命の誕生、性の違い、プライベートゾーン…5~6歳児への性教育、どう伝えたらいい?|桜井幼稚園・年長児クラスで「いのちのおはなし」が開かれました
幼い頃から繰り返し伝え続けるといいと言われる性教育。幼児期の子どもたちには何を、どんな言葉で語り掛けたらいいのでしょうか。
高知市桜井町 1 丁目の桜井幼稚園で、5~6 歳の年長児を対象にした「いのちのおはなし」が開かれました。命の誕生や男女の性の違い、プライベートパーツ(プライベートゾーン)について、助産師の谷泰子さんが伝えました。
この日は保護者も参加。「性教育はいつ始めたらいい?」「どこまで話したらいい?」というお父さん、お母さんの疑問にも答えました。詳しく紹介します。
目次
「お母さんのおなかの中にいた時のこと、覚えてる?」胎内記憶から、命の話へ
桜井幼稚園の「いのちのおはなし」は 2023 年 9 月 8 日に開かれました。
講師は助産師の谷泰子さん。高知市の小梅助産院で、訪問による産後ケアや授乳相談、抱っこやおんぶなどの「ベビーウェアリング」の相談に応じています。
高知県内の学校などで「いのちの教室」の授業も行っています。
桜井幼稚園では、東日本大震災が発生した 3 月 11 日など、折に触れて命の話を子どもたちに伝えています。性教育の授業は初めての試みで、保護者の提案で実現。年長児 42 人と、保護者 10 人ほどが参加しました。
年長児が性のお話にすんなり入れるように、谷さんはこう問い掛けました。
「みんな、お母さんのおなかの中にいた時のこと、覚えてる?」
「(おなかを)ぼこぼこ蹴った!」
「テレビの音が聞こえた!」
「カレー食べた!」
子どもたちは口々に発言。谷さんによると、子どもには 3 歳くらいまで胎内の記憶があり、徐々に忘れていくのだそうです。
「じゃあ、一緒におなかの中の世界を見ていきましょう」という流れで、「命の誕生」に入りました。
「卵子」「精子」は命のもと。「受精卵」「胎盤」も伝えました
「命の誕生」のお話では、受精について触れました。こんな説明でした。
お母さんが持っている命のもとが「卵子」。お父さんが持っている命のもとが「精子」。
一つの卵子と一つの精子が結び付いて、「受精卵」になります。
子どもたちには卵子と精子の写真を見せながら、正式な言葉で伝えました。受精卵の大きさを実感するために配られたのが赤いハート。野市中学校(香南市)の授業でも生徒たちに配られていました。
受精卵は、針で開けた穴くらいの大きさです。園児も保護者もじっくり探し、「ちっちゃ!」と驚いていました。
その後、胎児の成長を写真で追っていきました。谷さんはおへそから、「胎盤」や「子宮」の役割にも触れました。
おへそは、お母さんの『胎盤』につながっています。胎盤はお肉の塊みたいなものです。お母さんが赤ちゃんを育てる『子宮』というお部屋の壁にくっついています。
胎盤からへその緒を通って、お母さんから赤ちゃんに酸素と栄養が送られます。赤ちゃんからは要らないものがお母さんに返されます
ここでクイズ。「おなかの中の赤ちゃんはうんちをする?」「おしっこはする?」
「おしっこはするけど、うんちはしません」の答えに、子どもたちは「えーっ!!」と大盛り上がり。この話題はやはり、反応がいいですね。
おしっこについては「赤ちゃんは、赤ちゃんを包んでいる袋の中の水を飲んで、袋に戻します。体をつくるためのおしっこで、おっぱいを飲む練習をしています」と説明されました。
プライベートパーツは「命をつなぐ場所」だから大事
「いのちのおはなし」は命の誕生から、命のバトンへ。谷さんは「みんなは命のバトンを受け取り、この世に無事に生まれてきてくれました。みんなは次の命をつなげる役割を持っています」と伝えました。
「健康な命をつなげるために、年長さんの今からできることは何かな?」という問い掛けから、プライベートパーツの話に入りました。
プライベートパーツはプライベートゾーンとも呼ばれます。「水着で隠れるところ」と「口(くち)」と習いますね。
谷さんはなぜプライベートパーツが大事なのかを説明しました。
「女の子のお胸はどうして大事?」
「赤ちゃんがおっぱいを飲むから」
子どもたちは即答です。谷さんはお母さんと子どもの胸の大きさの違いに触れ、こう語りました。
おなかは「赤ちゃんが育つお部屋があって、卵子の倉庫も準備されています」と説明しました。
そして、「おまた」という言葉で女の子の性器についても触れました。
男の子の性器については、こんな説明でした。
「女の子になくて、男の子にあるものは?」
「ちんちん!」
「正解!他に何がある?」
「きんたま!」
お父さんの持っている精子は、とっても弱っちいんです。大事に大事に、お母さんに届けています。
きんたまはただの玉じゃなくて、命のもとの精子をつくる工場があります。大事だから名前に「金」がつくんだよ。
おちんちんは大事な場所だから、毎日きれいに洗って、きれいなパンツをはいてくださいね。
「みんなの顔がお友達と違うように、おまたやおちんちんの大きさ、形、色も少しずつ違います。人と比べなくていいし、人のを勝手に触ってはいけません」
すると、ある子どもが質問しました。「遊ぶ時も、触ったらダメ?」
「遊ぶ時も触ったらいけないね。大事なところだからね。『やめて』って伝えても無理やり触ってくる人がいたら、お父さん、お母さんに教えてくださいね」
おしっこやうんちの話、おちんちんの話では子どもたちは盛り上がりましたが、ちゃかしたりふざけたりという感じはありませんでした。性の話は大人が恥ずかしがらずに伝えていけば、子どもたちも受け止めていくのだなと感じました。
