家庭での性教育の進め方は?子どもへの伝え方は?性教育に活用できる絵本も紹介します
幼児期からの性教育は「なぜ?」を大切に。助産師で保育士の弘田恵子さんが「ソーレ」で講演しました
「性教育」は子どもの心と体を守る「命の教育」と言われています。子どもが幼い頃から、家庭で少しずつ取り組んでいくことが大事ですが、親としては進め方、伝え方に悩みますね。
こうち男女共同参画センター「ソーレ」(高知市旭町 3 丁目)が「幼児期からはじめる性教育」をテーマにオンライン講座を配信し、助産師で保育士の弘田恵子さんが講師を務めました。
「性教育では子どもの『なぜ?』『どうして?』を大切にしてほしい」と呼び掛ける弘田さんのお話を紹介します。性教育に活用できるおすすめの絵本リストも掲載しています。
目次
オンライン講座はソーレが主催し、2022 年 2 月 27 日に配信されました。
講師の弘田さんは助産師として高知や大阪の病院などで勤務。高知市に戻り、めぐみ保育園の園長を 20 年務めました。2018 年から「子育ちひろっぱ“めぐみ”」を主宰し、妊娠期からの悩み相談に取り組んでいます。
性教育は生まれた時から始まっています
性教育とはそもそも何でしょうか。弘田さんは「性教育とは生教育。心と体の健康の学問であり、命の教育」と説明しました。
性教育は世界中で取り組まれており、その指針となっているのが「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」です。ユネスコなどがまとめたもので、日本語訳が出版されています。
ガイダンスで紹介されているのが、性教育の国際的なスタンダードとされている「包括的性教育」です。
【包括的性教育とは】
さまざまなジェンダー、セクシュアリティを生きる全ての子どもたちが、安心で安全な環境の中で、他者と対等で平等な関係を築き、自分の人生において性を豊かに楽しむことができるようになる教育
この包括的性教育を進めるため、ガイダンスでは八つのキーコンセプトが設定されています。
【国際セクシュアリティ教育ガイダンス・八つのキーコンセプト】
- 人間関係
- 価値観、人権、文化、セクシュアリティ
- ジェンダーの理解
- 暴力、安全の確保
- 健康とウェルビーイング(幸福や喜び)のためのスキル
- 人間のからだと発達
- セクシュアリティと性的行動
- 性と生殖に関する健康
「包括的性教育」とはつまり、子どもたちが幸せに生きるための教育ですが、日本で行われている性教育は八つのキーコンセプトと比較すると内容が限定され、子どもに伝える時期も大きく遅れています。「子どもたちが自分の体に関することを自分で決め、自分らしく健康に生き、自分で自分を守れるように、科学的に正しいことを伝えていくことが大事」と弘田さんは語ります。
自分を大切に思える心「自尊感情」を育てましょう
では、性教育で具体的に何を教えていくのでしょうか。弘田さんが大切にしているのが「自尊感情」。「ありのままの自分を受け入れて大切に思える心を育てることが、相手の気持ちや体を大事にすることにつながり、命を大切にすることにつながります」
自分を守ることにつながるのが「基本的生活習慣」です。しつけのイメージもありますが、弘田さんは「基本的生活習慣を身に付けることは、健康に生きるということ」と説明します。
【幼児期から伝えたい基本的生活習慣】
- 食事…「おはしの持ち方」などはごく一部。食べることで命をつないでいくことを伝えましょう
- 排泄…トイレトレーニングだけではありません。尿や便を出す大切さ、排泄物を見ること、プライベートゾーンをしっかり守ることを伝えましょう
- 睡眠…睡眠の大切さ、人は眠ることで健康な体を保っていることを伝えましょう
- 清潔…体をきれいにすることも健康につながります。社会規範(エチケット)も伝えましょう
- 着脱…服の脱ぎ着を教えるだけではありません。状況に応じて体を守る衣服を選ぶこと(「今日は寒いから 1 枚羽織る」など)も健康につながります
もう一つ大切なのが乳児期からの「気持ちの代弁」です。例えばおむつを替える時に「おしっこでぬれて、お尻が冷たいね」と気持ちを代弁し、替えた後は「きれいになったよ。気持ちよくなったね」と声を掛けますね。何げない日常の繰り返しが、自分の気持ちを言葉にすることにつながります。
「自分の気持ちを言葉にするのって、結構難しいことです。日本語には細かい心まで表現できる言葉があります。『悲しいね』『つらいね』『寂しいね』『うれしいね』『楽しいね』など、形容詞をどんどん言葉で代弁してあげてください」
