「子どもが機嫌よく過ごしてくれればそれでいい」は親目線だった…「自閉的傾向」のあるわが子への新たな関わり方|発達に特性のある人を理解するには?保護者、支援者が考えました
世界自閉症啓発デーイベント「こせいにあわせたくふう展Ⅱ」で「子育て応援トークショー」が開かれました
自閉スペクトラム症など発達に特性のある人への理解を深めるイベント「こせいにあわせたくふう展Ⅱ」が高知市内で開かれました。
4 月 2 日の「世界自閉症啓発デー」に合わせたイベントで、保護者や支援者が企画。家庭や学校で取り入れられている視覚支援グッズやストレス解消グッズなどが紹介されました。
「子育て応援トークショー」では、障害のある子どもを育てるお父さん、お母さんと高知大学教育学部の教授らが語り合いました。
「わが子のかんしゃくに悩まされてきた」というお父さん、お母さんが語ったのが「『子どもが機嫌よく、楽しく過ごしてくれさえしたら、ほかには何も求めない』という私たちの考えが間違っていた」。どういうことでしょうか。
子どもを理解していく上で大切にしたいポイントを紹介します。
目次
「こせいにあわせたくふう展」とは?アーリーバードプラスを受講した保護者が2023年に始めました
「こせいにあわせたくふう展」は 2023 年に始まったイベントです。企画しているのは、イギリス自閉症協会が開発したプログラム「アーリーバードプラス」を受講した保護者や支援者の皆さんです。
アーリーバードプラスでは、発達障害の特性を理解し、よりよいコミュニケーションを図り、問題行動を未然に防いだり、対処したりする方法が学べます。高知県内では「TOMOはうす」が 2019 年から講習を続けています。
2 回目となる今回は 2024 年 4 月 7 日、高知市帯屋町 2 丁目の帯屋町チャコールで開かれました。1 階には家庭や学校で実際に使われている視覚支援グッズやストレス解消グッズ、デジタル機器が展示されました。
このほか、特性のある子どもたちの作品も展示されました。訪れた人は、豊かな表現力や、精巧なできばえをじっくり眺めていました。
長男のかんしゃくに悩まされた服部さん夫妻。「機嫌さえよかったら」と思い続けてきました
「子育て応援トークショー」は「こせいにあわせたくふう展」では初の試み。服部雄一郎さん、麻子さん夫妻と、高知大学教育学部教授の是永かな子さん、松本秀彦さんが登場しました。
司会はTOMOはうす代表の久武夕希子さん。「こせにあわせたくふう展」の実行委員長・浜田聖一郎さんも加わりました。
服部雄一郎さん、麻子さん夫妻には 3 人の子どもがいます。第 1 子の長男は 18 歳。「染色体異常による知的障害」と診断されています。
長男はこの春、特別支援学校を卒業し、作業所で働いています。トークショーは長男の子育ての振り返りから始まりました。
長男は生後すぐから、「泣きやまない」「寝てくれない」という赤ちゃんでした。1 歳 6 カ月、2 歳の健診に連れて行った夫妻は「どう見ても周りの子と違う」と感じたそう。保健師さんのすすめで、療育教室に通い始めました。
わが子の障害を受け入れるのは「特に抵抗がなかった」と雄一郎さん。「うちは障害受容はポジティブ。逆に言うと、受け入れないと成り立たないくらい苦労していました」
2 人が最も苦労したのが、長男のかんしゃくです。
泣く、わめく、暴れる、奇声を発する、ドアを強く閉める、物を壊す…。
「とにかく機嫌が悪い子でした。機嫌さえいい子でいてくれたら、他には何も求めないと思っていました」
「振り返ると、私たちはこの頃からずっと、ボタンの掛け違いをしてきました」
わが子には言葉を尽くして説明するのが、親の役割だと思っていました
長男が 2 歳頃から、雄一郎さんと麻子さんは専門家を訪ねては、かんしゃくについて相談してきました。
専門家からかけられる言葉は「親御さんがゆったり構えて」「泣き疲れたら寝ますよ」「外で頑張っている分、家の中では素の自分を出せているんですよ」。「どれも一理ある」と受け止めましたが、根本的な解決には結び付きませんでした。
長男は療育や学校など家の外ではかんしゃくを起こさないタイプだったので、「親御さんの関わりが…と思われていたかも」と麻子さん。
雄一郎さんは「長男が生まれて 10 年くらいはやる気満々で、さまざまな療法を試すなど、希望に満ちあふれていました」。しかし、次第に、無力感から気持ちが離れていきました。
長男は中学から寄宿舎のある特別支援学校に進学しました。週末だけの帰宅になり、「物理的に平穏な時間が増え、気持ちの余裕を持てるようになった」そうです。
その頃、麻子さんは、「ペアレントトレーニング(ペアトレ)」を受講します。ペアトレは子どもの困った行動を理解し、褒めて育てるこつを学ぶ講座です。
ペアトレをきっかけにTOMOはうすとつながりのできた麻子さんは、代表の久武さんから、長男に自閉スペクトラム症の特性があるのではと指摘されました。
「長男はこれまで何度か『自閉的傾向がある』と言われていました。でも、正式な診断までは出ていなくて。支援者の皆さんにも遠慮があったのか、自閉的傾向についてそれ以上突っ込んで言われることはありませんでした」
久武さんのすすめで、雄一郎さんと麻子さんはアーリーバードプラスを受講してみることに。久武さんとのやり取りで、2 人は衝撃を受けました。
久武さん:自閉症の子どもに長々言うのは駄目。2 人は語彙(ごい)が豊富で、お話が上手でしょう?そのまま息子さんに長々としゃべってませんか?
