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昔話の主人公は男の子ばかり?女の子の昔話を伝えたい|作家・中脇初枝さんが再話した「女の子の昔話えほんシリーズ」

昔話の主人公は男の子ばかり?女の子の昔話を伝えたい|作家・中脇初枝さんが再話した「女の子の昔話えほんシリーズ」

「ちからもちのおかね」「おだんごころころ」。高知に伝わる女の子の昔話が絵本になりました

四万十市出身の作家・中脇初枝さんが再話(さいわ)を手掛けた「女の子の昔話えほんシリーズ」が偕成社から刊行されました。高知に伝わる昔話「ちからもちのおかね」と「おだんごころころ」を含む国内外の 5 作が楽しめます。

女の子の昔話がシリーズ化された背景には、「よく知られる昔話の主人公は圧倒的に男の子が多い」という現状があります。中脇さんは「地域で語り継がれてきた昔話には、女の子が主人公で面白いものがたくさんある。これからを生きる子どもたちに偏りなく楽しんでほしい」と話しています。

幡多地域で語り継がれてきた「ちからもちのおかね」

中脇さんは中村高校 3 年生だった 1991 年、小説「魚のように」で松山市の「坊っちゃん文学賞」を受賞しました。小説「きみはいい子」「わたしをみつけて」「世界の果てのこどもたち」などで知られています。創作活動に加えて、言葉で伝わる昔話を聞き取って文字で読む昔話に再構成する「再話」に取り組んでいます。

「昔話は小さい頃から大好きで、アニメの『まんが日本昔ばなし』もよく見ていた」そう。小学 6 年生の時に読んだ「遠野物語」がきっかけで、大学では民俗学を専攻。その土地で語り継がれてきた昔話について膨大な資料を読み込み、実際に訪れて聞き取りをする活動を続けてきました。

今回の「女の子の昔話えほんシリーズ」の 1 作目となったのが「ちからもちのおかね」。土佐清水市の岩井谷で暮らし、「岩井のおかね」と呼ばれて幡多地域で語り継がれてきた女性の伝承をつなぎ、一つの物語にしています。

おかねは小さい頃から力持ち。絵本は 3 歳で相撲取りを追い払った話で始まり、娘時代、結婚・出産後と展開します。昔話で語られる女性は若さや美しさが重要視される傾向にあり、おかねのように強さや行動力が語られるのは珍しいそう。

「おかねは機転を利かし、夫も助けます。女性は結婚して子どもができても自由に生きていいし、年を取ってもいい。そして、男性はそんなに強くなくてもいいんだよということも伝わるお話です」

「おだんごころころ」は四万十市西土佐地域に伝わる昔話です。「おむすびころりん」の女の子版で、「むすめ」と語られる主人公がピンチを切り抜け、幸せに暮らします。

桃太郎、浦島太郎、金太郎…昔話にひそむジェンダーギャップ

中脇さんは 2012 年、偕成社から「女の子の昔話」を刊行しました。今回、新たに絵本シリーズを手掛けたのは「昔話における圧倒的な男女格差をなくしたい」という思いからです。

「日本の昔話」と聞いて思い浮かぶのは「桃太郎」「浦島太郎」「金太郎」…。中脇さんがある昔話絵本シリーズを調べてみると、24 冊のうち、男性が活躍する昔話は 16 冊、女性が活躍する昔話はたった 4 冊でした。

「 4 冊は『かぐや姫』『つるのおんがえし』『雪女』『へひりよめ』。人間の女性は『へひりよめ』 1 冊だけなんですね」。ヨーロッパに目を向けると「シンデレラ」「白雪姫」など女性の主人公は多いですが、「若くて美しい女性がつらい状況を受け身で耐えて、最後に幸せをつかむというお話ばかり。語り継がれてきた昔話はもっと豊かなのに、知られていないんです」。

昔話のジェンダーギャップ(男女格差)には、出版業界を長く男性が担ってきたことも影響しているそう。「昔話は性別を超えた『人間』を相手にしています。主人公が男性でも女性でも気持ちは託せるけれど、それにしてもあまりにも偏っていると感じます」

男の子にも女の子にも読んであげてほしい

「女の子の昔話えほんシリーズ」はこれまでに 5 作刊行されました。絵本の大きさは縦 29 ㎝、横 24 ㎝と最近では珍しい大型サイズです。絵はそれぞれ別の作家が担当しています。

  • ちからもちのおかね(絵:伊野孝行)
  • わたしがテピンギー(絵:あずみ虫)…ハイチのお話。女の子が友達の助けで、困難を乗り越えます
  • マーヤのさるたいじ(絵:唐木みゆ)…鹿児島県・沖永良部島のお話。南の島の「さるかに合戦」
  • 花をさかせたがらない小さなキャベツ(絵:うえのあお)…フランスのお話。お手伝いをしない女の子と、そのお母さんが主人公
  • おだんごころころ(絵:MICAO)

 

昔話の多くは、最後に主人公が幸せになります。「偶然だったり、周りの人が助けてくれたり、本人の力だけでなく、いろいろな巡り合わせで今があることを伝えている」と中脇さん。

「『この世界は悪いものじゃないよ。安心して生きてごらん』と子どもたちの背中を押すのが昔話。後世を生きる人たちの幸せを願って語り継いできた、先人たちの愛のこもった贈り物です。子どもたちが楽しめる、面白い話を絵本にしましたので、女の子にも男の子にもぜひ読んであげてください」

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 3 と年長児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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