【つむサポ講座】病気・障害のある子どものきょうだいへの支援とは?|「いい子」の裏側に気付いてあげて
高知の新しい子育て支援「みんなでつむサポ」から、講座の様子を紹介します
2021 年度に始まった高知県の新しい子育て支援「みんなでつむサポ」では子育てサークルなど 8 団体・個人が「つむサポ講座」を企画しています。
今回ご紹介するのは「病気や障害のある子どものきょうだいへの支援」を考える勉強会です。1 月 16 日にオンラインで開かれました。知的障害のある弟と 2 人きょうだいで育った助産師の森木由美子さんが講師を務め、自身の成長過程ごとに感じた気持ちを語りました。
きょうだいの立場にある子どもたちは我慢する場面も多く、病気や障害に対して親には言えない気持ちを抱えるということがあるそうです。森木さんは「『いい子』『しっかりしている』と周りから見られますが、知らず知らずのうちに無理をしているかもしれない。『いい子』の裏側を見てあげてほしい」と呼び掛けました。
目次
つむサポ講座「障害のあるきょうだいをもつきょうだいの想いと支援」は、病気や障害のある子どもを育てる家族のサークル「Smile Support Kochi(スマイル・サポートこうち)」とNPO高知市民会議が協働で開催。障害のある子どもを育てる母親や、障害のあるきょうだいがいる人、障害のある人への支援に携わっている人が参加しました。
講師は土佐市で助産院「はぐはぐ」を開いている助産師の森木由美子さん。家庭訪問をしながら産前産後のお母さんの支援に取り組み、子育て支援センターなどでも講座を開いています。
森木さんは鹿児島県出身で、両親と 1 歳違いの弟と 4 人家族で育ちました。弟には知的障害や難病があります。勉強会では病気や障害のある子どものきょうだい(以下、「きょうだい児」と呼びます)の気持ちや悩みをライフステージごとに紹介しながら、森木さん自身の経験を語りました。
【乳幼児期~学童前期】親に構ってもらえず、我慢することも多いです
乳幼児期から学童前期は、病気や障害について大人のようには理解できない時期です。親は病気や障害のある子どものケアに時間を取られるので、きょうだい児は「後回しにされる」「かまってもらえなくて我慢する」ということを経験します。
【乳幼児期~学童前期のきょうだい児】
- 多くのことが後回しにされたり、構ってもらえなくて我慢しなければならないことがある
- 我慢して「いい子」であることが多く、そのことに自分自身が気付いていないことがある
- 地域や学校で、きょうだいと他の人との違いに気付き、悩むことがある
- きょうだいのことでつらいこと、悩みなどの本音を親に打ち明けることができない
森木さんは「弟とは年子なので、一緒に育った」そうです。弟の療育にも一緒に行きましたが、「リハビリは楽しそうで、私も弟と同じことをしたいけれど、させてもらえなかった」など、我慢することも多くありました。弟の方が母親といる時間が長く、「私もお母さんと一緒にいたい。病気になりたい」とも考えました。
「いい子にならなきゃ」と考えていたわけではないそうですが、保育園の連絡帳には「いい子です」「しっかりしています」と書かれるタイプでした。ある時、森木さんの幼なじみの母親が「こんなにいい子なわけがない。もっと甘えさせないと」と森木さんの母親にアドバイスしたそうです。
自分と弟の違いは「一緒に遊べない」「おにごっこができない」など日常から少しずつ理解していきました。小学校に入ると、弟は特別支援学級へ。運動会などの行事では「同級生と同じことができない弟のことを恥ずかしく思ったこともありました」。
さまざまな気持ちを抱える中で、振り返ってみてよかった経験が習い事でした。「ピアノの時間だけは唯一、弟がいない、母と私だけの時間。発表会の後は弟に内緒でパフェを食べたり。親と 2 人だけの時間を合間合間でちょこっと持てることが大事だなと思います」
【思春期】友達への説明、進路、親からの期待…自分の世界が広がると同時に、悩みも広がります
思春期に入ると、生活圏が変わります。きょうだいの病気や障害を知らない友達との出会いが自分の世界を広げる一方で、「友達にどうやって説明しよう」という悩みや、「将来、自分が世話をすることになるのかな」という不安も生まれます。
【思春期のきょうだい児】
