ふわふわケーキ、とろっとした黄身…固い木が本物そっくりになる理由|木彫り作品の創作の裏側、子ども時代のこと…木彫りアーティスト・キボリノコンノさんに聞きました
「キボリノコンノ展 ―食べたい!木彫りアートの世界―」が高知県立美術館で開かれています
キボリノコンノさんは、身の回りの物を木だけで本物そっくりに作り出す木彫りアーティスト。展覧会「キボリノコンノ展 ―食べたい!木彫りアートの世界―」が、高知市高須の高知県立美術館で開かれています。
生クリームがのったふわふわのシフォンケーキや、とろっと黄身が垂れる卵、繊細な泡が付いたせっけんなど、もともと固い木材とは思えない作品ばかり。彩色や照明にこだわり、目の錯覚も利用しながらリアルに見える作品を作り上げています。
会場を訪れていたコンノさんに、作品の楽しみ方や創作の裏側、こだわりがあった子ども時代の話などを語っていただきました!展示作品の一部と一緒に紹介します。
目次
【食べたくなる作品】「チーズトーストが一番おいしく見える瞬間」とは?
コンノさんは 1988 年東京都生まれ。静岡県の芸術大学を卒業後、家具メーカーのデザイナーとして 4 年間、公務員として 8 年間勤めた後、2023 年から木彫り作品のアーティストとして活動を始めました。
四国初開催となる今回の展覧会には、身近な食べ物などをリアルに表現した木彫り作品約 100 点が並んでいます。
どれも触感が伝わって食べたくなりそうなほど本物そっくり。ココハレ編集部員も間近でじっくり実物を見てきましたが、木だけで作られているとは信じられないクオリティーです。作者のコンノさんに早速お話を聞きました!
―食べ物をモチーフにする時のこだわりは何ですか?
コンノさん:必ず作る時には(本物を)食べて、観察しているんです。食べてどんな風味や香りがしたか、味、舌触りはどうか。音もすごく大事で、「カリッ」「サクッ」も含めて表現したいです。作る時は横に(本物を)置いて、触り比べると、目で見るより細かい 0・数ミリの段差やザラザラ感が感じられるんです。
―リアルな作品を作るために必要なんですね。
コンノさん:「そっくりですごいですね」と言っていただけるんですが、いかに見てくれる人の表情を動かすか、驚きとかいろんな感情を引き出すかということに、すごくこだわっています。「どんな顔で見てくれるか」を含めて作品を考えていますね。
会場は写真撮影が可能。明るさの設定など、おすすめの撮影方法もパネルで紹介されています。
コンノさん:僕自身、彫ったものがおいしそうに見えるように撮影をするのが一番楽しいんですよ(笑)。お客さんにも「この角度から撮ったらおいしそう」とか撮影を楽しんでもらいたいです。
こちらは会場入り口近くにある、焼きたてのチーズトーストの作品。こんがり焼けた食パンと溶けるチーズに食欲がそそられます!
コンノさん:「チーズトーストが一番おいしく見える瞬間っていつかな?」と考えました。僕は木彫りよりも「食」の方がはるかに好き。こだわりがすごいです(笑)。
チーズが薄く伸びている部分は、意外に「 2 センチくらいの厚み」があるそう。
コンノさん:チーズが伸びているところに、うっすらグレーを混ぜると、奥が透けているように見えるんですよ。
【木彫りはどれ?クイズ】「やられた!」が聞きたいんです
展覧会は、親子で楽しめるようなコンノさんの工夫と遊び心がたっぷり。本物と木彫り作品を並べたクイズがいくつもあり、来場者が楽しそうに頭を悩ませています。
こちらは木彫りのおせんべいはどれか当てるクイズ。ココハレ編集部員にはどれも香ばしいおせんべいに見えました。細かいところに気付く人は分かるかもしれません!
