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発達障害の子どもの自立に向けて幼児期から身につけたいこと|ルール、マナー、指導を受け入れる、助けを求める…NPO法人「それいゆ」理事長の江口寧子さんが語りました

発達障害の子どもの自立に向けて幼児期から身につけたいこと|ルール、マナー、指導を受け入れる、助けを求める…NPO法人「それいゆ」理事長の江口寧子さんが語りました

子育ての最終目標は「子どもの自立」。親亡き後も幸せに暮らしていけるように、わが子に向き合う毎日です。

発達障害のある子どもを育てる家庭では、成人後の生活を見据えて幼児期から計画していくことがより大事になるそうです。

子どもの自立に向けて親の役割を考える講演が高知市内で行われ、佐賀県のNPO法人「それいゆ」理事長の江口寧子さんが登壇しました。

江口さんは自閉スペクトラム症(ASD)と軽度知的障害のある 33 歳の長女と生活しています。社会のルールやマナー、「衣食住でできることを増やす」「指導を受け入れる」「助けを求める」など、大人になるまでに身につけておきたいことを紹介しました。

 

ココハレ編集部が取材したのは 2026 年 2 月 7 日に高知市立自由民権記念館(高知市桟橋通 4 丁目)で開かれた「発達障害に関する実践報告会&とーく会」。「子ども育ては、ひとりじゃない~日々の悩み、みんなで分かち合いませんか?」をテーマに、高知県立療育福祉センターが主催しました。

江口さんの講演は「発達障害に関する実践報告会&とーく会」で行われました
江口さんの講演は「発達障害に関する実践報告会&とーく会」で行われました

江口さんは佐賀県で発達障害専門の支援機関を運営するNPO法人「それいゆ」の理事長。佐賀県自閉症協会の副会長も務めています。発達障害のある子どもを育てる保護者が「信頼できる相談相手」として話を聴く「ペアレントメンター」としても活動し、高知県では研修を行っています。

家庭では 4 人の子どもの母親です。講演では第 3 子の長女の生い立ちから語りました。

「なんでうちの子が」「産む前に戻りたい」…「障害児の親」を受け入れるまで

江口さんの長女にはASDと軽度知的障害があります。現在は江口さん夫妻と自宅で暮らし、「それいゆ」が運営する成人支援センターの生活介護を通所で利用しています。

楽しみは「小説を書いて投稿する」「ピアノのレッスンに毎週通う」など。自宅では決められた家事もしています。

長女の楽しみの一つが「ピアノの発表会で着るドレス」
長女の楽しみの一つが「ピアノの発表会で着るドレス」

江口さんは長女がまだ赤ちゃんの頃から、「うちの子は何か違う」と感じていました。

「生後 8 カ月で階段を 1 人で登った」から始まり、「名前を呼んでも振り向かない」「何を言っても理解しない」「一人遊びに夢中で親を探さない」。上の 2 人の子との違いが少しずつ増えていきましたが、どこに相談したらいいか分からない日々が続きました。

病弱だった長女は薬を嫌がりました「押さえつけて飲ませて、薬が気管に入って苦しんで。私はこの子をいじめているわけではないのに…と思いました」
病弱だった長女は薬を嫌がりました「押さえつけて飲ませて、薬が気管に入って苦しんで。私はこの子をいじめているわけではないのに…と思いました」

その後、長女が「自閉症」と診断されると、江口さんは周囲から責められました。

「4 人目が生まれる時に本人を実家に預けたからだ」「親の愛情が足りないからだ」などと言われ、自分を責める日々。言葉の遅い長女のために通った言語療法で「自閉症は関わり方で罹患(りかん)するわけではなく、生まれつきの障害です」と聞くまで続きました。

その後、長女の障害を受け入れようとすると、今度は不安と絶望に襲われました。

「『障害児の親である』と受容することがどんなに難しいか、皆さんに理解してほしい」と江口さん。「なんでうちの子が…」「長女を産む前に戻りたい」と思うまで追い詰められました。

お米をばらまく、トイレで遊ぶ、家中に落書き…長女の「問題行動」で気づいたこと

「障害児の親」を受け入れることへの戸惑いなど知るよしもなく、長女は毎日を過ごしました。「いたずらのオンパレードだった」そうで、講演で紹介されたのがこちら。

  • お米をばらまく
  • サラダオイルで床掃除
  • 卵を割って感覚遊び
  • 便こね
  • マジックで家中に落書き
  • トイレの便器で水遊び
  • 屋根に上がってメリーポピンズ