- 自分の家族のことを知らない友達との出会いが自分の世界を広げると同時に、将来への期待と不安を感じる
- 進路に悩む。将来の世話などについて心配する
- 親からのさまざまな不条理な期待に悩むこともある(例「県外に出ずに、そばにいてほしい」)
【青年期】恋愛、結婚、出産をためらう気持ちが生まれます
18 歳から 30 代の青年期では、恋愛や結婚、出産に対してためらいや悩みが生まれます。「自分の子どもに障害があったら…」という気持ちを抱いたり、親が亡くなった後のことに不安を感じたりします。育児では実家の支援が得られなかったり、少なかったりします。
【青年期のきょうだい児】
- 恋愛、結婚、出産に対するためらいや悩みを持つ
- 自分の子どもに病気や障害があったらどうしようと不安を抱く
- 自分の子育てについて親からの支援がない、少ない
- 親が亡くなった後の不安
- 職業選択に影響する(例「転勤のない職場を選ぶ」「医療・福祉関係を選ぶ」)
森木さん自身も里帰り出産をして実家で過ごしましたが、子育てを手伝ってもらうことは難しかったそうです。「障害のある子が生まれるかもしれないという覚悟もしていた」と話していました。
【成人期、老人期】親の病気や介護の問題にも向き合うことになります
40~50 代の成人期、そして 60 代以降の老年期は親の病気や介護に向き合うことになります。育児と介護を担う「ダブルケア」に直面する人もいます。
【成人期、老年期のきょうだい児】
- 親の病気や介護に向き合う
- 親に代わってきょうだいを世話する、保護者になる
- 親やきょうだいの介護や死別と向き合う
マイナスの感情でも、感じたらいけない気持ちはありません
参加者はライフステージごとにきょうだい児の気持ちを学んだ後、感じたことを話し合いました。重い心身障害のある第 1 子を含め 3 人を育てるお母さんからは、こんな悩みが上がりました。
知的障害のある兄がいる参加者は、兄を「恥ずかしい」と思った過去を語りました。
参加者の思いを聞いた森木さんは、きょうだい児への関わりで心掛けることについて、「うそはつかない」「子どもが感じてはいけない気持ちはない」の二つを挙げました。「子どもが抱くマイナスの感情に対して親はショックを受けますが、『あなたが感じた気持ちはありのままでいい』と受け止めてくれる場所が一つでも二つでもあればいいと思います」
きょうだい児との時間は「長さ」ではなく、「質」です
森木さんは最後に、きょうだい児への支援について語りました。
森木さん自身は、自閉症の子どもとそのきょうだいを対象にした「集団療育」に幼い頃から参加。障害への知識を深めるとともに、同世代で「きょうだい児」という同じ立場にある友達をつくり、本音を話すことができました。高知にはきょうだい児が集う場はなく、「きょうだい児への支援」自体への理解もまだまだとのことです。
親子関係では、乳幼児期からの親子の絆が子どもの人生を左右します。悩みを抱えながら生活することによって、知らず知らずのうちに問題行動が生じることもあります。
病気や障害のある子どもを育てることは、親にとってまだまだ負担が大きいのが現状です。その上で、きょうだい児への対応も必要で、「正直、いっぱいいっぱい」という声も寄せられました。
森木さんは「きょうだい児との時間は『長さ』よりも『質』」と説明し、「親として十分な関わりができなくても、意識してもらえるだけで、きょうだいの思いは違ってきます」。福祉、医療、教育関係者に向けては「きょうだい児の気持ちを知り、『優しくてしっかりしている、いい子』の裏側を見てあげてほしい」と呼び掛けました。
最後に、きょうだい児に向けて、次のメッセージを伝えました。
ありのままのあなたでいい
感じたらいけない気持ちなどない
あなたは一人じゃない
参加者の中には「親に代わって家事をしたり、我慢したりはしていたけれど、自分が『いい子でいないといけない』と思っていたことに気付いていなかった」と話す人もいました。
森木さんからきょうだい児へのメッセージは、病気や障害の有無に関係なく、子どもを育てる上で、さらには人と人との関わりの中で大事にしていきたい内容でした。病気や障害のある子どもの子育てや家族の在り方、向き合い方について、これからもココハレで紹介していきたいと思います。