【ココハレインタビュー】山本剛さん|大切な家族を失った悲しみにどう向き合えばいい?18トリソミーで生後3カ月の長女を亡くした父親がたどり着いた答えとは
「悲しみは小出しに話そう」。 3カ月の長女を亡くした父親・山本剛さんが振り返る8年の日々
大切な家族を失った悲しみにどう向き合えばいいのか。長女の死をきっかけに考え続けてきた男性がいます。
高知市の山本剛さんは 2012 年、生後 3 カ月の長女・泉希(みずき)ちゃんを亡くしました。泉希ちゃんには「18トリソミー」という染色体異常がありました。
それから 8 年。山本さんは苦しみながら、ある答えにたどり着きました。
「悲しみは小出しに話した方がいい。聞いてくれる人は必ずいます」。そう語る山本さんに話を聞きました。
臨月で知らされた「18トリソミー」
山本さんは 1979 年生まれ。企業向けに人材育成を行う会社を経営し、高知市を拠点に活動しています。家族は妻と、小学 4 年、1 年、3 歳の男の子、そして 2012 年に生まれた泉希ちゃんです。
泉希ちゃんは夫婦にとって 2 人目の子ども。誕生を心待ちにしていました。
幸せな生活が一変したのは、臨月に入ってから。産院から紹介された高知医療センターで赤ちゃんが「18 トリソミー」であることを告げられました。18 トリソミーとは、通常は 2 本 1 組となっている 18 番目の染色体が 3 本 1 組になる染色体異常のこと。「無事に生まれるかどうか分からない」「生まれても長くは生きられないことが多い」と医師に告げられました。
「現実に心が追い付きませんでした。妻は静かに泣き、『私は、何が何でも産む』と。私も『1%でもいい。この子の可能性に懸けたい』と思いました」
夫婦は無事生まれる可能性の高い帝王切開を選択。6 月 19 日、泉希ちゃんは誕生しました。身長 41.5 センチ、体重 1802 グラム。山本さんはいとおしさと感謝の気持ちでいっぱいになりました。
この子はこの瞬間を精一杯生きている
泉希ちゃんにはやはり重い疾患があり、NICU(新生児集中治療室)に入院しました。元気な赤ちゃんと比べ、「こんなはずじゃなかった」と落ち込む日々。そんなお父さんを励ましたのは、ほかでもない泉希ちゃんでした。
「看護師さんが『今日は体重が 1 グラム増えましたよ』と教えてくれるんです。たった 1 グラムでも、泉希が頑張った証し。この子は今この瞬間を精一杯生きていると感じました」
しかし、夏を過ぎると容体は悪化。9 月 6 日、泉希ちゃんはお母さんの腕の中で静かに旅立ちました。「やっと楽になれたね」。親子 3 人だけの時間を過ごしながら、山本さんはそう思いました。
こんなに悲しいのは、自分たちだけで十分だ
泉希ちゃんの死後、山本さんは「家族を絶対に守る」と誓いました。
「一番つらいのはおなかの中で 10 カ月間育てた妻と、生きられなかった娘。夫であり、父親である自分が悲しんでいてはいけないと考えました。『こんなに悲しいのは自分たちだけで十分だ』とも思い、泉希のことを話すこともやめました」
悲しみにふたをし、家族のためにがむしゃらに働く。山本さんが決めた生き方は、山本さんを追い詰めました。1 年たつと眠れなくなり、仕事ではミスが続きました。「仕事も家庭もうまくいかん。俺がおる意味、ないよね?」。毎晩のように妻に問い掛けました。
「精神疾患で入院しました。逃げて逃げて、見ないようにしていた悲しみを一気に吐き出すと、今度は燃え尽きてしまって。リカバーにまた 1 年かかりました」
2014 年秋、泉希ちゃんの死に向き合えるようになった山本さんは 18 トリソミーを扱った映画を見ました。翌年には高知で自主上映会を開催し、「ようやく気持ちが整理できました」。
悲しみは乗り越えられるものではない
山本さんは現在、重い病気や障害のある赤ちゃんとその家族への寄り添い方を考える勉強会を医師らと続けています。チャリティー活動にも取り組んでいます。
今年 11 月に高知市で開かれた講演会でも、自らの経験を語りました。泉希ちゃんの最期を語る時、しばらく声を詰まらせた山本さん。「人前で泣けるようになったの、最近です。『男は泣いたらいかん』と思ってましたから」
最愛の娘との別れ、心の病、そして新たな活動…。8 年たった今、「結論から言うと、娘の死は乗り越えられていない」と語ります。
「そもそも乗り越えられるものではないと思います。だからこそ、『一緒に生きてる』と思うことで、少し前に進める。『生きれなかったこの子のために』と肩に力を入れるのではなく、『自分が頑張ることで、毎日を一生懸命生きた彼女の生き方を証明する』という無理のない考え方に変わりました」
心の変化には時間の経過に加えて、「悲しみを人に話せるようになったことが大きい」と振り返ります。
「最初は大変ですが、少しずつでもいいので吐き出すと、救われます。僕みたいにため込むと、必ず無理がいく。聞いてくれる人は絶対にいます」「相手の悲しみを聞く際に、評価やアドバイスは要りません。ただ聞いてあげてほしい」
「泉希」という名前には「絶望の中に希望が湧くように」という願いが込められています。山本さんは泉希ちゃんの存在にいつも希望を感じながら、日々を歩んでいます。