親からすれば悲鳴を上げる行動。命の危険もありましたが、「彼女はとても幸せそうでした」と江口さん。「お母さん、すごいでしょ?」という表情で江口さんを見上げたそうです。

「本人に悪気はないし、悪いことだとは思っていない。やっていることの結果は予測できなくて、落書きは『そこにマジックがあるから描く』。本能のまま、自由に楽しくやってみたかっただけなんですね」

「長女のために立てた家は、長女のいたずらでぼろぼろになりました」
「長女のために立てた家は、長女のいたずらでぼろぼろになりました」

幸せそうな長女の姿から、江口さんは「この子に教えていないんだ」と気づきました。例えばこちら。

  • お米をばらまく→「お米では遊ばない」と教えていない
  • 卵を割って感覚遊び→「卵は食べるもの」と教えていない
  • マジックで落書き→「油性マジックは消えない」と教えていない
  • トイレの便器で水遊び→「トイレは不潔な所」と教えていない

「長女の行動は『問題行動』になりますが、それは私にとって都合が悪いことでした。後始末が大変とか、不潔とか、危険とか。本人にとってはただただ楽しいことだったんです」

長女のいたずらに「お母さんを困らせよう」という気持ちはなく、「ただただ楽しいこと」でした
長女のいたずらに「お母さんを困らせよう」という気持ちはなく、「ただただ楽しいこと」でした

子どもの行動には「これまでの経験の中で学んでいることがある」と江口さんは説明しました。

例えば、親が子どもに「ゲームを我慢させる」と決めたとします。「ゲームをやり過ぎたから、今日は我慢しようね」と伝えて納得してくれたらいいですが、泣かれたり、かんしゃくを起こされたりすると、ついつい「今日はまぁいいか…」と譲ってしまうことも…。

障害のある子どもの場合、親が「この子には障害があるから仕方ない」「そのうちよくなるだろう」と考え、子どもの言いなりになってしまうことがあるそうです。そうすると、子どもは「泣いたり、暴れたりしたら、大人が言うことを聞いてくれる」と誤学習をしてしまいます。

「『そのうちよくなるだろう』は残念ながらありません。『暴れたら大人が言うことを聞いてくれる』で過ごすと、本人が大人になってから困ります」

「勝手に人の物を触らない」「人のバッグを開けない」…ルールは幼児期から

大人として身につけておきたい社会のマナーやルールは「大きくなってから覚えるのは難しい」とのこと。江口さんは幼児期から適切に教えていくことを呼びかけています。例えばこちら。

  • 勝手に人の物を触らない…グループホームでの暮らしに必要
  • 人のバッグを開けない…「ただ見ていただけ」という言い訳は通じない
  • 排せつの自立…特に男の子。家庭や学校以外のトイレもきれいに使えるように
  • 通院する…歯科、耳鼻科など。服薬の習慣もつける
  • 適切なコミュニケーション
  • 偏食への対応
  • 学習の習慣…座って勉強する習慣を小学生になるまでにつける
「家庭内の『仕方ない』は社会では通じません」
「家庭内の『仕方ない』は社会では通じません」

ルールやマナーを教える際のポイントは「大人がやってはいけないことは、幼い頃からさせない」です。

「勝手に人の物を触る」「人のバッグを開ける」という行動は、「自分の物」と「他人の物」の区別を付けるのが難しいために起こります。

家で家族の物を触る分には特に問題はありませんが、「家族の物は触ってもいいけれど、他人の物はダメ」と理解するのは難しいとのこと。このため、「家族も含めて他人の物は触らない」を徹底して教えていきます。

「家庭内での『仕方ない』は、社会では通じません。子どもがお母さんのバッグを開けた時に『まだ小さいから』と許すのではなく、『お母さんのバッグを開けたらダメ』と教えてください。『この子は興味があるから』と大人がやっていることを何でもさせていると、制止が効かなくなります」

「大人がやってはいけないことは、幼い頃からさせない」を徹底させましょう
「大人がやってはいけないことは、幼い頃からさせない」を徹底させましょう

ルールには性に関する行動も含まれます。

「待ち伏せしてしつこく誘う」「相手の体を勝手に触る」「スマホやデジカメで相手を勝手に撮影する」など、「やってはいけない行動」を幼い頃から教えていきます。

「『小さい子と一緒に遊びたくて声をかける』『他人の髪を触るのが好き』という行動をそのままにしておくと、成人男性になっても続きます。親がいくら『この子には障害があって 3 歳くらいなんです』と説明しても、社会では通じません」

