南海トラフ地震、水害…災害後の自分と家族の生活、イメージできていますか?|「女性防災プロジェクト」講座を受けてみた①
「災害に備えなきゃ」と思うだけでは…。こうち男女共同参画センター「ソーレ」の5回講座をココハレ編集部員がレポートします
南海トラフ地震、台風、豪雨…ご家庭で災害への備えはできていますか?子育て中は毎日忙しく、「しなきゃいけない」と思いつつ十分にできていないという人もいるのではないでしょうか。
こうち男女共同参画センター「ソーレ」では毎年、防災に関心のある女性を対象にした「女性防災プロジェクト」という講座が開かれています。備えたい気持ちに行動が伴っていないココハレ編集部員で 2 児の母・門田が全 5 回を受講し、感じたこと、学んだことをレポートします。
2022 年 6 月 25 日に開かれた第 1 回講座では高知県立大学看護学部の特任教授・神原咲子さんが 2018 年に発生した「西日本豪雨」での経験を語りました。防災で必要なのは「マインドチェンジ」。「避難所に行ったら何とかなる」という考えを転換していきましょう。
目次
神原さんは災害時のリスクを減らす「減災ケア」を提唱しています
神原さんは現在、神戸市看護大学の教授、高知県立大学看護学部の特任教授などを務めています。専門は国際災害看護と公衆衛生。阪神大震災、スマトラ沖地震、東日本大震災、ネパール地震などの被災地で支援活動に携わってきました。
神原さんが提唱してきたのが「減災ケア」。水や食料、生活環境を整え、災害時のリスクを減少させる取り組みです。高知県内でも研究、実践、教育を進め、地震啓発冊子「南海トラフ地震に備えちょき」の改訂や、高齢者や障害者ら配慮が必要な人への対応をまとめた支援ガイド作りなどに参加してきました。
家庭では 8 歳と 4 歳のお母さんです。
参加者は自己紹介で、お互いの環境や思いを確認しました
2022 年度の「女性防災プロジェクト」の受講者は 32 人。年齢は高校生から、お仕事を退職された方まで、地域も高知市を中心に東は室戸市、西は四万十町と幅広く参加しています。
自己紹介ではこんな声が上がりました。
- 町内会の防災委員になったけれど、何をしたらいいのか分からない
- 被災した時に個人としてできること、自分の仕事を生かしながらできることを考えていきたい
- 地域の防災の集まりで、「災害時にトイレの水を流しちゃいけない」と初めて知った。もっと知識を得ないといけないと思った
- 暮らしている地域はほとんどが高齢者なので、少しでも役立てるように学びたい
「女性防災プロジェクト」の講座に参加したココハレ編集部・門田は 6 歳児(小学 1 年)と 3 歳児の母。「災害に備えなきゃ…」と思いつつ、「そのうちに…」と後回しにしたまま現在に至っています。
防災グッズは一通りそろえ、玄関先に置いています。水や食料の備蓄は「備えなきゃ」という気持ちになった時にはありますが、長続きしていません。町内会の防災訓練には参加していますが、新型コロナウイルスの影響で最近は行われていません。
被災者の健康問題が発生するのは夜。西日本豪雨・倉敷市真備地区での経験から
自己紹介の後、神原さんの講演が始まりました。この日のテーマは「災害後の自分の生活をイメージする」。神原さんは 2018 年の西日本豪雨で被害を受けた岡山県倉敷市真備地区を例に、受講者に「避難」と「生活」の違いを問い掛けていきました。
神原さんは真備地区の出身。地区の中心部が浸水する前日から、実家に戻っていました。神原さんは浸水被害を免れた実家を拠点に、小学校に開設された避難所などで活動を始めました。
近くの小学校には 2000 人が避難したそうですが、外部からの支援者が活動する昼間にいるのは高齢者が中心。「動ける人は昼間、家の確認にいったりしていて、『どこに 2000 人いるの?』という状況でした」
被災者の健康問題が発生するのは夜だ、ということも初めて知ったそうです。「昼間は気を張っていて夜に体調を崩す人もいるし、家の片付けでけがをした人もいる。でも、夜は外部支援が入れないんですね」。これまでの被災地支援と違い、より間近で見たからこその発見がたくさんあったそうです。
考え方を転換!ミルクがある避難所を探す→日頃からミルクを持っておく
災害が起きた際の行動として、神原さんは三つの流れを挙げました。
災害が起きたら】
- 災害から逃れる
- 命と健康を守る
- 取り巻く生活環境を立て直す
「被災したら避難所に行く」「病気の人やけが人は病院に搬送する」という方針が日本では基本となっていますが、外国の被災地を見てきた神原さんは「病院があるとは限らないし、避難所に行けるとは限らない」と言います。「命が助かっても、トイレや水、食料がなければ生き延びられない。避難所に支援物資がすぐに来るとは限らない」「『避難所に行ったら何とかなる』という考え方を転換し、避難所に行かなくて済む方法も考えていってほしい」と呼び掛けました。
「考え方の転換」とは?
