子どもが包丁を使うのはいつから?料理に興味を持たせるこつは?|「おすしやさんにいらっしゃい!」の著者・岡田大介さんに聞きました
「生き物」が「食べ物」になる瞬間とは?すし作家・岡田大介さんが横浜小学校で授業しました
突然ですが、魚を自分でさばいたことはありますか?
「さばくのを見たことはあるけど、さばいた経験はなし」というココハレ編集部員。親が家庭でさばかないと、子どもも見る機会がないですよね。
現代社会ではなかなかレアな「魚をさばく」を子どもたちに見せる授業があると聞き、高知市の横浜小学校におじゃましました。
講師はすし職人であり、「おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで」の作者でもある岡田大介さん。子どもに包丁を使わせる時期、料理に興味を持たせるこつも聞いてきました。
目次
「おすしやさんにいらっしゃい!」で命の大切さを伝えています
今回、ココハレ編集部に連絡をくださったのは横浜小学校のPTAの皆さん。岡田大介さんの授業は 2024 年 11 月 19 日、3 年生の学年行事として行われました。
岡田さんはすし職人で、都内ですし店「酢飯屋」を営んでいます。
2021 年、すし作家のおかだだいすけさんとして、写真絵本「おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで」(岩崎書店)を出版。魚がさばかれ、すしになっていく過程を紹介しながら、命の大切さを伝えました。
2022 年度の青少年読書感想文全国コンクールでは小学校低学年の部の課題図書に選ばれました。高知市内の小学 3 年生が現在使っている国語の教科書でも紹介されています。
家庭では中学 2 年生、小学 6 年生を育てる岡田さん。授業では、すし職人になったきっかけから語りました。
18歳の時に母親が死去…妹、弟にご飯を作らなきゃ
岡田さんが 18 歳の時、母親が病気で亡くなりました。残されたのは岡田さん、幼い妹と弟、父親の4人。
「僕もお父さんもご飯が作れなかった。妹と弟は給食以外、スーパーやコンビニのお弁当になりました」
最初は楽しく食べていましたが、毎日続くと、栄養はどうしても偏ってしまいます。
「小学 3 年の弟が毎晩吐いてたんです。『食生活がいけないのでは』『僕が妹や弟にご飯を作れる人間になろう』と考え、料理人になりました」
こうして、すし職人になった岡田さん。魚を扱う中で、「そういえば、海の中にいる時のことを知らない」と思うようになります。
魚の知識を得ようと、水族館に行ったり、釣りをしたり。海にも潜り、観察しました。
授業ではこれまでに釣った魚が、写真や動画でたくさん紹介されました。
子どもたちのほとんどが魚の写真を見ても名前を答えられない中、「ヒラマサ!」「サワラ!」と即座に答える男の子がいました。お父さんが漁師だそうで、やっぱり魚が日常生活にあるんですね。
魚が「おいしい」になる過程を実演しました
海を泳ぐ生き物としての「魚」と、すしという食べ物になった「魚」。おいしく食べるまでの過程を子どもたちがリアルに見る機会はなかなかありません。
今回の授業では、本物の魚を触ってみることから経験しました。用意されたのはサンマ、ヨコスジフエダイ、ヘダイの 3 種類です。
最初は「うわぁ」「ぬるぬる」と、恐る恐る触っていた子どもたちですが、慣れると大胆になり、においをかいだり、持ち上げて口の中をのぞきこんだり。
「魚を 1 匹置いとくだけで、子どもたちは勝手に学ぶんですよね」と岡田さん。確かに、「危ないよ」「手が汚れるよ」と止めずに見守ることが大事…。
観察タイムが終わると、いよいよ本番です。
「生き物が食べ物になる瞬間があります。『おいしそう』になる瞬間を見ていてね」と呼びかけ、鮮やかにさばいていきました。
魚をさばく工程はどんどん進みます。見慣れた刺身やにぎりずしになると、「食べたーい!」と歓声が上がりました。
岡田さんは「ご飯って、食べるのは簡単だけど、作るのは大変」と、子どもたちに語りかけました。
「アジフライって『アジを揚げるだけ』って思うかも知れないけど、アジをさばかなきゃいけないし、揚げる前には衣を付けないといけない」
「初めて料理をすると、必ず失敗します。でも、何回かやると、上手になる。チャレンジする大切さを皆さんには伝えたい」
毎日の料理で使われる食材は「水と塩以外は生き物の命からできている」ということも、子どもたちに伝えられたメッセージです。
「生き物は食べ物になって、君たちの体の一部になります。体調が悪い時は食べ物から元気をもらっています。たまに思い出しながら、『いただきます』『ごちそうさま』に感謝の気持ちを込めてもらえたらと思います」
料理も包丁も、子どもの「やりたい!」がチャンス!
授業を終えた岡田さんに、ココハレ編集部がインタビューしました。
――「魚離れ」が言われたりしていますが、子どもたちが本物の魚に興味津々だったのが印象的でした。
「魚の骨が苦手」という人はいますけど、すしにすると、みんな好きですよね。僕も「魚離れ」は感じないです。
キャベツを楽しそうに切ってみて
――私は魚をさばけないので、家に魚が丸 1 匹ある状況がそそもそもありません。岡田さんのお話を聞いて、子どもに対してちょっと申し訳ない気がしてきました。
子どもには自分が食べるものを観察して、触って、感じてほしいと思っています。今日の授業でもそうでしたが、食材を置いておくと、子どもは勝手に学びますよね。魚だけじゃなく。
――まずは、さりげない環境づくりなんですね。
親が楽しそうに料理をしてたら、子どもは「何?」「そんなに楽しいの?」と興味を持ちます。試しに、キャベツを楽しそうに切ってみてください。「やりたい」って来ます(笑)。
――なるほど(笑)。「お手伝いしなさい」ではなく、「やりたい」と思わせる。
子どもが「やりたい」と言った時がチャンスです。「自分がやった方が早い」というのを我慢して、ぜひやらせてください。今日は子どもたちに「1 日 1 分、調理する人の横で見てほしい」と話しました。親御さんも忙しいと思いますが、時間をつくってもらえたら。
好きな食べ物が明日から食べられなくなる?!
――授業では「僕はご飯が作れなかった。お母さんが作っているのを少しでも見ていたら、妹や弟が悲しいことにはならなかった」と話されていました。
子どものうちから料理をしておくと、必ず役に立ちます。僕は家で、子どもが好きな食べ物を作らせています。僕が死んだ設定にして。
――死んだ設定?!
「作れ」と言っても作らないので。うちの息子たちは唐揚げが好きなので、「お父さんが明日死んだら、この唐揚げ食べられなくなるぞ」って。そしたら、作れるようになりますよ。
――それはいいアイデアです!ちなみに、子どもに包丁を持たせるのはいつからがおすすめですか?
包丁も「切りたい」と言った時がそのタイミング。小学生だったら、子ども用ではなく本物の包丁を持たせてあげてください。
――親としては「もし手を切ったら…」と、ちゅうちょしちゃいますが。
刃物は確かに危険があります。幼児の場合は子ども用の包丁でいいですが、いつかは本物の包丁を使えるようにならなきゃいけない。手を多少切ったとしても、命には関わりませんから。3 年生の今日から毎日リンゴの皮むきをしたら、4 年生になったら達人になってますよ。