南海トラフ地震への備え、家庭でもできていますか?|災害時に命つなぐ病院に…近森病院に薬剤棟と通路橋が建設されます

高知県内の高度急性期医療を担い、災害拠点病院でもある近森病院(高知市大川筋 1 丁目)に新しい薬剤棟と通路橋が建設されます。
南海トラフ地震では、近森病院は最大で 2 メートル程度の津波浸水被害が想定されています。建物の 1 階部分や周辺道路が水没し、千人を超える人々が院内に取り残される可能性があるそうで、今回の建設は新たな災害対策として「空の架け橋プロジェクト」と名付けられました。
プロジェクトでは建設費用の一部をクラウドファンディングで広く募っています。「災害への備えの大切さを県民に広く伝えたい」「自分の身は自分で守る取り組みを知り、家庭や職場で備蓄を進めてもらいたい」と呼びかけています。
災害時、命つなぐ「架け橋」を 近森病院(高知市) 薬剤棟、通路橋建設へ ―EINEE高知
(高知新聞PLUS 2024 年 6 月 2 日掲載)
南海トラフ地震に備え、災害拠点病院の近森病院(高知市大川筋1丁目)で新たな災害対策が進められています。本館の1階にあり、津波で浸水する恐れのある薬剤部を4階以上に移すため、新棟を建設。さらに、新棟と北館の3階部分を通路橋で結び、本館を含めて一体化させる計画です。運営する社会医療法人「近森会」では「空の架け橋プロジェクト」と名付け、「県民の命をつなぎ、高知の医療の未来を守る取り組みを知ってほしい」と呼びかけています。
津波想定では「1階部分が水没」
近森病院は病床数489床。救命救急センターを備え、2024年度の救急搬送の受け入れは約6900件。県内の高度急性期医療の一翼を担い、県の災害拠点病院にも指定されています。

高知市中心部という患者や家族にとってアクセスの良い立地ですが、南海トラフ地震では津波による浸水被害が最大で2メートル程度と想定されています。近森会の入江博之理事長は「建物の1階部分と周辺道路が水没する想定です。院内には患者や家族、職員がいますし、近隣の方も避難してくるでしょう。千人を超える規模で建物内に取り残される恐れがあります」と危機感を募らせます。
大規模災害に備え、これまで食糧や飲料水、医療資材、非常用電源など3日分の備蓄に取り組んできましたが、2024年に発生した能登半島地震で考えが変わりました。
「3日では支援が来ないかもしれないという状況を目の当たりにしました。当院はどう対応するか。推奨される7日分の備蓄をしようにも保管場所がないんです」

加えて、長年の懸案がありました。それは薬剤部の位置。現在は本館1階にあり、常時400人いる入院患者用に大量の薬剤や点滴、医療資材が保管されています。地震発生時、これだけの物を上層階に移すのはほぼ不可能。そこで始まったのが「空の架け橋プロジェクト」です。
薬剤部を4~6階に移設
プロジェクトではまず、老朽化した立体駐車場を取り壊し、鉄骨造り6階建て、延べ床面積約870平方メートルの新棟を建設。本館と接合させ、薬剤部を4~6階に移します。近森病院の集中治療室や救命救急病棟は主に本館4階にあり、入江理事長は「災害対応だけでなく、通常の薬剤や資材の運搬も効率化される」と説明します。

そして、新棟と、市道を挟んで北側にある北館の3階部分を長さ約20メートルの通路橋で連結。北館は東隣の総合心療センターとつながっており、本館から市道に出ることなく行き来できるようになります。本館と本館西側の外来センターとの間には既に通路橋が設置されており、本館、北館と総合心療センター、外来センターが一体化されることに。建設後は北館と総合心療センターにある空きスペースを活用し、備蓄量も増やしていく計画です。

「自分の身は自分で守る」
「空の架け橋プロジェクト」の総事業費はおよそ10億円。近森会は今回、1千万円をクラウドファンディングで広く募ることにしました。入江理事長はその理由を「当院の災害対策を知り、備えを考えるきっかけにしてもらいたい」と語ります。
「今回のプロジェクトは、今のままでは災害に十分に対応できない、県民の命を守れないという現実から始まりました。『自分の身は自分で守る』を実践していくプロジェクトで、費用は自費で賄います。その上で、クラウドファンディングに取り組み、災害への備えの大切さを広く県民に伝えたい。当院に関心を寄せ、応援していただけたら、そして家庭や職場で備蓄を進めてもらえたらうれしいです」

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