コンノさん:「やられた!」っていう言葉を聞きたくて。皆さんと「意地悪勝負」です(笑)。
小さい物になると、針のような彫刻刀で彫っているそう。着色も含めて制作は全て独学だそうです。
コンノさん:調べたことがないし、調べないようにもしているんですよ。それが正解だと思っちゃうのが嫌なんです。「自分が作れないようなものを作る」が、自分のテーマの一つ。100 円ショップやドラッグストアに行って、片っ端から道具を買ったり。「こういう風にすればこうなるかな」と常に実験をしている感じです。
【幼少期】食へのこだわり…両親はポジティブなところを探してくれました
試行錯誤しながらオリジナリティーあふれる作品を生み出すコンノさん。どのように今の道に進んだのか伺いました。
―どんなお子さんだったんでしょうか?
コンノさん:ゲームや漫画などには、ほとんど触れてこなかったです。東京の多摩川近くのマンションに住んでいて、毎日河原で虫や魚を捕まえたりしていました。リアルなものしか知らないので、今もリアルに表現せざるを得ないんだと思います。
小学校で 1 年生の時にチューリップの絵を描く機会があり、こんな出来事があったそうです。
コンノさん:「チューリップを見てチューリップを描きましょう」と言われて、みんなアップリケみたいなギザギザのいわゆるチューリップを描いてるんですけど、僕はそれが描けないんです。目の前にある通りの、細長い花びらのチューリップしか描けない。「なんでみんな違うの描いてるんだろう」と。しかもそっちの絵の方が「うまい」と言われていて、「なんでだ!」と(笑)。モヤモヤしてしまいました。
3 人きょうだいの真ん中のコンノさんは「一番こだわり人間」だったといい、大好きな「食」に関しても小さい頃からこだわりが強かったそうです。
コンノさん:たとえばご飯が少しでも水っぽかったり、固めだったりしたら食べないんです。自分の理想の炊き方と違うので。無理やり食べようと思ったら食べるんですけど、食べない方が幸せだなって思っちゃうんですね。
幼稚園時代、冷めたお弁当は一口も食べなかったといいます。
コンノさん:いつもお弁当の時間は一人で外で砂場で遊んだりして、お弁当は持って帰って温めて食べられるものだけ食べていました。そんなわがままだったんですけど(両親には)怒られたことがなかったです。
―優しいご両親ですね。
コンノさん:「食の違いが分かるから、将来料理人とかになれるかもね」とポジティブなことを探してくれて、食が好きになりましたね。「自分は違いが分かるんだ」とちょっと誇りに思えたというか。そういうことが今の作品につながってると思います。
―すてきですね。ものづくりは好きでしたか?
コンノさん:好きでしたね。工作をしていたら父親が色画用紙のセットや使えそうな工具をくれたり、興味のあることを後ろからバックアップしてくれました。「こうやって作れよ」とは言わないし、正解を与えるのではなくて、「これ使ったらいいかもよ」みたいな気付きを与えてくれた気がします。
―好きなことをとことんできる環境だったんですね。
コンノさん:そうですね。コツコツ続けたり、ストイックにやったりする性格だったので、「始めたら完成するまでずっとやる」というところは昔から変わらない気がします。
―でも「このモチーフ選びは失敗だった」とか「やっぱり作品にならないな」ということはあるのでは。
コンノさん:ないんです。最初に無理だと思っても、始めたら完成するまでやります。だから面白い作品が絶対できあがります!
【アーティストになったきっかけ】コーヒー豆を見て「そっくりに彫れそうだな」
「ポジティブなことを探してくれた」という両親のもとで育ち、ものづくりが好きなコンノさんは静岡県にある芸術大学に進学します。
―大学ではどんなことを専攻されたんですか?
コンノさん:専門はプロダクトデザインで、家具や家電、製品のデザインです。
―もともとアート活動をしたいと思っていたんでしょうか?
