【ココハレインタビュー】絵本作家・柴田ケイコさん|絵本で親子のコミュニケーションを
「おいしそうなしろくま」「パンどろぼう」の作者・柴田ケイコさんに子育てのこと、絵本への思いを聞きました
お子さんにどんな絵本を読んであげていますか?
「親子のコミュニケーション・ツールとして絵本を楽しんでもらいたい」。高知市在住のイラストレーターで絵本作家の柴田ケイコさんはそう願いながら、日々制作に取り組んでいます。
「おいしそうなしろくま」「パンどろうぼう」「ぱぱんがパン!」など人気作を生み出す柴田さんに、子育てのこと、絵本への思いを聞きました。
自分の作品を見てもらう喜び
柴田さんは 1973 年、高知市で生まれました。幼い頃から絵を描くのが好きで、「お姫様とか、よく女の子が描くような絵を描いていました」。ただ、絵を描くことを仕事にするという考えはなかったそう。「『いばらの道』『食べていけないのでは』と考えて、無理だと思っていました」と振り返ります。
小津高校から奈良芸術短大に進み、印刷会社に就職。オペレーターやグラフィックデザインの仕事をする中で、「やっぱり絵を描いてみたい」という気持ちが強くなります。
2002 年、29 歳で独立。グラフィックデザインの仕事とアルバイトをしながら、イラストの仕事を少しずつ手掛けるようになります。自分の作品を発表する個展も開催。「自分の作品を皆さんに見てもらうという喜びが衝撃的で。今でも続けています」
赤ちゃんの頃から読み聞かせ
2005 年に長男、07 年に次男を出産しました。長男が赤ちゃんの頃、「赤ちゃんでも耳は発達している」ということを聞き、寝かしつけで読み聞かせをするようになりました。「長男が寝ない子で、ピリピリしていました。『早く寝てくれー』という思いで読み始め、習慣になりました」
この頃になると、イラストの仕事も増えてきました。作業場は自宅。子どもの世話をしながら、仕事に取り組む毎日でした。「託児所も利用しながら、何とか。1 歳半で長男を保育園に預けて、ようやく気持ちに余裕ができました」
読み聞かせは変わらず続けていました。「がたん ごとん がたん ごとん」「もこ もこもこ」「はらぺこあおむし」など長く親しまれてきた絵本を手に取りながら、まだまだ「自分が絵本を作る」とは思ってもいませんでした。
長男を弱視をきっかけに出版した「めがねこ」
長男が 4 歳になるかならないかという頃、「あれ?おかしいな?」と感じることが増えました。絵本を逆さにして読む、テレビを近づいて見る、よく転ぶ…。眼科に連れて行き、「弱視」と診断されました。
弱視とは、遠視や乱視、斜視、けがなどで物をくっきり見ることが妨げられ、眼鏡やコンタクトレンズで矯正しても視力が改善しない状態のこと。視力が発達する幼児期に治療を始めれば改善する可能性が高いと言われています。「 3 歳児健診で気づいてあげられなかった。すごくショックで、後悔しました」
眼科で、治療のための眼鏡を掛けた長男に絵本が手渡されました。その時、「どうして眼鏡のお話じゃないんだろう」と感じた柴田さん。長男が保育園でお友達に「何で眼鏡掛けちゅうが?」と質問されるのを見聞きし、「眼鏡はかっこいいものだと思ってほしい」「眼鏡の絵本があったらなぁ」と考えるようになりました。
しかし、「自分で作る」とまでは思いませんでした。「仕事と子育てで余裕もなかったし、自分に自信もなかった。絵本なんて無理、実力がないと無理。そう思い込んでいました」
その後も「眼鏡の絵本」はずっと、頭の片隅にありました。「やっぱり作りたい」という気持ちがわき起こったのは長男が小学 5 年生の時。イラストの仕事でつながりのあった出版社に企画を持ち込み、2016 年に出版されたのが「めがねこ」(手紙社)です。