例えば、赤ちゃんを連れて避難する場合。授乳でミルクを使っているなら、「ミルクのある避難所を行かなきゃ」と考えます。そうなると、「ミルクを備蓄している避難所を先に把握しておかなきゃ」となります。そこでもう一歩先に進み、「日頃からミルクを持っておこう」というのが、災害に備えた考え方の転換です。
どこのトイレが使える?最寄りのコンビニは?ハザードマップは生活をイメージしながら読みましょう
災害時は外部から来る支援者よりも、そこで長く暮らしてきた被災者の方が地域をよく知っています。「外部支援はコロナで来られないかもしれないし、そもそも数が足りていない」と神原さん。「自分たちが助けてもらうことばかり考えたら、助からない。誰しもがリーダーにならないといけません」
防災の知識も「知識」として覚えるのではなく、生活に落とし込んでいく必要があると言います。例えばハザードマップ。「わが家は浸水するかどうか」という視点のみで確認してはいませんか?
神原さんはハザードマップの読み方として、以下の視点を提示しました。
【ハザードマップの読み方】
- 避難所までのルートを確認
- どの道が通れる?
- どこのトイレが使える?
- 仮設トイレはどこに設置される?
- 他に開いている避難所はどこ?
- 最寄りのコンビニ、ドラッグストア、スーパーはどこ?行ける?使える?
- 自治体からの避難物資はまずどこに来る?
- 避難物資の配布場所は?
- 救護所はどこにできる?
- いざという時にお風呂を貸してくれそうな場所はある?
災害から逃れた後に命と健康を守るため、生活を再建していくため、これらの情報を自主防災組織で地域に落とし込んでおくことが大切だそう。
「生活に必要な情報を行政の男性だけが知っていても仕方がないですよね。災害の知識やマニュアルをただ覚えるのではなく、こういう時にはどういうことが起こるのか、生活をイメージしておくことが大切です」
女性は「配慮される側」?声を上げていきましょう
災害対策の長い歴史の中で、女性は「配慮される側」として扱われてきました。意思決定の場に携わる女性の数も少なく、女性のニーズはまだまだ届いていないのが現状です。
「日頃の生活で弱い部分が顕在化するのが災害時。ジェンダーの問題も出てきます。男性が女性のために声を上げられるわけでもありません」と神原さん。
「災害時は地域の総力戦となります。公助ではまかなえないことも多々ありますし、『被災=避難所』ではもうないのかもしれません」
「困っていることについて声を上げられる、聞いてもらえる地域づくりが大切。『分からない』『できない』ではなく、『分からないなら、分かっている人に聞こう』『できないなら、できる人を呼ぼう』と考え方を変えていきましょう」
今から3時間後、過去最大級の水害が起こったら、あなたはどう行動しますか?
「防災講座=防災知識を学ぶ」というイメージで私は参加していたので、「マニュアルではなく、まずは考え方の転換を」という神原さんの呼び掛けは目からうろこでした。確かに、災害後がイメージできていないと、せっかくの知識も生かされそうにありません。「自分が主体となって動く」と意識することで、日頃の生活や注意点も変わってきそうです。
講演の後はワークに入りました。「めぐろーる(目黒巻き)」という行動予測シートを使い、災害時の行動を具体的に想像していきます。
設定はこちら。
時間は日曜日の 16 時。大雨が降り続き、3 時間後に自治体が「過去最大級」と想定して作ったハザードマップ通りの水害に見舞われます。発生から「1 時間後」「1 日後」「1 週間後」と細かく時間が刻まれ、「今の状況は?」「その時、どうする?」「必要なものは?」「情報伝達」を考えていきます。
災害を「今から!」と設定されると、嫌でも自分の生活に向き合うことになります。私の場合、休日であれば家族は一緒にいます。自宅も浸水しない場所にありますが、それでも次のような課題が見えてきました。
- 食料が足りそうになく、焦るだろう(買い物に行きたいけれど、外出したら危ない大雨)
- 自宅は浸水しない場所だが、主要な道路は過去に浸水しているので、水が引くまでは動けない
- 停電すれば、夜は子どもたちが怖がって泣くだろう
- エアコンが使えない時の暑さ対策は?
自宅が無事でも、「命と健康を守る」という点で不安です。備えの大切さをあらためて突き付けられた第 1 回の講座となりました。
「女性防災プロジェクト」の第 2 回は「地域防災の多様性を考える」をテーマに 7 月 9 日(土)に開かれます。引き続き、ココハレで詳しくレポートしていきます!
女性防災プロジェクトの記事はこちらから
避難所運営ゲーム「HUG」で“窮地”を体験。命の大切さを意識しました|「女性防災プロジェクト」講座を受けてみた②
被災者と支援者を演じる?!ロールプレイから、防災力を高めるコミュニティーを考えました|「女性防災プロジェクト」講座を受けてみた③