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【ココハレインタビュー】小児科医・満田直美さん|研究者として、母として

【ココハレインタビュー】小児科医・満田直美さん|研究者として、母として

子育てに役立つ研究を。2児を育てながらエコチル研究と臨床に取り組む小児科医・満田直美さん

ココハレの連載「ずっと、ぎゅっと!」でご紹介しているエコチル調査。環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査」のことで、全国の 10 万組の親子を対象に、化学物質が子どもの成長に及ぼす影響などを調べています。

このエコチル調査に研究者として参加しているのが、高知大学医学部の小児科医、満田直美さん。膨大なデータの解析に取り組む傍ら、小児科の外来診療も続けています。

プライベートでは 3 歳と 1 歳の子どもを育てる 2 児の母。「育児に役立つことを伝えていきたい」と語る満田さんに、研究者としての思い、母としての思いを聞きました。

「何とかしなきゃ!」ドキュメンタリーをきっかけに医学の道へ

満田さんは 1976 年、広島市で生まれました。父親はサラリーマン、母親は専業主婦という「ごく普通の家庭」。住んでいた広島市郊外の団地は子どもの数が多く、「少し歩けば、子どもが探険できる自然もあり、近所の友達とよく遊びました」と振り返ります。

理系が得意で、「将来は医療に関わる仕事がいいな。リハビリかな、医療工学もいいな…」と漠然と考えていた高校時代。夜中にリビングで 1 人、美術の課題をしていた時、流れていたテレビ番組にふと目が留まりました。

登場していたのは満田さんと同世代の男性。進行性の重い病気にかかり、その体はやせ細っていました。

「健康で、医学については何も知らない高校生の私は『こんな病気があるんだ』と衝撃を受けました。自分に何ができるかは当然分かりませんでしたが、『自分と同世代がこんな病気にかかるなんて』『これは何とかしなきゃ!』と感じたのを覚えています」

たくさんの「医療に関わる仕事」の中から、高校生の満田さんは「医師」を選択。受験の年に阪神大震災が起きたこともあり、地元の広島大学医学部に進みました。

「もっと学びたい」バリバリ働いた30代

医学部に進んでも「ドキュメンタリーの衝撃」は続いていました。さまざまな診療科の中から選んだのは小児科。「あの男性のことがずっと心の中にありました。もともと子どもが好きだったこともあり、病気や障害などハンディキャップのある子どもを支えていきたいと考えました」

卒業後は広島大の小児科の医局に入り、大学病院の小児科へ。2 年目からは広島市内や近郊の病院で臨床経験を積みました。医師不足が進み始め、小児科医も減りつつあった時期。「忙しい日々でした。当直にも早くから入って。夜間ほぼ 1 人で、どんな患者が来るか分からないプレッシャーは今でも覚えています」

2008 年、生まれ育った広島を離れ、高知大の小児科に移りました。当時 32 歳。同世代の女性医師の多くが結婚した時期でもありました。

「ドクター同士で結婚して、夫の留学に付き添って海外生活という女医が多かったんです。子育てもしていて、充実していて。あれ?私は…と」

「独身でいっぱいあった」という時間をフルに使い、病院での勤務に加え、学会や研修に足を運び、自身の専門領域である発達障害などで知識を増やしていきました。「『もっと学びたい』と思い、有名な先生に診察の様子を見せていただくこともしました。プライベートではメンタルの浮き沈みもありましたが、振り返れば一生懸命働いたなと思います」

人生に転機は訪れる

「このままバリバリ仕事を…」と考えていた矢先、転機が訪れました。知人から紹介された男性と36 歳で結婚。「結婚はないかなと思っていました。人生、分からないものですよね」

結婚は、小児科医としてのこれからを考えるきっかけにもなりました。

「自分の体や年齢を考えると、不妊治療をしたいなと。そうなると、勤務時間が不規則で、当直の多い働き方では難しかった。ちょっとゆっくりしたいなという思いもあり、外来診療のみの非常勤に変えてもらいました」

時間はできたものの、忙しかった毎日とのギャップは大きく、「これでよかったのか」という葛藤もありました。そこに持ち掛けられたのが、エコチル調査です。「研究だと、臨床よりも時間の融通が利く。全国の子どもたちのデータを分析することで、これまで診療で感じてきた疑問を解き明かしていけるのではないか」と考え、小児科の医局に籍を残したまま、環境医学教室にある「エコチル調査高知ユニットセンター」に入りました。

一方で、不妊治療はなかなかうまくいきませんでした。「そろそろやめよう」「これで最後」。そう考えていた 40 歳の時、体外受精が成功。「高齢での初産、大丈夫かな…」という心配をよそに経過は順調で、41 歳で長男を、43 歳で長女を出産しました。

