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吃音は話す時のタイミングが合わない障害。「どもる権利」があります|「発達障害を知ろう⑧」吃音ドクター・菊池良和先生が講演しました

吃音は話す時のタイミングが合わない障害。「どもる権利」があります|「発達障害を知ろう⑧」吃音ドクター・菊池良和先生が講演しました

吃音の原因は「親の育て方」ではありません。「まね」「指摘」「笑い」のいじめ対策を行い、味方をつくりましょう

話す時に言葉の始めの音を繰り返したり、詰まったり、音を引き伸ばしたりする「吃音(きつおん)」。話す時のタイミングが合わない障害で、発達障害の一つとして発達障害者支援法に含まれています。

吃音がある人への理解と支援をテーマにしたオンライン講演が行われ、「吃音ドクター」として知られる九州大学病院耳鼻咽喉・頭頸(とうけい)外科の菊池良和さんが登場しました。

吃音の原因は「親の育て方ではない」と菊池さん。親の役割として、子どもの吃音を周囲に説明し、子どもの成長に伴って起こる「まね」「指摘」「笑い」のいじめ対策を行い、味方をつくっていくことを挙げました。

菊池さんは九州大学病院で「吃音外来」を担当しています

菊池さんは九州大学病院の耳鼻咽喉・頭頸外科で「吃音外来」を担当。幼児から大人まで、吃音で困っている人に対応しています。

菊池さん自身にも吃音があり、悩んでいた中学 1 年の時に「吃音を診る医師がいないなら自分がなろう」と決めました。2011 年の「ボクは吃音ドクターです。」(毎日新聞社)を皮切りに、「子どもの吃音 ママ応援BOOK」(学苑社)、「吃音の合理的配慮」(学苑社)など 13 冊を出版。科学的知見に基づいた吃音の知識を広めようと、SNSやYouTubeなどでも発信を続けています。

今回の講演「吃音のある方の理解と支援」は 2022 年 6 月 30 日、高知県立療育福祉センター(高知市若草町)の主催で、オンラインで行われました。

菊池さんの講演はオンラインで行われました
菊池さんの講演はオンラインで行われました

吃音の原因の約8割は「体質」。男の子は6割、女の子は8割が自然に回復します

吃音は「どもり」とも言われてきた、話し言葉がスムーズに出ない発話障害の一つです。話し方には次の 3 種類があります。

【吃音の種類】

  • 連発:同じ音を繰り返す(例「な、な、なつやすみ」)
  • 伸発:最初の音を伸ばす(例「なーーつやすみ」)
  • 難発:言葉が出てこない(例「……なつやすみ」)

 

言葉が急速に発達する幼児期にはおよそ 20 人に 1 人の割合で吃音がみられます。

吃音の原因は「親の育て方が悪い」「左利きだから」「精神的な弱さ」などと誤解されてきました。「現在は約 8 割の原因が体質だと言われている」と菊池さん。男の子では 6 割、女の子は 8 割が 3 年以内に自然に回復するという研究結果があり、大人になってもおよそ 100 人に 1 人は吃音が残ると言われています。

「吃音の治る、治らないは遺伝子である程度決まっています。治る子は治るし、治らない子は治らない。親や支援者には、子どもが嫌な思いを積み重ねないようなリスクマネジメントが必要です」

一緒に読むと、どもらない…吃音の不思議な特徴

菊池さんは吃音を「2 語以上で話し始める時のタイミング障害」と説明します。緊張が吃音の主な原因だと誤解されていますが、「ほどよい緊張の時は一番吃音が出ない」そう。「しゃべってどもることが怖い」と感じている時、反対に「家だからうまくしゃべらなくていいや」と思っている時に増えていきます。

タイミングの障害なので、タイミングが合えばスムーズに話せます。「2 人で一緒に文章を読むと、どもらない」「メトロノームに合わせて朗読すると、どもらない」「伴奏に合わせて歌うと、どもらない」など、不思議な特徴があり、菊池さんの吃音外来では、子どもに吃音のメカニズムを伝える際に用いています。

吃音にはさまざまな言語療法がありますが、「流ちょうに話した時に褒めるだけでも十分に吃音支援になる」と菊池さん。保育園の劇のせりふを繰り返し練習して覚えるなど、反復練習でも軽減することができます。

吃音はタイミング障害。褒めるだけでも十分に支援になります
吃音はタイミング障害。褒めるだけでも十分に支援になります

吃音を子どもに教えていいの?オープンにしていいの?

講演では、菊池さんの吃音外来で診察を受けた年中の男の子とのやりとりを映像で見ました。

菊池さん:話し方のまねされる?

