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「教えて!吉川先生」子宮頸がんワクチン|2022年4月に勧奨が再開。どんなワクチン?打った方がいいの?

「教えて!吉川先生」子宮頸がんワクチン|2022年4月に勧奨が再開。どんなワクチン?打った方がいいの?

子どもの病気やけがについて、ココハレかかりつけ小児科医・吉川清志先生が解説します

子どもの急な発熱に「さっきまで元気だったのに…」と焦ったり、病気やけがについてインターネットで調べてみたりしたものの、「本当に正しい情報なの?」と迷った経験はありませんか?

「教えて!吉川先生」は、そんなお父さん、お母さんの疑問や悩みに答えるコーナーです。先生は、高知県内でたくさんの子どもたちを診察してきた小児科医、吉川清志(きっかわ・きよし)さん。「ココハレかかりつけ小児科医」として、子どもたちの病気やけがについて解説します。

今回のテーマは「子宮頸がんワクチン」。小学 6 年生から高校 1 年生までの女の子が対象の予防接種です。法律で決められた「定期接種」ですが、厚生労働省が対象者に「打ってください」とお知らせする「積極的な勧奨」が中止されるなど、保護者にとって分かりにくい状況が続きました。

厚生労働省は 2022 年 4 月から「個別の勧奨」として勧奨を再開します。子宮頸がんワクチンはどんなものなのか、接種するかどうかをどう判断すればいいのか、吉川先生に聞きました。

※ 2022 年 2 月 14 日、勧奨再開について追記しました。

「子宮頸がん」はHPVへの感染が原因です

Q
「子宮頸がん」とはどんな病気ですか?
A
子宮の出口に近い部分にできるがんです

 

子宮頸がんは、「子宮頸部」と呼ばれる子宮の出口に近い部分にできるがんです。ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスに感染することが原因となります。

HPVはごくありふれたウイルスで、性交渉によって子宮頸部の細胞に感染します。多くの女性が一生に一度は感染します。

ほとんどの人は自然にウイルスが消えますが、一部の人はウイルスがなくならず、ずっと感染した状態になっています。これを「持続感染」といい、持続感染が続いた人のうちの一部が「前がん病変」と呼ばれる、がんになる手前の状態に移行します。そして、前がん病変からがんへと進行します。B型・C型肝炎ウイルスによって発症する肝臓がんと似ています。

20代でもかかり、30~40代で急増します

Q
日本にはどれくらい患者がいますか?
A
若い女性に多く、毎年、約 1 万 1000 人がかかっています

 

がんには「高齢者の病気」というイメージがあるかもしれませんが、子宮頸がんは 20 代でもかかり、30 ~ 40 代で急増します。日本では毎年約 1 万 1000 人がかかり、約 2800 人が亡くなっています。さらに、がんの治療によって、毎年 30 代までの約 1200 人が子宮を失い、妊娠できなくなっています。

子宮は残ったものの、子宮の一部を切り取る治療をすることで、妊娠した時に早産のリスクが高まる場合もあります。

「子宮頸がんワクチン」は小学6年から高校1年の女子が対象です

Q
「子宮頸がんワクチン」とはどんなワクチンですか?
A
小学 6 年から高校 1 年の女子が対象。6 カ月以内に 3 回接種します

 

子宮頸がんの原因になるHPVには少なくとも 15 種類あることが分かっています。子宮頸がんワクチンではこのうち、主に感染を起こす 2 種類のウイルス( 16 型と 18 型)への免疫をつくります。ワクチンによって、子宮頸がんの原因の 50 ~ 70 %を防ぐといわれています。

接種費用が無料になる「定期接種」の対象者は小学 6 年から高校 1 年に当たる年の女子です。日本で使われているワクチンには 2 種類(サーバリックス、ガーダジル)があり、同じワクチンを 6 カ月以内に、決められた間隔を空けて 3 回接種します。

注射は筋肉注射で、肩の外側の筋肉に針を刺します。インフルエンザなどの皮下注射に比べると、針を皮膚に直角に刺すので、見た目で「痛みが強い」と感じる人が多いようです。新型コロナワクチンは筋肉注射ですが、接種時の痛みはインフルエンザ皮下注射と変わらないことを体験されたと思いますので安心してください。

なぜ、「行政が接種を積極的に勧めない状態」が続いたのですか?

Q
なぜ、「行政が接種を積極的に勧めない状態」となったのですか?
A
副反応が疑われる報告が続いたためです

 

子宮頸がんワクチンは、日本では 2013 年 4 月から定期接種となり、対象となる女子がいる家庭には市町村が個別に通知していました。しかし、全身の痛みなど「副反応」が疑われる報告が全国で相次ぎ、その年の 6 月には「行政による積極的な勧奨を控える」ということが決まりました。

副反応ではないかと報告された症状には、全身の痛みのほかに、手のしびれ、手足が動かしにくさ、動かそうと思っていないのに体の一部が勝手に動いてしまう「不随意運動」などさまざまなものがあります。子宮頸がんワクチンが原因で起こったのかどうかを専門家が検査しましたが、副反応であるとは証明されませんでした。

なぜこういった症状が起きたのかは分かっていません。ワクチンを接種していない人からも同じような症状が報告されていて、発生頻度はワクチンを接種した人と差はありません。そのため、現在は何らかの身体症状はあるけれども原因が分からない「機能性身体症状」であると結論付けられています。