森の中の眼鏡店の店主「めがねこ」が主人公のお話。お客さんの生活や好みに合わせた眼鏡が登場します。帯には「世界中のめがねさんにささぐ めがねは、かっこいいのだ!!」のメッセージ。眼鏡を掛ける子どもたちとその保護者、そして眼鏡を掛けるお友達がいる子どもたちに届いてほしいと思いを込めました。
出版後、長男は「ちょっと遅かったよね」と一言。「もう絵本を読む年じゃなくなってましたから。冷静ですよねぇ」。柴田さんはそう笑います。
人気シリーズになった「おいしそうなしろくま」
“遅咲き”となった絵本作家デビュー。その後はとんとんと出版が続きました。
2 作目は「おいしそうなしろくま」(PHP研究所)。食いしん坊のシロクマが食べ物の中に入り、幸せそうな表情を浮かべているお話。「食べること」と「シロクマ」という好きなものを組み合わせた“妄想”から生まれました。「あま~いしろくま」「おべんとうしろくま」とシリーズ化され、柴田さんの代表作に。「おいしそうなしろくま」は「第 8 回リブロ絵本大賞」など複数の絵本コンテストで入賞し、高く評価されました。
2020 年 4 月に出版された「パンどろぼう」(KADOKAWA)は、おいしいパンを探し求める大泥棒が主人公。ある日、森の中で見つけたパン屋さんに忍び込みます。お話の展開とパンどろぼうの何とも言えない表情に、大人も思わず笑ってしまいます。「第 1 回TSUTAYAえほん大賞」「第 11 回リブロ絵本大賞」、そして「第 13 回MOE絵本屋さん大賞 2020」の 2 位に選ばれました。
子どもは絵本を絵で記憶する
「絵本は絵を楽しむもの」「子どもは絵本を絵で記憶する」と柴田さんは語ります。その上で、絵本作りで大事にしているのが「親子のコミュニケーション・ツールとなること」です。
「おいしそうなしろくま」シリーズではたくさんの食べ物、「パンどろぼう」では動物の形をしたおいしそうなパンが登場します。親子で「どれが好き?」と聞き合ったり、「はい、あーん」「おいしいねぇ」と食べるまねをしたり。いろいろな楽しみ方ができるのが魅力です。
もう一つ、柴田さんが心掛けているのが「絵本の世界では怒らない」ということです。「パンどろぼう」ではパン屋のおじさんが怒りそうな場面で、怒りません。他のお話でも、はじめは怒ったとしても、相手の言い分をきちんと聞きます。
「『おさるのジョージ』で黄色い帽子のおじさんは絶対にジョージを怒らないでしょう?あのイメージです。子どもを怒らずに、新しい別の提案をするということも伝えていきたいなと思っています。実際の子育てでは、やっぱり怒っちゃうんですけどね」
読み聞かせは「いとおしい時間」
現在は絵本制作を中心に、イラストの仕事も幅広く手掛けています。最近では、高知市のおびさんロード商店街のオリジナルコースターや、「大国さま」で知られるいの町の椙本(すぎもと)神社に奉納された巨大絵馬が話題になりました。
赤ちゃんの頃から読み聞かせをしてきた長男はこの 4 月に高校 1 年生、次男は中学 2 年生になります。膝の上に座らせて絵本を読んでいた頃からずいぶん月日が流れ、柴田さんは「本当にいとおしい時間だった」と振り返ります。
今、わが子に読み聞かせをしているお父さん、お母さんに伝えたいのは「読み聞かせを義務にはせずに、短い時間でいいから絵本に触れてほしい」ということ。
「私も忙しい時は文章をはしょったり、『またか…』と思いながら読んだりしていました。でも、子どもは大きくなると、いやが応でも読み聞かせを卒業します。毎日大変だとは思いますが、『読んで』と膝の上に座ってくる時間をぜひ楽しんでください」