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プライベードゾーンはなぜ見せてはいけない?「性的同意」とは?|性教育は「子どもと一緒に考えながら」

プライベードゾーンはなぜ見せてはいけない?「性的同意」とは?|性教育は「子どもと一緒に考えながら」

幼少期からの性教育について、産婦人科医・田口奈緒さんが講演しました

「性教育」は幼少期から行うことで、子どもの心と体を守ると言われています。親や学校の先生など、周囲の大人たちがどう関わっていけばいいのかを考える講演会が高知市内で開かれました。

講師は兵庫県立尼崎総合医療センターの産婦人科医・田口奈緒さん。NPO法人「性暴力被害者支援センター・ひょうご」の代表も務め、学校での性教育や、性被害を受けた人の支援に携わっています。

田口さんによると、家庭や学校での性教育は生活習慣の中で繰り返し行っていくことが大事だそう。「プライベートゾーンはなぜ見せてはいけないの?」「性的同意って何だろう?」といったことを子どもと一緒に考え、言語化することで身に付いていくそうです。

 

講演会は高知市の子ども家庭支援センターが企画し、2021 年 11 月 7 日に開かれました。

講師の田口奈緒さんは尼崎市内の病院で長く勤務。在日外国人の母子保健、性暴力被害への支援、性教育の三つをライフワークにしています。

「性暴力被害者支援センター・ひょうご」は産婦人科医として性暴力の被害者に関わる中で、「病院だけでは性暴力はなくならない」と考え、2013 年に立ち上げましした。尼崎総合医療センター内にあり、「ワンストップ支援センター」として被害者の医学的、心理的ケアを行っています。

多くの大人が性教育を受けていません

講演会には子育て中のお父さん、お母さんのほか、学校の先生や子育て支援に携わる人々が参加しました。田口さんは参加者同士で話し合うワークも取り入れながら、講演を進めました。

ワークの一つとして投げ掛けた質問がこちら。皆さんはいかがですか?

あなたがこれまで受けた性教育で印象に残っていることは?

 

性教育は時代とともに変遷を続けています。戦後は「結婚するまで性交渉してはいけない」という「純潔教育」の後、1960年代には性教育が行われていましたが、70 年代には学習指導要領から削除されました。80 年代から生徒指導において性に関する指導が始まり、90 年代に入ると小学校段階から「性」を扱うようになりますが、2000 年前後には「性教育バッシング」が起こり、再びトーンダウンします。

「私は修学旅行前に女子だけ集められて生理の手当てのみ教えられた世代。性教育のイメージが湧かないし、受けた時の気持ちも分からなかった」と田口さん。「性教育は大事だと聞くけれど、自分は受けたことがない」という大人が多いのが現状です。

今の子どもたちは小学 4 年生から体の発育や初経、精通などを学習し、中学校に入ると妊娠や性感染症について学んでいます。しかし、学習指導要領では「妊娠の経過は取り扱わないものとする」とされていて、性交渉について教えることはありません。

一方で、子どもたちを取り巻く性のトラブルは「スマホとコロナの影響で加速度的に変化しています」。子どものリテラシー(情報を正しく理解して活用する能力)が追い付いていない中で、「道具だけ与えてしまっている怖さがある」と田口さんは危惧します。

【子どもたちを取り巻く性のトラブル】

  • インターネット、漫画、雑誌などのメディアのフェイク情報…大きすぎる胸などあり得ない成熟した体つき、暴力的な性描写、デートDV前提の恋愛モデル
  • 性の商品化…JKビジネス、AVポルノへの出演強要
  • インターネットのトラブル…出会い系サイト、自画撮り(裸や下着姿の写真をスマホで送信してしまう)

 

現状を受け、全国の学校で「生命(いのち)の安全教育」が推進されることになりました。「性暴力の被害者にも加害者にも傍観者にもならないようにする教育が始まっています」

誰が、どんな子どもに、どんな話をしますか?

性教育は「誰が誰に教えるか」で内容が大きく変わります。田口さんは三つの段階を示しました。

【性の健康教育】

①学校・家庭における性教育…全ての子どもたちが対象。生活習慣として

②地域の大人の見守り…早期発見として。服装や言葉遣いなどで「SOS」を出している子どもたちを見逃さない

③早期介入…性暴力や妊娠リスクのある子どもたちが対象。産婦人科医ら専門家による再発予防

 

田口さんは中学生向けのスライドを見せながら、生徒たちにどんな話をしているのかを語りました。男女の体の変化や月経、射精の仕組みの図解を提示した後で、「皆さん、外性器の絵は描けますか?」。会場がちょっと戸惑いました。

「男の子は見えているので分かると思いますが、女の子については『おまたに穴が三つある』と知っていても、どこがどうなっているのか、どんな名前なのか、大人もちゃんと知らないし、教えられていないんです」。インターネットで調べようとすると、卑わいな画像が出てくるのが現状です。

性教育の方針を示した手引きとしてユネスコがまとめ、世界各国で採用されている「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、5~8 歳の段階で「性と生殖に関わる器官を含む、身体の名称と機能について知るのは重要なことであり、好奇心を持つのは自然なことである」と明記されています。

性の話は「タブー視しないこと」が大切。「家庭では例えば、お母さんが白い液体の付いたパンツを処理する、お父さんがお風呂に残った経血を発見するということがあります。親も自分の体の仕組み、異性の体の仕組みを知らないと、子どもに話ができませんよね」と田口さん。授業では、男女の妊娠にまつわる仕組みを、男女一緒に聞いてもらうそうです。

日本の性教育は遅れています

「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では「 18 歳までに性の自己決定ができる知識とスキルを身につけること」を目標にしています。「性教育を人権とジェンダーの平等という枠組みの中に位置付けている」と田口さん。八つのキーコンセプトがあり、5~18 歳を四つの年齢段階に分けて解説しています。

【国際セクシュアリティ教育ガイダンス・八つのキーコンセプト】

  • 人間関係…コミュニケーション
  • 価値観、人権、文化、セクシュアリティ
  • ジェンダーの理解
  • 暴力と安全
  • 健康へのスキル
  • 人間の身体と発達…日本の学校で行われている「性教育」はここに当てはまります
  • セクシュアリティと性的行動
  • 性と生殖に関する健康

 

「性教育」と聞くと、性交渉や性感染症などが思い浮かびますが、「実はほんの一部」と田口さん。「日本の性教育は海外に比べて、かなり遅れているのが現状です」

どうして水着で隠れるところが大事なの?

