不登校、ひきこもり…わが子への関わり方は?声かけは?|ひきこもりUX会議・代表理事の林恭子さんが語りました

子どもの成長とともに変化していく親子関係。親の立場からすると、子どもへの「関わり」と「見守り」とのバラスンスが知りたいところ。
こうち男女共同参画センター「ソーレ」で親子関係をテーマにした講演会が開かれました。講師は一般社団法人「ひきこもりUX会議」の代表理事・林恭子さん。不登校から 20 年に及んだひきこもりの経験から、当事者の思いを語りました。
わが子が悩んでいる時、生きづらさを感じている時、あなたはどんな声かけをしますか?詳しく紹介します。
目次
親子関係をテーマにした講演会「近しき仲にも礼儀あり?!~心地よい親子関係~」は 2025 年 2 月 8 日、高知市旭町 3 丁目のこうち男女共同参画センター「ソーレ」で開かれました。
講師の林恭子さんは「ひきこもりUX会議」の代表理事として、イベントや講演会、研修会などを通じ、当事者の思いを発信しています。
著書に「ひきこもりの真実 ――就労より自立より大切なこと」(ちくま新書)などがあります。

【不登校からひきこもりへ】「高校をやめる=未来を失う」…昼夜逆転生活が20年続きました
講演は、林さんの体験談から始まりました。
3 姉妹の長女として育った林さん。父親は転勤族で、幼い頃から引っ越しや転校を経験しました。「新しい学校ではいじめにも遭わず、比較的なじむのも早く、順調だったと思います」
高校 2 年生のGWが明けると突然、学校に行けなくなりました。微熱、頭痛、腹痛、ご飯が食べられない、過呼吸などの症状が出て病院を転々としましたが、原因は分からず、休学して療養生活を送りました。
翌年、父親の転勤を機に、別の高校に編入学します。異変は最初の登校日に起きました。
「席に着いた瞬間、『これは駄目だ』と。混乱して帰宅し、動けなくなりました」

当時、「不登校」という言葉はなく、相談窓口もありませんでした。高校はそのまま中退となりました。
「『高校をやめる=未来を失う』ということ。まさか自分が。自分を責めながら、ひきこもり続けました」
終わりが見えない、昼夜逆転の生活。20 代になると、母親から「学校に行かないなら働きなさい」と告げられ、お小遣いを止められました。
近くの学習塾でアルバイトを始めますが、「半日外出すると、3 日寝込む状態」。それでも何とか続けましたが、27 歳の時、玄関で立ち上がれなくなりました。
「11 年間、『何とかしたい』『何とかしなきゃ』と思い、病院にも行ったし、本もたくさん読みました。『この人は』と思う人の話も聞きました。でも、どうにもなりませんでした。『こんな駄目な自分が生きていける所はないし、生きている価値もない』と思いました」

「これ以上は無理だ」と初めて死を考えます。どのような手段で死を選ぼうか。ベッドで動けないまま考え続ける林さんの脳裏に、ある日、映像が浮かびました。
「私の足のつま先だけが見えていて、その向こうに『生』と『死』という二つの道がある。そして、そのつま先だけがちょっと『生』の方に向いているという映像でした」
「こんなに駄目な自分なのに、まだ心臓は動いている」とけなげさを感じ、「体は生きようとしているのかもしれない」と思った林さん。
「人はいつか必ず死ぬのならば、ただ生きればいいのではないか」「何かの役に立たなくてもいい」と考えが変わっていきました。
昼夜逆転のひきこもりの生活はその後、信頼できる精神科医に出会う 30 代まで断続的に続きました。
【不登校の原因】学校、母との関係…「自分がない」と気づき、恐怖を感じました
不登校やひきこもりの理由は、真っただ中の時期には言葉にできなかったそう。講演では、学校が合わなかったことと、母親との関係を挙げました。
当時の学校は校則が厳しく、体罰も残っていました。林さんは転校生ということもあり、学校ではいわゆる“良い子”。「個性が大事」と言いながら、生徒を押さえつけてその芽を摘む教育への疑問が募りました。
「自分の中で相反するものが処理しきれなくなって、体の症状に出たのだと、今は思います」

母親は幼少期から厳しく、学校や習い事、毎日着る服に至るまで、全て決められるのが当たり前でした。
「母から『あなたはどう思う?』『どっちがいい?』と聞かれたことが一度もないんですね。20 代に入って、この親子関係はおかしい、私は母の操り人形だったんだと気づきました」
「私には自分がない」と気づいた瞬間、大きな恐怖を感じました。「足元が抜け、奈落の底に落ちていく感覚でした」
その後、林さんと母親とのバトルが始まりました。自分の気持ちを分かってもらいたいと必死の林さんに、対する母親はめげず、激しいものでした。
20 代が終わる頃、林さんは「この人は本当に分からないんだ」と気づきました。
「親だから分かってほしかったけれど、別々の人格を持った人間がたまたま親子になっただけ。親子が分かり合えなくてもおかしいことじゃないと思え、母と心の距離を取るようになりました」
【なぜ外に出られなくなる?】不登校、ひきこもりは生きるための行為です
不登校やひきこもりは「誰にでも起こり得る」と林さんは語ります。
「『これ以上頑張れない』と心身の動きが止まり、外に出られなくなる。生きるための行為なんです」
その苦しさは「地中に生き埋めになった状態。真っ暗闇でもがき苦しんでいる感じです」。「地上の世界」で生きる人の話は、なかなか届かないそうです。
「昼夜逆転の生活になるのは、昼間存在しているのがつらいから。夜中だったら、こんな私でも存在させてくださいと思えました」