その後、海外の大規模研究でがんの予防効果が示されるなど、有効性や安全性に関するデータが蓄積されました。それらの結果も踏まえ、厚生労働省は 2022 年 4 月から「個別の勧奨」を再開することを決めました。8 年ぶりの再会となります。

接種することに不安があります

Q
娘に接種すべきかどうか、判断に迷います
A
「予防できるがんは予防してほしい」と考えます

 

子宮頸がんワクチンは有効性を示すデータ、つまり「打った方がいいですよ」ということを証明するデータが海外から報告されています。

スウェーデンの最新の研究では、女性 167 万人を対象にした調査で、「ワクチンを接種した人はしない人に比べて、子宮頸がんのリスクが 63 %に低下した」「 17 歳より前に接種した人ではリスクが 88 %低下した」という結果が発表されました。

また、日本対がん協会で行われた 20~29 歳の子宮頸がん検診結果から、子宮頸がんワクチンの高い効果が証明されています。

WHO(世界保健機関)も接種を推奨していて、世界では 100 カ国以上で公的な接種が行われています。また日本の接種勧奨中止を憂慮する声明も出しています。

子宮頸がんは、妊娠をきっかけに判明する場合があります。治療が早産の原因になりやすいこと、さらにがんが進行している場合は「妊娠を諦めて治療を優先させるか、治療せずに妊娠を優先するか」という厳しい選択を迫られます。治療に携わる産婦人科医や、早産児を治療する小児科医は「ワクチンで予防できる病気は予防してほしい」と切実に思っています。

子宮頸がんワクチンに限りませんが、予防接種をするかどうかは、「非常にまれに発生する重い副反応のリスク」を取るか、「将来病気にかかるという比較的高いリスク」や「非常にまれに発生する病気による重篤な合併症のリスク」を取るかを比較した上での、保護者の判断になります。

私の子どもが対象であれば、メリットとでメリットを天秤にかけて、子宮頸がんワクチンを受けさせたいと思います。

接種する時に気を付けることは?

Q
接種すると決めた場合、何に気を付けたらいいですか?
A
お子さんに不安があれば、解消した上で接種してください

 

子宮頸がんワクチンは接種後、針を刺した部分に痛みや腫れ、赤みなどが起こることがあります。まれに、呼吸困難やじんましんなどの重いアレルギー症状、手足の力が入りにくいといった神経症状が起こることがあります。どんな副反応があるのかを理解した上で、接種してください。

「機能性身体症状」は、けがや不安などがきっかけで引き起こされます。子宮頸がんワクチンの注射を打つ際の痛みが、そのきっかけにならないとは言えません。お子さんに強い不安がある場合は、何を不安に思っているのかをよく聞いて、解消してあげてください。接種後、痛みなど気になる症状がみられたら、迷わず医師に相談して痛みや不安に対応してください。1 回目に強い痛みがある場合は、2 回目以降をやめることもできます。

万が一、副反応で治療が必要になった場合は、予防接種法に基づく保障を受けることができます。かかりつけの医師に相談してください。

子どもへの伝え方は?

Q
子宮頸がんワクチンについて娘にどう伝えたらいいですか?
A
子宮の図を見せながら話してみるのはどうでしょうか。できれば子宮頸がん検診の大切さも親子で考えてみましょう

 

親子で子宮の図を見ながら、こんな話をしてみるのはどうでしょうか。

「女性のおなかの中には赤ちゃんを育てる子宮があります。子宮の「頸部」という出口に近いところにウイルスが長い間感染し続けると、そこにがんができてしまいます。がんを防ぐために、ウイルスの感染を防ぐ予防接種をします。○○ちゃんが小さいころからたくさんしてきた予防接種と同じで、肩に注射するだけです。痛みも他のワクチンと同じです。簡単でしょ!」

母子手帳にあるこれまでの予防接種の記録を見せながら説明し、お子さんが生まれた時のことや小さい時のことも話してみるのはいかがでしょうか。親子の絆を強める機会にもなると思います。

子宮頸がんを防ぐには、ワクチン接種に加えて、前がん病変やがんを早く見つける「子宮頸がん検診」が大切です。ハードルは高いかもしれませんが、「 20 歳になったら、2 年に 1 回は検診を受ける」ことも親子で考えてみてください。

吉川先生より「正しく理解した上で決めてください」

子宮頸がんワクチンについて正しく理解した上で、接種するかどうかを決めてください

 

子宮頸がんワクチンについては、娘さんを持つお父さん、お母さんからすれば分かりにくい状況が続きました。「副反応か」とされた報道を覚えている人は、「本当に打って大丈夫なのか」と不安に思うことでしょう。

「積極的勧奨」が中止されていたために、ワクチンの存在を知らないまま、お子さんが対象年齢を過ぎたという家庭もあると思います。1997~2005 年度生まれで未接種の人への救済措置(キャッチアップ接種)も決まりました。

いずれにしても、子宮頸がんワクチンについて正しく理解した上で、接種するかどうかを決めてほしいと思います。

子宮頸がんワクチンをきっかけに、予防接種の意義や、検診を受ける大切さ、自分の体を大事にすること、体調に気を付けて何か気になる症状があれば早めに診察を受けることなどを親子で話し合っていただければと思います。

 

吉川先生のインタビュー記事はこちら

「教えて!吉川先生」の「予防接種」はこちら

(イラストは岡崎紗和が作成しました)

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 3 と年長児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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