仕事と育児の両立。満田さんは 40 代で新たなステージに入りました。

無理せず、自分のペースで

現在は、エコチル調査と、高知大学の付属病院と高知県立療育福祉センターでの外来診療を基本に、研究と臨床に半々ぐらいの時間を割いている満田さん。2 人の子どもは付属病院の院内保育所に預けています。

朝は 6 時に起き、子どもにご飯を食べさせ、家事を済ませて、子どもたちを保育所に預けた後で出勤する毎日。今は自我が芽生えた 3 歳の長男に少し手を焼いています。

「朝、着替えてくれないんですね。お気に入りのアンパンマンのパジャマがあって、できればずっと着ていたいと。そういうわけにもいかないので、朝は普段着を着た上にパジャマを重ね着して車に乗り、保育所に着いたら車の中で脱がせています。帰りの車で朝脱いだパジャマをまた着て帰ることで、今のところは納得してくれてるみたいです」

仕事が終わると、子どものお迎えに行き、夕食、お風呂、家事…。「夫や近くに住む義理の両親に助けられている」と話します。「寝かしつけた後に論文を」と思いながら、一緒に寝てしまうこともよくあるそう。「子育てをしていると、常にスケジュールに追われることが分かりました。8 時まで残業できたらこの仕事が終わるのに…と思うことはあります。子育てをしながらバリバリ働く女医もいますし、小児科で忙しくしている皆さんのことを考えると申し訳なさもありますが、今は自分に無理のないペースでと思っています」

子育てでもっと悩むのかなと思っていたそうですが、「意外とそうでもなかった」のは、これまで診療で関わってきた親子のおかげです。

「いろんなお子さんを診させていただきましたし、お母さん方が語ってくださった子育てのエピソードが自分の子育てに生かされているなと思います。『大変だよ』と聞いていたので、初めてでびっくりということはないですね。加えて、周りに先輩ママがたくさんいて教えてもらえることも、高齢出産ならではかもしれません」

「正しいこと」が人を追い詰めることもある

研究では、文献を読んだり、臨床の中で感じてきたりした疑問をもとに仮説を立て、膨大なエコチル調査のデータを解析し、その答えを探るということに取り組んでいます。

2019 年には、全国の子ども 8 万 4000 人余りを対象に、1 歳までに発症した「熱性けいれん」と母乳との関連を調べました。データを調べると、母乳を与えられた期間が長い子どもや、生後 6 カ月まで完全母乳栄養で育った子どもは、母乳が与えられた期間が短い子どもや、混合栄養やミルクで育った子どもに比べて熱性けいれんが起こりにくいという結果が得られました。

この結果から考えられるのは「母乳で育った赤ちゃんは熱性けいれんが起こりにくくなるのではないか」ということ。ここで満田さんは悩みました。

「『正しいこと』を立証するのが研究。でも、その『正しいこと』で傷ついたり、追い詰められる人もいるのではないか」

「赤ちゃんには母乳がいい」と分かっていても、いろんな理由で母乳育児がうまくいっていないお母さんがいる。研究結果を見て、「わが子が熱性けいれんを起こしたのは私が母乳で育てられなかったから」と罪悪感を抱くお母さんもいるかもしれない…。そんなふうに考えるきっかけになったのは、シングルで子育てをする同僚医師の言葉でした。

「『子どもの孤食は駄目って分かってるけどね、うちはそうせざるを得ない』と言われて、そうだよねと。エコチル調査はたくさんの親子に協力していただいています。子育てで役立ててもらえるように、成果のお返しの仕方、伝え方も考えていかないといけないなと感じています」

エコチル調査の期間は、お母さんの妊娠期から、生まれた子どもが 13 歳になるまで。半年ごとのアンケートに加えて、現在は8歳になった子どもを対象に、身体測定や発達検査を行う「学童期検査」も進められています。子どもの心身や生活環境に関する基礎データは膨大で、「研究テーマはやろうと思ったら無限にある」。その中で、将来取り組みたいのはやはり、専門領域である発達障害の研究です。

「同じ特性があっても、うまく暮らしている子どもがいれば、しんどい思いを抱えている子どももいて、この差は何なんだろうと常に考えてきました。発達障害の原因を探ることも大事ですが、特性があっても楽しく過ごせることにつながる“何か”が分かれば。たくさんのことを聞いているので、エコチルからは少しずれるかもしれませんが、やってみたいです」

これまで培ってきた小児科の臨床経験と、まっただ中の子育て経験を生かしながら、親子を笑顔にする研究に取り組んでいます。

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 2 と年中児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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