「子どもの言葉が遅い」と気にしていませんか?言葉の発達を支える関わり方を紹介します
言葉の発達はコミュニケーションから。わが子への関わり方や言葉がけの工夫を言語聴覚士さんに聞きました
子育てをしていると、気になるのが子どもの発達です。「個人差がある」と分かっていても、年齢や月齢ごとの発達の目安を確認しては安心したり、心配したり…というお父さん、お母さんもいるのではないでしょうか。
「言葉の発達」もその一つ。「うちの子は言葉が遅い」「お友達のようにしゃべれない」という悩みが子育て支援センターなどに寄せられています。子どもの言葉の発達を支えていく関わり方や言葉がけについて、言語聴覚士の小村宣子さんに聞きました。「言葉の発達はコミュニケーションから始まる」そうです。
小村さんは小学校教諭として、高知市内の小学校で言語訓練などを行う「ことばの教室」を担当してきました。退職後は自宅に「こころとことばの相談室」を開設し、発達障害や言葉に障害のある子どもたちとその保護者を支援してきました。
今回は高知市の地域子育て支援センター「いるかひろば」で開かれた講演会で、子どもの言葉を育むことをテーマに語りました。
発達は人と関わる中にあります
そもそも「発達」とは何でしょうか。辞書では「時間経過に伴って身体的・精神的機能を変えていく過程」というように説明されています。月齢や年齢が上がるに従って体や心が成長し、新しい能力を順番に系統立てて獲得していくことを言います。小村さんは「発達は子どもの内側だけで起こる変化に見えますが、人と関わる中に発達があるんですよ」と話します。
例えば「歩く」という運動は、単純に体が成長するからできるようになるというわけではありません。お父さん、お母さんが赤ちゃんの頃から「○○ちゃん、こっちよ」「おいで」と呼び掛け、関わっていくことが土台になっています。
「言葉の発達も同じ」と小村さん。「出発点はコミュニケーションで、その上に言葉を乗せていくと考えてください」
子どもと興味を共有しましょう
以前は言葉を促すため、「言葉をシャワーのように子どもにたくさん聞かせる」ということが勧められていました。小村さんは「言葉の刺激は大事ですが、子どもが興味のない言葉や、まだ理解できない言葉をやみくもに聞かせても、子どもにとっては不快なだけ」と語ります。大切なのは「興味の共有」です。
言葉を覚えていく過程は次のような流れです。「コップ」を例に説明します。
- 子どもがコップに興味を示したら、一緒に使ってみる
- コップで飲むまねをしたりして遊びながら「楽しかったね」という経験を共有する
- 楽しかった経験を積み重ねることで、身の回りのものや自分の世界を知っていく
- 自分の世界を知る中で、言葉を覚えていく
ここで大切なのが「子どもがコップに興味を持っている」ということです。親が「コップに興味を持ってほしい」と手渡して関わろうとしても、子どもが興味を示さないということはよくあるそう。「親の思いを通すのではなく、子どもと同じものに興味を持ち、子どものペースに合わせるのが言葉の発達の一番のポイントです」
子どもの興味はどこに?同じ遊びをしてみましょう
子どもの興味やペースに合わせるのにおすすめなのが、子どものまねをすること。「遊びの中だと取り入れやすい」と小村さんは説明します。
まずは、単純にまねをすることから。子どもがちょっと高い所からジャンプしたら、親も同じようにやってみましょう。この時、子どもが嫌がったり、遠ざかったりしたら、「今は1人で楽しみたい」というサイン。無理に関わらずに見守りましょう。
子どもが嫌がっている様子がなかったら、ジャンプの仕方を少し変えてみると、今度は子どもがまねをするかもしれません。まねをしたら、またジャンプを変えてみたり、他の動きを取り入れたり。大人からすれば「これが遊び?」と思うような何でもないことが遊びの共有になり、コミュニケーションにつながっていくそうです。
子どもが答えられない質問をすると、ストレスになります
毎日の言葉がけも振り返ってみましょう。中でも注意が必要なのが質問です。「子どもが答えられない質問は、子どものストレスになる」のだそうです。
例えば「今日は幼稚園で何して遊んだ?」「給食は何だった?」という質問。子どもとコミュニケーションを取ろうと思って聞いている人も多いのではないでしょうか。
「子どもが喜んでしゃべるようなら大丈夫ですが、答えに困ったり、顔をしかめたり、逃げていったりしたら、ストレスになっているのでやめておきましょう」と小村さん。この場合は「今日は幼稚園でおにごっこした?」と「イエス・ノー」で答えられる質問に変えてみるといいそうです。
子どもの希望を聞く時も「何で遊びたい?」ではなく、「積み木とパズル、どっちで遊ぶ?」と選べるようにしましょう。
その他の注意点はこちらです。
- 命令、禁止、指示はなるべく控えめに…言わざるを得ない時もありますが、「走ったらダメ」ではなく、「歩こうね」と肯定的に伝えましょう
- 早口でまくしたてない。必要以上にゆっくりにもしない
- 声は小さく…イライラして大きな声を出すと、子どももイライラして逆効果。そばに行って小さい声で伝える方が子どもによく伝わります
- 擬音語やジェスチャーも取り入れましょう…「コップにジュースを入れます」と言葉だけで説明するよりも、コップとジュースを持つまねをして、「ジャー」「ごくごく」と音を入れた方がずっと分かりやすくなります
つまり、子どもが理解できる言葉を使い、分かりやすく話すことがポイントです。
周りからの言葉がけを理解しているかを確認しましょう
言葉の発達には個人差があります。「言葉が出なくても、周りからの言葉がけを理解しているようなら少し様子を見てもいいでしょう」と小村さんは話します。
周りからの言葉がけを理解していないような様子が見られたり、人と興味を共有することが難しいような場合は、「早いうちから、その子に会った声かけや関わり方を取り入れていった方がいいです」。市町村で母子保健を担当している保健師さんや、子育て支援センターの職員さんらに関わり方を相談すると、必要に応じて専門機関を紹介してもらえます。
もちろん、言葉がけを理解している場合でも、気になるなら早めに相談しましょう。「発達は人との関わりの中にありますが、子どもへの関わりはスムーズにいくこともあれば、うまくいかないこともあります。親だけで頑張り過ぎるのではなく、しんどい時は『しんどい』という気持ちを支援センターなどで伝えてくださいね」