子どものおねしょ、治療はいつから?どんな治療法がある?|「夜尿症」について、小児泌尿器科医・波越朋也さんに聞きました
トイレトレーニング中や、おむつが外れた後に気になるのが子どものおねしょ。年齢が上がっても続くと、親としては心配になりますね。
おねしょは「夜尿症(やにょうしょう)」と呼ばれ、小学校に上がる時点で約 10 %の子どもに認められるそうです。
どんな場合に治療が必要なの?どんな治療法があるの?親はどのように子どもに接したらいい?
高知大学医学部付属病院で、小児泌尿器科専門医として診療に当たる波越(なお)朋也さんに聞きました。
目次
波越さんは 2010 年に高知大学医学部を卒業し、付属病院で勤務。高知県立幡多けんみん病院、兵庫県立こども病院を経て、現在は高知大で助教を務めています。
専門の小児泌尿器科では、15 歳以下の子どもの泌尿器疾患(腎臓、膀胱、生殖器など)を診断、治療しています。高知県内の小児泌尿器科医は波越さんを含めて 2 人だそうです。
波越さんは大学での診療のほか、南国市と香南市の乳幼児健診で小児泌尿器科健診にも取り組んでいます。
【夜尿症とは】年齢は「5歳以上、おねしょの頻度は「1カ月に1回」が「3カ月以上続く」
「おねしょ」と「夜尿症」は「基本的には同義語です」と波越さん。「おねしょ」の医学用語が「夜尿症」です。
夜尿症は次のように定義されています。
5 歳以上の子どもで、1 カ月に 1 回以上の夜尿が 3 カ月以上続く状態。
例えば、「 4 歳以下の子ども」であったり、おねしょの頻度が「半年に 1 回程度」という場合は、特に治療する必要がないそうです。
小学校に上がる段階で、夜尿症が認められる子どもの割合は、約 10 %。「 5 歳で 15~20 %、10 歳で 5~10 %、15 歳で 1~2 %ぐらいのお子さんに見られます」
夜尿症の定義には当てはまらない頻度でおねしょをする小学生もいますので、「小学生のおねしょ」は決して珍しいことではないそうです。
【治療のタイミング】就学後に受診し、「小学校高学年のお泊まり」を一つの目標に
夜尿症は「必ず治療が必要」というものではないそうです。
「就学以降は、毎年 15~17 %の確率で自然に改善していくと言われています」
そのまま家庭で見守っていても自然に治る場合がほとんどですが、「 0.5 %から数%は夜尿が解消しないまま成人に移行する」というデータもあります。
「治療を行うことで早く治り、治癒率も 2~3 倍に高まる」そうです。
保護者が子どものおねしょを気にし始めるのは、だいたい 5 歳くらいから。「小学校に上がっても続く場合は、受診されることが多いようです」
夜尿症治療の目標の一つとして設定されるのが、合宿や修学旅行など「小学校高学年でのお泊まり」です。「 5 年生の合宿までに治るように、低学年から中学年で治療を始める」という場合が多いそうです。
「親御さんがおねしょでストレスを感じている、お子さんが自分のおねしょを不安に思っているという場合も、治療を始めるタイミングになります」
【おねしょの原因】膀胱の働き、夜間多尿…完全に解明はされていません
おねしょの原因は「膀胱(ぼうこう)の働きが未熟」「夜間につくられる尿が多い(夜間多尿)」などありますが、科学的に完全に解明されているわけではありません。精神的なストレスや環境要因など、さまざまな要因が関与しているそうです。
ちなみに、「夜尿症のお子さんは眠りが深く、おねしょをしても起きることはほとんどありません」と波越さん。このため、大人のように尿意を感じて起きることが少ないのだそうです。
【おねしょの治療】「生活習慣の改善」「薬」「アラーム療法」の三つです
おねしょで受診した場合、医師は問診で子どもの生活状況を把握していきます。さらに、尿検査や超音波検査を行い、他の病気が隠れていないかを調べます。
夜尿症の治療法は「生活習慣の改善」「薬」「アラーム療法」の三つです。
①生活習慣の改善…夕食後の水分を減らし、寝る前にしっかり排尿
夕食後以降の水分摂取を減らし、就寝前にしっかり排尿することに取り組んでいきます。夕食後以降の水分量の目安は 200 ミリリットルです。
夜間の水分を制限する代わりに、「日中はしっかり水分を摂取し、規則正しくトイレに行く習慣をつけていきます」。早寝早起きも大事だそうです。
夜尿症は便秘とも関係があると言われているそうです。「便秘がもともとあるお子さんは、便を軟らかくする薬など、便秘の治療も並行して行うことがあります。」
②薬…夜中に作られるおしっこの量を減らします
生活習慣を見直しても改善しない場合は「薬」や「アラーム療法」を取り入れていきます。
単独で夜尿症に対して効果が認められているのが抗利尿ホルモン剤薬「デスモプレシン」。「夜中に作られるおしっこの量を減らし、夜尿症を治していきます」
服薬の際には注意事項があります。「本来であれば、おしっことして体の外に出るはずだった水分が体内にたまってしまうので、夕食後以降の水分制限をきちんとしていかないといけません」
デスモプレシンはごくっと飲み込むのではなく、舌の上で溶かして飲むタイプの薬です。
③アラーム療法…おねしょをしたら、起きてトイレへ
アラーム療法は、おねしょをするとアラームが鳴る機械を取り付けて寝るという治療法です。おむつや布団がぬれると、センサーが感知します。アラームが鳴ったら起きて、トイレに座ることを繰り返します。
「詳しいことは分かっていませんが、アラーム療法を続けると、夜中にためられる尿の量が増え、夜尿症が治っていきます」
アラーム療法の効果が出るまでには「数カ月はかかる」とのこと。さらに、夜尿症の子どもはアラームが鳴ってもぐっすり寝ていることが多く、親が起こしてトイレに連れて行く必要があります。
「ご両親が途中でつらくなり、治療を中断される場合もあります。根気よく続けていきましょう」
【親の心構え】「トイレトレーニングは無理に頑張らないで」
夜尿症の治療で覚えておきたいのが「すぐに治るものではない」ということ。「特に、毎日おねしょしているお子さんほど、治りにくい傾向にある」と波越さんは語ります。
おねしょの頻度が多いと、親にとっては睡眠が削られ、洗濯などの手間もかかります。「トイレトレーニングがうまくいかない」という声もよく聞かれます。
「親御さんが負担に思うなら、トイレトレーニングを無理に頑張ることはありません。おむつを履かせて寝させるなど、ストレスを感じないようにしてください」
子どもがおねしょをした時には、決して叱らないことも大事です。
「小学生になってからのおねしょは、親御さんしては心配になると思いますが、決して珍しいことではありません。お子さん自身は驚いたり、意外と気にしていなかったりなど、さまざまです。驚いたり、慌てたりせずに関わってあげていただけたらと思います」
おねしょについての相談は、小児科や泌尿器科で対応してもらえるそうです。
「小児泌尿器科疾患はあまりなじみがないかもしれませんが、困っているお子さん、親御さんも多いかと思います。まずはお近くの小児科、泌尿器科にお気軽にご相談ください」
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