男の子:1人はまねしなくなったけど、違う人が(まねする)。

菊池さん:(まねされることを)お母さんに伝えた?先生に「まねされた」って伝えた?

男の子:……(伝えていないようです)

菊池さん:まねされたら、どう言うの?

男の子:何も言わない

菊池さん:どうしてそんな話し方をするのって聞かれる?

男の子:笑われる

菊池さん:そうかー。うれしくないよね

菊池さんは男の子から話を聞き出しながら、吃音をまねされることは「うれしくないことだ」と伝えていきました。

菊池さん:同じ言葉を繰り返すのに何て名前があるか教えたっけ?

男の子:……(「聞いてない」という表情)

菊池さん:「吃音」って言うのね。先生も吃音なんだよ。吃音があるから、ここ(吃音外来)に来るんだよ

吃音を「自分でコントロールできない怖いもの」と捉える子どももいるそうです。「吃音はタイミングが合わないから起こるということを伝えています」
吃音を「自分でコントロールできない怖いもの」と捉える子どももいるそうです。「吃音はタイミングが合わないから起こるということを伝えています」

以前は「吃音を本人に意識させちゃいけない」という考え方でした。保護者の中にも「家庭で吃音の話をしたら傷つけるかもしれない」という考えがありました。

菊池さんは「幼児に『吃音』という言葉を伝えても、何も悪いことは起きない」と話します。むしろオープンにすることで、子どもは診察を受ける意味を理解し、学校などで嫌な経験をした時に話しやすくなるそうです。

吃音のある子どもの保護者には次の四つの対応方法を伝えています。

【吃音のある子どもへの対応方法】

  • つかえてもさえぎらず、最後まで聞きましょう
  • ゆっくりお子さんの話を聞く時間を持ちましょう
  • 質問の数を減らしましょう
  • 「ゆっくり」「深呼吸して」「落ち着いて」など、話し方のアドバイスはしないようにしましょう

「まね」「指摘」「笑い」によるいじめに対応していきましょう

吃音のある子どもがされて嫌なことは「まね」「指摘」「笑い」の三つ。菊池先生は「いじめ対策をきちんとしていかないと、友達ができない、自己表現ができない、やる気が起きないということにつながっていく」と語ります。

講演では、自分の吃音についてクラスメイトに語る小学 2 年生の様子を動画で紹介しました。

【吃音のある小学 2 年生の女の子のメッセージ】

私には吃音があります。わざとじゃないので、絶対にまねしたり、からかったりしないでください。

優しく見守ってくれると、リラックスして話せます。

みんなが応援してくれると、自分の思いを伝えることができます。

 

さらに、吃音のある子どもが小学 1 年から 2 年に進級する際、担任の先生に書いた手紙を紹介しました。

【担任の先生へ】

きつおんというのは、ことばがあっあっあっとなることです。なので、先生は、ともだちに「○○ちゃんはきつおんだから、わらったりまねしたりしないでくださいね」といってください

 

「吃音は隠すのではなく、オープンにして、いじめを予防する時代になった」と菊池さん。「子どもは誰かのまねをするものです。友達が吃音のまねをして笑っているのを見て、『吃音ってからかったり、まねしていいんだ』と誤解することも多いですね」

「子どもは1年1年が勝負」と菊池さん。小学校で気を付けるポイントを語りました
「子どもは1年1年が勝負」と菊池さん。小学校で気を付けるポイントを語りました

こうした誤解を生まないように、先生からクラスメイトに伝えてもらうことが一番いいそうです。「年中児クラスぐらいから、進級するたびに説明してもらうのがいいですね。オープンにすることで周りの理解が進み、いじめにも対応でき、味方も増えていきます」

菊池さんは最後に、「どもる権利」について、参加者に語り掛けました。

「吃音は悪いことではありませんし、吃音が治らないからその子は何もできないというわけではありません」

「どもってもいいですし、吃音者にはどもる権利があります。他の発達障害と同じで、吃音があっても安全に、安心して暮らせる社会を目指して、聞き手側が変わることが大切です」

「吃音があっても安心して暮らせる環境づくりが大切です」
「吃音があっても安心して暮らせる環境づくりが大切です」

吃音について周囲がしっかりと理解すること、そして吃音がある人に対して、まねをしたり、指摘したり、笑ったりするのはいじめであることを、私たち大人が子どもたちにしっかりと伝えていきたいですね。

 

ココハレの「発達障害」では発達障害について専門家に聞く「発達障害を知ろう」をシリーズでお届けしています。

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 3 と年長児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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