性教育、学校では何をどこまで教えてる?高知県の「性に関する指導」とは?|性教育は小学1年生から発達段階に応じて。高知県教育委員会の廣田志保さんが解説しました
体の変化、心の変化を肯定的に捉えられるように…高知県の性教育を「にんしんSOS高知みそのらんぷ」のセミナーから紹介します
私たち親世代と、今の子どもたちとで大きく変わる学校教育の一つが「性教育」。今は「包括的な性教育」という視点で、小学 1 年生から始まります。
小学 1 年生から性教育?学校で何を、どこまで教えてるの?
そんな疑問をテーマにした「にんしんSOS高知みそのらんぷセミナー」が開かれました。高知県教育委員会事務局の廣田志保さんが講師を務め、高知県内で行われている「性に関する指導」について語りました。
性教育は、子どもたちが体の変化や心の変化を肯定的に捉えられるように、発達段階に合わせて内容を加えながら行われています。この記事では、学校で実際に使われている教材も交えて紹介します。
目次
「にんしんSOS高知みそのらんぷセミナー」は 2024 年 12 月 22 日、高知市桟橋通 4 丁目の高知市立自由民権記念館で開かれました。
主催したのは「にんしんSOS高知みそのらんぷ」。思いがけない妊娠に悩む人に向けた相談窓口で、児童家庭支援センター「高知みその」(高知市新本町 1 丁目)が運営しています。
今回のセミナーの講師は廣田志保さん。小中学校の養護教諭で、現在は高知県教育委員会保健体育課のチーフとして、県内で取り組まれている性教育を支えています。
県内の学校では 2009 年から、県教委が作成した「性に関する指導の手引き」に基づき、授業が行われています。現在使われているのは 2022 年 5 月の改訂版。県教委のウェブサイトから閲覧できます。
【学校での性教育】「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」も踏まえて進化しています
現在の国際的な性教育の指針となっているのが「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」です。ユネスコなどがまとめ、2009 年に発表しました。
ガイダンスで紹介されているのが「包括的性教育」で、八つのキーコンセプトが設定されています。
【国際セクシュアリティ教育ガイダンス・八つのキーコンセプト】
- 人間関係
- 価値観、人権、文化、セクシュアリティ
- ジェンダーの理解
- 暴力と安全確保
- 健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル
- 人間のからだと発達
- セクシュアリティと性的行動
- 性と生殖に関する健康
キーコンセプトにはそれぞれトピックが設定されていて、「5~8 歳」「9~12 歳」「12~15 歳」「15~18 歳以上」の四つの発達段階に応じて学んでいきます。
ここで、廣田さんが質問しました。
「ご自分が小学生、中学生、高校生だった頃、性教育について学校で習ったことをキーワードで表すとしたら、どんな言葉が思い浮かびますか?」
廣田さんが挙げたのは「二次性徴」「月経、月経の手当て」「射精」「妊娠、避妊」「性感染症」。キーコンセプトに当てはめると、「人間のからだと発達」「性と生殖に関する健康」に集中しています。
親世代の記憶から「日本の性に関する指導は、生殖の仕組み、生殖に関する体の仕組みについて学ぶ」と思われていますが、「現在はかなり進化しています」。
性教育は学習指導要領に基づいて行われていて、指導の際には次の四つが示されています。
- 発達段階を踏まえること…子どもの理解度に合わせて伝える
- 学校全体で共通理解を図ること
- 保護者の理解を得ることなどに配慮すること
- 事前に、集団で一律に指導する内容と、個々の児童生徒の状況などに応じ個別に指導する内容を区別しておくなど、計画性を持って実施すること…月経痛、男女交際、妊娠などは子どもに応じて詳しく教える場合があります
学校での性教育は「発達段階に応じて繰り返して教える」のがポイント。授業は保健体育だけではなく、道徳や理科、ホームルームなどでも行われています。
【高知県の現状】10代の妊娠、中絶…「脅しの教育」より「適切な意思決定、行動選択」を重視
高知県は以前から、「10 代の人工妊娠中絶実施率が高い」という現状にあります。
女子人口 1000 人に対する中絶率は、2009 年に 11.5 %で全国 1 位。その後の取り組みで 2019 年には 16 位( 4.7 %)まで下がりましたが、2022 年には 4 位( 4.6 %)でした。
15~19 歳の妊娠数は 2012 年が 231 件。2022 年は 90 件で、このうち出産は 28 件でした。
「『高知でもそんなことが?』と思うかもしれません。どちらも数は減っていますが、決して少なくはありません。正しい知識が得られず苦しんでいる子どもがまだまだいます」
性教育はなぜ必要なのでしょうか。廣田さんは「よりよい生き方、豊かな人間関係を築く力の土台になる」と語りました。
【性教育で意識したいこと】
- 生殖器も「大切な臓器の一つ」として教える→ライフプランを見据えた健康の自己管理ができるように