子どもは自我が芽生える2歳前後から、自分を意識し、男の子と女の子の違いを意識し始めます
個人差はありますが、子どもは 2 歳前後から自我が芽生えてきます。「自分というものを意識し、他人との違いを見つめ、男の子と女の子の違いを意識し始める時期」と弘田さんは説明します。「赤ちゃんはどうしてできるの?」といった性に関する質問は「自分とは何か?」という疑問の一つだそうです。
この時期は自分の体を知り、自分を好きになることを大事していきます。目、鼻、口など自分の体の一つ一つに名前があることを知ることで、全てが大事であることを理解していくのですが、性器の呼び方ついてはちょっと困りますね。
男性器はペニス、女性器はバルバ(外性器)、ワギナ(膣)と名前があります。「おちんちん」「おまた」という呼び方でもいいそうです。「女性器を『あそこ』と言う人がいますが、決して『あそこ』ではありません。ちゃんと名前があって、大事なところなんだと教えてあげてください」
体の中でも、性的な部分、新しい命に関係するところは「プライベートゾーン」です。
【プライベートゾーン】胸、お尻、おなか、性器、口・顔…男の子も女の子も同じです
「プライベートゾーンは自分にとって大事な部分で、他人に見せたり、触らせたりしない」ということが浸透してきましたが、「大事なところはプライベートゾーンだけではありません」と弘田さん。「自分の体は全て自分のもので、丸ごとの自分が大事だということを教えてください」
大人を困らせる質問はチャンス!聞かれた時が答えどきです
子どもから突然、性に関する質問をされて焦る…というのは“子育てあるある”の一つですね。「『困った質問』というのは大人にとってであって、子どもにとっては『空って何で青いの?』と同じ、素朴な疑問なんですよ」と弘田さん。「聞かれた時が答えどき。真摯(しんし)に向き合うことで、『何かあれば親が守ってくれる』『何かあれば親に相談できる』と子どもは受け止めます」
例えば次の質問、皆さんはどう答えますか?
弘田さんが提示した答え方は次の五つです。
①何も言わず別の話に変える→そのつもりはなくても、結果的に無視することになる
②「うーん、どうかなぁ…」→ごまかしている
③「そんな話をしないで。そんなこと聞いたら駄目だよ」→叱っている
④「違うよ!コウノトリが運んでくれたんだよ!」→きれいな答えだけれど、うそ
⑤「そうだよ!どこで教えてもらったの?」→質問してきた子どもを肯定し、話をつなぐ
親としては答えにくい質問ですが、性教育のチャンスです。ここで大事にしたいのは「子どもが何が聞きたいかを確かめ、話を展開させること」です。
「子どもは結構、『そうだよ』の一言で納得します。話をそらしたり、叱ったりすると、『聞いちゃいけないことなんだ』と捉えますし、うそを繰り返すと、自分の存在を否定された気持ちになります。類似する質問や相談をしなくなりますので、質問を肯定しながら話をつないであげてください」
絵本は子どもの経験不足を補い、想像力を育みます。性教育でも活用しましょう
「わが家は今まで何も性教育をしてこなかった」というお父さん、お母さんもいると思います。弘田さんは「親が子どもに声掛けをし、愛情を持って育てることが性教育の基盤です。生まれた時から始まっていて、皆さん、これまでしてきているんですよ」と語り掛けました。
家庭で性教育を始めるにあたって、活用していきたいのが絵本です。子どもは経験が少ないため、言葉だけだと想像できないそう。子どもにとって安心できる大人が読み聞かせ、絵本に言葉を添えて伝えていくといいそうです。
性教育の絵本では、いろいろなテーマが取り上げられています。絵本選びのポイントは「自分の感性に合うものかどうか」。「この絵がすてきだな」「この表現は嫌だな」といった印象で選び、一冊は家庭に置いておきましょう。絵本は小学生になっても読んであげてください。
【性教育に活用できる絵本】
- 「あなたが大好きだよ」と自分の存在を認めてくれ、肯定してくれる絵本
- 体を扱っている絵本
- 「みんな一人一人違っていいんだよ」と伝える絵本
- 赤ちゃんの時や、大きくなっていく自分を描いた絵本
- 「いろいろな家族」をテーマにした絵本
- 性交、妊娠、出産など「生」「命」を扱っている絵本
- 死など「命」を扱っている絵本
- 性被害を扱っている絵本
子どもが将来、性について悩んだ時、性被害に遭った時、性に関しての話を家庭でタブーにしていると、親には相談できません。「何かの時に話してもらえる、信頼される大人になりたいものですよね」と弘田さん。