麻子さん:言葉を少なく?!うそ?!
雄一郎さん:子どもに言葉を尽くして説明するのが親の役割だと思ってました…。
長男を思って考え、悩み、懸命に向き合い、話し続けてきたことが、長男にとっては逆効果だったのです。
雄一郎さんと麻子さんは長男への関わり方を見直し、かんしゃくには「反応しない」という方法を取り始めました。
「とても放置できない暴れ方だったので、スルーしていいのか悩みました。『スルーするのは教育上よくないのでは』とも思いました」と雄一郎さん。効果はすぐに現れ、長男のかんしゃくは目に見えて減りました。
「親が反応することが、長男のエネルギー源になっていました」と麻子さん。「かんしゃくを起こして、親が反応することが無意識の手応えになっているのだから、その場から離れるのがいいんだと理解できました」
「わが子の障害を受け入れる」とは?子どもの視点に立った「理解」が必要でした
長男のかんしゃくが減ると、自然と親子の会話が増えました。「魚と歌が好き」という長男は最近、YouTubeチャンネル「魚と音楽 K’s Channel」を開設。魚をさばいたり、親子でセッションしたりしています。
これまでは「トラブルが起きないように、何ごともないようにふたをして、常に緊張して…」という日々だった服部家。「アーリーバードプラスを受けて、安定して過ごせる見通しができると、気持ちに余裕ができ、親子の会話が増えました」と雄一郎さんは語りました。
「障害児の親として過ごしてきて、息子がパブリックな発信をするなんて想像できませんでした。彼自身は何も変わっていないのに、彼のいい面をピックアップして発信できています。親子の手触りのある思い出を残せています」
18 年の子育てを通して、雄一郎さんと麻子さんが「違っていた」と感じているのが「障害の受容」です。
「自分たちの子どもには障害がある」と受け入れるのは「親の感情」。2 人は長男の障害を受け入れていましたが、「理解はできていなかった」と繰り返しました。
「(長男にとって)『褒める』とは、私たちの言葉がけではなかった。長男の歌を聴いたり、好きなことに共感して一緒にやることが彼にとっての『褒める』でした」
「私たちは彼を受け入れていたけれど、表面的だった。本当に彼の視点に立った理解はできていなかったし、自分たちが何に困っているのか、困りごとの土台にアプローチできていませんでした」
「知的障害」と診断を受けている状況で、保護者自身が発達の特性に気づき、アプローチしていくのは「難しい」という話にもなりました。
トークショーの後、麻子さんは「個別のケースは本には書いてなくて、『これは当てはまるけど、これは当てはまらない』と迷いました。たくさんのケースに関わってきた専門家の見立てが大切だし、アドバイスを求めてほしい」と語りました。
「子どもを変える」ではなく、「親が変わる」。比べずに応援を
「子どもを理解する」とはどういうことでしょうか。服部さんの話を聞いた是永さんは、こう語りました。
「『子どもの機嫌が悪くさえなければいい』というのは、実は親目線なんです。わが子を理解するには、親自身が変わらないといけない。軸を子どもに置いてほしいと思います」
「でも、子どもの全てを理解することなんてできませんし、そもそも不遜ですよね。『現時点ではこうだ』と仮に理解していってほしいです」
大学で発達障害のある学生を支援している松本さんは、「心が健康であることが大事」と語りました。
「親御さんとの仲がよくない、家に帰りたくないという学生から、『親はこうなってほしいと言うけど、僕はこうなりたくない』という話を聞きます。学生たちはこれまでにいろんな思いをしていきているし、育ちの中で複雑に絡まり合った心の状態です」
心を健康に育てていくためのキーワードとして、トークショーで挙がったのが「比べない」。他の子どもと比べないだけでなく、本人の中でも比べないことが大事だそう。
キーワードを聞いた雄一郎さんは「長男を他の子とは比べなかったけれど、『学校ではできるのに、なんで家ではできないの?』と思い、イライラしていました」。
松本さんは「発達障害の特性はでこぼこが大きいですから、理解するのはやっぱり難しい」。他人と比べなくても、「昨日はできたのに、今日はできない」など、本人の中で比べてしまいがちです。
「皆さんには子どもたちを応援してほしいですし、信じることが大事なのかなと思います」
トークショーの会場は 30 人の定員が満席。別室でも中継され、発達障害への関心の高さが伺えました。
トークで何度も出てきたのが「親目線」「子どもの視点」という言葉。子どもを変えようとするのではなく、親が子どもの見方を変えていくことが、難しいですが、大事ですね。
是永さんによると、「長所」「短所」という言葉を「得意なところ」「頑張っているところ」と言い換えてみると、見方や捉え方が変わるそうです。小さな一歩から、私も始めてみようと思います。
ココハレでは「発達障害」で、専門家へのインタビューなどを紹介しています。
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