6月10日を選んで生まれてくれた｜親子3世代で同じ誕生日

幸佑ちゃんの祖母、正岡朋枝さんは 1959 年 6 月 10 日生まれ。幸佑ちゃんの母親、橿尾真衣さんは朋枝さんの長女になります。

朋枝さんの出産予定日は 1987 年 5 月 30 日。しかし、予定日になっても出産の兆候は全くありませんでした。そのまま 1 週間が過ぎ、「もう出しましょう」と産科に入院したのが 6 月 7 日。その日からいろいろ処置をしましたが、やはり兆候はなし。

「 3 日目に点滴を打って、2 本目でようやく陣痛が来ました」と朋枝さん。吸引分娩（ぶんべん）になり、生まれたのが午後 6 時 15 分。「出産が大変過ぎて、同じ誕生日なんて全く意識しませんでした」と朋枝さん。朋枝さんの母親が「赤ちゃんと同じ誕生日だよ」と教えてくれましたが、「『あぁ、同じなんだ…』くらい。疲れていて感動とかはなかったですね」。

真衣さんは看護師として、高知市内の病院で働いてきました。妊娠中はICU（集中治療室）を担当。妊娠経過は順調で、「（妊娠を理由に）休まず、妊娠前と変わらない感じで働いてきました」と振り返ります。

あと 2 日働いたら産休に入るという 2019 年 6 月 5 日、休日を家で過ごしていた真衣さんは異変を感じます。「おなかがすごい張ってきて、『あれ？』って」。それでも翌日は仕事に行くつもりだった真衣さんは、同じ看護師で夫の幸聖さんに止められ、産科を受診します。

切迫早産でそのまま入院。3 日後の 8 日に破水し、高知医療センターに救急搬送されました。妊娠 34 週目。正期産の 37 週にはまだ早く、医療センターでも赤ちゃんがおなかの中にとどまるように処置をしました。「まだ出てこないで」と真衣さんは祈りましたが、9 日夜に本格的に破水。お産はどんどん進み、10 日の午前 1 時 52 分に幸佑ちゃんが生まれました。

体重は 2118 グラム、産声は「ほんの少し」。うまく呼吸ができていなかったため、すぐにNICU（新生児集中治療室）に運ばれ、真衣さんは顔を見ることもできませんでした。初めて会えたのはその日のお昼過ぎ。幸佑ちゃんは人工呼吸器や点滴の管を着け、保育器に入っていました。

「ICUで働いてるので人工呼吸器には慣れていますが、わが子の姿は見てられなかった。早く産んでしまって申し訳ない気持ちでいっぱいでした」

真衣さんは退院後も、毎日NICUに通いました。幸佑ちゃんを初めて抱っこしたのは生後 6 日目。1 週間で人工呼吸器が外れました。体重は少しずつ増え、3 週間で退院できました。

初めての育児は分からないことだらけ。「小さく生まれたので、母乳やミルクの吐き戻しが多くて。量を飲めないので、おなかがすいてすぐ泣いて、夜も眠れませんでした」

子育てに苦労しながらも、幸佑ちゃんはすくすくと成長。しかし、真衣さんは「早産をしたという申し訳なさ」がぬぐえませんでした。知人に「 6 月 10 日を選んで生まれてきてくれたんだよ」と声を掛けられ、気持ちが楽に。親子 3 世代で同じ誕生日だということを、前向きに考えるようになりました。

水遊びが大好きで、「隙があればお風呂に入ろうとする」という幸佑ちゃん。得意技は「おしりを使って後ろ向きに進むこと」で、ぐるぐると円を描きながら部屋の中を移動しています。1 歳になる 10 日のお誕生日は、朋枝さん、真衣さんのお祝いも併せて行うそうで、朋枝さんは「ケーキは 3 人一緒、仲良く 1 個です」。

ちなみに、親子 4 世代が続けて同じ誕生日になると、「同一誕生日の最多世代記録」の保持者としてギネス記録に認定されるそう。国内では 2006 年に横浜市の一家が世界で 5 例目として認定されました。真衣さんは「そこまでは…」と苦笑しつつ、「小さく生まれましたが、元気に大きくなってくれて本当によかった。穏やかな、優しい子に育ってほしいです」と話しています。