子どもの吃音…本人と吃音の話をするのはNG?「気づかないふり」ではなく「オープンに話す時代」です|吃音とどう付き合う?吃音ドクター・菊池良和さんが語りました
「吃音(きつおん)」は話し言葉がスムーズに出ない発話障害の一つ。言葉が急速に発達する幼児期にはおよそ 20 人に 1 人の割合でみられ、大人になってもおよそ 100 人に 1 人は残ると言われています。
吃音との付き合い方や吃音のある子どもへの支援を考える講演会が高知リハビリテーション専門職大学(土佐市)で開かれ、「吃音ドクター」で知られる医師の菊池良和さんが登場しました。
以前は「吃音のある子どもに吃音の話をするのはNG」「親は気づかないふりをすべき」と言われましたが、今は「吃音について親子でオープンに話す時代」だそうです。菊池さんのお話から紹介します。
目次
科学的知見に基づいた吃音の知識を…著書やSNS、YouTubeでも発信しています
菊池さんは九州大学病院の耳鼻咽喉・頭頸部外科の医師。「吃音外来」で幼児から大人まで、吃音で困っている人を診療しています。
菊池さん自身にも吃音があり、科学的知見に基づいた吃音の知識を広めようと、著書やSNS、YouTubeなどでも積極的に発信を続けています。子育て中の保護者に向けて書かれた著書が「子どもの吃音 ママ応援BOOK」(学苑社)です。
高知リハビリテーション専門職大学では、吃音のある人を支える言語聴覚士を養成しています。菊池さんは客員教授を務めており、2025 年 12 月 7 日に「吃音ドクターと考える吃音との付き合い方」と題し、講演しました。
ココハレでは 2022 年に高知県立療育福祉センター主催のオンライン講演で菊池さんを取材。吃音の基礎知識などを紹介しています。
吃音は話す時のタイミングが合わない障害。「どもる権利」があります|「発達障害を知ろう⑧」吃音ドクター・菊池良和先生が講演しました

吃音は話し始める時に起こる「タイミング障害」です
菊池さんはまず、中学 1 年の男の子の動画を見せてくれました。
男の子に絵を見せて、菊池さんが「誰が何をしているところですか?」と尋ねます。答えは「トラがほえているところ」ですが、男の子は「トラが……」で詰まり、言葉が出てくるのにかなり時間がかかりました。
文章を見せて「自分のタイミングで読んでみて」と伝えても、言葉が出てくるまで時間がかかります。ですが、菊池さんと一緒に朗読すると、別人のように読めました。
吃音には不思議な特徴があります。菊池さんが挙げたのが次の三つです。
- 2 人で一緒に読むと、どもらない。
- メトロノームに合わせて朗読すると、どもらない。
- 歌ではどもらない。
吃音は話し始める時に起こる「内的タイミング障害」と言われます。菊池さんは「吃音が出るのは、タイミングが合ってない時と怖い時」と説明しました。
吃音は緊張し過ぎると増えるので、「緊張が吃音の主な原因」と言われてきましたが、実はリラックスしている時にも増えるそうです。
「ほどよい緊張状態」の時が一番出ないそうで、診察を受ける際には流ちょうにしゃべる子どももいます。
このため、保護者にとっては残念なミスマッチも起こってしまいます。講演ではある保護者の声が紹介されました。

菊池さんは「親御さんは『今、吃音が出てないから大丈夫』ではなく、これからどんなことが起きて、どう対処すればいいかが知りたい」と保護者の気持ちを代弁しました。
親にできる環境調整…「つかえてもさえぎらない」「話し方のアドバイスはしない」
吃音の診療にはガイドラインがあります。「発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト」のウェブサイトで、幼児向けの臨床ガイドラインが公開されています。プロジェクトには菊池さんも参加しています。
幼児向けのガイドラインでは「リッカムプログラム」と呼ばれる新しい行動療法などが紹介されています。菊池さんが講演で紹介したのは「環境調整」。その効果を「リッカムプログラムと比べても十分同等と言われて始めている」と語りました。
「親への環境調整」として、保護者向けのリーフレットで紹介されているのがこちら。
- つかえてもさえぎらずに最後まで聞きましょう。
- ゆっくりお子さんの話を聞く時間を持ちましょう。
- 質問の数を減らしましょう。
- 話し方のアドバイスはしないようにしましょう。
『おこさんがどもっていると感じたら』保護者向けリーフレットより
菊池さんが保護者に説明すると、「えっ?これが治療法ですか?」「もっと具体的なアプローチはないんですか?」と驚かれるそうです。
「親御さんには『お子さんなくて親御さんが変わるんですよ』と伝えています」と菊池さん。