「学校生活への適応」ではなく、「成人期の生活の安定」を中心に考えましょう

さらに考えてきたいのが「子どもの自立」です。身の回りのこと、働くこと、余暇を楽しむことなど、多岐にわたります。

江口さんは「お子さんの将来に向けて、今やるべきことを整理してください」と呼びかけました。

例えば、「身辺の自立」に必要なのがこちら。

  • 自分の持ち物を管理する
  • 整理整頓する
  • 使った物を元に戻す
  • ごみを捨てる
  • 食べたものを片付ける
  • ゲームやスマホに依存しないよう、自分で自分をコントロールする
  • 大人になっても楽しめる余暇を持つ
「名もなき家事」に名前を付けて、長女に教えているそう。「シーツ交換は無理」と言う長女には「じゃあ、お母さんが死んだらどうする?」
「名もなき家事」に名前を付けて、長女に教えているそう。「シーツ交換は無理」と言う長女には「じゃあ、お母さんが死んだらどうする?」

「子どものうちは、学校や放課後デイなどを親が選んで利用できます。でも、成人して就職するとなると、決定権は事業所にあります。決められた作業を指示された時間内にできなければ働けませんし、グループホームへの入居は行動障害や他害があれば認められません」

就職や施設への入所を見据えると、大人になるまでに身につけておきたい力はまだまだあります。

  • 自分で予定を確認して行動することができる
  • 衣食住で自分でできることを増やす
  • 視覚的な手だてを活用することができる
  • 困った時に助けを求めることができる
  • 指導を受け入れることができる
  • 予定の変更を受け入れることができる
  • 金銭管理ができる

「学校のことや目の前のことでいっぱいいっぱいで、子どもの将来まで考えられない」という保護者は少なくないそうです。江口さんは自身の経験も踏まえ、「支援方法が確立されていれば、親や支援者が変わっても安定して生活できる」と呼びかけました。

「成人期を見据えると、現在の学校生活に適応することだけを中心にした支援では足りません。学校生活の間にどれだけ親が頑張るかで、成人期の安定が違ってきます。親の皆さんに体力があり、不自由なく動ける時から、ぜひ動いてください」

親亡き後、いろんな人と一緒に暮らせるように

講演後は「とーく会」が開かれました。高知で活動するペアレントメンターの皆さんが江口さんと登壇。高校生から 30 代の子どもを育てる先輩ママとして、子育ての経験を語りました。

  • 診断後、「わが子が障害者として生きていく」「自分は障害者の親として生きていく」と覚悟をつけるまでがつらい時期だった。
  • 「療育でできることを家でもできるようにならないといけない」と言われたことが大きかった。家でもやってみて、ちょっとでもできたらほっとして。「この子の可能性はゼロじゃない」と思えた。
  • 障害を受容しても、保育園から小学校、小学校から中学校と子どもの環境が変わるたびに、「障害児って大変だ」と思います。
「とーく会」では子育ての経験が語られました
「とーく会」では子育ての経験が語られました

「大人になっても楽しめる余暇を持つのも大切」という話にちなみ、司会者が「母としての楽しみは?」と質問。「子どもが通所している時間にドラマを聴きながらひたすら千切り」という答えに、笑いが起きる場面もありました。

江口さんは「笑って話せるようになれるなんて思えないくらい、つらい経験をしてきましたよね」とねぎらい、最後にこう呼びかけました。

「子どもたちの人生は 18 歳からが長い。親亡き後の生活を考えると、いろんな人と暮らしていけるようにしないといけません。『言うことを聞かないから』『障害があるから仕方ない』ではなく、『この子が大人になった時』を考えて準備してください」

発達障害の悩み、心配…ペアレントメンターに聞いてもらえます

ペアレントメンターは発達障害のある子どもを育てる保護者が「信頼できる相談相手」を務める活動です。

高知県内では 9 人のお母さんたちが保護者や家族の個別相談に乗ったり、幼稚園や保育園、学校などを訪問したりしています。

ペアレントメンターについて、ココハレで紹介しています。個別相談の予約方法も記載しています。

子どもの発達障害…相談先は?|「ペアレントメンター」に話してみませんか?発達障害のある子どもを育てる保護者が相談相手として、高知県内で活動しています

 

 

 

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小学生ママです。長女は思春期の入り口にさしかかった4年生、次女はピカピカの1年生です。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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