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自閉症の子どもと、どう心を通わせた?母と息子の20年の歩みを記録|言語聴覚士・小村宣子さんが「UNIQUE」を出版しました

自閉症の子どもと、どう心を通わせた?母と息子の20年の歩みを記録|言語聴覚士・小村宣子さんが「UNIQUE」を出版しました

高知市の「こころとことばの相談室」で、発達障害や言葉に障害のある子どもとその保護者を長く支援してきた言語聴覚士の小村宣子さんが「UNIQUE(ユニーク)自閉症の子と母とともに」という本を出版しました。

主人公は自閉スペクトラム症(自閉症)と知的障害のあるトモ君とお母さん。小村さんはトモ君が 2 歳の頃から 20 年以上関わり、伴走してきました。

「UNIQUE」では、誰とも目を合わさず、一人で遊んできたトモ君がお母さんと心を通わせていく過程を、お母さんへのインタビューを基に振り返っています。自閉症の特性や愛着形成などについての解説もあり、親子の歩みへの理解が深まる一冊です。

「こころとことばの相談室」で親子に伴走してきました

小村さんは言語聴覚士で、公認心理師です。小学校教諭として、高知市内の小学校で「ことばの教室」を担当し、言語訓練に携わってきました。

退職後の 2001 年に高知市内の自宅に「こころとことばの相談室」を開設し、発達障害や言葉に障害のある子どもたちとその保護者を支えてきました。

「こころとことばの相談室」での支援を 2023 年 3 月で終えた小村さん。「大切な場所があった証し」として「UNIQUE」を出版しました。

抱っこが嫌い、お母さんに甘えない…トモ君は不思議な赤ちゃんでした

「UNIQUE」の主人公は 20 代の男性・トモ君。保育園年少の時に自閉症と知的障害があると診断されました。

小村さんは出版にあたり、トモ君のお母さんにインタビューしました。トモ君が赤ちゃんの頃からの様子、その時のお母さんの気持ちや関わり方を質問し、まとめています。

トモ君の成長がQ&Aなどで読みやすくまとめられています
トモ君の成長がQ&Aなどで読みやすくまとめられています

トモ君は抱っこが嫌いな「不思議な赤ちゃん」でした。当時の様子はQ&Aでこんなふうに紹介されています。

小村さん
Q
お姉ちゃんに比べて、甘えは少なかったですか?
お母さん
A
少ないというか、もうほとんどなかったです(超即答で)

 

小村さん
Q
( 1 歳を過ぎて)お母さんが抱っこでミルクを飲ませてあげようとすると?
お母さん
A
なんか、こう、肘で突かれるような感じで、嫌がってました

 

家庭でも保育園でも「背を向けて遊ぶ子だった」というトモ君。「ひとり遊び」について、お母さんはこう答えています。

お母さん

私が「何これ?」って近づくと、すーっと離れて、ちょっと嫌そうな雰囲気、オーラというか…、来るなっていうか。

それでもやっぱりいっしょに遊びたいと思って、そばへ寄っていくと、絵本がバリケードみたいにだんだん積み上がりました。

それで、嫌なんだっていうのがすごくわかって…

トモ君の気持ちを理解するため、お母さんは後ろ姿を観察し続けました

大切に育てるわが子に受け入れてもらえない――。自閉症の子どもを育てる保護者の悩み、子育ての大変さをトモ君のお母さんの語りで紹介するととともに、小村さんは「チョット科学してみると」と題したコラムで、その理由を科学的に解説しています。

例えば自閉症の子の「ひとり遊び」が長く続くのは、「子ども」「他者(養育者)」「対象(モノ)」の三つをつなぐ「三項関係」が発達とともに育ちにくいからだそう。人に対する興味、関心が薄いという特性が影響しています。

「言葉の発達」について、子育て支援センター「いるかひろば」で講演する小村さん(2021年5月)
「言葉の発達」について、子育て支援センター「いるかひろば」で講演する小村さん(2021年5月)

トモ君の気持ちを理解していくため、お母さんはトモ君の後ろ姿を観察し続けました。正面から見ると嫌がられるので、後ろ姿を見てきたそうです。

お母さんはトモ君が欲しい物、してほしいこと、困っていることを読み取って対応しました。紆余(うよ)曲折も経て、トモ君はお母さんに甘えるようになりました。

お母さんも「喜ぶ顔が見たい」と、トモ君に応えます。「UNIQUE」ではトモ君が大好きな飛行機を見せに高知空港に通った場面が紹介されています。

お母さん:(飛行機が飛んでいった後に)「飛行機飛んでったね。なくなったね」

トモ君:「ないね。ないね」(ぽろぽろ涙を流しながら)

お母さん:「ちょっと待ってたら、また飛んで来るからね」

トモ君が大好きな飛行機を見せに、親子は高知空港に通いました(写真はイメージです)
トモ君が大好きな飛行機を見せに、親子は高知空港に通いました(写真はイメージです)

飛行機が飛んできたら、大喜びです。

トモ君:「来た!!」「飛行機、飛行機!!」

お母さん:「トモ、ライト!!」

トモ君:(ニコッと笑う)

「私のせいかもしれない」から「これがトモなんだ」へ。お母さんの気持ちも変化しました

幼少期は一人で遊んでいたトモ君は、お母さんと心を通わせていくようになりました。その様子を間近で見ながら、小村さんは「こんなにも親子で響き合うことができるんだ」と感じました。

「特性や障害があっても、今のままでいいし、ありのままでいいんですよ」。小村さんは「これが土台」とした上で、こう感じています。

「親にも興味を示さず、自分だけの世界にいた子が徐々に変化し、少しずつ共有できる世界が広がっていくことを、トモ君が証明してくれました」

「発達障害の早期発見、早期療育には長年携わり、大事だと感じています。一方で、長い時間をかけてつくられていくものもある。できれば、親子に長く関わり、昔も振り返りながら、一緒に成長を実感していく。そんな『伴走者』としての支援も大事なのではないでしょうか

「お母さんとの会話から習うことも多かったです」
「お母さんとの会話から習うことも多かったです」

「UNIQUE」ではトモ君の小学校時代、特別支援学校の中学部時代、成人後の様子も紹介されています。トモ君の障害について、お母さんが「私のせいかもしれない」と抱え込んでいた頃や、「これがトモなんだ」と開き直っていく過程も記されています。

「障害のあるお子さんを育てる後輩ママ、パパには『うちの子にもそういう日がある』と安心してもらえたら。そして、先輩ママ、パパには『うちもそうだった』と懐かしんでもらえたら」と小村さん。

「『UNIQUE』には『唯一無二』という意味もあります。障害のある、なしに関わらず、お互いの違いを認め合い、共に生きることを考える上で、この本が何か役に立てばうれしいです」

 

UNIQUE 自閉症の子と母とともに

  • 著者:小村宣子
  • サイズ:四六判 108 ページ
  • 定価:1320円(税込み)
  • 発行所:リーブル出版

金高堂書店などで販売しています。

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 2 と年中児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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