、「親しい間柄でも、触れる前には同意を得ましょう」。
「子どもが病気の時に着替えさせますね。そんな時でも『着替えるからパンツを脱がせるよ』と一声かけてほしいと思います」
ちなみに、性加害者の動機は「性的欲求よりも支配欲求」とのこと。
「性犯罪や性の問題を愛と結び付けるのは間違いで、動機は支配です。子どもや女性を自分の思うように扱って『俺は偉い』『俺には価値がある』と思いたいんです」
「ジャニー喜多川氏を『小児性愛者』『同性愛者』と捉えるのは間違ってるし、(性被害に遭った女性に対して投げ掛けられる)『そんな短いスカートを履いているから襲われた』も嘘です」
性教育は、子どもが何歳の時にどこまで話す?思春期までは「タッチング」を大事に
「おうち性教育」が知られるようになり、村瀬さんはこんな質問をよく受けています。
「性教育は、何歳の子どもに何を、どこまで話したらいいんですか?」
私たち親が気になる点ですが、「まず、子どもが聞きたいかどうか。それを把握せずにやっちゃうと、とんちんかんなことになります」。
教育とは「教える」と「育てる」。大人は「教える」に頭が行き、「何を、いつまでに」と考えがちとのこと。
村瀬さんがおすすめするのが「育てる」です。
「子どもに尋ねて、質問させて対応していくのがいいですよ。『あなたはどう思う?』『お母さんも知らなかったわ』『一緒に調べてみよう』だと、とても和やかになります」
性の話や命の誕生について話す際のポイントは「淡々と」。
「正常分娩、いわゆる頭位経膣分娩を感動物語のように語るのはやめた方がいい。淡々と、です」
「帝王切開に対して『おなかを痛めて産んでいない』とか『帝王切開で生まれた子どもは頑張れない』なんて言うのは、もうやめましょう」
思春期を迎える前の子どもを育てる親には、わが子への「タッチング」をおすすめしています。
「親が子どもを抱きしめたり、ほおずりしたり。親子での触れ合いが、子どもの生きる実感、生きる肯定感を高めます。人間が生きる上でとても大切です」
「人は自分が愛されたように、人を愛します。生まれつき愛情深い子どもも、生まれつき暴力的な子どももいません。親から大事にされる体験が、生涯のセクシュアリティー、性の体験へとつながります」
思春期以降の子どもには「リスニング」で精神的な触れ合いを
思春期までの子どもにはタッチングを。では、思春期以降は?
「リスニングです。親が子どもの話をちゃんと聞く。ちゃんと聞いてもらった経験が大事にされた経験になり、愛された実感になります」
思春期では、親子の会話は減りがち。親は自分から子どもに話す「トーキング」を愛だと思ってしまうそうですが、「逆効果です。教師もそうですが、子どもの話を 10 分でもいいから聞いてあげて」
リスニングは夫婦関係でも大事、と村瀬さん。「パートナーと話をしないということは、相手に興味がないということです」
思春期には、子どもは「性欲」に出合います。
「生物学的には男性の方が性的衝動に近い欲求を持っています。『AVを見るな』とは、せんないこと。問題はどう見るかで、メディアリテラシーを教える必要があります」
AVについては「相手の名前も生い立ちも人間関係も抜きで、行為を見せる。女性は何をされてもいいという男性本位の、現実にはない妄想でお金を取っている」と村瀬さん。
「知らないまま見ると、性行為のイメージとして子どもに刷り込まれ、性加害のトリガーになる可能性がある。不同意性交罪が成立する内容であることを、大人がちゃんと教えないといけません」
女性の性については「(外性器の図が)教科書では横断面だけで正面から描かれていない」と問題提起しました。
日本では「性」はネガティブなものと受け取られがちです。さらに、女性は自分の体の構造や性欲について、科学的に教えてもらえる機会がありません。
村瀬さんは「日本の文化は性をいやらしい、汚らしい、恥ずかしいというふうに扱ってきた」と語り、ポジティブなものだと繰り返し訴えました。
「女性には、性の問題を自分の問題として大事にして学び、受け身ではなく、自分の性の主体者になってほしい」
「欲望が高まったから、誰かを相手を探すなんて性犯罪の始まりですし、結婚したからといって妻は道具ではない。自分の欲望を自分で管理できるのが大人です」
性教育はエロい話?真剣に話したら、子どもはちゃんと聞いてくれます
講演後の質問コーナーで、「生徒たちが性の話を面白半分に言っている」という話になりました。
村瀬さんが紹介したのはある中学校の事例。性教育と聞いて「エロい話」と騒ぐ生徒たちに、月経や精通の話を丁寧にしたら、「5 分くらいで、『エロい話』は消えました」。翌日から、騒ぐことはなくなったそうです。
「大人が真剣に話したら、子どもたちはちゃんと聞きます。だから、大人は性教育を本気で勉強した方がいい。居心地のいい家庭、教室、職場につながるという気持ちで、ぜひ取り組んでください」
「わが子がかわいいからと言って、同意なくお尻を触らないで」という呼び掛けには、はっとさせられました。
性教育を伝える機会は日常生活にもたくさんありそうですが、親の私たちは今の子どものたちのような性教育を受けていません。恥ずかしがらずに学び、意識から変えていかなければとあらためて思いました。
性加害の実態について、講演では精神保健福祉士で社会福祉士の斉藤章佳さんの著書などが紹介されました。ココハレでも紹介しています。
「男の子だから我慢しなさい」「男なら負けるな」の声掛けは大丈夫?|「男尊女卑依存症社会」の著者・斉藤章佳さんが「男性の生きづらさ」「男らしさの病」について語りました