発達支援は子どもの好きなことから、少しずつ|キッズ☆バリアフリーフェスティバル・セミナーより
障害のある子どもやその家族に必要な情報を発信する「キッズ☆バリアフリーフェスティバル」が今年はオンラインで開かれています。福祉用具機器の紹介や聴覚、視覚、食事などさまざまな困りごとについての情報提供を行っています。
6 月 26 日と 27 日にはオンラインセミナーが開かれました。発達障害について、乳幼児健診に携わる理学療法士・森下誠也さん(田野病院)の講演と、就学後の子どもたちに関わる支援コーディネーター・吉本文香さん(グッドスマイル鴨部)の講演を紹介します。
乳幼児健診で保護者に聞かれることは?
26 日に登場したのは田野病院(安芸郡田野町)の理学療法士・森下誠也さん。室戸市の乳幼児健診に参加し、発達が気になる子への関わり方を保護者にアドバイスしています。
「発達障害のある子どもへの支援は早い方がいいと言われていますが、低年齢の時期は判断がとても難しい」とのこと。今回の講演では、健診で保護者によく聞かれることを年齢ごとに紹介しました。
【乳幼児健診でよく聞かれること】
- 乳児期:姿勢(首の据わり、お座り、つかまり立ち)、動き(寝返り、ハイハイ)
- 1 ~ 3 歳:歩き方・走り方が気になる、言葉が少ない
- 3 ~ 5 歳:落ち着きがない
- 5 歳~就学まで:字を書かない
発達を見ていく際は、獲得する前の段階、つまり必要な準備ができているかが大事だと森下さんは話します。
例えば、乳幼児期の「姿勢」と「動き」。姿勢を保つためには、自分の体の傾き具合や、体が接している所の感触などを「感じること」と、自分が思い描いている姿勢を保ったり、その姿勢に修正したりする「力」が必要です。
動く際にも、自分の状態を感じることと、動いた時に姿勢が崩れないように保ったり、バランスを取ったりする力が必要です。
つまり、人間は「周りの状況を感じ取り、その動きに必要な力を出し、感じた結果から姿勢や動きを修正する」ということを無意識のうちに行っているそうです。
リハビリでは、子どもの苦手なことを確認し、少しずつ刺激を与えながら、感覚や動きを育てていくということを行っています。「姿勢を変えるのが嫌な子どもは、体が傾くことに怖さを感じている可能性があります。『高い高い』などの遊びを通して、左右や前後に動かし、体の傾き具合を感じる力を育てます」
歩く、走るという動きの発達も、四つんばいで体をまっすぐに保つ体幹を育てる、アスレチックを使って手と足を協調させる動きを育てる、でこぼこ道や砂浜を歩いて感覚を育てるなど、子どもの苦手なことに合わせて対応しています。
落ち着きがない3~5歳 「ある程度は仕方がないことです」
3 ~ 5 歳児の相談で多い「落ち着きがない」という悩み。森下さんは「落ち着かない理由」をいくつか挙げました。
【子どもが落ち着かない理由】
- 分かることが増えてきた
- 気になることが増えてきた
- やりたい気持ちが増えてきた
- 想像力が育ってきた
- かまってほしい
- 注目を浴びたい
3 歳ぐらいになると、自分の思い通りに動けるようになり、子どもの世界が広がります。「自分に興味があるものに実際に近づいて、やってみることで脳が育っていく時期。落ち着きがないのは、ある程度は仕方がないこと」と森下さん。「想像力が育ち、心の中の気持ちが外に出過ぎた結果、落ち着かないということもあります」
この時期は「やりたいのなら、とりあえずやらせてみる」「かまってほしいなら、見ていることを伝え、しっかり褒める」ということが大事。「途中で手を出すと嫌がられるので、できるところまでお膳立てし、失敗は極力少なめにしてあげてください」
「字を書かない」という悩み。書くためには準備が必要です
「字を書かない」という悩みにも、森下さんは「準備が必要」と伝えています。
【字を書くために必要なこと】
- 手の機能が育っているかどうか…スプーン、箸の持ち方も確認します
- 体、肩、肘が安定している…肩と肘の支えがなくてもまっすぐ座れる
- 両手の役割分担ができている…「利き手で字を書き、反対の手で紙を押さえる」など
- 力のコントロール…ちょうどいい筆圧で書けるかどうか
- 字の理解、物の見え方…文字をどのように見ているか。目の機能(視覚、眼球の動きなど)も影響します
- 興味があるかどうか…書くことに興味がないのなら、字を見せて読むことから
リハビリでは作業療法士がこれらを確認し、お絵描きや塗り絵を取り入れたりしながら育てていきます。「何事もそうですが、興味がなければ子どもは食いつかない。最近は字を書く年齢が早くなっていますが、そこまで焦らなくていいですよ」
子どもの発達には個人差があります