では、家庭ではどんな性教育を行っていけばいいのでしょうか。「プライベートゾーン」を例に、田口さんが説明しました。プライベートゾーンとは体の性的な部分のこと。子どもには「水着で隠れるところは自分だけの大切な部分だから、見せたり、触らせたりしてはいけないよ」というふうに伝えます。

説明はこれで終わり…と言えば終わりですが、例えばこんな質問をされたら、あなたはどう答えますか?ワークでも考えました。

どうして水着で隠れるところが大事なの?

どうして男の子はおっぱいを隠さないでいいの?

お風呂屋さんでは水着を着ないのに、プールに入る時はどうして水着を着るの?

 

大人はそれなりに答えを思いつきますが、一方的に伝えるのではなく、子どもと話しながら考えていく過程が大事。「子どもが大人と一緒に考えて言語化したことは身に付く」と田口さんは話します。

田口さんの授業では子どもたちと考えた後、「プライベートゾーンは体の性的な部分で、性的な部分は命に直接関わるところだから、簡単に人に見せないし、触らせないこと」「『この人になら命を預けてもいい』という人になら見せてもいい」と話しているそうです。

プライベートゾーンの話は、自分と他人との「境界線」の話につながっていきます。「あなたの体、あなたの気持ちはあなただけのもの」「誰が、いつ、どこで、どのように触れてよいか、決める権利はあなたにある」という「身体の統合性」「プライバシー」を教えるのは親の役割だと、田口さんは語ります。

母親は妊娠中、おなかの中の赤ちゃんと一体です。出産後もしばらくはお世話で一体ですが、子どもの成長とともに徐々に「子離れ」が必要です。「親子でも、私とあなたは違うし、違う考え方でいい」と境界線を引くこと、つまり子どもを一人の人間として尊重することが、性教育において大切なことです。

「子どもを思うがゆえにやっちゃうことはありますが、子どもだって自分の大事なところには入ってきてほしくない。親が子どもに境界線を引くことで、子どもは他の人を大事にするようになります」

スカートめくり、壁ドンは性暴力です

田口さんは最後に、性暴力ついて説明しました。暴力とは他者を支配するプロセスの問題であり、人の権利を侵害する行為。「力の強さよりも、相手が元気に生きる権利をじわじわと侵害していくことが問題です」

性暴力とは「あなたが望まない性的な行為全て」。「相手が誰であっても、どんな理由があっても、性暴力は決して許されない」ということを、子どもたちには繰り返して言わなければなりません。具体的には次のような行為です。

【性暴力の例】

  • 着替えなどをじろじろ見る
  • スカートめくり、かんちょう…性的に大事な場所が犯されるということ。「遊び」「冗談」では済まされません
  • 体に突然触る…痴漢は犯罪。友達同士でも、相手の同意なしに突然触ってはいけません
  • お風呂から出て、部屋を裸でうろうろする…あなたの裸を家族は見たくありません。お風呂から出たら服を着ることを習慣にしましょう
  • 「スマホで下着姿の写真を送れ」と言う
  • 壁ドン…恋愛ドラマや漫画では好意的に描かれていますが、相手の同意がないまま一方的に近づいてはいけません

 

性的な行為をしていいかを相手に確認してOKをもらうことを「性的同意」と言います。

「誰かを好きになり、近くにいたい、触れ合いたいと思うことは自然なことです。日本人は『言葉にしなくても分かるやん』というふうに考えがちですが、自分と相手は違う人間。誰もが性的な行為をするかしないかをコントロールする権利を持っています」

夫婦でもカップルでも、嫌なら拒否していいし、相手の同意が得られない行為はしてはいけないと教えることが性暴力を防ぐことにつながります。

性教育は知識、態度、スキル

10 代の人工妊娠中絶や性感染症など、性教育ではネガティブな面が語られがちですが、「同意に基づいて性交渉して、赤ちゃんが生まれるということは健康なこと」と田口さん。自身が行ってきた性教育を「性のポジティブな部分を語ってこなかった」と振り返りました。

性教育は信頼できる大人が、何度も繰り返していくことが大事で、「知識」「態度」「スキル」の三つを意識するといいそうです。

【性教育はじめの一歩】

  • 知識:知識だけでは身に付きませんが、知識は大事。本や専門家の力を借りましょう
  • 態度:お風呂上がりに裸でうろうろしていませんか?夫婦関係は対等ですか?まず大人が見本を示しましょう
  • スキル:子どもが考え、言語化したことは身につきます。「どうして?」を一緒に考えてみましょう

 

「私自身、大人になってみて、もっと小さいうちから性についてリアルに見せてもらってもよかったと感じるし、『スカートめくりは駄目なことだ』と小さいうちに教えてもらえたら、性について、生きることについて、もっと肯定的になれたのではと思います」

「性教育は積み上げが大事。今は参考になる本や動画がたくさんあります。お子さんと一緒に『どうして?』とぜひ考えてみてください」

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 3 と年長児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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