コロナ禍の不安、おまじないで和らげて|中脇初枝さんが新作絵本「つるかめ つるかめ」
新型コロナウイルスの不安に負けないで。作家・中脇初枝さんとイラストレーター・あずみ虫さんが今、子どもたちに贈る物語
新型コロナウイルスの感染が国内で再び広がっています。楽しい夏休みが始まったものの、「3 密」「クラスター」「濃厚接触」などコロナにまつわる言葉に接する機会がまた増え、不安な気持ちを抱えながら過ごしているお子さんもいるのではないでしょうか。
そんな子どもたちを勇気づける物語を届けたいと、四万十市出身の作家、中脇初枝さんが新作絵本を発表しました。タイトルの「つるかめ つるかめ」は日本に古くから伝わる縁起直しのおまじない。イラストレーターのあずみ虫さんとコラボし、不安な気持ちを和らげるおまじないを紹介しています。
「まじゃらく まじゃらく」「とーしー とーしー」。絵の中の子どもたちと一緒におまじないを唱えることで、心が温かくなり、前を向ける一冊です。
きっかけは「くわばら くわばら」
中脇さんは小説「きみはいい子」「世界の果ての子どもたち」などで知られています。大学で民俗学を専攻し、地域に残る昔話や言い伝えを現代的な表現で語り直すことにも取り組んでいます。昔から伝わるおまじないに関心を持ったきっかけは、ある小学生の男の子との出会いでした。
男の子は雷が苦手。ある日、一緒に外を歩いていると、雷が鳴り始めました。その場でうずくまって動けなくなった男の子に、中脇さんは幼いころに自分が唱えていた「くわばら くわばら」というおまじないと、由来となる昔話を教えました。すると、男の子はぱっと立ち上がって「くわばら!くわばら!」。叫びながら、雨宿りできる場所まで走っていったそうです。
男の子はその後、雷が鳴るたびに「くわばら くわばら」と唱えることで、それほど怖がらなくなりました。中脇さんは「おまじないって、こんなにも勇気を与えてくれるものなんだと驚いた」と振り返ります。
コロナ禍の中、作家としてできることを
コロナが広がり、緊急事態宣言で日本中が自粛、自粛となった今年の春、中脇さんは「物書きである自分に何かできることはないか」と考えました。浮かんだのは、昔から伝えられてきたおまじないを紹介する物語。「不安を抱えているたくさんの子どもたち、子どもの前では平気な顔をして無理している大人たちに伝えたい」と、絵本を作ることを決めました。
中脇さんの思いに、アラスカに滞在中のあずみ虫さんと出版社のあすなろ書房が賛同。通常は 2 ~ 3 年ほどかかる絵本の制作期間をわずか 2 カ月に短縮し、8 月に「つるかめ つるかめ」を出版しました。
紹介しているおまじないは七つ。雷が鳴った時、地震の時、嵐で風がびゅうびゅう吹き荒れる時…。それぞれの場面で、子どもたちがおまじないを唱えます。コロナを含む病気よけのおまじないは「そみんしょうらいのしそんなり」。病気の神様を家に泊めてあげた蘇民将来の言い伝えにちなんだおまじないです。
あずみ虫さんは、切ったアルミ板に絵を描く手法でイラストを手掛けています。子どもたちを襲う困難はダイナミックに、子どもたちの心の変化は繊細に表現しています。
「だいじょうぶ だいじょうぶ」
絵本の最後では、子どもが「だいじょうぶ だいじょうぶ」と唱えます。おまじないではないですが、中脇さんは「今こそ、この言葉を」と選びました。
「子どもたちが困った時、つらい時、本当は助けを呼んでほしいですが、すぐに呼べない状況もあるでしょう。そんな時に、『だいじょうぶ』と唱えることで勇気を出し、自分の中にある不安を乗り越えてほしいと願っています」
大人たちにも「平気な顔をして、無理をしないで」と呼び掛けています。
「昔の人たちは、自分の力ではどうしようもないことがあった時におまじないを唱えてきました。コロナでのアマビエブームを見ていると、不安な状況の時、人の心は昔も今も変わらないのだなと感じます。お子さんと一緒にこの絵本を読むことで、気持ちを和らげてほしいなと思っています」
「つるかめ つるかめ」は A4 変型判、33 ページで税込み 1320 円(あすなろ書房)。金高堂などで販売しています。