赤ちゃんの正しい抱っこの仕方は?抱っこひもの選び方は?|新生児期からの抱っこを学ぶ「ベビーウェアリング講座」
「赤ちゃんのお尻を大人のおへそより上に」「M字開脚を保つ」…親子に快適な抱っこのこつを助産師さんに聞きました
赤ちゃんが生まれて、親が初めて行うのが抱っこ。首が据わっていない小さな新生児をこわごわ抱き上げ、緊張した経験を思い出す人も多いと思います。
正しい抱っこの仕方や抱っこひもの選び方についてきちんと教わる機会は、実はほとんどありません。体に合わない抱っこは、腰痛など不調の原因にもなります。
抱っこひもなどの道具を使って抱っこやおんぶをすることを「ベビーウェアリング」と言います。赤ちゃんにも親にも快適な抱っことは、どんな抱っこなのでしょうか。土佐市の助産師・森木由美子さんに聞きました。
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助産師の森木由美子さんは土佐市の助産院「はぐはぐ」を拠点に、家庭訪問をしながら授乳や、抱っこ・おんぶの仕方、沐浴などの支援を行っています。高知県内の子育て支援センターなどで講座も開いています。
抱っことおんぶについては、一般社団法人「日本ベビーウェアリング協会」の理事として、正しい姿勢の普及に取り組んでいます。今回は土佐市で開かれた「子育てがラクで楽しくなるベビーウェアリング講座」を取材しました。新生児の親子 2 組が参加しました。
人間は抱っこで育つ動物。生後3カ月は「地球に慣れる時期」と考えましょう
抱っこの仕方を伝える前に、森木さんは「なぜ赤ちゃんには抱っこが必要なのか」という話をしました。
そもそも「抱っこができる」ということは、赤ちゃんに「お母さんにしがみつく能力がある」ということです。これはサルなどの霊長類と同じ特徴です。さらに、人間の赤ちゃんは他の霊長類と比べると、脳が発達した状態で生まれるため、頭が大きく、重くなっています。
成長には、 1 日に何度もお乳をあげる「頻回授乳」が必要です。これは、人間の母乳は他の動物に比べて脂肪分が少ないため、すぐにおなかが空くからだそうです。
赤ちゃんはおなかの中にいる時には、羊水の中で自由に体を動かせます。「おなかが空いた」という状態にもなりません。
ですが、「生まれると、頭は重いし、自分で体を動かせないし、おなかも空くし。ものすごい試練なんです」と森木さん。「抱っこして!」「おなか空いた!」と泣くのは赤ちゃんの基本的欲求で、命を守るために必要な行動なのだそう。
「人間の特徴を知ると、抱っこや授乳で大変なのも『そもそもそういうものなんだ』と捉えられて、乗り切れるかなと思います。生後 3 カ月ぐらいまでは『地球に慣れていく時期』と考え、ゆったり過ごしてください」
抱っこで大切なのは「M字開脚」。股関節の脱臼を防ぎます
抱っこをする際に頭に入れておきたいのが「M字開脚」。赤ちゃんの脚が付け根からMの形に開いている状態のことです。
M字開脚を保つことで、「発育性股関節形成不全」と呼ばれる股関節の脱臼を防ぐことができます。抱っこ以外では、おむつの当て方や洋服選びに注意し、赤ちゃんが脚を自由に動かせる状態にしましょう。
首が据わるまでは「横抱き」?首から腰をしっかり支えれば「縦抱き」でも大丈夫
横抱きは、赤ちゃんの背中と首を支えることができ、首が据わっていない赤ちゃんに適していると言われます。しかし、抱っこする方が疲れやすいのが悩みどころです。
「横抱きは縦抱きに比べると、赤ちゃんに接地している面積が少なく、赤ちゃんを重く感じます。数時間保つのは難しいかもしれません」と森木さん。さらに、脚が伸びてしまってM字開脚の状態になりません。スリングなどで横抱きにすると、M字開脚を保てない上に、窒息のリスクも高まります。
縦抱きは「首が据わってから」というイメージがありますが、赤ちゃんをしっかり支えれば可能です。赤ちゃんの重心は頭にあるので、脊柱のS字カーブが発達するまでは首から腰までをサポートしましょう。
股関節の脱臼を防ぐため、日本整形外科学会と日本小児整形外科学会は赤ちゃんの首が据わる前からの縦抱きを「コアラ抱っこ」として推奨しています。M字開脚の状態で縦抱きをすると、赤ちゃんが大人の胸にしがみつく形になります。その姿勢がコアラが木につかまる形であることから名付けられました。
縦抱きには他にも「窒息のリスクを軽減できる」「親子に快適な抱っこがしやすい」というメリットがあります。
他に、首が据わってから抱っこひもを使って行う「前向き抱っこ」もありますが、こちらも脚が伸びてM字開脚の保持が難しくなります。「赤ちゃんにとって周囲がいろいろ見られて楽しいのでは?」と思いますが、逆に「刺激が多過ぎる」そう。「絶対にダメというわけではないですが、シーンを選んで短時間ですませてください」
「快適な抱っこ」のポイントは五つ!
以上の点を元に、日本ベビーウェアリング協会が勧める正しい抱っこの仕方がこちらです。
快適な抱っこのポイントは五つです。
①赤ちゃんのお尻は大人のおへそより上に…大人の負担が減り、赤ちゃんの視界が広がります
②膝はお尻より高くM字開脚…大人の体にしがみつく姿勢。股関節の脱臼を防ぎます
③ぴったり密着…赤ちゃんの背中が丸まり過ぎると、呼吸がしづらくなるので注意
④手は上に…呼吸がしやすくなります
⑤赤ちゃんの顔が見える…赤ちゃんの顔が常に見えるようにすることで、窒息を防ぎます。手と脚が自由に動く状態かどうかもチェックしましょう
抱っこひもは「素手の抱っこの快適な姿勢を保てるかどうか」で選びましょう
続いて、抱っこひもの選び方です。日本ではバックル式の抱っこひもが主流ですが、メーカーもデザインもさまざまです。
さらに、1 枚の布を使って巻く「ストレッチラップ」「ベビーラップ」、1 枚布にリングが付いている「リングスリング」など種類も豊富。どれを選んだらいいか分かりませんね。
人の体形はそれぞれ違うので、「誰にでもぴったり」という抱っこひもはないそう。選ぶポイントは「素手での抱っこの快適な姿勢が保てるかどうか」になります。「デザインがおしゃれ」「SNSで流行している」という視点ではなく、「赤ちゃんと抱っこする人双方の体にフィットするもの」を選びましょう。
講座では「快適な姿勢」を知るため、参加したお父さん、お母さんが抱っこひもでの抱っこを体験しました。
既に抱っこひもを購入しているお母さんもいました。新生児から使えるタイプですが、実際に着けてみると、赤ちゃんにはまだ大きく、顔が埋もれてしまいました。「もう少し成長すれば、十分使える」とのことです。
このほか、抱っこひも選びの注意点はこちら。
- お下がり…抱っこひもメーカーが示している耐用年数は平均 3 年程度です。耐用年数を超えて使用すると、強度の低下や部品の破損、型崩れなどが生じます
- ハンドメイドのもの…耐久性や耐荷重など安全に対する保証が明確ではありません