「男性の育休」を広げるため、「有休をほぼ100%取れる組織」に変えていこう|ファザーリング・ジャパンの徳倉康之さんが講演しました
男性メイン、時間制約なしの「昭和の働き方」はもう通用しない!四国銀行で開かれた「企業版両親学級」を取材しました
「男性の育休」の取得率アップが推進されています。2022 年 10 月には「産後パパ育休」(男性版産休)も始まり、赤ちゃんが生まれたタイミングで取得しやすくなりました。
男性の育休取得率は 2021 年度で 13.97 %にとどまり、「誰もが取りやすい社会」とは言えません。取得を進めるために必要な取り組みを考える高知県の「企業版両親学級」が四国銀行本店で開かれました。
講師のNPO法人ファザーリング・ジャパン理事の徳倉康之さんが呼び掛けたのは「男性の育休の前に、有給休暇をほぼ100%取れる組織に変えよう」。育休ではなく、有休?詳しく紹介します。
「企業版両親学級」は男性の家事、育児への参画やキャリアの在り方を考える高知県主催の事業です。四国銀行では 2023 年 3 月 14 日、高知市はりまや町 1 丁目の本店で開かれました。
四国銀行は厚生労働省の「プラチナくるみん」の認定を受け、女性が働き続けられる職場づくりや、部下の仕事と育児の両立を後押しする「イクボス」の養成などに取り組んでいます。
講師の徳倉康之さんはNPO法人「ファザーリング・ジャパン」の理事です。香川大学大学院の特命准教授や、男女共同参画、子育てに関する内閣府の委員なども務めています。
ファザーリング・ジャパンは、「父親であることを楽しむ」という意味の「ファザーリング」を浸透させることで、働き方の見直しや企業の意識改革、社会不安の解消、次世代の育成などを目指しています。
男性の育休は「取ろうと思っても取れない」のが現状
会場には、子育て世代の男性行員さんと、管理職世代の行員さんが集まりました。徳倉さんはまず、こう呼び掛けました。
「男性の育休、皆さんは取りたいですか?」「『取りたい』と思って、現状で取れると思いますか?」
該当する 20 代後半から 30 代は、現場の第一線でバリバリ働く行員さんばかり。育休が長期間になるほど、取得のハードルが高まるのは、どの企業、組織も同じですね。
徳倉さん自身、会社員時代は「馬車馬のように働く営業職」だったそうです。
「 24 時間 365 日働いて、病気で倒れて、1 年間療養しました。その後、どうやったら定時で帰っても営業成績でナンバー 1 になれるかを考えるようになりました」
結婚し、子どもが生まれた 14 年前に育休を取った時は「職場から総スカンで、評価も下がりました」。時代に合わせて働き方を見直していかない組織は長続きしないと実感したそうです。
育児、介護などで「時間の制約がある人」も働ける職場が生き残ります
女性に比べると、男性は「産前産後の変化」を身をもって感じる場面がほぼありません。「男性の育休」の取得がほとんどなかった昭和から平成の中頃あたりまでは、子どもが生まれた後も働き方を変えることなく過ごせました。
一方で、女性は妊娠、出産を経ると、すぐに「仕事と家事、育児の両立の壁」にぶつかります。
「 10 年前、ある銀行から『窓口業務ができる女性行員が子育てでどんどん辞めていく』と相談を受けました。聞いてみると、その銀行には時短勤務の制度があるのに、使わない、使えないという風土がありました」
男性がメインで、正社員が終身雇用で時間制約なく働くピラミッド型の職場は「昭和の働き方」だと徳倉さんは説明します。
「これまでは仕事中心の『ワーク・ワーク社員』でよかった。ですが、これからは仕事以外で取り組みたいこと、取り組む必要のあることも重視する『ワーク・ライフ社員』が働きやすい職場にならないと、若くて優秀な人は辞めていき、組織として生き残っていけません」
徳倉さんが「これから生き残る組織」として挙げたのがこちら。
- 男性が働く→男女が働く
- 長時間働く→短時間で働く…短時間勤務が評価に影響しない
- 同じ条件(いつでもどこでも働ける)の人が働く→育児や介護、病気など、さまざまな条件の人たちが働く
つまり、「家事や育児、介護などを家族に任せて長時間働ける人でないと働けない職場」から、「多様な働き方が選べ、育児や介護などで時間的な制約がある人たちも働けるフラットな職場」に変わっていく必要があるそうです。
上司と部下で“有休の取り合っこ”をしていきましょう
時代に合わせた組織の在り方を考えたところで、男性の育休取得を進めるために徳倉さんが提案したのが「有休が取れる職場づくり」です。
「職場が変わらないと、育休を取っても、その仕事をカバーする人がしんどくなります。『男性が育休を取ったら困る組織』を変える一歩として、『働き方を変える』だけでなく、『休み方を変える』ことが大切です」
目標は「有休を皆がほぼ 100 %取れる組織」。「どんなに難しくても 80 %を目指してほしい」と徳倉さんは語ります。
おすすめなのが、上司と部下による“有休の取り合いっこ”。半期に一度面談し、休みのスケジュールを先に決めておくといいそうです。
「『この日は子どもの運動会』とか『この日は龍馬マラソンに出たい』とか、決まっているスケジュールを出し合います。出し合う過程で、『へー、子どもが小学生なんだ』『マラソンが趣味なんだ』など、会話も進みます。お互いのプライベートや気持ちを理解し合う上でもおすすめです」
共働きの増加や、若い世代の価値観の変化など、急速に変わっている時代に対し、組織の在り方や働き方が必ずしも追いついていない現状で、今の 20~40 代は子育てをしています。徳倉さんは「男性の育休は、いきなりは取れない」と何度も繰り返しました。
「いろんな企業の相談を受けてきましたが、男性の育休を推進する一番の近道は有休です。有休の取得を進め、みんながメリットを享受できる組織になると、職場の風土が変わります」
次の子育て世代のために、現役の子育て世代が声を上げていく――。子育て中の私たちにはそんな役割も求められていると感じた講演でした。
ココハレでは育休を取得したお父さんたちに、4 回シリーズでインタビューしています。第 1 回はこちら。