エネルギーは空っぽの状態なので、まずはためる必要があります。その人が好きなことや心地よいこと、安心感で少しずつ満たしていきます。
ですが、ネガティブな働きかけが入ると、少しずつたまっていたエネルギーは一瞬でなくなるそう。
「人間関係のトラブルとかお説教、説得、無理解。つらい話やニュースにも影響を受けます」
林さんが代表理事を務める「ひきこもりUX会議」が 2019 年に行った実態調査では、当事者からこんな声が寄せられました。
不登校やひきこもり支援の多くは、最終目的が「復学」や「就労」に設定されています。ですが、「一刻も早く外へ」という働きかけが回復を阻害する場合もあります。
林さんは当事者の声を紹介しながら、「まず必要なのは、存在を肯定してくれる場所での心の充電」と訴えました。
【わが子への関わり】比較、プレッシャー、「良かれと思って」は「NGワード」です
わが子が生きづらさを抱えている時、親は何とかして助けたいと考えます。ですが、「親が良かれと思ってするアドバイスはちょっと待って。『良かれ』でされたことが良かった試しがない、という人もいます」と林さんはきっぱり語りました。
「『 十年一昔』と言われますが、今は『一年一昔』。今の子どもたちが生きる時代は、親世代には想像ほど変化のスピードが速く、意識して学ばないと話は通じません」
親の「良かれ」は正論であるため、子どもが何も返せなくなるおそれがあります。
「『良かれ』は本当に子どものためでしょうか。親が自分の安心感や世間体を得るため、子どもをコントロールするための言葉になっていないでしょうか」

不登校やひきこもりの状態に限らず、親子関係で心がけたいのは、年長者としてのアドバイスではなく、子どもに聞いたり、教えてもらったりする関わりです。
「本人もどうしたらいいか分からない時に発破をかけると、脅迫になってしまう」とのこと。進路や将来については、本人が聞いてきたら一緒に話し合うというスタンスがいいそうです。
「その程度?」と拍子抜けしてしまいますが、「大きく傷ついている本人に、学校や仕事の話をする必要はないと思います」。本人から話してきたら、否定せず、批判せず、終わるまで聴くことが大切です。

子ども本人へのアプローチを中心に考えがちですが、「家庭環境を良くする方がいい」とのこと。「リビングでなんてことはない雑談ができる」のが理想で、「あなたは家族の一員で、いつも気にかけている」ということを態度で伝えていきます。
- 夫婦関係を見直し、子どもの前での夫婦げんかをやめる
- リビングで楽しい会話を心がける
- 子どもから返事がなくても、日常の声かけを続ける
きょうだいがいる場合は、不登校やひきこもりになっている子どもを特別扱いせず、できるだけこれまで通りに接するのがいいそうです。
【家族のケア】情報を探し、当事者の会、家族会とつながってください
不登校やひきこもりへの対応ではまず、家庭を居心地のいい場所にしていくことが大切です。
「居心地が良くなると、ますます外に出られなくなる」と言われますが、これは誤解。「人は安心感を得て初めて一歩踏み出せるし、未来を考えられるようになります」
親にとっては難しい対応となります。2024 年に小中高生向けのオンラインフリースクールを運営する「SOZOW」(東京都品川区)が不登校の保護者に行った調査では、半数以上が「気分の落ち込み」や「孤独を感じた」と回答しました。情報がどこにあるか分からず抱え込んだり、離職せざるを得なくなって経済的に困窮するケースも報告されています。

林さんは自分から病院やひきこもりの当事者会にアクセスしましたが、本人からの行動は難しいと言われています。
「完全なひきこもりの状態でも、それを認めたくない人もいるし、自尊心も削られている。親御さんにまずやってほしいのは情報探し。家族会とつながり、いい支援者に出会うと、親の不安が軽減されおついていきます。子どもは敏感に感じ取り、『自分も行ってみようかな』と思うようになることもあります」
情報を得ておき、本人が「相談したい」「当事者の話を聞いてみたい」と思った時にぱっと提示できるようにしておきましょう。

親に求められる役割は、わが子を指導したり、前に立って引っ張ったりすることではありません。わが子が安心して家で過ごせるようにし、道を見つけたらサポートしていきます。
「親子で分かり合えたら一番いいですが、分かり合えない場合もあります。『私がこの子を何とかしなきゃ』と思わなくて大丈夫。親子の違いを認め、『自分だったらしないけど、この子にとっては必要なんだろうな』と思ってもらえたらと思います」
母親との関係について林さんが語ったテレビ番組がYouTubeで公開されています→こちらをタップ
ひきこもりの体験を語った動画も公開されています→こちらをタップ
林さんの講演会「経験者が語るひきこもり~解決ではなく共にあること~」が 3 月 8 日(土)、高知市文化プラザ「かるぽーと」内の中央公民館で開かれます。参加無料です。
【講演会「経験者が語るひきこもり~解決ではなく共にあること~」】
- 開催日時: 2025 年 3 月 8 日(土)講演会は 13:00~、交流会は15:05~
- 会場:中央公民館(高知市九反田 2-1、高知市文化プラザ「かるぽーと」内)
- 対象:ひきこもりの当事者・経験者、家族、支援者、関心を持っている県民
- 定員:80人。交流会は高知県内在住のひきこもりや生きづらさを抱える女性が対象です
- 申し込み:フォームで受け付けています
- 主催・問い合わせ:高知県ひきこもり地域支援センター(088-821-4508)
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