「『あなたは大事な存在だ』と繰り返し伝えることで、子どもは『親から愛されている』と感じ、親の存在が心の居場所になります。子どもは大好きな親からたくさん話を聞きたいんですよ。機会があれば、妊娠や出産のこと、自分が幼少だった頃の話をしてあげてください。親子でいっぱい話し、子どもの思いを聞いてあげてくださいね」
弘田さんおすすめ・性教育の絵本リスト
弘田さんがおすすめする性教育の参考図書は次の通りです。講座で弘田さんが紹介した対象年齢とコメントを掲載しています。対象年齢は目安ですので、お子さんの発達段階や理解度に応じて選んでください。
【弘田さんおすすめ・性教育の絵本】
- 「ちびゴリラのちびちび」(ほるぷ出版、乳児から)…子どもは大好きな人から「だいすき」の言葉を聞くのが「だいすき」です
- 「いいこってどんなこ?」(冨山房、2 歳から)…丸ごとの子どもを受け止めたいものです
- 「おへそのあな」(BL出版、2 歳から)…実際にはおへその穴から外は見えませんが、赤ちゃんには聞こえています
- 「わたしがあかちゃんだったとき」(文化出版局、2~3 歳以上)…子どもは自分の赤ちゃんの時のことを親に聞いて、自分が愛されて育ったこと、今も愛されていることを実感したいのです
- 「あなたがだいすき」(ポプラ社、2 歳から)…「あなたがだいすき」は何回でも聞きたい言葉
- 「あなたのことが だいすき」(KADOKAWA、2歳から)…いっぱい「だいすき」をもらった子どもは、自分からも「だいすき」を伝えるように
- 「だいじ だいじ どーこだ?」(大泉書店、2 歳以上)…自分の体は全部大事、パンツの中は特別大事。大人向けの解説もあります
- 「おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん」(BL出版、2 歳から)…時をさかのぼって、家系のルーツの旅へ
- 「おしえて!くもくん プライベートゾーンってなあに?」(東山書房、3 歳以上)…プライベートゾーンを触られそうになったら、「いや!」と大きな声で言おうね
- 「性の絵本 みんながもってるたからものってなーんだ?」(KADOKAWA、3 歳以上)…体のこと、男女の違い、「赤ちゃんはどこからくるの?」などに答えています
- 「いろいろ いろんな かぞくの ほん」(少年写真新聞社、3 歳以上)…一人親、祖父母と子どもたちだけ、LGBT…世界中のいろんな家族を紹介しています
- 「ねぇねぇ、もういちどききたいな わたしがうまれたよるのこと」(偕成社、3 歳以上)…子どもを初めて抱っこした時の様子や気持ちを話してあげてください
- 「いのちのまつり ヌチヌグスージ」(サンマーク出版、3 歳以上)…命をくれたご先祖さまのお話
- 「いのちのまつり つながってる!」(サンマーク出版、2~3 歳以上)…私たちはたくさんの人とつながっています
- 「とにかくさけんでにげるんだ わるい人から身をまもる本」(岩崎書店)…さまざまな場面設定で身を守る方法が具体的に描かれています
- 「あっ!そうなんだ!性と生 幼児・小学生そしておとなへ」(エイデル研究所、2~3 歳以上)…子ども向けの内容と大人向けの解説があります。「あっ!そうなんだ!わたしのからだ 幼児に語る性と生」もあります
- 「子どもを守る言葉『同意』って何?YES、NOは自分が決める!」(集英社、小学生以上)…自分のバウンダリー(境界線)は自分で決めることができます
- 「ようこそ!あかちゃん せかいじゅうの家族のはじまりのおはなし」(大月書店、3 歳以上)…受精から妊娠の経過、出産まで、科学的な説明と人権、多様性を踏まえて描写されています
- 「10 歳からの カラダ・性・ココロのいろいろブック」(ほるぷ出版)…「変わるカラダのいろいろ編」「性とココロのいろいろ編」があります。専門的で内容が深いですが、イラストが多くて視覚的に分かりやすいです。幼児でも理解できる箇所があり、大人と一緒に学べます
【弘田さんおすすめ・保護者向け性教育の本】
- 「おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方」(KADOKAWA)…全てが網羅されていて、大人も学び直しができます
- 「性のおはなしQ&A 幼児・学童に伝えたい 30 のこと」(エイデル研究所)…幼児期、学童期の性に関するテーマを一つずつ丁寧に掘り下げています
- 「親子で話そう!性教育」(朝日新聞出版)…性教育、性被害、メディアリテラシーについて紹介しています
- 「子どもと性の話、はじめませんか?からだ・性・防犯・ネットリテラシーの『伝え方』」(CCCメディアハウス)…幼児期、児童期、思春期のよくある疑問や悩みに対する具体的な伝え方を紹介しています