- 自分も他人も大切にしながら、適切な意思決定や行動選択ができる→性的なトラブルを避けられるように
- 自分の体、心、性を肯定的に捉える→自己肯定感が高まるように
高知県内での「性に関する指導」もこうした考え方に基づいて行われています。私たち親世代が受けてきた「禁止の教育」「脅しの教育」ではなく、「適切な意思決定や行動選択」に重きが置かれているんですね。
【小学校】1年生で「プライベートゾーン」、4年生で「月経」「精通」を習います
県教委が作成した「性に関する指導の手引き」では、小学 1 年生から高校 3 年生までの指導計画が紹介されています。学習内容は「生命尊重」「生物的側面」「心理的側面」「社会的側面」に分類され、教材も作られています。
ここまで何度も触れられてきた「発達段階に応じて教える」について、廣田さんは「男女の違い」をテーマに、授業で使われている教材で実演しました。
小学 1 年生では「プライベートゾーン」を教えます。授業ではイラストを見せて、「どちらが男の子?女の子?」と子どもたちに質問します。
「外見では『女の子は髪が長い』くらいしか分かりません。『パンツを脱いでみると?』と問いかけると、『きゃーっ!』という反応になりますが、そこで叱りません」
「子どもたちの『恥ずかしい』という反応も大切にしながら、楽しく自然な雰囲気で授業を進めます」
この時、「性器」という言葉を教えます。
「男の子と女の子では、おちんちんの形が違います」
「お医者さんも、赤ちゃんが生まれた時におちんちんの形を見て、男の子か女の子かを判断します」
「性器には『いのちのもと』が詰まっているんです」
こう伝えると、子どもたちの反応は「きゃーっ!」から「おぉー」に変わるそうです。
プライベートゾーンは「水着で隠れるところ」「特に大切な、自分だけの場所」と教えます。
2 年生では性被害を防ぐための教育、3 年生では命のつながりを教えます。
体の変化が再び登場するのは思春期に入るタイミングの 4 年生。ここで「月経」「精通」が登場し、性器のイラストを見ながら、仕組みを学びます。
【中学校】「科学的要素」と「変化の見通し」を伝えます
中学 1 年生になると、男女の体の変化について、小学校での振り返りに加えて科学的な要素が盛り込まれてきます。
「中学生は実際に体が変化し、恥ずかしさや戸惑いを感じる子どもも出てきます。どうして変化するのか、なぜ大事かをしっかり伝えています」と廣田さん。「体の性は二つだけど、心の性はたくさんある」という前置きをすることも大切だそうです。
中学生の授業で大事に伝えているのが「変化の見通し」です。
「声変わりや心の揺れなどの見通しを伝え、不安を和らげます。体の変化は子孫を残すための自然なものであること、自分の体は唯一無二なので大事にしてほしいこと、心配なことは 1 人で抱え込まずに周りの大人に相談することも伝えています」
【高校】「男女交際」「デートDV」についても詳しく伝えます
学習指導要領では、小学校では「人の受精に至る過程」、中学校では「妊娠の経過」を取り扱わないものとするとされています。いわゆる「はどめ規定」ですが、高校ではそういった記載はなくなります。社会に出る前のタイミングで、男女交際の要素が入ってきます。
高校 2 年生の教材は「性意識と性行動の選択~性をめぐるトラブルへの対処~」とタイトルも具体的です。
ココハレ編集部員が驚いたのは「デートDV」についての指導。どういう行動がDVに該当するのかが分かります。
「自分も他人も大切にしながら、適切な意思決定や行動選択ができる」とはこういうことなんですね。
高知県の「性に関する指導」をひもとくと、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」が設定した包括的性教育の八つのキーコンセプトのうち、「セクシュアリティと性的行動」以外の七つが実際に教えられていることが分かりました。
廣田さんは「『発達段階に応じて』という点はまだまだですが、科学的に、恥ずかしがらずに教える健康教育の視点、お互いを思いやって共生していく人権教育の視点をポイントに取り組んでいきたい」と話していました。
この記事で紹介した小学校、中学校、高校の教材は県教委のウェブサイトから閲覧できます。特別支援学校の教材も閲覧できます。「子どもが学校でいつ、どんなことを習うのか」の参考にしてください。
若者の性の現状は?2/2(日)にもセミナーが開かれます
2024 年度 2 回目の「にんしんSOS高知みそのらんぷセミナー」が 2025 年 2 月 2 日(日)、高知市桟橋通 4 丁目の高知市立自由民権記念館で開かれます。
講師は産婦人科医の毛山薫さん。「高知の若年者の性に関する現状と課題」と題し、講演します。
Zoomでも参加できます。
【にんしんSOS高知みそのらんぷセミナー・高知の若年者の性に関する現状と課題】
- 開催日:2025 年 2 月 2 日(日)
- 時間:14:30~16:00(開場 14:00 )
- 場所:高知市立自由民権記念館・民権ホール(高知県高知市桟橋通 4 丁目 14-3 )
- 申し込み:フォームで受け付けています。1 月 26 日(日)締め切りです