幼児向けガイドラインのページには園の先生向けの解説資料も公開されています。私たち保護者が読んでも、吃音についての理解が深まります。
音読ができない…「重度の吃音は改善できます」
吃音のある人への支援として環境調整に取り組む理由について、菊池さんは「吃音の三つの困難」というモデルを紹介しました。1960 年頃、ウェンデル・ジョンソンが考えたモデルで「ジョンソンの吃音立方体」とも呼ばれます。
吃音のある人が抱える困難の大きさを、立方体の体積で表します。
- 横軸(横の辺)…話し手の吃音の程度
- 縦軸(縦の辺):話し手の心理的反応(不安、恐怖)
- 奥行き:聞き手の反応
吃音の支援では「吃音の程度」のみを考える場合が多いそうですが、「本人に吃音に対する不安や恐怖があるかどうかが重要」と菊池さん。
本人の不安や恐怖を和らげ、さらに聞き手の反応を改善すると、縦軸と奥行きが短くなり、体積は小さくなります。つまり、吃音の程度は変わらなくても、困難さは軽減します。

吃音の支援には、本人が何を苦手としているか、どんなことに困っているかを把握することが大切です。
例えば、授業での音読。「吃音があると、音読が難しい」というイメージが漠然とありますが、ある研究では「音読に困っている」と答えた子どもは半数程度でした。
「半数は音読で困っていませんが、小学校で音読が困難だと、中高でも続く傾向がある」とのこと。菊池さんが小学 3 年生の男の子の動画で説明しました。
男の子は教科書を持って音読することができず、宿題の音読を免除されていました。診察室で音読をするようにお願いすると、随伴症状で体が勝手に動き、なかなか読めずに涙を流しました。
「『しゃべらなきゃ』と力を入れているけれど、タイミングの問題ではないか」と考えた菊池さん。メトロノームのテンポを 80 に設定し、「お・し・り・た・ん・て・い」と一文字ずつ区切って読む練習をしました。
はじめは 150 字を読むのに 4 分かかっていましたが、練習すると 50 秒に短縮されました。
家でもメトロノームに合わせて練習してもらうと、2 回目の診察では教科書を持って音読できるようになりました。
「吃音はまだありますが、力を入れずにしゃべれるようになりました。重度の吃音は変えられます」
吃音を「まねされる」「笑われる」…本人が「嫌だ」と思っていたら、いじめです
吃音のある子どもの悩みの一つが周囲との関係です。友達に吃音をまねされたり、笑われたり、「なんでそんな話し方をするの?」と聞かれたり。
「自分には吃音があるから仕方ない」と思っている子どもは多いそうで、菊池さんは診察で子どもにこう尋ねています。


「『いじめ』とはあいまいな言葉ですが、いじめ防止対策推進法では、いじめは『児童等が心身の苦痛を感じているもの』と定義されています。まねされたり、笑われたりして、本人が『嫌だ』と思っていたら、いじめです」
2024 年に施行された改正障害者差別解消法では「合理的配慮」についても定められました。吃音があるため困っている場面で手助けをしないことは「差別」とされています。
合理的配慮について、菊池さんは以前、ある大学生の話をXに投稿しました。
吃音があるために不登校になる、「吃音が周囲に知られないように」と諦めることは、大学生になっても起こるそうです。
「吃音のある人は、障害者手帳を持っていなくても障害者差別解消法の対象となりますが、『吃音がある』と自分から伝えないと、合理的配慮は得られません」
菊池さんは吃音支援の最終目標を「選択肢のある人生」と考えています。

親の役割…「気づかないふり」→「困っていることがあったら教えてね」
「吃音のある自分を語れる場があることが、選択肢のある人生につながる」と語った菊池さん。「お子さんの吃音に気づかないふりをする親御さんがいますが、今は吃音の話を本人とオープンに話す時代」とも語りました。
この言葉を聞き、会場から質問が上がりました。小学 1 年生のお母さんです。

菊池さんは自分の体験を語りました。
「私にもずっと吃音があり、小学 1、2 年生で困っていました。3、4 年生では困らなかったのですが、5 年生でまたすごく困った。でも、親が吃音について話さないので、自分からは何も言えませんでした」
「吃音のある子どもに吃音の話をするのはよくない」と言われてきたため、吃音に気づかないふりをする保護者はまだまだいるそうです。
「親が言わなければ、子どもは 1 人で悩みを抱えることになる」と菊池さん。
「お子さんに『まねされてない?』『笑われてない?』と聞いてみてください。嫌な思いをしていなければ、それでいい。『困っていることがあったら教えてね』と伝えてあげてください」
菊池さんは「吃音は“発話の多様性”の一つ」「吃音者にはどもる権利がある」と常々語っています。「吃音のある人を頑張らせる」のではなく、「吃音のある人の聞き手である周囲が吃音を理解し、変わる」ことが大事だと学びました。
お子さんの吃音に悩んでいませんか?高知県内では、当事者や家族、支援者らが「高知言友会」で活動しています。
吃音のある子どもや保護者…悩んでいる全ての人に情報を届けたい|高知言友会がリーフレットで吃音の知識、周囲に知っておいてほしいことを紹介しています

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