コンノさん:必要があって身の回りの物を作ったり直したり、ちょっとした部品が壊れたから「自分でそこだけ作ろう」とか、何かしら作ることは日常的にしていました。服を自分で作ったり、コロナ禍でマスクがない時はマスクを縫ったり。でもアート活動をしようとは全く思っていなかったです。
結婚を機に、デザイナーから市役所の職員に転身。ただコロナ禍の時に多忙のため体調を崩してしまったそうです。
コンノさん:公務員の仕事が合わないなと感じる部分があったのと、コロナ対応などで仕事量が増えてうつ病になったんです。
木彫りを始めたのは 2021 年のそんな頃でした。
コンノさん:「家で始められることないかな」と思っていた時、コーヒー豆を見て、茶色くて固いしカサカサしていて、「そっくりに彫れそうだな」と。小学校の頃の彫刻刀を出してきて、本当に何となく彫ってみたんです。それをSNSに投稿したら珍しく友達から反応があって、うれしくて。コロナ禍でなくなっていたコミュニケーションが復活した気がしたんですよね。
コンノさん:「こんなに会話になるならもう一個作ろう」と。だんだん友達を驚かせたい気持ちになってきて、「うな木゛(ぎ)パイ」や、納豆などを作ったりしました。木彫りをやりたいというより、いろんな人とコミュニケーション取りたいなと。今は木彫りを通していろんな人と関われることがすごく楽しい。作らずに外に出ていきたいくらいです(笑)。
【だじゃれから新作誕生】僕にとって作品は「会話」です
コンノさんはコロナ禍を経た今も「コミュニケーションツールになる作品」を心がけていると語ります。
コンノさん:いわゆるアート作品のような自己表現をしたい気持ちが全くないんです。もし発表する場がなくても作っているかといったら、そうではない。作品は僕にとって「会話」みたいな感じです。
アイデアは「誰かとしゃべっている時に浮かぶことがほとんど」だそう。
有名な焼き菓子「シガール」の木彫りをSNSにアップした際には、「シガール」のメーカーから連絡をもらいました。社員さんと話していただじゃれから「シガールをしぼール」などの新しい派生作品が生まれたそうです。
コンノさん:アイデアは自分で悩むことがほとんどないんです。大体誰かとしゃべっている時や、「この人にこんな作品作ったら喜んでくれそう」と自然に湧いてくる。コミュニケーションや遊びの中で作品が生まれています。
【全世代楽しんで】おいしい食べ物を食べるぞ!くらいの気持ちで
誰かを喜ばせたい、驚かせたいという気持ちが原動力になっているコンノさん。ものづくりの楽しさが作品から伝わってきます。
―作品を見た小さい子どもたちの反応はどうですか?
コンノさん:ものづくりが好きな子たちがたくさん来てくれています。自分の作ったものを持ってきてくれる子もいれば、「木彫りをやってみた」と後でSNSに写真を投稿して教えてくれる子もいて、すごくうれしいですね。「家でこんなの作ってるんだよ」っていう話を聞くと、「めっちゃ分かる!僕もやってたな」みたいな(笑)。
―作品を見て純粋に「すごい!」と感動したり、「どうやって作るんだろう?」と考えたり、子どもたちはいろいろな刺激を受けるような気がします。最後にココハレ読者の皆さんにメッセージをお願いします!
コンノさん:小さいお子さんやお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん―。違う世代が一つの作品を見て会話してほしいし、世代関係なく楽しんでもらいたいですね。「おいしい食べ物をレストランに食べに行くぞ」くらいの気持ちで遊びに来てください!
リアルな木彫り作品にこめた思いをたっぷり語ってくれたコンノさん。わが家の小学 4 年生と会場に行って、どんな反応を見せてくれるか、ますます楽しみになりました。
親として印象に残ったのは、自分なりのこだわりがあった子ども時代の話。小さいころにご両親が「ポジティブなところを探してくれた」からこそ、得意なことでたくさんの人を楽しませる今の活動につながっているのだろうなと感じました!
「キボリノコンノ展 ―食べたい!木彫りアートの世界―」は高知県立美術館で 5 月 24 日(日)まで開かれています。
- 開催期間: 2026 年 4 月 10 日(金)~ 5 月 24 日(日)会期中は無休です。
- 場所:高知県立美術館・県民ギャラリー(高知県高知市高須 353-2 )
- 時間:9:30~16:30(最終入場 16:00 )
- 料金:一般 1200 円、小中高校生は 600 円、未就学児は無料
- 駐車場:あり
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