MR(麻疹・風疹混合)ワクチン、小学校入学前の2回目接種を忘れていませんか?
3月1~7日は「子ども予防接種週間」。母子手帳を見返し、接種状況をチェックしましょう
「VPD」を知っていますか?「Vaccine Preventable Diseases」の略で、ワクチンで防げる病気のことです。日本医師会、日本小児科医会などは 3 月 1~7 日を「子ども予防接種週間」として予防接種の啓発を行っています。
ワクチンの中でも麻疹(はしか)、風疹を予防する「MRワクチン」は小学校入学前に行う 2 回目の接種率が下がる傾向にあります。ココハレの「教えて!吉川先生」でおなじみの小児科医・吉川清志さんに聞きました。
ワクチンは決められた期間に接種することで、予防効果が高まります。母子健康手帳(母子手帳)を見返し、接種状況をチェックしてみてください。
ワクチン接種は生後2カ月から
VPDを予防するワクチン接種は生後 2 カ月から始まります。これは、お母さんから赤ちゃんに移行した免疫物質の量がだんだんと下がっていき、1 歳までにゼロになるため。法律で決められ、無料で接種できる「定期接種」のワクチンと、法律に定められてはいませんが、国が使うことを認めた有料の「任意接種」のワクチンを順次接種し、病気を防いでいきます。
吉川さんは「人が病原体に感染して自分で免疫をつくることは自然なことですが、感染は子どもにとって大きな負担であり、重篤な合併症の危険も伴う」と説明します。より安全な方法で病気を防ぐのが予防接種です。
ワクチンの接種スケジュールは母子手帳に記載されています。日本小児科学会のウェブサイトでも推奨するスケジュールが公開されています。
予防接種は「念押し」が大切です
最新のスケジュールを見ると、ワクチンの接種時期や回数、間隔はそれぞれ違い、最も多いもので 4 回となっています。「0 歳代に行う接種は 15~16 回で、1 歳代が 6 回。皆さん、母子手帳を見ながら、抜からないように小児科に通っていることと思います」
同じワクチンを何度も接種する理由は、1 回のワクチン接種では十分な免疫ができず、また免疫の効果もだんだん下がるためです。「免疫が落ちてきた頃にもう 1 回打つことで、より高い効果が長く得られます」。複数回接種することを「念押し」と呼びます。
MRワクチンなど、数年後に行う「念押し」もあります
「念押し」も 0~1 歳代が多いですが、中には数年後というワクチンもあります。代表的なのが「MRワクチン」で 1 回目を 1 歳になってすぐ、2 回目は 5~6 歳(小学校入学前まで)です。
MRワクチンは麻疹と風疹の混合ワクチンです。麻疹は「はしか」のこと。40 度近い高熱と発疹が主な症状で、まれに肺炎や脳炎などを起こし、最悪の場合は死に至ります。「免疫を持っていない人が感染すると、ほぼ 100 %発症します。有効な治療法はなく、発症したら自分の力で治すしかありません」。風疹は妊婦が感染すると、赤ちゃんが先天性風疹症候群という重い病気になることがあります。
日本で 2 回接種が始まったのは 2006 年度。対象年齢より上の世代への接種も行われ、麻疹の患者数は激減しました。現在は世界保健機関(WHO)から麻疹の「排除状態(土着するウイルスによる感染が確認されない状態)」と認定されていますが、世界的にはまだ流行が見られ、訪日客から流行することがあります。
「MRワクチンも念押しが大事ですが、2 回目は接種率が全国的に下がります」と吉川さん。高知県の 2020 年度の接種率は 1 回目が 100.4 %、2 回目は 93 %。2 回目は目標とされる 95 %に届いていません。
2 回目の接種の対象となるのは小学校入学前の年度末まで。「期間を過ぎると、無料で接種できなくなります」と吉川さん。入学前のチェックの一つとして、ぜひ覚えておいてください。
※接種率は統計値による算出です。
ワクチンの定期接種化で水ぼうそうは激減しました
予防接種がある程度普及すると、その病気にかかったり、患者を見掛けたりする機会が減り、ワクチン大切さが伝わりにくくなるという側面があります。そんな中、水痘(水ぼうそう)のワクチンが少し前に任意接種から定期接種に移行し、ワクチンの効果がすぐに現れました。
水痘ワクチンが定期接種化されたのは 2014 年 10 月。「毎年、冬から初夏にかけて流行していましたが、14 年の 12 月には患者の減少傾向が始まりました」と吉川さん。患者はその後激減し、「今は 1 年を通してほぼ流行が見られなくなっています」。
水ぼうそうは体に発疹ができ、かゆみを伴う病気。原因となる「水痘・帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウイルス」は水ぼうそうが治った後も体内に潜伏し、再び活性化すると「帯状疱疹」を発症します。
「水痘はまれにですが、肺炎や小脳失調症などの重い合併症を引き起こすことがあります。また、全身に発疹や水ぶくれができてかゆいのは、子どもにとってはつらいことです。ぜひワクチンで防いでください」
ワクチンの副反応より予防効果の方が大きい病気がVPDです
ワクチンで気になるのは副反応です。副反応は接種後、体内に免疫ができる以外の不都合な反応のことです。代表的な副反応は次の通りです。
【ワクチン接種後の副反応】
- 刺激に対する局所の反応…注射を打ったところが赤くなる、腫れるなど
- 体内でのアレルギー反応…熱が出る、発疹が出るなど
- 急激なアレルギー反応…ショック状態にもなる「アナフィラキシー」
- その他…肝臓、神経、血液障害など
副反応は「局所の反応」など軽い状態がほとんどで、重い症状の頻度はワクチン全体では「10 万接種に 1 回くらい」というデータが出ています。「副反応は残念ながらゼロにはなりませんが、ワクチンの効果と副反応を天秤にかけた時、明らかに効果の方が大きい病気がVPDとして予防接種の対象になっています」と吉川さん。
「母子手帳にはお子さんのこれまでの接種記録がきちんと残されています。毎年、『子ども予防接種週間』には母子手帳を見直し、接種し忘れているワクチンは接種して、お子さんの命を守ってください」