「性教育=性器にまつわる話」だけではありません。子どもの判断力を育てていきましょう
園児向けの「いのちのおはなし」の後は、保護者向けのお話がありました。谷さんは集まったお父さん、お母さんたちにこう呼び掛けました。
今日の子ども向けのお話は「種まき」です。1 回で理解できるものではありません。
おうちで母子手帳やエコー写真を見ながら、お子さんがおなかに来た時、生まれた時のお話をぜひしてあげてください。
性教育について、「ご家庭でお子さんにできそうですか?」という質問には、皆さん「うーん…」。「プライベートパーツとか、部分部分だったら教えられるけど…」という反応でした。
「性教育は大事だと思うけれど、わが子にはできない。自信がない」という保護者は多いそうです。
性教育で、多くの保護者が思い浮かべるワードは「性行為」「第 2 次性徴」「月経」「射精」「性感染症」などです。谷さんは「日本の性教育ではこれまで、性器にまつわることしか教えていかなった」と説明します。
世界中で取り組まれる性教育の指針となっているのが、ユネスコなどがまとめた「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」です。人間関係や価値観、人権、文化なども含めた「包括的性教育」が進められています。
日本では、小学 4 年生で月経や射精を教えます。受精と妊娠は中学校で教えますが、性交は教えません。
「受精に至るまでの過程を教えないので、中途半端な知識になってしまっています。『性交』という言葉は使えないので『性的接触』となりますが、何か悪いことをしているみたいにも感じますよね」と谷さん。
性教育の意義について、こう説明しました。
好きになったら、相手とくっつきたくなるのは当たり前。『全部ダメ』『高校生だからダメ』は理不尽です。
そうではなくて、正しい知識を伝えて、「好きな人とくっつきたくなるのは当たり前なんだよ」と教えた上で、「今、それをしてもいいと思うか」と判断できる思考を育てていくのが性教育です。
性教育には「寝た子を起こすな」という意見がありますが、「子どもはもう起きています」と谷さん。
「変な動画を見て、間違ったことを覚えてしまう前に、正しく伝えましょう。変な動画を見て『これ、先生の話と違う』と気付ける子どもに育てていきましょう」
性教育は「いつ」「誰が」「どのように」するといい?
家庭で親が子どもに性教育を行うポイントを、谷さんは三つ紹介しました。
性教育に「何歳から始めるべき」という決まりはありません。
「『赤ちゃんはどうしてできるの?』『どうしてお父さんにはおちんちんがあるのに、お母さんにはないの?』など、子どもが興味を持って質問してきた時がチャンスですよ」
性に関する質問をされると、大人はうろたえがちですが、たらい回しはせずに、その場で答えられることを答えましょう。
「何でそんなことを聞くの!」と叱ったり、「そんなこと聞かないで」と返すのはNGです。否定されると、体のことについて親に質問できなくなります。
「『後で』は大人は理解できますが、子どもはその時の気分で質問します。質問したことすら覚えてなかったりするので、注意しましょう」
例えば、「赤ちゃんってどうしてできるの?」という質問。「幼児や小学校低学年の子どもたちはセックスについて聞きたいわけではありません。単純に『不思議だな』と思って質問します」
まずは褒めます。「すごいね!そんなことを考えるようになったんだね!」といった感じです。
次に理由を聞きます。「どうして気になったの?」と聞くと、質問の意図が分かるので、それに合わせて答えましょう。
答え方で大事なのは、子どもの発達段階に合わせることです。幼児期ならば、こんな感じから始めるといいそうです。
「パパとママが『赤ちゃんに会いたいな』と思って望んだら、あなたがおなかに来てくれたんだよ。生まれてくれてとってもうれしかったよ」
「赤ちゃんはどうしてできるの?」「どうやって生まれるの?」という質問は、子どもが自分の存在理由を知りたい表れです。
「親は変に照れたりせず、『コウノトリが運んできた』と科学的に正しくない話でごまかしたりもせず、淡々と、わが子に分かる言葉で伝えていったら大丈夫ですよ」
子どもの成長に合わせながら、親が説明しにくい場合は絵本も活用しながら伝えていくといいそうです。
谷さんは「性について、小さいうちから知ってほしいし、保護者にも聞いてほしい。家庭の状況はそれぞれあると思いますが、親子で学ぶところに意義があります」。高知県内には、園や学校での授業以外にも、親子向けに話をしたり、性教育をテーマにしたイベントを企画している助産師さんがいます。
家庭での性教育は、わが子に「あなたはかけがえのない存在」「生まれてきてくれてありがとう」と伝える機会にもなります。
子どもからの素朴な疑問や、学校での授業など、日常のきっかけをうまく活用して伝えていきたいですね。
桜井幼稚園では子育て支援事業として、「園開放」を行っています。9 月、10 月、1 月、2 月は谷さんが「命の大切さのお話」をします。
- 日時:9 月 26 日(火)、10 月 24 日(火)、1 月 23 日(火)、2 月 27 日(火)、10:00~11:30。谷さんのお話は 10:00 から 30 分程度
- 場所:桜井幼稚園・3 階(高知県高知市桜井町 1 丁目 9-14 )※園庭でも遊べます
- 対象:就学前の子どもと保護者
- 定員:10人程度
- 予約:必要
- 予約、問い合わせ:桜井幼稚園(088-882-0450)
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