子どもが順調に発達しているのか、子育て中の親としては気になるところですが、森下さんは「僕ら専門家が悩むくらい、個人差はある」と話します。発達支援のポイントは「子どもが好きなことから、少しずつ」。
「何でも最初はできなくて当たり前で、できるようになるには経験が必要です。育てるには時間がかかりますので、子どもの状態に合わせて、無理強いはせずに取り組んでください」
就学期の支援では「自分で考え、選び、決めること」を育てます
27 日に登場したのは吉本文香さん。放課後等デイサービスの「グッドスマイル鴨部」(高知市)で支援コーディネーターをしています。
放課後等デイサービスとは、障害のある小学生、中学生、高校生が放課後や夏休みなどに利用する福祉サービスです。子どもの居場所や療育の機能を備えています。
吉本さんは、子どもたちが自分らしく生きていくためには「自分で考え、選び、決めること」が大事だと話します。「自分らしく」を育てるため、意思決定による成功体験を小さいことから重ねていくことに取り組んでいます。
成功体験に必要なのが、次の三つです。
- やらされ感ではなく、「自分でやりたい」「これだったらできる」からスタート
- 子どもの「学ぶためのスタイル」を知っておく
- 「失敗から学ぶ」ではなく、最初からできる方法を伝えて「できる」という体験をしてもらう
「失敗は成功の元」と言いますが、発達障害の特性のある子どもは、友達に比べて自分ができないことを「自分が悪いから」と捉えてしまうことが多いそうです。「失敗からは『失敗した』という気持ちだけがクローズアップされます。最初から正しい方法を教えてできると、『自分でできた』『うれしい』『次もやってみたいな』という自発的な行動につながります」
子どもの「得意」「苦手」を把握します
この前提の上で、子どもに合った学習スタイルを活用しながら支援を行います。「学習スタイルを活用する」とは、「話を聞くよりも、イラストで見る方が理解できる」「ルールが明確なものに対応できる」といった、その子が物事を理解する上で得意なこと、苦手なことを把握し、支援を組み立てていくことです。
例えば、「人の意見に否定的な考え方をしてしまう」と悩んでいたA君への支援では、文字とイラストを使って考えの流れを図式化しました。
友達「このゲーム、面白いよね」
A君「(心の中で)僕はあまり好きじゃないけど」
↓
友達「このゲーム、面白いよね」
A君「(僕はあまり好きじゃないけど)君はこのゲームが面白いんだね」→友達の「面白い」という気持ちを肯定→友達は自分の気持ちを受け止めてくれたので、嫌な気持ちにはならない
「言い方を変えてみたら?」と言葉でアドバイスしがちな場面ですが、A君の場合は困っていることを聞き取りながら、気持ちや対応方法を紙に図式化しました。「言い方を変える」というアドバイスが「目に見える形」となり、「あ、何だ。そういうことか」という理解につながりました。
他にも、ストーリー仕立ての漫画にしたり、写真を使って比較したり。「子どもの学習スタイルに合わせて成功体験を重ねることで、自尊感情が育まれ、『これをやりたい、やろう』という意思決定ができていきます」
支援ツールは「子どもが使いこなすもの」です
子どもの理解を助ける道具を「支援ツール」と言います。目で見て分かるスケジュール表や、自分が座る位置を示した写真など、その子に合わせて作られます。「支援ツールを使いこなすのは子ども。大人の判断でやめるのはよくない」と吉本さんは話します。
買い物をする際に、買い方の流れを書いた「紙の手順書」が必要な子どもがいました。紙を見ながら買い物をしてきましたが、思春期に入ると他の人の目が気になり、紙を見ながら買い物をしている自分が恥ずかしくなりました。
そこで、紙の手順書をスマホで撮影することをアドバイス。画面を見ながら買い物を続けるうちに、「私は忘れてはいけないことを、書いていた方がいいんだ」と本人が気付きました。高校生になると、大事なことをノートにメモするようになりました。
吉本さんは「支援ツールを子どもが使い続けることで、その子にとって大事な物になり、使いこなせるようになります」。「支援は長く継続していくものです。『支援が結び付いた!』というところまでいくには時間がかかりますが、子どもに合わせて、自己満足にならないように支援してほしいと思います」
森下さん、吉本さんのお話には、普段の子育てに役立つヒントがたくさんありました。吉本さんによると、「言葉が話せるからといって、子どもが自分の気持ちを言えているとは限らない」そう。子どもがどう感じているのか、どんなことが得意で、どんなことを苦手としているのか、普段から子どもをよく見ることを心掛けていきたいですね。